やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
中間試験期間はどの部活も休みなのに奉仕部はそのような事なく、いつも通りにやると雪ノ下の決定を由比ヶ浜経由で聞かされた。
二宮さんの電話から二日後の夜。俺は浅葱と一緒にスーツを買いにデパートまで来ていた。スーツを着て来いと二宮さんの指示があったからだ。
今まで、スーツを着る事なんて無かったものだから選び方が分からないので浅葱に付いて来てもらった。浅葱の親父さんは三門市市長でよくスーツを見ているからいいアドバイスがもらえると思ったからだ。
「わざわざ悪いな浅葱。スーツ選びに付いて来てもらってありがとな」
「気にする必要はないわよ。それに八幡の頼みだしさ。うん、良く似合ってるよ」
と言ってくれたので素直に嬉しい。
「後は髪型をオールバックにして伊達メガネを付ければ完成だね。それにしても二宮さんからの呼び出しか……。話ってのは鳩原さんの事だよね。喋って大丈夫なの?」
「大丈夫だろ、多分。俺が話せる事なんて限られているし、どちらかと言うとお前に調べさせて俺に推測させようとしているのかもしれないだろ?」
俺のサイドエフェクト『脳機関強化』で資料から真相を導き出そうとしていると俺は考えている。
俺のサイドエフェクトはそれなりに応用することができる。頼りにされるのはいいけど。相手があの二宮さんだしな……。
スーツを購入して試着室で着替えて、すぐに二宮さんから指定があったバー『エンジェル・ラダー 天使の階』に向かった。
ちなみに浅葱もドレスアップしている。うん、似合ってるなドレス。
バーに入って待ち合わせをしている二宮さんを探しているとカウンターの方ですでにお酒を飲んでいた。
「どうも、二宮さん」
「来たか。比企谷、藍羽」
二宮匡貴。B級二宮隊隊長でシューター。ボーダー№1シューターの大学生だ。
マスター級のアタッカーとガンナーを率いる部隊だ。
元々A級の部隊だったがスナイパーの鳩原さんがトリガーの横流し、更には一般人数名と共にネイバーフッドに行ってしまって、二宮隊はB級に降格となってしまった。
鳩原さんは隊務規定違反でクビということになっている。詳細は不明で終わってしまった。今日はそのことだとで話があるのだろう。
「それで、話ってのは鳩原さんの事でいいんですよね?二宮さん」
「そうだ。鳩原があんな事をやるとは思えない。裏で糸を引いている黒幕がいるはずだ……。俺はそいつが誰なのか知りたい。だから、お前らの力を貸せ比企谷、藍羽」
「分かりました。あまり期待しないでください」
「私もいいですよ。すぐに調べますね。モグワイ」
浅葱がスマホを取り出し、自分で作りあげたAIのモグワイを呼び、鳩原さんのことを調べさせた。
『了解だ。浅葱嬢ちゃん。鳩原未来が失踪した日の防犯カメラのデータを当たるから少し待ってくれ』
「早めにね、モグワイ」
しばらくして、モグワイは調べ上げた情報を俺達に見せてきた。
『とりあえず、これだけ調べられたぜ。失踪した他の三人の身元も調べておいたぜ』
モグワイが見せてきたのは鳩原さんと一緒にゲートの向こうに行ったと思われる三人だった。
「この三人が鳩原さんと……、ん?この人は、雨取麟児……」
と言う俺の呟きを二宮さんが聞いて質問してきた。
「その男がどうかしたのか?」
二宮さんもこの男が気になっているようだった。
「この人だけ他の二人と違って家族をネイバーに攫われたり、殺されたりしていないんですよ。だから、ネイバーフッドに行く理由がないんです。そこが気になって……まあ、俺の思い過ごしかもしれませんが……」
「その男もそうだが、鳩原と他二人の家からもそれらしき手がかりは発見できてはいない」
「その雨取麟児って人が今のところの一番の黒幕候補ね」
浅葱は俺も考えていることを言った。まさにその通りだ。この人だけがネイバーフッドに行く理由が無い。
家族は全員が無事で妹がいるのに。全く兄が妹を悲しませるなんて兄として失格もいいところだ。
一応、名前だけでも覚えておくか。『雨取千佳』。
近くの中学生で2年生か……それ以外で覚えておく必要があるところはないな。
とりあえず、俺の考えを二宮さんに伝えておくか。
「俺の考えは、この雨取麟児が鳩原さんと共謀してトリガーを横流しをして他二名と共に向こう側に行った。……おそらくですが、雨取麟児が向こう側に行ったのは妹のためじゃないかと思います」
「なぜだ?」
と俺の言葉に二宮さんは不思議がっている。それも無理ないか。
「兄は妹のためになら、どんな無茶だって出来るんですよ」
俺の答えが二宮さんには理解できないらしく呆然としていた。
「さすがはシスコンの八幡ね。ごめんだけど。その気持ち、私にはわからないわ」
浅葱は姉がいるだけで、下にはいなかったんだよな。
「……そうか。すまなかったな、手間を取らした。ここは俺の奢りだ、好きな物を頼め。俺は先に帰る、じゃあな」
そう言い残して、二宮さんはバーから居なくなってしまった。
「しかし二宮さんは大変だね。鳩原さんの事を調べるにしても情報が少なすぎるからそんなに詳しくは分からないと思うしね」
「まぁそこはあの人次第ってところだな。俺ができるのはここまでだ。下手したら、俺らまでB級降格になりかねないしな。深くは関わるつもりはない」
「そうだね。だけど、八幡が決めたことに私は……違うね。私達は隊長の八幡が決めたことに従って行くだけだけど。それに、もし八幡が間違いそうになったら、私たちが全力で正していくから。大丈夫だよ」
「浅葱……。お前が男で俺が女だったら、間違いなく惚れてるな。今のセリフ、カッコよすぎだ」
「それ、普通は逆だけどね。……じゃあ、私達も帰る?あんまり遅くなると小町ちゃんが心配しそうだしさ」
「そうだな。小町が待っている我が家に帰りますか……ん?」
ふと、俺はバーカウンターでコップを磨いている女性を見て気が付いたことがあった。
「どうしたの?……まさか、あそこにいる女性バーテンダーに見惚れている、なんてことないわよね?」
浅葱さんその笑顔は怖いです。目が笑っていないんで。
「ち、違うって……ただ、カウンターでコップを磨いている女性。たしか、俺のクラスメートだったはずだ」
「そんなことはありえないよ。ここ、未成年は働けないよ。八幡の記憶力を疑うわけじゃないけど間違いないの?」
「あぁ。あの青みがかったポニテの女性。たしか名前は……川崎沙希だったと思う」
「ふ~ん。まぁ、後で年齢がばれて困るのは彼女自身だし、私達には関係ないから行こっか」
「まぁ、そうだな。あんまり、長居するわけにもいかないからな」
俺と浅葱はバーを後にした。
まさか、俺が後日またこのバーに来る事になるなんて微塵も思っていなかった。