落ちてきた漂流者と滅びゆく魔女の国   作:悪事

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繋ぎ回、戦闘はないですよ〜。
なお、安定の島津節なことについてはノーコメントで。



サムライハート

他愛(たあい)なか、こがいな首級(しるし)ば挙げてん手柄にならん」

 

 

砦から矢のように飛び出し、旋風よろしく帰ってきた豊久は持ってきた生首を砦から離れた場所に埋めて愚痴を零す。信長考案の魔法式榴弾の威力の凄まじさたるや敵兵の(ことごと)くを骸に変え多くの負傷兵を出したのだ。その一方で三の砦にいた魔女たちは、手にした戦果を前に勝ち(どき)を挙げられずにいた。締め付けられるような沈黙、それは今まで使用していた木偶人形より小さな杭の二、三本で敵を壊滅せしめたことに対する畏怖でも、信長の卓越した魔法の運用への感動でもない。

 

 

 

先の戦闘で死んだ敵兵の骸から首を刈り取るという鬼も泣いて謝るような真似を平然と豊久が行なったためである。

 

 

「あのぅ……豊久さん。その、あれ以上敵兵の死体を刻む必要はなかったのでは?」

 

 

首を埋めている最中の豊久に若干、引いた口調でアイスは進言を行う。

 

 

「ああ?ならば、カサンドラの兵子(へご)たちの骸ば、野晒(のざら)しにすっとか?そげな酷な事できるか、死ねば供養すんが戦場の決まりぞ」

 

 

「どうして首を斬ることが供養になるというのですか?」

 

 

豊久が語る内容が理解できず、アイスは反発するように豊久を問いただした。

 

 

「骸ば打ち棄てておけば、蛆が湧く。そいつを喰いに(からす)がたかる。そうなれば、次は病が広がる。じゃっどん、胴体は焼いて首は供養しとる。死なば、骸になって腐った肉となる。それを怠るは戦場(いくさば)で命取りじゃ」

 

 

「……首だけを埋めることが供養になるというのですか」

 

 

「首は洗い整えて埋めてやった。人として供養してやった。こちらに手を合わせればよかと、胴体なんぞ腹を(さば)けば糞や小便の詰まった肉袋じゃ。手を合わせて弔った首ではなく、糞ば詰まった肉に人ん魂が宿るなんぞ、道理に合わん」

 

 

何を馬鹿なことを言うか、とばかりに豊久は真っ直ぐな瞳でこちらを見返し、とんでもない道理の説明を至極真面目そうな顔で言い切った。その堂々たる語り口からは、自分が正しいことを言っているという自信しか伝わってこない。アイスは、後ろの身内の魔女たちの方を見て『私、何か間違ってるのかしら』と合図を出す。それに他の魔女たちは『間違ってない……はずなんだけどなぁ〜』と困惑の目でアイスを労った。

 

 

 

ここにきて、アイスは彼らと自分たちの差異を理解する。つまるところ、豊久たち漂流者(ドリフターズ)たちと自分たちでは死生観がかけ離れているのだ。死と生に対する視点がズレているため、理解しがたいものがある溝になっているのだ。アイスは震えた、豊久はカサンドラ王国の兵たちに怒り、憎悪などを抱いていない。ただ、敵だからというだけで殺す。そこに信仰、大義、欲望は微塵も無く空虚なまでの純粋な殺意。

 

 

単純かつ理由のない殺意、それも底の知れないほどに深く膨大なもの。澄み切った透明な殺意という矛盾の結晶がここに存在していた。ドリフターズの行動原理に恐れおののいている魔女たちとは反対に、豊久は腹が減ったなんて考えながら呆けた面で時間を潰す。そこには鬼のように戦場を駆けた男の姿はなく、遊び疲れて眠りこけた子供の姿だけがあった。

 

 

 

 

 

 

「納得いかん」

 

 

「良いから黙って行ってこい。うつけでもできる簡単なお手伝いだ。魔女たちと仲良くなれる良い機会だぜぇ、お(とよ)。行ってこいって、つうか頼むから行ってきてくれ。今晩の晩飯増やしてやっから」

 

 

今回、砦内の糧食や武器となる(くい)などの補給に数名の魔女たちが砦を出ようとしている横で、約二名の男たちが益体のない言い争いをしていた。

 

 

