New Styles ~桜井夏穂と聖森学園の物語~   作:Samical

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 キリが良くなるところを求めて長文化。文才の無さが際立ってしまう結果に。
 今回は少々長ったらしい会話が多いかもです。読みにくかったら申し訳ありません。
  ★簡単な人物紹介コーナー(その4)
・杉浦智也・・・聖森学園高校野球部2年生。強気の投球が武器。持ち球は2シーム、カーブ。意外と真面目なタイプ。
・田村信・・・同じく2年生のサード。パワーはチーム随一。2年生の3バカ(あとは矢部川と元木)の1人。
・元木久志・・・同じく2年生のサード兼外野手。器用貧乏。3バカの1人。



23  壁、それを超えて目指す場所

 聖森学園が敗れた後、文武高校は順調に勝ち進み地方大会へと駒を進めた。しかし、地方大会にて他県の強豪校の覇道高校に惜しくも敗れる。あくまで地方大会はセンバツの選考基準となるだけではあるが少なくともベスト4に入らないと厳しいため、文武の甲子園出場は難しいと考えられる。

 

 一方、聖森学園はというと秋季大会の敗戦にて見つかった多くの課題の克服に取り組むこととなった。とはいうものの一筋縄では行かないことが多いのが現状であった。

 秋大会が終わって1か月くらいしたある日。この日は練習は自由参加の日、松浪は自ら志願して手伝うと言った氷花と共に今までの試合の配球データ、自分のリードだけではなく木崎が捕手を務めた試合も含めてのものをまとめていた。

「松浪さん、どうしてこのようなことを?」

「氷花の分はまだ少ないけど、配球の傾向を見つけられるかもと思ってさ」

「傾向・・・、ですか。何かこの前の負けと関係が?」

「・・・ああ。俺は投手がリードの通りに投げて打たれたら捕手の責任だと考えてる。この前の負けは打たれたのが原因だ。コントロールミスがあったとはいえ少なからず俺に非があると思う」

「でも・・・、そういう時だってあるんじゃないでしょうか・・・」

「ああ、そうだな。でも、そういうミスを少しでも減らさねーと。・・・次の大会で負けたら・・・、俺たちは引退なんだからさ・・・」

「・・・そうですね・・・。が、頑張って何か見つけましょう!」

「当然だ」

 そう言って松浪と氷花はデータのまとめに取り掛かった。

 

*       *      *      *       *

 

タタタッ!

「・・・! よしっ、ランニング終了・・・!」

「お、終わった・・・!」

「白石・・・、バテ過ぎじゃない?」

「・・・そうだぜ、白石。・・・この程度でバテてたら・・・」

「・・・そういう杉浦さんもバテバテですよ。・・・って美田村くんは・・・?」

「あれ? まずい! 置いてきちゃった!? 探してくる!」

 そう言って夏穂はランニングしてきた道を引き返していった。

「アイツ、元気だな~」

「そうですね。でも、なんだか無理してるようにも見えなくはないですね」

「・・・それもそうだが・・、無理してるのはお前もだろ? 投げ込みが多すぎると思うんだけどよ、気のせいか?」

 久米に対して杉浦は見透かしたように言った。実際その通り、百合亜は秋大会が終わって以降は投げ込みを増やしていた、というよりとにかく投げていた。夏穂や百合亜に限った話ではない。今、聖森学園の野球部の面々はかつてないほどに自分たちの実力不足に焦っていた。秋大会にて各々に大きな課題が見つかった。それは収穫でもあり、部員たちが不安に駆られる原因でもあった。それをどう克服するかが夏穂たちの世代の夏の結果を大きく左右することになるだろう。それ故にみんなが不安であるのだ。

「(俺だって不安さ・・・、だけどすぐさま改善するのと焦って方向を見失うのとは訳が違う・・・。夏穂、松浪、お前らが慌ててたら下に示しつかねえだろうぜ・・・)」

 

*      *      *      *      *

 

