やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

20 / 109
比企谷隊③

葉山からのチェーンメールの一件も無事に終わり、放課後に俺は浅葱と夜架と共にボーダー本部へ向かっていた。

理由は、総武の職場見学の日に防衛任務を入れてもらい職場見学に参加しないようにするためだ。

ちなみに浅葱はどちらでもいいと言ってくれた。夜架は俺の指示に従うとのことだった。未だに主従設定が生きているからな。

 

(あ~でも、戸塚の訓練服は見て見たかったな。……でもしかたがない。あまり、俺がボーダーだと知られたくないしな。特に雪ノ下が知ったら、変な文句とか言ってきそうだし、三浦は三浦で俺の事をバカにしそうだしな)

と、考えていると後ろから声を掛けられた。

 

「八幡?」「比企谷先輩?」

 

俺が後ろを振り返るとそこにいたのは、俺の隊のシノンと雪菜だった。

 

比企谷隊スナイパー 朝田詩乃。あだ名はシノン。

 

ボーダー №3スナイパーの称号を持ち、その狙撃は正確無比。

普段はメガネを掛けているが、トリオン体の時は掛けていない。

本人曰く『メガネを掛けたままだとスコープが覗きづらい』とのこと。

ゲーマーでよくA級1位の太刀川隊オペレーター、国近先輩とゲームをしている。

 

ボーダーに入隊したのは、中学に入ってすぐいじめに遭っており、いじめていた側に警戒区域へ無理矢理入れられて、その時ネイバーに遭遇したところを俺が助けて、その後、自分も何かできないか?と思い入隊したようだ。

 

ただ、人見知りでコミュケーションが苦手でウチの隊以外では俺の妹の小町と国近先輩くらいとしかうまく話せない。

なぜか俺のことを『八幡』と呼び捨てにしている。俺は先輩で隊長なのに。

でも任務中やランク戦の時は『隊長』と言うので、菊地原よりかは生意気ではない。

 

 

比企谷隊アタッカー 姫柊雪菜。

 

ボーダーではあまり使う人間がいない、弧月:槍を使う。ウチのエースだ。

三輪隊の米屋の弟子で槍の扱いは、米屋と同等くらいの実力がある。

比企谷隊では、最年少に当たる。

猫好きでよく家に遊びに来た時は家で飼っている猫のカマクラと遊んでいる。

見た目が可愛いくて、真面目な性格でボーダーにはファンがそれなりにいる。

 

「たしかに、ファンがいるのも納得だな。可愛いし」

 

言うと、浅葱とシノンがごみを見るかの如く目を細めている。夜架は相変わらずいつも通りの笑みを浮かべている。

その一方、雪菜は顔を真っ赤に染めていた。

 

(雪菜の奴、熱でもあるのか?顔が真っ赤だな)

 

考えてもしょうがないので雪菜の額を右手で触り、自分の額には左手を付けて体温を測った。

 

(熱は、ないようだが一応薬くらいは医務室から貰ったほうがいいか?)

 

考えていると雪菜の顔が更に赤く染まった。

 

「って、おい、雪菜!大丈夫か?顔が真っ赤だぞ。具合でも悪いのか?医務室で薬を貰ってきてやろうか?」

 

「え?あ、えっと、その…………」

 

雪菜が何だか壊れたPCのような感じになっている。

 

俺がさらに顔を近付けていくと、いきなり雪菜が俺の手を振り払って走って行った。

俺は呆然として立ち尽くし見ているしかなかった。

 

「浅葱、夜架、シノン。……俺、何か不味いことでもしたのか?」

 

俺はすぐ側にいた浅葱達に聞いてみた。

 

「……あんたは、少しは乙女心を知りなさい」

 

「さすがは主様。雪菜は面白い反応をしますわね」

 

「……あんたは、今すぐ馬に蹴られて死ねばいいのよ」

 

上から浅葱、夜架、シノンの三人の辛口コメントが帰ってきた。夜架は違うが。

 

「いくらなんでも、それはあんまりだろ」

 

 

(いったい何なんだ、雪菜の奴は?本部に走り去っていったし、訳がわからない)

 

俺は少し考えることにしたがいくら考えても答えは出てこなかった。

 

その後、シノンはスナイパーの合同訓練に夜架は個人戦のブースに浅葱は自隊の作戦室に行くとのことで分かれて、俺は説得のために本部長の下に向かった。

総武高がボーダー本部の職場見学日に防衛任務に付くためにも、あの人を説得できるか不安だ。

 

 

 

 

本部長室で、俺は目的の人物に会って話をしてみたが……。

 

「却下だ」

 

一言で断られてしまった。

 

「そうですよね。やっぱり当日はサボるか……」

 

俺は当日サボるための言い訳を考えていた。

 

「比企谷。君は行事に参加するという選択肢はないのか?」

 

「それはないですよ忍田本部長。俺がボーダー隊員と知られたら、変な文句を言ってくる奴がいるので。それに、目立ちたくないですし」

 

 

忍田真史。ボーダー本部本部長。

最前線に立つ戦闘指揮官でボーダー創設時、初期メンバーの一人でA級1位の部隊長の師匠だ。

ボーダーに三つある派閥の一つ『町の平和を守っていこう』派閥、筆頭に居る人だ。

 