「だって、お前ここにいたってやることないだろ。そんなら、ちょっと補給に行ってこいって」

 

 

「そん(すき)ぃに奴輩(やつばら)が攻めてきたら、どがいする」

 

 

「いい加減にせぬか。(われ)も信長に賛成する。豊久、確かに先の戦で、うぬは戦功を挙げた。しかし、あれは吾らの魔法と信長の策で壊滅しかけた兵たち。そんな兵たちを倒して後は砦で呆けているなど、他の魔女たちに示しがつかん。雑務の一つでもこなさんか」

 

 

信長の援護に魔女たちの頭目ハリガンまで参戦してきた。これには、豊久も分が悪いと刀を腰に佩き立ち上がる。

 

 

「だいたい、吾らはこの手で敵軍を壊滅したのだぞ。人間の勢力もさすがにまた、痛い目を見ようなどすぐ動き出す愚か者はそうはいないだろう」

 

 

ハリガンの次の言葉には豊久のみならず信長も目を細めた。

 

 

「おい、(ノブ)。ほんに(おい)は残らんでいいのか」

 

 

「あぁ〜〜。っとな、ハリガン。こないだの戦、お前はどう見てる」

 

 

「むっ?先の戦か、そうだな。少なくとも新たに投入したあの杭は、感嘆したぞ。二百もの兵たちを潰走させたのだ。どう見るも何も、あれは大勝であった。としか言えぬが」

 

 

「……いいか、ハリガン。奴らは単なる物見の兵だ。二百という数は大きなもんだったが、所詮(しょせん)は単なる偵察の兵。それが帰ってこないとなりゃ、今度は奴らも本腰を入れて攻めてくらぁ」

 

 

信長の発言は、ハリガンの想像より物騒なものだった。

 

 

「なっ!?それは(まこと)なのか」

 

 

「そりゃぁ、ここで嘘流しても得ねぇし。つう訳で、(やっこ)さんたちのお出迎え準備をすんだよ。ちょっと、仕掛けをしてやろうや。まぁ、そんためにも丸太とか(やじり)とかもっと必要だしな」

 

 

「……そがいなら仕方なか。ちょっと行っちゃるから待っとれや、(ノブ)

 

 

ようやく、納得してくれたのか豊久も搬送組の魔女たちの方に合流する。残った信長とハリガンは疲れを押し隠して次の戦場に対する備えの指揮を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

また、ユウキが荒れている。

 

 

「ふざけないで、ありえないわ。どうして、私が男なんかと一緒に行くなくてはいけないの!?……よし、行く途中で殺して捨ててきましょう。そうしましょう。潰して砕いて男の駄肉を山犬どもに放り込んでやる」

 

 

 

ああ、こんなにも言葉遣いが崩れてしまって……男が絡まなければ基本は良い子なんだけど。それに一緒にいる彼は、殺気と憎悪を向けられているのに呑気にしているし。

 

 

「あの豊久……さん?その、大丈夫ですか?」

 

 

「うん?確か、アイス?だったか。ああ、出る前に(まま)をかっこんできた。なんの心配もいらんぞ。さぁて、急ぎ兵糧ば持って行かんとなぁ。だいたい、どん程度で向こう着くんか?」

 

 

お腹(そっち)じゃないです!

 

 

「……この調子なら四半日ほどですね」

 

 

「ほうか、ならとっとと済ませて砦に向かうとすっか。(おい)らのいない間に攻め込まれでもしたら、ことじゃからのう」

 

 

ユウキがこんなにも敵意を向けているのに意にも介していない。初めは器の広い人なのかとも考えたけど、違うこの人はユウキのことを気にもしていない。仮にも味方で戦力の一人、それがユウキの独断で殺されては色々と問題が起こる。姉様にも、くれぐれも大事がないようにと言いつけられたが、これはユウキを(なだ)めるのに苦労しそう……

 

 

 

 

「しかし、四半日か。丸太やら飯やらを持って行くんにこんだけの人数で足りんかい」

 

 

豊久さんが首を傾げながら、不思議そうに荷車を見る。……ふふ、こうしているとなんだか、いつも面倒を見ている子供みたいで少し微笑ましい。まぁ、戦場に出るとすぐにそれも無くなってしまうのですけど。

 

 

「ええ、この人数で十分です。それに、ユウキだけなら、もっと早く着きますよ」

 

 

