「バルムンクさんや。今まで全然、全く、これっぽっちも戦闘の要素が見当たらないんだが、俺ギプスしてる意味あんの?」
転生して1週間が過ぎのだが、魔法の魔の字も出てきていない。
小学校の教科書が郵送されてきたので見てみたが、前世とほぼ同じ内容だった。
能力補正により気力さえあれば普通に生活できるとはいえ、痛いもんは痛いし、常に気をはっていなければいけないので正直疲れる。
〈助けを求めて手を伸ばしている人がいたとして、知るか!ってその手を払いのけられるなら必要ないよ〉
は?
なにその人間性を試される感じ。
「あーそれは規定事項で、俺じゃなきゃだめな事態なのか?」
〈規定事項ではあるけど、別にマスターじゃなきゃ助けられない訳じゃないかな。ただマスターの行動次第ではよりよい結果にできるかもしれないだけ。マスターは――言い方は悪いけど――この世界では異物だからね。運命を変えられる可能性を持つ唯一の存在なんだよ〉
「今規定事項って言ったけど、お前はこれから起きることを知ってるってことでいいのか?」
〈知ってるよー。本当のことを言うと神様の暇潰しっていうのはね、別にマスターの人生を観察しているわけじゃないんだ。これから起こる定められた未来が、マスターの存在でどういう風に変化するのか観察するものなんだよ〉
魔法が存在する世界――転生する前にじいさんは確かに俺にそう言った。
しかし転生した世界は前世となんら変わらないものだった。
――いや、確かに魔法は存在する。
俺自身が魔法を使えるのだからじいさんの言葉に嘘はない。
ということは……。
「今後何らかの魔法関係の事件が起こる。そしてそれに俺が介入することをじいさんは望んでいる。それであってるか?」
〈んー確かにあってるけど、それ以上のことは教えられないよー。神様に怒られちゃうからね〉
教えてもらえなくとも現段階でも十分に想像はつく。
なぜなら俺は今後事件に関わるであろう人物とすでにあっているからだ。
――高町なのは――
考えてみれば彼女と出会う巡り合わせは明らかに異常だ。
常識的に考えて、こんなあからさまに素性の怪しい子供に自分の娘を引き合わせるだろうか?
彼女の立ち位置がどのようなものかまでは想像できないが、彼女が関わってくることだけは確実だろう。
「一つ聞きたい。今のギプスやら魔法戦のトレーニングやらでその事件が起こるまでに俺は戦力的に間に合うのか?」
〈それぐらいなら教えてもいいけど……。正直言って間に合わないだろうね。事件に関わってくる人たちの魔力量は100万オーバーで瞬間最大値ならその3倍、今のまま続けても事件が起こるときのマスターの魔力量は10万ぐらいだろうから。でもマスターは神様からもらった能力があるから、相当無理すればそれでもなんとかなると思うよ〉
10倍以上の差があんのかよ……。
無理がきく能力とはいえ、そんだけの差を埋めるとなると正直厳しい気がする。
「わかった。確か今のギプスのレベルは1だったよな? そうだな……事件が起こるその日までに魔力量が100万を超えられるレベルまで上げてくれ。ついでにマルチタスクだっけ?あれで起きている間はずっと仮想戦闘訓練をやる」
〈え、目標値をそこまであげると、たぶん痛みで気絶しちゃうと思うよ?〉
「別にいい。確か意識を保つ覚醒魔法ってあったよな? あれを常時展開してくれ」
〈本当にいいの?〉
「俺はいっこうにかまわん」
ほんの短い付き合いだとはいえ、すでに知り合ってしまったからな。
女の子を見捨てるような選択は俺にはできん。
それに――幸か不幸かは微妙なところだが――俺は簡単に死なないことをじいさんに保障されている。
体の傷は治るのだし、痛みなどそのときだけのものだ。
なら必要なのはそれと向き合う覚悟だけだろう。
覚悟があれば大体なんでもできる――似たようなことをどっかの兄貴が言ってた。
今ならその言葉が頭ではなく心で理解できる。
〈本当にいいんだね?じゃあやるよ〉
「……あ、やっぱ明日からで」
〈……〉
デバイスだから目なんて無いはずなのに、ジト目で見られている感覚があるのは気のせいだろうか。
へたれたっていいじゃないか、人間だもの。