New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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 前からの続きです。長くなるとどこか文法ミスが増えるなあ・・・と。自分で投稿後に見直すと結構多くて困りますね。


25 それぞれの過去、来(きた)る新星

―――夏穂の回想・・・

 

 私は中学でも野球はやっていた。だけど残念ながら私の通っていた澄ヶ台シニアの野球部は監督があまり女子選手を使いたがらなかったため、私はずっとベンチを温めていた。他にいた何人かの女子選手もベンチ入りこそするものの、試合には思うように出られなかった。

「よう、夏穂。お疲れ」

「あ、阪井くん。お疲れ!」

 彼は阪井くん。このシニアで主にバッテリーを組んでいたキャッチャーだ。

「結局最後の大会も番号、10番だったな」

「まあ、監督が決めたことだし・・・」

「あのオッサン、考えが古いんだよ・・・。野球は男のものだって・・・」

「まあまあ・・・」

 といった具合で阪井くんは私の実力を評価してくれていた。そして夏の大会は3回戦くらいで敗退。私は公式戦で登板することなく、チームを引退することになった。

 

 それからしばらくしたある日、

「はあ、進路、考えないとなあ・・・」

「阪井くん、まだ決めてないの?」

「野球取るか、勉強取るか・・・。うむむ・・・。そういう夏穂は?」

「私は前から見に行こうと思っていたところがあってさ」

「ふーん? どこなんだ?」

「恋恋だよ、恋恋高校!」

「ああ、確か早川あおいの出身校の・・・」

 早川選手は現・幕浜マリナーズ所属の投手で今から3年前に甲子園で活躍した選手だ。当時はまだ女子選手の参加は認められておらず、1年の頃にルールを破って試合に出場した恋恋高校は出場停止処分を受けた。だけどチームメイトの懸命な署名活動が実って、社会現象となり高野連も重い腰を上げてルールは改正された。

 そして参加の認められた早川選手はエースとして恋恋高校を初の甲子園出場を成し遂げた。そこから女子選手の高校野球の参加は数を増やしていったのだった。まあ、まだ完全に偏見が無くなったわけでは無かったんだけど・・・。それを見た時から私は甲子園を目指すことが夢になっていた。

「そこに行くのか?」

「まだ決めたわけじゃないけど見に行こうと思って」

「恋恋高校ってけっこう強くなったらしいけど、まあ夏穂ならきっと大丈夫だな!」

「あはは、どうだろうね」

 ・・・この時はまだ知らなかった。この後どんなことが待ち受けているかなんて・・・。

 

 

 夏休みのある日、私は恋恋高校の練習体験会に参加してみることにした。早川選手を中心として甲子園を沸かせたこともあるのびのびとした恋恋のプレーが見られると思っていたんだけど・・・。

「そこっ! 何をボーッとしてるの! 常に考えて動きなさい!」

「は、はいっ! すみません!」

「何です、今の気の抜けたプレーは!?」

「す、すいません!」

 といった具合で非常に厳しいものだった。少しでも緩慢なプレーをすれば叱責が飛んでくる。体験のメンバーにはまだ優しかったものの、十分委縮していた。

 練習の合間の休憩時間で案内役らしき選手が説明する。

「このようにウチでは女性選手参加の先駆けとなったチームとしてふさわしくあるべく、厳しく、そして成果の出るような練習を行っています」

「(た、確かに強くはなれそうだけど・・・)」

 はっきり言えば、私の憧れていた姿とはかけ離れていたのだけれど・・・。良く見れば男子部員も見られない。聞いたところによると、早川選手たちが引退して1年した頃にそれまで監督をしていた加藤監督から現在の木菱(きひし)監督に変わった時に当時所属していた部員を除いて入部は認められなくなり、今では女子部員のみとなったそうだ。そしてそこから今のようなスタイルとなったらしい。

