New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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 本編へ帰ってきました。今回は少し駆け足で、かつこの物語の大事な部分に触れていこうと思います。


24 別れ、それぞれの過去

 今年も季節はあっという間に過ぎ去り年末になった。対外試合を組む時期でもないので特に変わったことは無く、基礎練習中心の冬練習と期末テストとの戦いが主な出来事だった。そして気が付けば・・・、

「やっぱり一番実家が落ち着くね~」

「ねーちゃんと同感~」

「二人とものんびりし過ぎだよー。ずっとコタツにこもってるじゃない!」

「居心地良いから・・・」

 こんな具合で実家に帰って来た夏穂と満はコタツから動かなくなっていた。大掃除もある程度終わってるのでこんな感じになってしまった。

「どうせ学校に戻っても練習が続くし、これでもトレーニングは毎日してるんだよ?」

「まあ、それは分かっているけど・・・」

 小春はこの状態の夏穂はてこでも動かないことは分かっているので諦めて別の話題を振った。

「それにしても聖森の野球部にはおもしろい人がたくさんいたねえ~」

「でしょ? みんないい人たちなんだよ」

「うん、それは雰囲気で伝わって来たよー」

「小春は進路、どうするの?」

「聖森にも行きたいなって思ったんだけど・・・、ソフトボールの方でも色々なところから声を掛けてもらってて・・・」

「・・・そっか、じっくり考えなよ。自分が納得する進路にするんだよ」

「わかってるってばー」

小春はえへへー、と笑って答える。そしてふと何かを思い出したのか、夏穂に尋ねた。

「ねえ、あの特にすごかった人たち・・・、えっと夢尾井? から来たっていう・・・」

「ああ、トモたちのこと?」

「うん、あの人たちって中学の時全国に行くような実力のチームの主力だったんだよね? どうしてそんな人たちが創部2年目の高校に来たんだろう?」

「そういえば、聞いたことないなあ・・・」

 夏穂は言われてみればもっともだと考える。あの3人は“夢尾井の三柱”と呼ばれ、特に松浪に関しては“夢尾井の知将”と呼ばれる名捕手。全国ベスト4に導いた正捕手となれば強豪校の誘いもあったはずだ。それなのになぜ・・・、

「3人ともー、晩御飯よー!」

「「「はーい!」」」

 夏穂は今度、考えても仕方ないので直接聞いてみようと決意する。

 そして、また今年も終わりを告げた。来年こそ勝負の年、きっといい年にして見せると意気込む夏穂であった。

 

*      *      *       *      *

 

 年が明けて練習が再開、特に大きな出来事は無く季節は進み、少しづつ暖かくなってきた。そしていよいよこの日がやって来た。

「卒業式だね・・・」

「この学校の初めての卒業式だな」

「岩井さんや木寄さん、御林さんの代が1期生だもんね」

 聖森学園で初めて行われる卒業式は体育館を綺麗に飾り付けて行われた。そして校長の話や送辞と答辞などの式典が終わり、体育館の外では卒業生が記念撮影したり先生と話したりしていた。そして野球部一同は卒業生の元へ集まっていた。

「先輩方! 卒業おめでとうございます!」

「「「「おめでとうございます!!」」」」

 キャプテンである松浪主導で部員が祝いの言葉を口にした。

「お、おう。わざわざこんなことしなくてもいいんだけどよ・・・」

「そうね、みんな集まってまでして・・・」

「まあ、嬉しいことしてくれたからいいじゃないか」

 3年生たちもそれぞれの反応を見せた。

「岩井さんは西京大学のセレクション、受かったんですね」

「ああ、なんとかな」

「すごいっすねー、あの強豪に受かるとは!」

「木寄さんと御林さんも志望校、受かったんですね!」

「ええ、おかげさまでね」

「いやー、落ちなくてよかったよ」

 3年生たちの進路について在校生の部員たちは口々に祝っていた。

 一段落着いたところで岩井が改めて部員たちに向けて話し始めた。

「今日で俺たちは卒業する。お前らとは半年か1年半だったけど、濃い時間を共にできたと思ってる。お前らが俺たちを先輩として誇れるように俺たちも頑張るからよ、お前たちも・・・」

 一呼吸おいて岩井は次の言葉を紡ぐ。

「俺たちの、誇れる後輩になってくれよな!」

「「「「・・・はいっ!!!」」」」

 こうして3年生たち。野球部の創始者たちはそれぞれの将来に向かって歩き出していったのだった。

 

 

*      *      *      *       *

 

