やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
戸塚が奉仕部に来た。その翌日の昼休憩に戸塚のテニス強化が始まった。軽い準備運動から始まり、今は雪ノ下が球出しをして戸塚が狙った位置に確実に決めれるようにしている。
俺はというとスマホのネットでテニスの知識を覚えていた。サーブの種類や得点など一般知識では、戸塚の役に立ちそうにないからだ。
それにしても戸塚は、根性があるな。雪ノ下の際どい球出しにもきっちりと対応している。普段からしっかりと練習しているんだと判る。
「悪いな、夜架。わざわざこんな事につき合わせて」
「構いません、主様。このくらいのこと。しかしながら、何故にムービーを撮っているのですか?これに何の意味があるのですか?」
「戸塚のボールを打っている姿を客観的に見るためだ。フォームは自分では見る事が出来ないからな。それはそうとして、夜架。マスター級、おめでとう」
「ありがとうございます。これも主様のご指導の賜物です」
「そんなことはない。お前の実力だ」
そう、夜架はここ最近、ボーダー本部に行き弧月のポイントを貯めていた。
その理由は夜架がもうすぐ、マスター級になるからだ。そこで俺は夜架に本部でポイントを貯め、マスター級になるまで奉仕部に出なくていいと命令した。
そして、昨日見事にマスター級になった。
「これで比企谷隊のマスター級は俺とシノンと夜架になった訳だ。雪菜はもう少し掛かると言ってたっけ」
と、夜架と話していると戸塚が転んでいた。
「うわぁ!?」
「さいちゃん大丈夫!?」
と練習していた戸塚が転んだ。由比ヶ浜が心配しているが戸塚は心配を掛けまいとしている。
「ケガをして、それが悪化したら練習にならないから。今日は一端此処までにしておいたほうがいいぞ。戸塚」
「うん。でももう少しだけ付き合ってくれないかな?比企谷君、由比ヶ浜さん」
と、戸塚が言うので、もう少しだけ練習に付き合うことにした。
「あ~テニスやってんじゃん。戸塚、ウチらもやっていいよね?」
と、その時、葉山グループの三浦がやって来て、テニスを自分にもやらせろと言ってきた。これは面倒な事になりそうな予感がした。
「えっと、三浦さん。僕達は別に遊んでいるわけじゃないんだ……」
「えっ?何。良く聴こえないんだけど」
と、戸塚の声は三浦に聞こえて無い様なので俺は助け舟を出すことにした。
「三浦、俺らは生徒会や顧問の先生にちゃんと許可を貰ってやってるんだ。部外者は入らんでくれ。練習の邪魔だ」
「はぁ?何言っているんだし、キモいんだけど」
と、いきなり三浦が罵倒してきた。何、今時の女子高生は罵倒が流行ってんのか?それにこいつは知っているんだろうか?部活時間外の備品の使用は校則違反なのを。そもそも正論を言っているのに罵倒とかこいつには常識が欠如してるなと思っていると葉山が提案してきた。
「まあまあ。言い争いなんてしないでみんなで仲良くしようじゃないか?どうせならダブルスなんて、どうだろう?」
「まぁ、隼人が言うなら」
と、三浦は葉山のいいなりかよ。
「戸塚、どうする?追い出すか。戸塚にはその権利があるぞ」
「ううん。大丈夫だよ。それに三浦さんは中学の時に全国に行ったことのある人だしいい経験になるかも」
と戸塚は言うが、俺はそう思わない。この女は自己中の塊みたいな女であることは、昨日の雪ノ下とのやり取りで大体判っている。
「だったら、テニスがやりたいなら俺と1対1で勝ったら好きに使っていいぞ。負けたら、即刻出てもらうが」
と、俺は三浦にそう言うと三浦は勝ち誇った笑みを向けていた。
「そんな事言うんだ。……分かった。負けた時のいい訳を考えたほうがいいよ」
と完全に舐めているな。
「すまんな。勝手に決めて」
「気にしなくていいよ。比企谷君がさっき言ってくれて少しスカッとしたから」
と、俺は戸塚に謝罪したが戸塚はそれを許してくれた。何て心優しいんだ。まるで慈愛に満ちた天使のようだな。
こうして始まった、俺対三浦のテニス対決は思いのほかギャラリーが大勢いた。
俺はボールを三浦に投げ渡した。
「レディファーストだ。最初のサーブはそっちからでいいぞ。それとルールなんだが、サーブを2回ずつして先に10点を取ったほうが勝者でいいよな?」
「それでいいし。泣いてもしらないから」
と言われてからゲームが始まった。
三浦はボールを高く上げ、それなりの速度のボールを打ってくる。さすがは、中学の時に全国行っただけのことはあるか。でも今はどうだろうか?三浦がテニス部員だという話しは聞いた事がない。高校ではやっていないんだろうか?
放課後は、葉山達と一緒になって遊び呆けているんだろうと。もしかしたら、ブランクがあるんだろうがテニスの未経験者の俺ではそれがわからない。
三浦のサーブ1本目を俺はスルーした。何もせず、指1本ですら動かしていない。その事に三浦は笑いながら俺を見下してきた。
「ぷっ。何だし、さっきの威勢はどうしたんだし?がっかりさせないでよね?」
と、周りのギャラリーも一緒になって笑っている。
俺はただ、三浦のサーブを見ていただけだ。最初のサーブ権を向こうに譲ったのには理由がある。俺のサイドエフェクト『脳機関強化』をフルに使うためだ。
俺には、サーブの経験が全くといってない。だから三浦のサーブで覚えようとした。
記憶力の上昇と視覚強化で三浦のサーブをコピーする。
その後の三浦のサーブも何もせずに、三浦の体の動きを脳に焼き付けた。そうしていると三浦がまた俺をバカにするようなことを言ってきた。
「今なら、謝れば許してあげるし」
「…………」
と、俺は三浦の言葉に無視で返す。
三浦はそれが気に入らないらしく、まるで苦虫を潰したような顔をしている。いいぞ、もっと怒れ。すでに俺の手の平の上で踊っているとも知らないで。
俺のサーブを三浦は『どうせ、大したことない』と思っているんだろうな。少し気が緩んでいるので、遠慮なくサーブを放つとボールは三浦側のコートに吸い込まれるように決まった。
三浦は対応できずに呆然としている。そして周りのギャラリーも騒がしかったのが急に静まりかえった。三浦が一番信じられないという顔をしている。続く俺の二本目のサーブも同様に三浦は対応できなかった。これで2対2になった。
俺と三浦の間には明確な差があった。それは身体能力だ。普段から鍛えている俺に対して三浦はテニスをやめて一年以上経っていると思う。いくらテニス未経験者の俺でも身体能力で勝っている分、アドバンテージがある。そのことに気付いていない三浦は勝てない。
次の三浦のサーブに俺はきっちり対応した。さっきとほぼ同じ場所に来たのもあるが、三浦の動きは既に対応が出来るようになっている。
俺のサイドエフェクト『脳機関強化』は周りの隊員は強いと言うがデメリットもある。それは脳を酷使してしまうから、栄養分不足になりがちになる。そこで俺のマイソウルドリンクのマックスコーヒーの出番だ。あれのおかげで脳に十分な糖分を送ることが出来る。
そんなこんなで俺と三浦の対決は2対2の同点で幕を開けた。だが三浦気が付くだろうか?この勝負は最初から三浦を嵌めるための罠だということを。
この勝負の結末はすでに決まっている。今から三浦の絶望する顔を見られるのが楽しみだ。