 そして打撃練習の時間。実際に打撃練習に参加してみることになったのだけど・・・、

「あっ!?」

「うわっ!?」

 私が打席に立った時にすっぽ抜けてしまったボールが直撃してしまった。足に当たったのだが当たり所が悪く歩きづらかった。

「いたたた・・・」

「あら、これはいけないわね。誰か彼女を医務室に・・・」

「ああ、じゃあ私が運びましょう」

「わかったわ。伊月(いづき)コーチ。お願いね。他のメンバーは練習に戻りなさい」

「じゃ、行こっか。歩けないでしょ、おぶってくよ」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 医務室へと向かう途中で伊月さんが話しかけてきた。

「確か・・・、桜井さん。だったね?」

「あ、はい・・・」

「私はさ、伊月文乃(ふみの)っていうんだ」

「伊月さんはコーチをされてるんですか?」

「うん、まあ、一応ね。ほんとは私は専門学校の実地実習みたいなもんで、3か月くらいいることになってるんだよね」

「実習、ですか?」

「そそ、私は将来はスポーツ選手のサポートをする仕事に就こうと思っててね」

「そうなんですね!」

「うん。・・・で、ここからが本題なんだけど・・・、」

 ここまで楽しそうに話していた伊月さんは急にトーンを変える。

「・・・君は野球、好き?」

「? そりゃ、そうですよ」

「じゃあ、甲子園には行きたい?」

「はい、それが夢です!」

「そう・・・。・・・ここの練習を見てどう思った? 率直に」

「・・・正直、私が憧れていた“恋恋高校”とは全然違いました。早川選手が活躍していた頃とは・・・」

「そっか。もしかしてあおいさんに憧れたクチかな?」

「はい、そうです!」

「・・・実は私も元々そうでね。あおいさんを見て、ここに入った。あおいさんが3年の時の1年生だったんだ」

「そうなんですか!」

「うん。・・・でも、それならなおさら・・・、君はここに来るべきじゃない」

「・・・え?」

 伊月さんは医務室に着くなり「今日は加藤先生いないのかー」と言いながら手際よくアイシングの準備を始める。

「そのままの意味だよ。・・・君はここには来ない方がいいと思う」

「ど、どうしてですか?」

「以前の恋恋なら・・・、あおいさんがいた頃の恋恋ならこんなことは言わないよ。でも今の恋恋は君にはおススメできない。今の恋恋は・・・、私はキライだ」

 私の患部をきっちりとアイシングして固定した伊月さんはそう言い放った。

「あおいさんがいた頃は、おそらく君が好きな恋恋だったんだ。あおいさんたちが引退した後、私の1つ上の代の先輩たちはあおいさんたちの抜けた穴を埋められず甲子園には行けなかった。仕方ないよ。先輩たちが偉大過ぎたんだ」

 何かを思い返すように伊月さんは話を続ける。

「で、私たちの代になった時に、あの人が来たんだ。その時まで監督をしてくれていた加藤先生はウチの野球部が高校の売名に繋がると見た教頭と校長の思惑によって元の医務室の先生に戻されて代わりに今の木菱監督がやってきた。そして木菱監督は教頭と校長の考えに則て“強い女子選手の野球部”を作ろうとして今の体制になったんだ。甲子園に出たこともあって有力な女子選手も入ったし、部員も増えた。木菱監督はスパルタ指導で選手を鍛え上げた。確かに私たちは強くなった・・・。だけどね・・・私たちはたくさんのモノを失った。仲間たちとの絆も、“馴れ合いは不要”の一言で切り捨てられた。そして・・・、」

 伊月さんは自分の肘に触れるとこう言った。

「私は練習の無理が祟って肘を故障し、他の子たちもケガした子がたくさんいた。だけど、あの人は・・・、ケガした選手はケガしている間は部員としてすら見なかった。あの人は選手を能力でしか覚えないの。試合で使えるか使えないか、それだけ。肘を故障するまで私は酷使されて・・・、ケガして見捨てられた。他の子たちもそうだった」

「そんな・・・。で、でも今はコーチとして・・・」

「ここに来て最初に監督に聞いてみたんだ。『私、ここの選手だったんです。覚えていますか?』って。・・・でもあの人は『あら、そうだったかしら』だけ。たった1,2年しか経ってないのにね」