 卒業式からしばらくたったある日、練習が終わってから夏穂は松浪を捕まえて質問をぶつけてみることにした。

「ね、トモ。聞きたいことがあるんだけど」

「? なんだよ、急に?」

「今更なんだけど・・・、なんでトモたちはここに来たの?」

「なんでって・・・」

「入部の時の自己紹介通り、甲子園に行くのが目標ならここじゃなくてももっと近いところがあったでしょ? “知将”とかいう異名がつくぐらい選手だったみたいだし、強豪校からの誘いはあったでしょ?」

 夏穂の質問を聞いて少し考え込む松浪。そして、改めて向き直ると、

「そうだな。丁度いい。俺もお前に聞きたいことがあったんだ。・・・自販機でジュースでも買って、その辺のベンチに座って話さないか?」

「うん、わかった」

 そして2人はそれぞれ飲み物を買ってベンチに腰を下ろす。

「ま、俺が提案したんだから俺から話すのが筋って奴だな。俺たち、俺と風太、大はな・・・。

岩井さん、御林さん、木寄さん。この3人を追っかけてきたんだ」

「先輩たちを・・・?」

「ああ、あれはな・・・」

 そう言って松浪はかつての出来事を語り始めた。

 

 

――――松浪の過去・・・・、

 松浪たちの中2の夏はあっという間に終わった。松浪の所属していた“夢尾井シニア”は1回戦こそ突破したものの2回戦で毎年ベスト4に入るチーム相手には完敗してしまった。松浪と風太、大は2年生ながら試合に出してもらっていたが何もできなかった。そして、3年生は引退し、新チームが始動したのだが・・・。

「(何かが足りない)」

 松浪はそう感じ始めた。別に練習を不真面目にやってる選手がいるわけでは無い。ただ・・・、

「(・・・さぼってはいない・・・。だけど“必死さ”も感じねーな・・・)」

 松浪はこのままでは秋大会も春大会も、そして最後の夏もずるずると、何も変わらず終わってしまうのではないか。そう感じずにはいられなかった。そこで松浪は監督にある考えを伝え、許可を得た。そして、チームのみんなに話した。

「いいか、みんなで全国大会の試合を見に行こうと思うんだ」

「キャ、キャプテン? なんでそんな・・・」

「そうだぜ、それよりも秋大会に向けてだな・・・」

 1年生で投手の多和(たわ)、2年生で松浪と同じ捕手の蓮賀(れんが)があまり納得できないといった意見を出す。蓮賀の言い分も確かだったが・・・、

「今日までこのチームを見てきた。厳しいこと言うけど、ウチのチームは・・・、意識が低いと思う」

「「「・・・っ!?」」」

「なんだと・・・? 松浪、テメエ・・・!」

「別に練習サボってるわけじゃないし、弱いってことでもない。なんだかんだで毎年、今年は強豪と早くに当たって負けたけど、50チーム以上あるこの地区で安定してベスト16に入ってるんだし」

 松浪は突っかかって来た蓮賀を制しつつ、続ける。

「だけど何かを変えなきゃ、中堅止まりなんだ。だからこそ、強い奴らの試合を見る。1日でいい。そしたら、何かを掴むやつがいるはずだ・・、と思うんだ」

「松浪さんが言うと・・・」

「なんだか説得力あるな・・・」

「確かにもっと強くなりたいっすねえ・・・」

「っておい、お前ら・・・!」

「決まりだな。一度見に行こう。幸い、会場は電車で2時間ぐらいの所だ。行けない範囲じゃない、ギリギリな」

 なんとか反対意見を抑えて、松浪たち夢尾井シニアは全国大会の試合を見に行った。そこには松浪たちが見たことないほど躍動する選手たちがいた。

「す、すげー。あれ捕っちゃうのか!」

「あいつどんだけ飛ばすんだ・・・!」

「す、すごい・・・。なんてレベルの高いコントロール・・・」

 見に来ることに賛成していた選手も反対していた選手も気が付けば見惚れていた。自分たちよりたった1つ年上かなんなら同じ年の選手のレベルの高いプレーに。その中でも松浪が感銘を受けていたのはあるチームの3選手。

「(3年生の岩井、御林、木寄って人たち。この人たちは確かにすげえ。でもそれ以上に・・・)」

 その3選手のチームは全体が生き生きとしていた。まるでチーム全体が1つの生き物のように、勝利を目指して突き進んでるのが分かった。

「(この人たいみたいに・・・、俺はチームを勝利に導ける選手。そんな存在になりたい・・・!)」

 

 松浪を始め、多くの選手が見に行った全国大会が刺激となったのか。練習に対する姿勢が変わった。練習が厳しくなったわけでは無く、選手一人一人が1つ1つのプレーを考え、さらに集中するようになった。そしてその変化が選手たちの実力を引き上げたのだった。

