やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
イレギュラーゲートの原因だったトリオン兵の『ラッド』の駆除をボーダー隊員総出で行ったおかげで朝方までに片付ける事が出来た。
A、B級の活躍もあったが、俺は今回の作戦で一番頑張ったのはC級だと思う。数千体のラッドの残骸を回収したからだ。
これまでのトリオン兵は大きいのと数が少なかったからよかったからな。
これでイレギュラーゲートに悩まされる事は無くなり通常運行に戻った。それとC級の外での活動の見直しがあって、今後大規模侵攻などの場合のみにC級隊員の外でのトリガー使用が認められた。
少しずつだが、ボーダーは変わってきているのかもしれないな。変わってきていると言えば、『変える』事に拘っていた雪ノ下はどうしているだろうか?
実際のところ、あの女がこのままでいるとは微塵も思っていない。何かしらのアクションはあると覚悟している。
それに平塚静もだ。あの独身暴力駄目人間も雪ノ下と同様に何か仕掛けてくるかもしれない。
一応、用心はしている。浅葱に頼んであの人の事は監視してもらっている。今は就職活動と結婚活動の両方で忙しいらしい。
まあ、今は気にしなくても大丈夫だろ。おっと、迅さんと待ち合わせをしているんだった。
『ラッド』の駆除が終わって報告書を提出した後、迅さんから連絡が着て合流してくれと言ってきた。
なので俺は今、迅さんの指定されたビルに向かって歩いていた。
どうして待ち合わせの場所がビルの屋上なのか謎だがもう疑問も思わないようにした。どうせ迅さんにはぐらかせてしまうからだ。
そんな事を考えていると目的のビルに到着した。階段を上がって屋上に出た。
「お、比企谷。こっちだこっちだ!」
「……迅さん」
迅さんはある方向を見てぼんち揚げを食べていた。ぼんち揚げを俺に指し出してきたので俺はそれをボリボリ食べ始めた。
「それで?ここに何があるんですか?」
「ここには何もないけど?」
「何も無いのかよ……」
ならここを待ち合わせの場所に指定していする必要はなかったと思うが?すると迅さんはある場所を指差した。
そこは廃駅だった。名前は確か……弓手駅?だったような気がするな。
俺はそこに人影を見たのでサイドエフェクトで視力を上げてその人影を見た。そこには三雲と空閑、それと雨取千佳の姿があった。
「なんで雨取千佳が……」
「何だ比企谷。あのおかっぱの女の子の事、知っているのか?」
「……ええ、まあ。鳩原さんの失踪の件に関わっている一般人の身内ですよ」
「へぇ~そうか」
それにしてもどうして雨取が三雲と空閑と一緒に居るんだ?しばらく観察していると雨取の目の前に巨大なトリオンキューブが出現した。デカッ!?
何だ、あれは?
しばらく観察していると三人に近付く人影が二つあった。
「……ん?三輪と米屋……?どうしてあの二人が?」
「城戸さんからの命令で遊真を殺しに来たんだよ」
「……なるほど。三輪と米屋は空閑に返り討ちに遭うんですか?」
「よく分かったな?」
「迅さんがここでじっとしているからですよ。空閑と会っている貴方が空閑のこの『未来』を見ていない筈が無い。そう考えただけです」
迅さんは相手の顔さえ見れば、その人間の未来が見える。逆に顔が見えないと未来は見えない。迅さんは空閑とはすでに会っているはずだからこの『未来』が見えていたはずだ。
それにしても三輪と米屋が居ると言う事は奈良坂と古寺も近くに居るな。
「……あ、居た」
少し離れたビルの屋上に奈良坂と古寺の姿を捉えた。二人はまだ撃ってはいなかった。俺は迅さんの方を向いた。
「……それでいつあそこに行くつもりですか?」
「まだ行かない。終わり辺りかな?」
「そうですか……」
再び駅に目を向けると空閑が黒い服に換装した。あれが空閑のトリガーか、格好良いな!黒色で宇宙服みたいでちょっと中二心が刺激されるな。
三雲は雨取と離れた。するとそれが開始の合図かのように米屋が空閑に不意打ちをしかけたが、空閑は簡単に避けたがそれでは米屋の槍は回避し切れていない。
空閑の首からトリオンが漏れ出した。
「初見で米屋の槍は避け切れなかったか……」
それにしても流石は三輪隊だな。連携が抜群だ。三輪か米屋のどちらかが常に空閑の背後を取っている。
それに上に大きく跳べば、奈良坂と古寺の狙撃が待っている。これは思わずいい勉強になるな。
比企谷隊はまだこれほどの連携は取れないからな。個人の強さが目立つから連携でお互いにカバー出来るようになれば、負けない無しになるだろう。