「・・・」

 伊月さんの口から語られる恋恋高校の現状。伊月さんは改めて私に言った。

「今日の練習する様子を見ていて、君は本当に野球が好きなんだって分かったよ。だからこそ君には野球を好きでいて欲しい」

「伊月さんは・・・嫌いになったんですか?」

「いいや、私はまだ大好きだよ。・・・まあプレーは出来なくなったけど・・・。でも、私の同期の何人かは野球が嫌いになっちゃったんだ。・・・まあ仲は良いんだけどね・・・。君にはそうなって欲しくないんだ」

 だからね、と伊月さんは結論付けた。

「君はここには入らない方がいい。でも、おススメの高校が1つあるんだ」

「おススメ?」

「聖森学園高校。たしか去年からできたんだよ。あそこは私の親戚が関係者になったらしくてね。それに女性選手を推進してるところらしいし、設備も整ってる。いい選手も集まってるらしいし。まあ参考程度にはしてみてよ」

「あ、ありがとうございます!」

「おっと、長話しちゃったね。そろそろ戻ろっか。あんまり遅いとあの人、怒るから。歩ける?」

「まあ、なんとか」

「無理に急がなくていいよ。ペースは合わせるから」

「ありがとうございます」

 そう言って伊月さんは私をまたグラウンドまで連れて行ってくれた。

 

 それからしばらくして学校案内ななどに目を通してから、聖森学園の受験を決めて無事合格した。恋恋高校からは一応誘いは来ていたけど断った。なんとなく、もう一度あの監督の前には行きたくない気がしたから・・・。

 

 

*       *       *        *

 

「・・・とまあ、こういうことがあったんだ」

「その伊月さん? とは連絡は取ってるのか?」

「ううん。それっきりかな」

「そうか。お前のことだから連絡先ぐらい聞いてるかと」

「ははは、流石にそこまではね。

 ・・・・・・ねえ、トモ」

「なんだ?」

「自分の選んだ道がさ、本当に正しいかどうかとか考えたことある?」

 夏穂にしては珍しくナイーブだな、と松浪は感じたが黙って続きを聞く。

「私もトモも。選ぼうと思えば別の道があった。もし別の方を選んでいたらどうなっただろう? とか考えたことある?」

「・・・本当に、お前らしくないな。夏穂」

「え?」

「まあ、いいや。俺はな、少なくとも自分が最終的に取った選択肢こそが、最良だと思ってるよ。俺たちの生活にはいくらでも“もし”とか“たら”“れば”がいくらでもある。そんなの言ってたらキリがない。それに最終的に選んだ道はその時点で、選んだ自分自身が正しいと思った選択肢だ。だから俺は正しいと信じるさ」

 それに、と松浪は付け加える。

「俺は選んだ選択肢が、間違ってた、なんてケチ付けられないようにその選択肢が“最も正しかった”って言えるように結果を出す」

「・・・。選んだ道を、正しくする?」

「ま、そういうことだな。そもそも俺の道は俺が決めるんだ。他の奴に指図されるつもりは無いよ」

「・・・そっか。そうだね。今が、一番正しいって言えるようにすればいいってことだね」

「ああ、その通りだ。・・・あ、暗くなってきてたな。帰るか」

「あ、ほんとだ」

「ついでに飯でも食って帰るか?」

「え、ほんと!? ごちそうさまです!」

「おごらねーよ!」

「えー、ケチー」

 そんなやりとりをして、なんだかんだでいつものテンションに戻る夏穂と松浪。だが互いに自分の居場所を再確認した時間だった。

 

*      *      *      *      *

 

 時は流れて4月。松浪と夏穂はもう一度話し合った上でそれぞれがここに来た理由を改めて新3年生、そして監督、コーチに話した。最初は誰もが驚いていたがしばらくして全員が納得した。