 松浪は氷花とデータをまとめ終えて休憩しながらデータを振り返って言った。

「・・・改めて見るとひでえリードだったみたいだな」

「試合の時にここまでじっくり考えることはできないので仕方ないところもあると思いますけど・・・」

「だけどもしこの癖を文武の奴らが気づいていたとすれば・・・、そいつは最悪だ」

 松浪の言葉に少し間を空けて氷花が口を開いた。

「私、思ったんですけど・・・」

「ん? なんだ?」

「岩井さんたちの代と圧倒的に違うものがあると思うんです」

「違うもの・・・か」

「おそらく“経験”・・・、だと思うんです」

「経験・・・」

「はい、2年の夏が不出場だったとはいえ、1年の夏、秋2年秋、3年夏と多くの公式戦を経験してきていました。・・・でも私たちは他の高校の同学年と同じか、むしろ先輩方に頼っていた分しか経験は少ないです。夏にベンチにいたのが松浪さん、夏穂さん、梅田さん、竹原さん、百合亜ちゃんだけ・・・、加えて百合亜ちゃんはほとんど出ていないし・・・」

「ここ一番に弱い・・・、そういうところもそれによるものかもな」

「ですけどこればっかりはどうしようもないと・・・」

「・・・あの人の所に行ってみるか」

「“あの人”?」

 

 

 夜になってからのこと、夏穂はベットの上でボールを手で弄びながら考え込んでいた。

「(あの試合、ストレートを打たれて変化中心で投げた。でも、スライダーを狙い打たれて、最後に苦し紛れのチェンジアップはホームランにされた・・・。)」

 ストレートの球質はどうしようも無かった。この1か月でいろいろと試したが。球威を出そうとしても、それ以上に自慢のストレートのノビが失われてしまう。これでは前と同じだった。となると必要なものは・・・、

「(もうひとつ、変化球が欲しい。でも、どうやって・・・)」

 そう考えていると、あることを思いついた。

「そうだ・・・、あの人のところに行ってみよう。もしかしたら何かヒントをくれるかもしれない・・・!」

 そう思って夏穂は時計を見てまだ大丈夫だろうと判断し、その人物に連絡を取ってみた。

 

*       *      *       *      *

 

 学校の近くの喫茶店に松浪は来ていた。

「どうも、わざわざ来てもらってすみません」

「いいのよ、私も暇してたから」

 松浪が連絡を取ったのは木寄だった。部活を引退して以降は受験勉強に専念しているそうで、志望校は国内でも有数のスポーツ科学を取り扱う夢尾井体育大学のスポーツ科学科、花﨑コーチが卒業したコースを目指しているらしい。

「ごめんね。忙しくて応援とか練習の手伝いにも行けなくて」

「いやいや、それは進学が決まってからでいいですよ。自分のことを優先してください」

「・・・で、そんな中で話があるってことは結構大事なことってことね」

「ええ、まあ・・・、そうですね。ご存知の通り、俺たちは秋大会は惨敗でした」

「そうね、3回戦でコールド負け・・・。相手が文武だったということを考えても、前向きには捉えられないわね」

「はっきり言って負け越した時点でみんなかなり動揺していました。・・・俺もです。夏穂がKOされた時点でおそらく頭の整理がついてなかったと思います」

「経験不足、ね。もっと多くの試合を経験していればそんな状態になる前に何か対策を打てたかもね」

「やっぱり、ですか」

 注文していたコーヒーを一口飲んで一息つくと木寄はあることを松浪に告げた。

「打てたかも、とは言ったけど、正直なところ、あなたたちのチームが強くなるにはもっと別のアプローチがあるんじゃないかしら?」

「別のアプローチ?」

「そう。負けた原因は個々の実力不足と経験不足。そう考えてるのよね? 経験に関して言えばそれは当然よ。実際、あなたたちの世代は経験した試合数が圧倒的に少ないもの」

「は、はい」

 また木寄が一口コーヒーを飲んでから続きを話した。

「でも、実力という点に関しては私はそうは思わないわ。はっきり言えばそれはあなたたちの世代の方が実力、まあ潜在的なものであるとはいえ上だと思うわ。私たちが健太や辰巳に頼り過ぎていたのに対してあなたたちは多くの選手にそれだけのポテンシャルがあると私は思う」