「はっ、こいでも足には自信があったんじゃが。まさか、そこまでの早駆けとは」

 

 

「まぁ、早いことには違いありませんけど、あの娘の場合、走る訳ではないんですよ」

 

 

「?……まぁた、魔法とやらか。魔女ん魔法ばぁ、ほんに便利じゃのう」

 

 

便利、便利かぁ。本当に魔女を魔法を恐れていない人ですね、豊久さん。魔女の魔法を便利で使えるモノとしか捉えない価値観、それは私たちにとっては新鮮で感謝もしたいんですよ。いつか、魔女たちが笑って暮らせる時に、纏めて言ってあげるので覚悟してください。……あと、あまり怖いことをしないでくださいね。本当に。夜に眠ると夢で出て来ちゃいますし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、行ってきますね。姉様」

 

 

運搬用の大きめの荷車を引くため、私は牽引用の綱を腰に巻いて姉様たちに出立の挨拶をする。

 

 

「うむ、それでは頼んだぞ。アイス、ユウキ、ノノエル。見事、役目を果たしてくれ」

 

 

信頼の言葉に胸が熱くなる。しかし、これから豊久さんを敵視しているユウキ、彼のことをよくわかっていないノノエルの二名と、あの豊久さんが一緒に行動するのだ。自分一人でこの纏まりに欠けた三人の手綱を握れるか、心許ないというのが本音。けれど、姉様の信頼に応えてみせると拳を握りしめた。

 

 

 

私、ユウキに次ぐ今回同行する三人目の魔女、ノノエルは豊久さんをチラチラ見ては目を背けて、不安げで心配そうな塩梅だ。年の頃は十四とまだまだ様々な経験や知識のない彼女を補佐するのにも、気を配らなくては。本当はユウキにもノノエルを支えて欲しいが、彼女は豊久さんを敵視していて視野が狭張っている。これでは、期待できそうにない。

 

 

 

初顔合わせとなるノノエルを前に豊久さんは呆けているし。前の戦いではあれほど生き生きしていたのに、今はボーっとしているだけの男の子にしか見えない。彼という人物について、私たちはもっと知らなくてはいけないのかもですね。事は魔女の今後の存亡にも影響するのだから。

 

 

 

では、出発の時間だがユウキが姉様に出立の挨拶をしていない。……ふふ、ちゃんと挨拶をしないといけないでしょう、ユウキ?顔には満面の笑顔を、拳には絶大な力を乗せる。豊久さんの方を見て、こちらを向かないユウキの肩に手を置く。

 

 

「ユウキ〜、姉様への挨拶はどうしたの〜?」

 

 

ユウキの肩に指を食い込ませる。魔法を使った時の腕力なら、肩を粉砕もできるが其処までしないでおく。ただし、痛みはきちんとするように肩を握った。

 

 

「つぅぅ〜〜!!痛い痛い痛い痛い!!痛いってばぁ!?」

 

 

「はい、行ってきますは?」

 

 

「イタタ!!痛い痛いって来ますぅぅ!?」

 

 

「なんじゃ、組み稽古か?遊んどる場合じゃなかぞ、働く時は切り替えて働けや」

 

 

ーーーーあっははは、今まで呆けていた貴方にだけは言われたくないですねぇぇ。うん、こめかみに血管浮き出そうになったけど、笑顔笑顔。なんだか、私は顔を見たノノエルが真っ青な顔で豊久さんの背後に回ったけど、もうそんなに仲良くなったのね。微笑ましい限りで思わずユウキの肩を握りつぶしちゃいそう。

 

 

「……挨拶は大事よ、だから欠かさないようにしなさいね。誰に対しても、だ・れ・に対しても!」

 

 

「あ〜、ユウキ。補給の運搬ではお前の力が重要なものとなる。今回のように一刻を争う状況では特にな。お前としても色々と含むものがあるだろうが……頼んだぞ」

 

 

「っわ、わかってます」

 

 

ユウキもわかったくれたようだし、肩から手を離し荷車引く準備をする。

 

 

「では、アイス、行ってくれ。くれぐれも気をつけるようにな」

 

 

「はい、姉様。行って参ります」

 

 

 

 

 

 

 

私が先頭で荷車を引き、次にノノエル、豊久さんが後をついてくる。最後尾は本人たっての希望でユウキが位置取っている。砦を出て、整備された道が終わる。この先は荒れた獣道、私とユウキはともかく豊久さんやノノエルがこの先ではついてこれない。