――それこそが夏穂と松浪らしい選択だった。———と。

 そして全員は「甲子園出場、そして優勝する」という目標を再確認した。もちろん秋に3回戦負けしたチームが目指すのは簡単ではないとは分かっているが、それでも目指すべき目標は大きいに越したことはない。合わせて今年の新入生の集め方を考えたが去年の岩井方式(仮名)を採用することにした。

 

 そして入学式と始業式を迎える(ちなみに小春はソフトボールの強豪の聖ジャスミン高校に進んだらしい。確かヒロがいたとこだったけど元気にしてるかな?)。昨夏の快進撃の影響か野球部には過去最多の18名の選手と2人のマネージャーが入部した。そして今年も恒例の歓迎紅白戦が行われる。

「いやー、いよいよ試合運営側になっちゃたねー」

「私、2塁審判やってくるっ!」

「じゃ~、私3塁審判~」

「姫華と恵がそうするなら私は1塁審判やるね」

「んじゃ、俺が主審やるわ。あとのみんなも交代で仕事してくれよ!」

「「「おおおっ!」」」

 

 両チームのオーダーはこうなった。

 

 先攻 2年生チーム

1番 ショート   田村快

2番 センター   露見

3番 ピッチャー  白石

4番 サード    桜井満

5番 レフト    久米

6番 セカンド   草野

7番 キャッチャー 雪瀬

8番 サード    大森

9番 ライト    川井

 

 後攻 1年生チーム

1番 センター   木原

2番 ファースト  若林

3番 キャッチャー 森田

4番 ショート   冷泉

5番 ピッチャー  川村

6番 サード    秋田

7番 ライト    井口

8番 セカンド   笹井

9番 レフト    島田

 

 このオーダーで試合は始まった。しかし実際試合が始まると・・・、

「(流石に2年生、圧倒的だね)」

「(1年生のレベルも上がってるけど・・・、流石に白石は打てねえな)」

 1回の表で2年生チームは田村快が出て、露見送り、白石が返してさらに満、久米が連打を浴びせて早々と4点を奪った。そして裏の攻撃も1年は白石の剛速球に掠りもしない。2回の表もさらに2点を追加した。今年はついにコールドゲームになるかもしれない。そう誰もが考え始めた瞬間だった。

カッキ―――――――ン!!!

「「「「・・・えっ?」」」」

「なんだ、ただ速いだけっスか? 速いだけなら分かってりゃ打てるっスよ」

「(とはいっても白石くんのインハイをあそこまでもってくなんて・・・、想定外・・・)」

 白石の直球、ネット裏で計測していた彩の持っていたスピードガンでは144キロを計測したストレートを一振りでフェンスオーバーにしたのは4番の左打者、冷泉(れいぜい)。

「・・・アイツ、何者でやんすか!?」

「白石の真っすぐを初見で・・・」

「冷泉・・・、フルネームは・・・」

 ネット裏で見ていた矢部川たちが驚愕する中、初芝が入部者名簿に目を通し、その名前を検索してみた。

「冷泉涼介(れいぜいりょうすけ)・・・。なになに・・・、ってマジかよ! コイツ、全国硬式シニア(全国シニア硬式野球選手権大会)に出てるじゃねえか!」

「「「またその類の化け物かよ(でやんす)!」」」

「またこんなのが来ちまったなあ・・・」

 

 冷泉が躍動するのを見て他の1年生も勢いづく。2番手でマウンドに上がった美田村は初球から振って来た1年生打線に完全に捕まってしまう。さらには冷泉にフェン直のツーベースを浴び、2イニングでKO。