「ですけど実際は・・・」

「結論を言わせてもらうとね、実力を“持っている事”と試合でその実力を“発揮すること”は意味合いが違うと思うのよ。あなたたちには実力がある程度備わっているはず。でも負けた。“発揮する”には強いメンタルが必要になる。緊張、不安、疑心暗鬼。それらの感情が持っている実力をどんどん削り取っていくと私は考えてるの」

「言おうとしてることと緊張、不安までは分かりましたけど、疑心暗鬼って・・・。チームメイトがチームメイトを何か疑ってるってことですか?」

「いいえ、多分あなたが考えている疑いとは違うわ。ここでいう疑いっていうのはね・・・。

・・・“信頼”のことよ」

「信頼・・・ですか」

「もっとも分かりやすく例を挙げるとするのなら・・・、そうね、こういうことかしら? 例えばピッチャーのA君はMAXで160キロの剛速球を投げられる実力を持っています。・・・でもバッテリーを組む正捕手のB君は150キロまでしか捕球できなかったのです。この二人のいるチームが試合をしたときどうなると思う?」

「・・・A君が思いっきり投げたところで・・・、B君はほぼ捕ることが出来ないですね・・・」

「そうね、試合を成り立たせるためにはA君は150キロ、B君が捕れるスピードまで抑えて投げないといけない。・・・じゃあこの試合“だけ”を見た人はA君の実力がどれくらいだと感じるかしら?」

「・・・150キロまで投げられる投手・・・、って、ああ、そうか。それってつまり・・・!」

「まあ、あくまでも分かりやすく言うための例えの話だけどね。A君はB君が全力で投げた球を捕ってくれるとは“信頼”できなかったの。実際にはこんなことは希少なケースかもだけど・・・、現実的な、シビアな例を出せば・・・、」

「現実的で、シビアな例・・・?」

 また木寄はコーヒーを飲んで少し考えると、思いついたらしくこう言った。

「もしピッチャーがこう感じていたら、本当に思い切って投げてくれるかしら?

・・・『この人の“リードの通りに投げて大丈夫なんだろうか?”』・・・って」

「・・・っ!」

 木寄の例えを聞いて松浪の顔が強張(こわば)った。その様子を見て、木寄はひらひらと手を左右に振る。

「そんな怖い顔しないの。例えよ、例え。でも実際、ピッチャーがサインに疑問を生じていたら気持ちが乗り切らないでしょ? 私はね、さっき言った“発揮される”実力は厳密に表すならば“持っている”実力にメンタルの状態を0から1で割合化したものを掛けたものだと思っているの。メンタル次第で実力を発揮しきれるかどうかが決まると思ってる」

「つまり投手の実力を最大限引き出すには・・・」

「気持ちを乗せてあげないと。ちなみにその点に関しては氷花はクリアしてる」

「・・・氷花が、ですか?」

「ええ、あの子は投手が投げたいボールを察してリードしている。データに基づくあなたとはある意味真逆ね」

「つまりアイツの方が・・・」

「と言いたいんだけどね、あの子は“素直”過ぎるの。あまりに投手の気持ちを優先し過ぎてリードが単調になり、良い球が行っても打たれてしまう」

「・・・じゃあ何が正解なんですか?」

「そうね。私も完遂できたわけでは無いけど、まずは投手を理解すること。それから・・・、自分の考えも理解してもらうこと、そして最終的には確固たる信頼を得ることね。以心伝心とでも言うべきかしら」

