やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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川崎沙希③

川崎の件が無事に終わり、防衛任務もきっちりとこなして、比企谷隊の作戦室で報告書を書いていたときに俺は気になることがあったので浅葱と夜架に聞いてみた。

 

「浅葱、夜架。前から気になっていたんだけど、お前らって雪ノ下が俺を罵倒した時に特に怒らないよな。それって何か理由があるのか?」

 

「何よ急に……。まぁたしかに雪ノ下さんにはかなりイラついているけど。ただ、そのまま何かを雪ノ下さんに言った所で聞く耳を持たなから、私なりのやり方で一泡吹かせてやるつもりよ」

 

「ちなみにそのやり方って、どんなの?」

 

「それはね……私今雪ノ下建設の株を買い占めているのよ。それで私が大株主になった時に会社の方針に意見して、雪ノ下さんの目の前でドヤ顔をしてやるつもりよ」

 

「ある意味、えげつないな……。流石は浅葱だ。そういう夜架はどうなんだ?」

 

「そうですね。主様に対しての暴言には怒りがないと言えば嘘になります。でもそれ以上に惨めだと思いますね」

 

「まぁ雪ノ下が惨めなのは俺も分かっている。夜架が雪ノ下が惨めだと思うのはどうしてだ?」

 

「それは他者を見下したところで自分が上に立つことはないことや人との繋がりを簡単に捨ててしまうことなどです。人は一人では生きていけませんから」

 

「たしかに雪ノ下が人との繋がりを大切にするとは到底思わないな」

 

「それにどことなく、以前の私に似ているからかもしれません。以前の私は両親の仇を討ちたいと思い、人との繋がりなど邪魔でしかないと考えていました。しかし、主様に会ってそれが変わりました。おかげで様々な人達と知り合うことができました」

 

「そうか。それはよかったな。んじゃ、報告書をさっさとまとめて帰りますか」

 

 

 

俺達は報告書を素早く書いて家に帰り、学校に行く前に仮眠をとることにした。さすがに授業中に寝るのは不味いからな。

朝方近くに家に帰り、数時間だけ仮眠を取って学校に向かっていた。

自転車に乗りながら、昨日の川崎のことを考えていた。

 

(川崎は家族と話をしているだろうか?特に大志とは話したほうがいい。あいつは本気で姉のことを心配していたからな)

 

俺が考えごとをしていると後ろに乗っている小町から驚くべき話がきた。

 

「そういえばお兄ちゃん。お菓子の人と知り合いだったんだね」

 

「……は?お菓子の人って誰のことだよ」

 

「えっ!?誰ってそれは結衣さんのことだよ?」

 

「由比ヶ浜が犬の飼い主でお菓子を持って来た人だと?」

 

「そうだよ?知らなかったの?でも、なんで?」

 

「それは俺が知りたいわ。でも、教えてくれてサンキューな」

 

「いえいえ。これくらい、お兄ちゃんのためだしね。これは小町的にポイントが高いね!」

 

「そうだな。すごく高いわ。それ……」

 

(つまり、あの事故の関係者が同じ部屋にいるってことかよ。気まずすぎだろ。何の罰ゲームだよ。……それにしても、由比ヶ浜はなんで何も言ってこないんだ?

それにあいつが、妙に馴れ馴れしいく変なあだ名で呼んでいたのは俺に気を使ってのことなのか?)

 

俺はいくら考えても何も答えが見えてこなかった。

 

俺は小町を学校に送り届けた後。俺は総武の教室に入って見ると川崎がいた。このところ、遅刻が多く朝に見かけることが余りなかった。

由比ヶ浜が俺と川崎を交互に見てソワソワしていた。

 

間違いなく雪ノ下が川崎がバーで働いていたことを学校側に言ったのだろう。そんな態度を取るくらいなら、最初から関わらなかったら良かったのに……。

その後、普通に授業は行われたが、一時間目が終わってから川崎は生徒指導の平塚先生に連れて行かれた。

 

しかし、二時間目が始まる前には何事も無かったかのように帰ってきた。まぁ当然だろ。

その後は昼まで普段と変わらない風景だった。一点、違いがあるとすれば、由比ヶ浜の視線くらいだろう。

 

昼飯をいつもの人気のない場所で購買で買ったパンを齧り、マッ缶を飲んでいると後ろから声を掛けられた。

 

「……ねぇ」

 

「ん?なんだ、川崎か。何か用か?」

 