 

 

「ここから少し速度を上げますよ」

 

 

「あぁ?こん先、道が悪ぅなっとるんに今までよか、速度を上げんのかい。ただでさえ、お(まん)は荷車押してんだぞ。どがいする気じゃ」

 

 

「うるさい男ね、口が下手なんだから喋らないで黙ってなさいよ。それで息もしないで死になさい。というか、私に殺されなさい」

 

 

(おい)はともかく、こっちのちっさい娘ばどうする?ついてこれんのか?」

 

 

「無視すんな!!馬鹿なあんたには分かんないでしょうが、これくらい私とアイスにかかれば余裕なのよ。私とアイスがいる今ならね。馬鹿すぎるあんたには理解できないかもしれないけどね、どうしようもないくらい馬鹿なんだから」

 

 

馬鹿と繰り返し言われて、豊久さんが怒り出すと思ったがこちらの予想とは違って怒るどころか、黙って私とユウキを見つめてくる。

 

 

「わかっちょる、ようすんにお(まん)とアイスがなんか魔法でえらい事すんだろう。そんでどがいな魔法じゃ、なんしてんこん獣道ば抜ける?」

 

 

……言葉が出なかった。あっさりと魔法を使い此処を抜けると想定したこともだが、魔女が迫害される理由となった魔法を、こんなワクワクとした顔で期待されるなんて想像できるはずもない。魔法を使うことを楽しみにされ、期待までされるなど初めての体験である。隠しきれない声の弾みが、妙に心地よいとさえ感じられた。魔法を見せることを楽しみにされるというのは、不思議な気分だが悪い気はしない。

 

 

「ーーええ、此れから先はユウキの魔法で助けてもらって私の魔法で荷車を引くんです。ノノエル、豊久さん、荷車に乗ってください」

 

 

「おうよ!」

 

 

「なんだか、二人ともズルい気がする……」

 

 

不服そうな顔のノノエルが小さな声で呟いたが、そう言われてもこればかりはどうしようもない。少しやる気が出たところで、豊久さん、ノノエルの二人とユウキが荷車に乗った。手のひらに無性に力が入る。すると難しそうな顔でユウキがまた豊久さんに突っかかっている。

 

 

「いぃっ、言っとくけど。これはこの先の道が悪くてあんたが鈍臭いからアイスが気を使ってるだけなの!断じて、あんたが見たいっていうから魔法を使うんじゃないんだから!!この大バカ、過剰なバカ!」

 

 

ユウキが森に響く声で豊久さんを罵っているが、彼はなんと巨木のように動じない。というか、気に止めない。……こういう時はいいけど、なんというかもっと人の話はしっかり聞いていただけると、魔女としては色々と助かるのですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、おおっ!!こいつはすごか!!早ぇぇし、揺れが少ないときた。そいにアイス、お(まん)がこげな剛力の持ち主じゃったとはのう!!」

 

 

豊久さんは荷車の上ではしゃいでいる。ユウキの魔法が荷車にかけられ、揺れが少なくなったことや私が荷車を引くことなど些細なことに、遊び場に連れてこられた子供みたいに笑っている。けど、いくらユウキの魔法で荷車の揺れが減ったとはいえ荷車の上で立ったりするのは危ないから止して欲しいのですが。

 

 

「おい、そこの……あ〜〜確かのの、のる?ののる?こいつはどういうカラクリなんか?」

 

 

「あ、あ、私、名前。私の名前……ノノの、ノノエル、です……」

 

 

突然、豊久さんに話しかけられノノエルが慌てふためきながら、なんとか自分の名前の訂正を試みた。しかし、驚きのせいで名前を正確に言えていないのが、惜しいところだ。

 

 

「のの、ののの?"の"が多い!!もちっと短ば名乗れや!!!!」

 

 

「ひいいっ!?……ノノエル、私の名前はノノエル…………です」

 

 

年端もいかない魔女であるノノエルを相手に中々、酷なことを。豊久さんは見た目や目付きとかから見て粗忽(そこつ)な乱暴者に見えるが、その外見とは裏腹に魔女たちを差別せず女子供には手を上げないということは分かっている。そうでなければ、姉様(あねさま)も豊久さんを私たちと一緒に運搬役にするわけもない。