「相手を理解し、自分も理解してもらう・・・」

「そう、それが出来れば・・・、あなたはもう1ステップ、なんならそれ以上、上のキャッチャーになれる」

「そう、ですか・・・」

「そ、だからね」

 そう言って木寄は右手で松浪の右手をがっちり掴んで、

「それを全部乗り越えて、私が果たせなかった“日本一の名捕手になること”、それと私たちが果たせなかった“日本一のチームになること”、叶えて見せなさい」

「・・・わかりました! やってやります! 投手からだけじゃなく、チームメイト全員に信頼される名捕手に!」

「そう! やっぱりあなたはそれくらい元気がないとね!」

 木寄はらしさが戻った松浪の顔を見てしっかりと頷いた。

 

*       *        *          *

 

 練習が休みの日のグラウンドに動きやすい服装で待ち合わせしている人を待っているのは夏穂と氷花だった。

「ごめんね氷花ちゃん。休みの日に呼び出しちゃって」

「いえ、私も練習が無くて暇していたところなので問題ないですよ」

「最初にトモに連絡したんだけどなんか予定があるらしくてさ」

「そ、そうなんですか(そう言えば誰かに会いに行くって言ってたな・・・、誰なんだろう・・・)。ところで誰と待ち合わせを?」

「ああ、それはね・・・」

「やあやあ、遅れてごめんね」

 そこにやって来たのは同じく動きやすそうな軽装をした御林だった。

「いえ、わざわざありがとうございます」

「それで、相談したいことっていうのは?」

「単刀直入に言いますと・・・、変化球を教えて欲しいんです」

「君には十分素晴らしいストレートがあると思うけど・・・」

「それだけじゃ足りないことを秋大会で実感させられました。今のままでは夏にも負けてしまうかもしれない。・・・もう、あんな悔しい思いはしたくないんです」

「・・・そこまで言うならわかったよ。ただし、投げられるかどうかは分からない。ヒントにでもしてもらえればいいと思うよ」

「はい! 氷花ちゃん、キャッチャーお願いしてもいい?」

「ええ、大丈夫です」

 こうして3人はブルペンへと向かった。

 

「僕の持ち球の中で君に教えられるのは多分ドロップカーブかスラーブだと思う。サークルチェンジはチェンジアップのようなものだから参考にはならないと思うし」

「なるほど・・・」

「とりあえず簡単に説明するよ。追々調節するけど。ドロップカーブはこう握ってボールを抜く感じで、スラーブはこう握って切る感じ。リリースの高さが僕のと違うから感覚は違うかも」

「わかりました、やってみますね。氷花ちゃん! ドロップカーブからやってみるよ!」

「了解です!」

 

 2つを試すこと10分・・・、

「流石だね、両方投げられるようになるとはね」

「はい、ただ・・・。完成度そのものは・・・」

「・・・実践レベルじゃないね。厳しいこと言うと」

「はい。投げられると使えるは違いますし」

「そうだ、夏穂ちゃん。ちょっと手を見せてくれないかな?」

「え? はい、構いませんけど・・・」

 御林は夏穂の手を取ると、指の柔軟性などを確認し始めた。

「・・・うん、次に僕の手を指の力だけで握ってくれないかな?」

「わかりました!」

 夏穂は言われたとおりのことを実践してみる。

「・・・なるほどね。これだけの柔軟性と指の力、それに器用さあればいけるかもね」

「何がですか?」

「これもあまり投げる人が少ない、日本では珍しい球種だけどね。その名もパワーカーブ、もしくはハードカーブとでも言うんだけど」

「パワーカーブですか? 確かに初めて聞きました」

「私は・・・、少し聞いたことあります・・・」

「氷花ちゃん、知ってるの?」

「はい、アメリカなどではメジャーな変化球ですね。一般的に日本ではカーブは“抜いて投げる”のが主流ですよね? でもパワーカーブはトップスピンをかけることで抜いて投げるカーブよりも速く、変化量もあります」

「あはは、氷花ちゃんが全部言っちゃったね。まあその通りだよ。これは一般的なカーブとは違う。ただし、普通のカーブよりも感覚的な面が強いんだよ。トップスピンをかける感覚を自分で見つけなくちゃならないんだよね」

「なるほど・・・、でも大体イメージできました! 氷花ちゃん! パワーカーブ行くよ!」

「は、はい! 思い切って来てください!」

「(ボールにトップスピンをかける! 指の力を、全て回転の力に変える!)」

シュッ!! ギュルルル!!