「……なんとなく分かってきましたよ」
「うん?何が分かったんだ?比企谷」
「貴方が三雲を推薦までして入隊させたのか、ですよ。迅さんは三雲と出会った時に三雲が空閑……ネイバーと出会って友好な関係を築く事を見たんですね?」
三雲をボーダーに居させれる理由はずばり空閑だ。あのお人好しが空閑と友好的な関係を築く事を見越して居させたのだ。
この後の展開も大体、読めてきたな。
「つまり迅さん。貴方は空閑をボーダーに入隊させるために三雲の肩を持つんですね?」
「まあ、それもあるかな?」
「……他にも理由があるんですか……?まあ、今はいいですよ。いずれ分かる事ですし」
「まあ、そういう事だよ。そろそろ奈良坂達の所に行くかな。あ、比企谷は付いて来なくていいから。まだ秀次達に俺と比企谷が繋がっている事を知られたくないかな」
なるほど。今後のために俺達の関係は秘密と言った所か。まあ、別にいいけど。
「とりあえず比企谷は玉狛に行ってくれ。今後の話とかしたいからさ」
「分かりました。もう少し見てから玉狛に行きます」
「あ、それと玉狛に行く前にどら焼きを全員分買っておいてくれないか?」
「分かりましたよ。貸しにしておきます」
「菓子だけに、な」
……この人をマジで殴りたい。寒いオヤジギャグを聞きたくて言ったわけでは無い!!迅さんはすぐに奈良坂と小寺が居るビルに向かった。
俺は空閑と三輪達の戦闘を見る事にした。
三輪が空閑に『鉛弾』を撃った。あのトリガーは重りにトリオンを結構使っているから射程があまり無い。
だから当てるなら相手の近付かないと当たらない。
「……ヤバイだろ、これは……」
『鉛弾』を喰らった空閑はついに膝をついた。それを好機と思ってか三輪と米屋が同時に仕掛けた。
だが、空閑は特に焦っている様子は見れなかった。それどころか空閑は笑っていた。
あれは勝機見い出した者の笑みだ。
空閑の目の前に円が何重に描かれたものが出たと思ったらそこから黒い弾丸のようなものが三輪と米屋に直撃した。
「……あれはまさか……」
三輪と米屋に直撃したのは『鉛弾』だった。どうして空閑のトリガーに『鉛弾』が?ボーダーと同じトリガーを持っていたのか?
だとしたら最初に使っても良かった筈だ。なら使わなかった?
「……使えなかった……?三輪のを受けて使えるようになった?」
だとすると空閑のトリガーは相手から受けたトリガーの能力をコピーする事が出来るものか?しかも威力は空閑本人の思いのままか。
敵なら厄介だが、味方なら心強いな。
『鉛弾』を返された三輪達の前に迅さんが現れた。何か話していると三輪はベイルアウトした。米屋と奈良坂と古寺は徒歩で本部まで帰るようだった。
迅さんは三雲、雨取、空閑を連れて玉狛に向かうようだな。それにしても雨取も一緒のようだな。
「俺も玉狛に行くか。あ、でもその前にどら焼きを買っておかないとな」
迅さんに言われたどら焼きを買うために俺はビルを降りて良い所のどら焼きの店に向かった。
どら焼きを買った俺はすぐに玉狛に向かった。迅さんはもう帰ってるだろうか?とりあえず入るか。チャイムを押した。
「は~い。ちょっと待ってくださいね。……あれ?ハチ君、いらっしゃい」
「よお、宇佐美」
出迎えてくれたのは宇佐美だった。
「迅さんは?」
「迅さんはまだ帰っていないけど?」
「……そうか。それとこれ」
俺は紙袋を宇佐美に渡した。宇佐美はさっそく袋の中身を見た。
「おお~!これは良い所のどら焼きだね」
「迅さんに言われて買ってきた」
「そうなんだ。まあ、とりあえず上がってよ」
「ああ。そうさせてもらう」
外で待つのはこの時季は辛いからな。俺は上着からマッ缶を宇佐美に渡した。
「宇佐美。これ、暖めてもらえるか?」
「うん。いいよ」
「よお、はちまん。ひさしぶりだな」
足元から声がると思ったらそこには陽太郎と雷神丸が居た。
「ああ。久し振りだな陽太郎。雷神丸も……そうだ。雷神丸にはこれがあったんだった」
俺はどら焼きとは別に買ったニンジンを雷神丸に与えた。雷神丸はニンジンを美味しそうに食べ始めた。
「はちまん!!どうしておれのぶんはないんだ!?」
「どら焼きを買ってきたから後で食べろ」
「どらやきか……いいだろう。あるならいい」
陽太郎は雷神丸とどこかに行ってしまった。ホント、あのコンビは憎めないな。
俺は暖まったマッ缶を飲みながら迅さんの帰りを待った。そして迅さんが三雲達を連れて帰ってきたのはすでに日が沈み夜になった時だった。
小町に連絡しておかないとな。
それと三輪はどうしているだろうか?