 

 

ただ、ちょっと敵に攻撃的だったり、首を獲ることばかり考えていたり、空気を読むのが壊滅的なまで下手だったりするだけで…………ただの乱暴者の方がマシだったのでは?なんて考えてはいけない。あれで、いいところはあるはずです。きっと、たぶん。

 

 

 

 

 

「……ノノエル?おかしな名前ばつけられとるのう。そいよか、アイスが使っとる魔法とやらは(おい)でも使えんのか?」

 

 

「魔法をですか?それは無理……だと思います。魔法が使えるのは女性だけですし、魔女の一族には女しかいませんから。だから、その魔法を男の方が使うのは、ちょっと」

 

 

「そげなもんか。あい、わかった。そいなら、(おい)はいつも通りん戦働きをすっど」

 

 

ノノエルは豊久の対応を見て意外だと思った。こんなおっかない男の人がこうも物分かりがいいなんて。いや、だからこそこの人は魔女たちの味方をしてくれているのかな?あ、そうこう話してる間にもう少しで目的地に着きそうな頃合いになった。

 

 

「もうじき、着きますよ」

 

 

「おいおい、四半時どころかそいより早えじゃねぇか。いつもこんな早えもんなんか?」

 

 

「それはどうでしょう。ただ、今日はいつもより早かったと思いますよ?」

 

 

(子供みたいに楽しそうな目をした誰かさんがいたからかもしれませんね)

 

 

ノノエルが心のうちで、口に出したら笑ってしまいそうなことを考えていた時、豊久が弾かれたような早さで後ろを振り返った。それに遅れて後ろから悲鳴にも叫びにも似た声が聞こえてきた。

 

 

「アイス、砦から煙がっ!!」

 

 

荷車の上に立つユウキの言葉通り、自分たちが出立した砦の方角より黒々とした煙が事の重大さを告げるように上がっている。

 

 

「来やがったなぁ、カサンドラども!!!!」

 

 

切迫したユウキの声と重なるように豊久は、荷車から飛び降りて砦におっとり刀で引き返す。顔には犬歯を見せるように笑い、爆走を始めた。

 

 

「そんな、砦から煙が……って豊久さん!?ちょっと待って!?」

 

 

現状を正確に測ろうとするアイスを放置し、豊久は魔女たちでさえ目を見張るような早さで森を踏破して行った。その様子を見て対抗心にかられたか、砦の魔女たちを心配したのか、ユウキは自分の魔法がかけられた板を取り出し、それに両足を乗せる。ユウキの乗った板が風の力で地面を離れ、先に飛び出した豊久に劣らぬ速度で飛び出した。

 

 

「あ、アイスっ!早くユウキと豊久さんたちに追いつかなきゃ!?」

 

 

状況を理解しきれていないノノエルは、とにかくあの二人に追いつこうとアイスに提案する。アイスは少し思案する。このまま物資を取りに行くことを優先するか、それともあの二人を追いかけ砦に向かうか。魔女のうちでも特に広い視野を持つアイスが出した答えは、あの二人に追いつくことだった。

 

 

この答えを出した理由は、単にあの二人だけでは砦に戻ったとしても戦力不足ということもあるが、なんだか彼を放っておけないのと、男性嫌いのユウキと一緒にいるのはマズイという良い意味、悪い意味を合わせて追いつく選択肢に辿り着いた。

 

 

「……全く、どうして豊久さんは、ああも弓矢みたいに飛び出すことしか出来ないのかしら!?」

 

 

アイスの憂鬱げな大声に、背後の荷車にいるノノエルも"そうだそうだ"と首肯するように首を縦に振る。しかし、そんな愚痴を零しながらも、アイスとノノエルは豊久たちの後を追いかける。まだ会って日も浅く、それこそ物騒でおっかない人という悪い点しか見つからない豊久をどうして放置することができないのか?

 

 

その疑問に今はまだ、アイスたちは気付かぬまま砦へと駆けて行くのだった。

 

 




ーーー放っておけない=島津ーーー

ハリガン「おい、それに触るな!血界を崩す気か!?」

レラ「あ、の豊久。それ触っちゃ、ダメ、です」

アイス「豊久さん、その先は行かないで〜!?」


信長「あいつ、戦以外じゃ見事なまでに役立たねぇな、おい!?」

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