「(あ、あれっ!? 真っすぐ!?)」

 氷花は少し困惑したがとりあえずストレートとして捕球しようとしたが、

クククッ!!

「(えっ・・・、ま、曲がった!?)」

 強い回転がかかっているのは分かってはいたが、スピード的に曲がらないと判断してしまった。慌ててミットを合わせに行くが弾かれてしまった。

 予想だにしないボールを夏穂が投じたことに氷花だけでなく御林、そして投げた張本人の夏穂も驚きを隠せなかった。

「え・・・、何今の・・・?」

「いやあ、今のは僕の知るパワーカーブとは全然違うね・・・。いい意味で」

「わ、私もこんな変化は初めて見ました・・・」

「も、もう少し投げてみます!」

 

それから投げること10分ほど。最初ほど曲がるわけでは無いが、制球も安定してきた。

「うん、だいぶ安定してきたね」

「はい、なんとか。・・・まだ試合で使えるレベルでは無いですけど・・・」

「今のところはそうですけど・・・。き、きっともう少し練習すればきっと使えるようになりますよ!」

「氷花ちゃんの言う通りだ。きっと君ならすぐにものにできるさ」

「御林さん、ありがとうございました」

「いいよいいよ。きっと君たちなら・・・、俺たちを超えていけると信じてるよ。だから頑張ってね」

「「はいっ! 頑張ります!」」

「・・・あ、そうだ」

「? どうしたんですか?」

「その変化球、なんて名前にするの?」

「え・・・、名前、ですか?」

「うん、名前。パワーカーブでも、普通のカーブでもない。不思議な変化をしたんだ。特別な名前を、オリジナルの変化球ということで、つけるべきだと思うよ」

「なんだかそれ、いいですね! 夏穂さん、何か考えてみたらどうですか?」

「な、なんだか恥ずかしいね・・・。そうだな、じゃあ・・・」

 夏穂はしばし考えると、思いついた名前を口にした。

 

*      *      *     *       *

 

 学校付近の河川敷、練習も休みであるこの日にここで自主練をしている選手がいた。シャドウピッチングを繰り返す杉浦と素振りを続ける竹原であった。二人とも偶々同じ場所で自主練をすることになりここでかれこれ2時間ほど自主練をしていた。

「・・・竹原、聞いていいか?」

「・・・なんだ?」

「俺たち・・・、夏までに強くなって、甲子園に行けると思うか?」

「難しい質問だな・・・」

「先輩たちはあと少しの所まで行った。弱気なことをいうけどよ・・・、あの先輩たちを超えるビジョンが浮かばねえ」

「・・・本当にらしくないな」

「だろ? 自分でも何言ってんだ、ってびっくりしてるよ」

 杉浦はシャドーの手を止め、竹原も素振りをする手を止めた。

「・・・俺がそう思ったことは無いかと聞かれて、無いと言えば・・・、それは嘘になる」

「・・・」

「だが、超えないといけないんだ。あの先輩たちを。でなくては俺たちの夢は叶わん」

「夢、って甲子園行くことか?」

「・・・いや、優勝することだ」

「おいおい、随分と・・・」

「随分と大きく出たなあ、竹原。ちょっとは言うようになったじゃねえか」

「「い、岩井さん!?」」

「おう、結構久々だな」

 いつのまにか河川敷に岩井が下りてきていた。

「どうしてここにいるんすか?」

「ああ、大学の野球部のセレクションの帰りだ」

「大学の!?」

 確かによく見れば岩井はジャージに道具が入ってるらしきエナメルバッグとバットを背負っていた。

「ああ、西京大学《さいきょうだいがく》。聞いたことはあるだろ?」

「知ってるも何も、超強豪校じゃないっすか! プロ養成大学とも言われている」

「・・・もしかしてそこから誘いが・・・?」

「ん? ああ、セレクション受けてみねーか、としか言われてないけどな。で、今日行ってきたんだわ。流石に強豪だけあってセレクション受けてたやつらもすげーやつだらけだったよ」