「ご、ごめん・・・、みんな・・・」

「いいえ、私の配球ミスです・・・。あそこまで初球から来られると緩急も使えないし・・・」

「あの4番に関してはガチの化け物だな。一人だけ別格だ」

5回途中で11-9。白石は3失点、美田村が6失点と来ておりここで久米を登板させた。久米はなんとか後続立つことに成功。しかし、最終回の7回にピンチが訪れる。

「2アウトランナー1,2塁で冷泉か・・・」

「百合亜はどう立ち向かうかな?」

 ここまで冷泉は3打数の3安打1本塁打5打点と驚異の活躍を見せていた。

「女性投手ッスか。噂には聞いてますけど俺が抑えられますかね?」

「(どうしよう・・・、百合亜ちゃんの持ち球でどうやって抑えたら・・・)」

 この時点で氷花には抑えるプランが立っていなかった。ここまで打つ策全てをこの冷泉に破られており、半ば心が折れかけていた。それに最近、久米は一人でネットスローすることが多く、最近の自身のある球などが今一つ分からない手探りのリードをしてることもある。

「・・・タイムを」

 その時久米はタイムを要求し、氷花を呼んだ。

「ど、どうしたの百合亜ちゃん」

「抑えるビジョン。浮かんでないんでしょ?」

「え・・・、どうして・・・?」

「氷花の悪い癖、迷い始めたらフラッシュサイン(本当のサインを出す前の偽装サイン)すら出さないでしょ」

「う・・・」

「ま、正直私も分かんないけど」

「・・・え?」

 自信たっぷりにネガ発言をした久米に氷花は驚く。

「去年の秋でさ、私の投球は対策されたら打てる程度だ、って痛感したんだ。・・・高校野球って、甘くないんだなって思ったの」

 秋大会の文武高校戦で負けた瞬間にマウンドにいたことは久米にとって、これ以上に無い屈辱だった。

「だから磨いたんだよ。“この球”を。もうあんな思い・・・、したくないから・・・」

「ゆ、百合亜ちゃん・・・」

「氷花を練習相手にしなかったのは制御できない“この球”がケガの原因になりかねないほど危険だと思ったから・・・。でも、もう大丈夫。自信を持って投げられる」

「わ、分かったよ・・・。じゃあ・・・、サイン決めとこうよ。どうする?」

「ああ、それなんだけどさ・・・」

「って、えええっ!? ほ、本気なの!?」

「ちょ、声が大きいって!」

 

「・・・百合亜と氷花は何話してんだろね?」

「へっ、あの二人。なんか企んでるな・・・。面白そうじゃん」

 審判を後退してネット裏で見守る夏穂と松浪は何かを提案した百合亜とそれに驚愕している氷花を見て、期待を膨らませる。

 

 そしてプレイ再開。久米は打席の冷泉を見据えて、氷花のサインを待ち、頷いた。

「何か企んでるんでしょうけど、ただのムービングじゃあ、俺は抑えられないっすよ? スラ、フォーク、シュートとかも大体軌道分かりますし」

「・・・大丈夫だよ。私には・・・、いや、“私たち”には負けない自信がある!」

「へえ・・・、ハッタリとかじゃなさそうっスね・・・」

 冷泉はそう言って笑みを浮かべて構える。久米はボールを握り直す。

「(もうあんな思いはしたくない。今までずっと短所を無くそうと努力してきた。でも、治らなかったのは球の“ノビ”。それだけはどうしても手に入らなかった)」

 だからこそ去年の紅白戦の時、久米は夏穂のストレートを素直に“羨ましい”と感じたのだった。そこで久米が磨いたのは“ムービング”、意図的にボールの回転をいわゆる“綺麗な真っすぐ”とは真逆の“汚い回転”にしてボールを動かす術を得た。

「(“この球”こそ、私の投手としての道への“答え”だっ! 打てるものなら!)」

 足を上げていつものフォームからボールを投じる。

「(打ってみろおお!!)」

その球は、ストレートに近いスピードで真ん中高めに来た。

「何かと思えば高めの半速球ッスか! もらった!」

 しかし冷泉のスイングがボールを捉えることは無かった。

「なっ!?」

「い、今のは!?」

「SFFに近いな・・・、でもあれは・・・」

 冷泉、そして夏穂と松浪、他の部員たちも驚く中で久米は次の球を投じる。次も同じような半速球から・・・、

「うわっ!?」

 こんどは外に逃げていった。同じ速度からのスライダーのようなボール。そして・・・、

「これで、終わり!」

 3球目、何が何でもバットに当てようとする冷泉。しかし・・・、

「なにっ、今度は内に食い込んで・・・!?」

バシッ!! 「ストライクバッターアウト!! ゲームセット!!」

  三球三振でゲームセット。最後の投球を見た松浪は気づいた。

「どうやら、久米のあのボールはムービング改・・・、とでも言うべきボールだな」

「ム、ムービング改?」

「変化量こそでかいが球質はムービングのそれだ。・・・こいつはとんでもないぞ・・・」

 