 秋大会こそ3回戦で敗れた。しかしその敗戦を糧にさらに練習を重ねた。

 そして春大会はなんと県大会準優勝を成し遂げた。そして迎えた最後の夏。今まで中の中か下だった夢尾井シニアが快進撃を見せる。

 扇の要の松浪を中心に、主砲の竹原、切り込み隊長の梅田。昨年から試合に出場していた3人に加えて多くの選手が自らの長所を伸ばした。特に成長著しかったのは昨秋から一気にエースに上り詰めた2年生エースの多和。元々、まとまった投球がウリの投手だったが気弱な性格が災いして実力が発揮しきれなかった。だが、練習と試合で徐々に経験と自信をつけ、遂には不動のエースへと上り詰めた。

多和と松浪のバッテリーは松浪の相手の意表を突く攻撃的リードと多和の安定した制球が噛み合い他チームを寄せ付けず、固い守備がそれをサポートし、さらに打線は梅田の驚異的な出塁率と竹原の長打を武器に点を稼ぐ。他の打者もシェアな打撃を得意としており、他チームの投手陣を震え上がらせ、”マシンガン打線”、”難攻不落のバッテリー”、”夢尾井の魔境”など多くの異名をチームで得ることになった

そして悲願の全国大会出場をかけた1戦でも多和が7回完封。打線は1点を着実に重ねて6-0の圧勝で突破。全国に駒を進めた。その勢いは全国大会でも衰えず、ベスト4まで勝ち上がった。しかし、準決勝では多和が相手エースと死闘を演じるも競り負けて1-0で敗戦。それでもチーム史上初の全国ベスト4を成し遂げた。

その時に松浪にも異名がついた。変幻自在のリードで相手を手玉に取り、勝利へ導く姿から“夢尾井の知将”と呼ばれるようになったのだった。

だが松浪は満足しなかった。

「(くそっ、まだだ。まだやれたはずだ! 全国ベスト4。確かに光栄だ。だけど・・・、俺たちはもっと高みに行きたいんだ・・・!)」

 そう考えた松浪は進路希望の時期にある決断を下した。思い浮かんだのはあの時の光景。

「(そうだ、あの人たちの元なら・・・。あの人たちと野球をやればきっと・・・!)」

 そう思い、ありったけの方法で岩井たちの行方を調べた。有名どころの高校では名前は見つからず終いには彼らが所属していたチームに直接電話した。そして、遂に見つけた。

「聖森学園・・・? 開校1年目だって!? こんなところに・・・」

 もっと強豪に行ったのかと思いきや彼らがいたのはわずか部員12名の高校。

「新設校でスポーツを推進してるみたいだし、設備は整ってるな。・・・ん? 女子部員の入部も推進? まあ、それは置いといて夏大会も1年だけで挑んだにしてはいいとこ行ってるし・・・。もしかしたらいい選手が集まるのかもしれないな・・・」

 様々な情報を調べた結果、松浪は決めた答えを考えも含めて風太と大に話した。

「風太、大。俺は聖森学園、ってとこに行く。悪いけど名門からの誘いは全部蹴るつもりだ」

「いいのかい? それでよ」

「・・・随分と思い切ったんだな」

「ああ。でもさ、俺はここならもっと高みに行けると感じたんだ。別についてこなくてもいいんだぜ?」

「何言ってんだ! 俺はお前と大と甲子園目指すんだよ! 俺らならどこでも大丈夫さ!」

「ああ、俺たちなら、やれる」

「へへっ、ほんと、頼もしいねえ。よし、じゃあ・・・、行くか!」

「「おう!!」」

 

*       *        *           *

 

「・・・へえ、そんなことが・・・」

「あれから受験してここに来た。・・・監督からは1回カミナリ落とされたけど、『一回決めたら辞めるなよ!』って送り出してくれた」

「先輩たちに憧れて、か」

「ああ、そうだ。先輩たちに聞いたらなんでも3人で野球をするために選んだらしいんだ。

・・・ところでお前は?」

「私?」

「そうだ。お前、憧れの選手は早川あおいって言ってたよな、前に」

「うん。あの人は・・・、私の憧れの1人だよ。甲子園を目指す理由を作ってくれた」

 買ってきたコーヒーを飲んだ松浪は続けて尋ねる。

「じゃあ、なんで恋恋高校を選ばなかったんだ? そんなに遠いところじゃないだろ?」

「・・・いつかは聞かれるとは思っていたけど・・・。・・・わかった、話すよ」

 夏穂も改めて松浪に向き直る。

「私が・・・、“恋恋を選ばなかった理由''を・・・」

 




 今回はキリの良さを考慮してここで切らせていただきます。続きは後編となる次話で紹介します。すいません今回もおまけはお休みします。学年が変わったり夏大会パートで出していこうかと考えています。
 感想などお待ちしています。次回もお願いします!
 

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)

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