「まったく、君は相変わらずだな。それで話は変わるのだが、実は比企谷隊にも訓練生の入隊日に説明役をやってもらいたいと、そういう話があるのだが、どうだろうか?」

 

「それは、嵐山隊のようなことをウチの隊にもしろと?」

 

「まぁ、そうだな。それでどうだ?」

 

「そうですね。他のメンバーと相談してみないと何とも言えません。いつまでに返事をすればいいですか?」

 

「そうだな……。できれば、今年の9月からやってもらいたいと思っている。だから、8月の上旬までには返事を聞かせてくれ」

 

まだ1ヶ月以上あるので、じっくりと考えられるな。

 

「わかりました。それまでには決めておきます。では、失礼します」

 

俺は本部長室を後にした。

 

 

本部長室を出た俺はまっすぐに比企谷隊の作戦室に向かった。

部屋には、誰かがいるだろうと思うからだ。

部屋に入って一番に目に入ってきたのは、机に顔を押し付けている雪菜だった。

 

「お~い、雪菜。そんなに顔を机に押し付けていたら、顔が潰れちまうぞ」

 

注意したのだがそれでも止めなかった。マジで顔が潰れるぞ?

 

「一体、何があったんだよ?」

 

「比企谷先輩の所為です。いきなり、女の子の額に手を付けるなんて、ビックリしました。次からは、事前に言ってください。……いいですね!!」

 

「はい。すいません。……そういえば、何で雪菜は俺を『比企谷先輩』呼びなんだ?他のメンバーは名前呼びなのに?」

 

俺が雪菜に質問すると、また顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「えっ!?……それは、その…………からです」

 

雪菜の言葉は最後の方が小さくて、よく聞こえずらかった。何て言ったの?

 

「……すまん。もう一度、言ってもらってもいいか?」

 

「恥ずかしいからです!!二度も言わせないでください!!」

 

「お、おう。悪い。でも、怒鳴ることはないんじゃないか?その声の大きさにビックリしたぞ」

 

俺が言うと、雪菜は顔を俯かせてしまった。

 

「その、なんだ。恥ずかしいなら、無理に言うこともないだろう。まぁ言えるようになってからでいいから」

 

「そ、そうですか?わかりました。で、でも頑張って言えるようにはしたいです」

 

「そうか……。まぁ頑張れ雪菜。それで少し話しがあるんだがいいか」

 

俺は忍田本部長から聞かされたことを雪菜に話した。

 

「そうですね。私は別に構いません。でも、先輩の目はどうするんですか?そのままだと、不味いですよね」

 

雪菜は俺の目の事を言っている。たしかに、自分で言うのは何だが、俺の目は濁っているからな。

 

「そのことなら大丈夫だ。メガネを掛ければ、目の濁りは隠せることが分かったからな。説明の時はメガネを掛ければ問題無いと思う」

 

「なるほど……。確かにメガネを掛ければ、隠せますね」

 

俺が言うと雪菜は納得したような表情をしていた。それで納得されるのは少し癪だが、まぁいいか。

 

「他にも話があるんだがいいか?」

 

「はい。何ですか?」

 

「俺がボーダーを職場見学する日、防衛任務を入れるのを認めてくれ」

 

「そんなの無理に決まっています。そもそも、何でボーダー本部の見学にしたんですか?」

 

「それは、組んでいる人がボーダー本部がいいと言っているから……。頼む雪菜!俺は目立ちたくないんだよ」

 

「ボーダーナンバー1オールラウンダーが何を言っているんですか?すでに目立っていますよね?今更な気もしますが……」

 

「クラスメイトにバレたくないんだ……。だから、頼む」

 

「無理です。諦めて、本部の職場見学してください。比企谷先輩」

 

「ですよね~。そういえば、浅葱は?」

 

「浅葱先輩は今はキッチンにいますけど?」

 

比企谷隊の作戦室には冷蔵庫、電子レンジ、そしてキッチンがある。

 

「おい。まさか……浅葱は今、料理しているのか?」

 

「はい。そうです。だから、比企谷先輩も覚悟してください」

 

「俺、まだ死にたくないんだけど……」

 

雪菜と話しているとキッチンから浅葱が顔を出してきた。

 

「なんだ、声がすると思ったら居たんだ八幡。ちょっと待って、すぐに完成するから」

 

そして浅葱が出してきたものを見て俺は驚愕した。出てきたのは炒飯だった。

 

「浅葱。これ、もしかして……」

 

「うん。加古さん直伝の炒飯で、私なりにアレンジをしてみたの。名ずけて『チョコレートサーモン餡かけ炒飯』よ。さぁ召し上がれ」

 

俺と雪菜は目の前の炒飯を見て覚悟を決めた。これは医務室行き確定だな……。

 

「雪菜。生きていたら、また逢おうな……」

 

「比企谷先輩……。私は生きます。だからまたお逢いしましょう」

 

そして、加古さん直伝の浅葱が作った炒飯を食べてから俺の記憶は飛んで、そして医務室のベッドで寝ていた。

浅葱は昔から料理がヘタだったが最近はそうでもないと思っていた。けど、加古さんから炒飯を教わってそれをさらに不味くする才能があるらしい。マジで死に掛けた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。