 無事抑えることに成功した氷花は安堵の息をついた。

「本当に・・・、『サイン今までのは忘れて、スライド、シュート、シンキングのムービングのサインで、あとスライダーはそのまま。ムービングの変化の大きさは今までとは違うからしっかり捕ってね』って言われたときはどうしようかと・・・」

「氷花!」

「あ、百合亜ちゃん・・・! えっと、ナイスピッチ」

「うん。あ、あと氷花・・・、」

「? 何?」

「その、ありがとね。しっかり捕ってくれて。おかげで思い切って投げれたし・・・」

「ふふ、当然だよ。私は・・・、ゆ、百合亜ちゃんの相棒だから・・・」

「・・・! そっか。そうだよね・・・!」

 久米と氷花は小さくハイタッチ。久米のムービング改はここに生まれた。

「このボール・・・、名前はどうしようかな・・・」

 少し考えてから久米は氷花に新魔球の名前を告げる。

「“カゲロウストレート”。捉えられない陽炎のようなストレート・・・、ってとこでどうかな?」

 恥ずかしそうに言った久米に氷花は笑顔で答える。

「うん、いい名前だと思うよ!」

 

 夏穂は腕を上げた久米たちを見て夏穂たちもそれぞれ意識を改める。次の夏こそ最後のチャンス。そして、その時のベンチ入りの戦いは激しさが増すこともわかっている。

 メンバーのまた競争は始まろうとしていた・・・。

 




 1年は出番が少ないのであまり触れる機会は無いかもしれません。夏パートは始まってから長くなるかもなので次ぐらいで始めたいと思います。
 今回のおまけは新2年生から。なんだかんだ紹介していなかった露見と成長した久米を紹介します!(今回からは紹介した選手は夏大会開始時点の能力になります!)

 露見環(つゆみたまき) (2年) 右/左

 2年生の外野手。ややボーイッシュな女子選手。背丈は女子の平均程でスレンダーな体型。足が速いわけでは無いが、打球の予測などの守備技術は聖森学園の外野陣の中でもずば抜けている。口数は少なめで、基本的には常識人だが時折不思議な発言をすることもある。

  弾 ミ パ 走 肩 守 捕   守備位置
  2 D E D E B C   外B
守備職人 対左投手△ バント〇 打開 慎重盗塁 選球眼


【挿絵表示】


 久米百合亜  (2年) 左/左

 2年生の投手で外野も兼任。秋に初めて味わったコールド負けの瞬間を身をもって感じ、その悔しさをバネに自身の長所を磨いた。彼女もまた心身共に成長した。
 好きな食べ物はラーメンなどの麺類だが自己管理のために週2回までに制限している。嫌いなものは意外なことにピーマン。寮暮らしで食生活への意識は高いが食堂で麺類を頼もうかと葛藤している姿がちょくちょく目撃されている。

 球速   スタ コン
132km/h  D  C   
 ⇑ カゲロウストレート(ムービングファスト改、曲がる向きをスライダー方向、フォーク方向、シュート方向にコントロール可能)
 ⇐ スライダー 4
  弾 ミ パ 走 肩 守 捕   守備位置
  3 C E C D C E   投C 一E 外E
 キレ〇 対左打者〇 リリース〇 ノビ△ 打たれ強さ△ 変化球中心 
 チャンス〇 粘り打ち アベレージヒッター ミート多用 

【挿絵表示】


 次回もよろしくお願いします!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)

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