「……うん。その、お礼が言いたかったから」

 

「そんなことか?そんなの別にいいぞ。それに俺は昨日の夜はお前になんて会ってないからな」

 

「そうだったね……。あたしもあんたには会ってないよ」

 

まるで、ちょっとした茶番劇だ。しかしこのやり取りには重要な意味がある。

ここで俺と川崎が会っていたことを認めれば、例のバーで川崎が働いていたことの証明になるからだ。

それは流石に不味い。学校は勿論だが雪ノ下に知られれば何を仕出かすか、分かったものではない。

 

「川崎さん。これはどういう事かしら?……」

 

俺と川崎の後ろから雪ノ下の声が聞こえてきたので、振り返って見ると、完全にキレている雪ノ下とオドオドしている由比ヶ浜がいた。

 

「何の事を言ってんの?雪ノ下……」

 

「惚けないで!!貴女は確かにバーでアルバイトをしていたはずなのに今朝方に学校側が確認をしたら、『川崎沙希と言う女性は働いてはいない』と連絡してきたのよ。これはいくら何でも有り得ないことだわ!!」

 

「雪ノ下、一体何の話をしてるの?」

 

「惚けないでと言ってるでしょ!!未成年の貴女がバーでアルバイトをしていた履歴が全て消えているのよ。貴女が何かしたに決まっているわ!!」

 

「だから、あたしはバイトなんてしたことは無いんだってば……」

 

川崎がそう言うと、雪ノ下は顔を歪めていた。

由比ヶ浜は、相変わらずにオドオドしている。

 

「あくまでシラを切るつもりなら、絶対に尻尾を掴んでやるわ。覚えておきなさい!!」

 

雪ノ下はそう言い残して、由比ヶ浜と行ってしまった。

 

「これでいいんでしょ?」

 

「あぁ、上出来だ。学校側にもそう言ったんだろ?モチロン」

 

「あんたの指示だしね。先生もあっさり信じたよ」

 

「それでいい。雪ノ下は躍起になって調べるだろうが、その当たりも抜かり無いはずだしな。仮に真相が分かっても時既に遅しってことだ」

 

「確かにそうだね。それに未成年がバーに来たのが知れたら、困るのは雪ノ下と由比ヶ浜のはずだしね。そう言う、あんたは大丈夫な訳?」

 

「あぁそれに関しては大丈夫だ。俺が行った記録も消してあるからな」

 

「ふ~ん。そうなんだ。それにしても何で雪ノ下はあんな偉そうなことを言ってくるの?」

 

「まぁ人ごと世界を変えるとほざいている奴だからな。その上、ナルシストだし。自分の正義が常に正しいと思っている奴だからな」

 

「そうなの?まぁ、そういう奴には近付きたくはないね。それじゃ、あたしは行くね。改めて、ありがと」

 

「どういたしまして。あまり、家族に心配させるなよ。家族は助け合うものだしな」

 

俺の言葉を聞いた川崎はそのまま、教室に戻って行った。

 

「さってと、俺もそろそろ、戻るとするか……」

 

その後の授業は何事もなく進み、放課後となって奉仕部に言ってみると雪ノ下は未だにキレていた。

そして誰かと電話していた。サイドエフェクトを使って聴覚を強化して聞いてみた。

 

『こちらで調べた結果。川崎沙希と言う女性がバーで働いていたという記録はありませんでした』

 

「そんなはずありません!!確かに彼女はバーで働いていたはずです」

 

『何度言った所で答えは変わりません。それに貴女がバーに行ったほうが問題です。未成年である貴女がバーに行ったことが知れれば、雪ノ下の名に傷が付きます。あまり勝手な事はしないように……』

 

「待ってください!まだ話は終わっていません!!……」

 

雪ノ下と話していた人物は一方的に電話を切ったらしい。声のトーンからして女性だ。それに雪ノ下の名って言っていたから、母親あたりか?

 

「比企谷君。説明しなさい!これはどういうことなのか?」

 

「何の話だよ?」

 

「そう……。貴方もシラを切るのね……いいわ。いつか必ず、証拠を掴んでみせるわ」

 

雪ノ下は意気込んでいたが、戦う相手がまさか自分の親の会社を乗っ取ろうしている大株主だと知った時にはどんな顔になることやら。少し楽しみでもある。

 

そして、明日はボーダー本部で職場見学の日だ。

何か、ありそうで憂鬱になりそうだ。でも策は念のために用意してある。

 


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