「でもプロからも誘われてたんじゃ?」

 杉浦が聞き返すと岩井はへへっ、と笑って、

「誘ってくれてたところもいたんだが、そのスカウトの人は評価してくれてたみてーだが、そこの球団の中では意見が分かれてたってよ。だから、大学でもっと上を目指して・・・、」

 岩井は二人を見据えて強く言い切った。

「文句なしでプロに入って見せる。傲慢だとか自信過剰だと思うかもしれないけどよ、俺は自分で決めた道を、周りがなんて言おうとを突き進むって決めた」

 杉浦と竹原は岩井の決意を聞いて実感した。ああ、この人は超えることは無理なんじゃないか、と。自分の信念を貫き、まっすぐ、どこまでも上を目指す姿勢。それこそがチームをキャプテンとして、4番打者として引っ張っていたのだと。

 不意に岩井は竹原に話を振った。

「竹原、お前、4番から少しずつ打順を下げられて行ってたんだってな」

「・・・は、はい」

「お前はさ、俺たちがいるときから気負いすぎなんだよな」

「・・・気負いすぎ?」

「そそ。なんとなくだけど、俺たちがいるときは『自分の代わりにベンチを温める先輩の分まで打とう』とか、主力になった今では『期待される役割を果たさないと』とか、堅苦しいこと考えてんのじゃねえの?」

「っ・・・!」

 図星だった。竹原はそれを指摘され、特に何も言えなかった。

「図星だったか? まあ、練習の時のお前と試合の時のお前見比べたらなんとなくわかるよ。・・・今お前、試合楽しいか?」

「えっ・・・!?」

「即答しない時点でお前は試合を楽しめていないぜ。竹原、野球好きなんだろ?」

「それは・・・、当然です」

「じゃあ、もっと楽しめよ。仕事でやってるんじゃねえんだから。やりたくてやってるんだろ? それなら楽しまなきゃな」

「楽しむ・・・」

「杉浦、お前もだ」

 突然向き直った岩井に杉浦も驚く。

「お前は楽しんでやってるのは伝わってる。でもお前は・・・、そうだな。女子部員に対して壁を作ってる気がする」

「壁・・・?」

「別に仲が悪いってことじゃねえ。ただ心のどこかで自分は負けない、って油断してると思うんだよ。

その心のフィルターを取っ払ってみろよ。そしてらお前はもっとスケールアップできると思うぜ。見えなかったものが見えるようになる。・・・ま、このことは年長者のお節介ってやつだ。引退した身だし、とやかく言う権利は俺にはないけどな」

「「そんなことは・・・」」

「・・・頑張れよ、俺たちと同じ程度で終わるなよ。お前らならもっと上に行けるはずだ

んじゃ、俺は帰るわ。邪魔したな」

 岩井はそう言い残すと帰路へと着いて行った。

「随分な言われようだなあ、なあ竹原」

「・・・ああ、だが全て的を射てたよ」

「俺もだ。全部お見通しだったって訳か。あの人、俺たちのこと、よく見てくれてたんだな・・・」

「・・・やるか、練習」

「おうよ」

 日も沈みかけていたが二人は手を止めていた分を取り返すように練習を再開したのだった。

 

 




 先輩方の久々の登場でした。ここでは語られていませんが御林も地元の大学を目指して受験勉強中です。今回はおまけはお休みさせてもらいます。
 また感想などよろしくお願いします!
 次はちょっと趣を変える予定です(未定ですが)!

この作品の中で好きな登場人物は?(パワプロキャラでもオッケー)

  • 桜井夏穂
  • 松浪将知
  • 空川恵
  • 久米百合亜
  • ここに上がってる以外!(コメントでもオッケー)

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