ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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どうも、やっとこさできましたので投稿しました。
この話は、前回の『歪な思いは深海へ続く』の鎮守府サイドの話になります。
提督が深海棲艦に囚われている間、鎮守府では何があったか? ぜひ、お確かめになってください。





待ち望んだ人は掻くも遠く

 

 

 

ここはとある鎮守府。 普段なら、ここに所属する艦娘たちが各々出撃や遠征などの任務にあたる時間だが、今この場所は、任務にあたるどころではなくなっていた。

 

 

 

 

 

「やっぱり、この建物内にはいませんでした…!」

 

「私室にも戻った様子がないし、やっぱり攫われちゃったの!?」

 

「もしかして、深海棲艦に食べられちゃったとか…」

 

「ちょっと、縁起でもない事言わないでよ!!」

 

「ふぇーん!! しれぇー、どこに行ったんですかー!?」

 

 

この鎮守府では今朝から提督の姿が見えず、私室を確認すると戻ってきた痕跡もない。 つまり、昨夜から提督が消息不明になっていたのだ。

ここの艦娘たちは皆提督に信頼を寄せ、慕っている。 それゆえに、彼がいなくなった時の彼女たちの動揺は大きかった。

戦艦や空母、重巡たちは血相を変えながら必死に捜索し、軽巡の子も捜索する傍らで泣きじゃくる駆逐艦の子達をなだめていた。

特に、執務室に一人残った加賀に至ってはかなりショックが大きく、顔を覆いながら一人悔やんでも悔やみきれない思いを口にしていた。

 

 

 

 

 

「あの時… あの時私が提督と一緒に残ってさえいれば、こんなことには…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督が行方不明になる前日、加賀は提督と一緒に執務を行っていた。

時刻は夜。 すっかり外が暗くなったのを見て、提督は加賀にそろそろ休んだ方がいいと言ってきた。 彼女は明日も出撃を控えているし、早く休んだ方がいいと提督は思ったからだ。

その気づかいに、彼女はあと少しで終わりだから平気よと返事をするが、提督は旗艦を務める君が体調を整えておかなければ、他の子達に示しがつかないだろと言われ、渋々ながら引き下がることにした。

本音を言えば、仕事の残りがあと少しというのもあったが、それ以上に少しでも提督と一緒にいたかったのだ。

加賀は提督とケッコンカッコカリを行っていた。 以前から提督に対しては、信頼できる上官であると同時に一人の異性としての想いも募らせていた。

そんな思いを抱いていた彼女だが、ある日提督から呼ばれ執務室に来ると、なんと彼の方からケッコンカッコカリに使われる指輪を差し出されたのだ。

しかも、差し出されたのは指輪だけでなく、いずれは正式な夫婦になりたいというプロポーズの言葉まで送られ、嬉しさと感動のあまり、彼女は涙を流しながらその申し出を受けた。

天にも昇る心地で彼女は毎日を過ごしてきたが、ある日提督の姿が無くなったことでその幸せは無情にも崩壊。 今は彼のいない執務室で、あの日自分が最後まで提督に付き添っていなかったことを激しく後悔していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「提督… 貴方が…貴方がいなくなったら、私は…!」

 

 

後悔と自責の念に押し潰されそうになっていた彼女の元へ、突然聞こえてきたノック音。 加賀が音のした方へ顔を向けると、扉から一人の男性が部屋へ入ってきた。

 

 

 

 

 

「加賀さん、鎮守府の子達から話は聞かせてもらいました。 微力ながら、俺にも先輩の捜索を手伝わせてください!」

 

 

いきなり現れたその男を、加賀は知っていた。

男は軍学校の頃、提督の後輩にだった人で彼もまた別の鎮守府で提督を務めている。 本来なら自分の勤める鎮守府にいなければならないのだが、先輩である提督がいなくなったことを知り、皆に無理を了承してもらったうえで先輩である提督が見つかるまで、ここの提督代理を務めると言ってきたのだ。

 

 

「先輩がいなくなって悲しいのは分かりますが、今は泣いてるときじゃありません。 先輩を見つけるためにも、お互い頑張りましょう」

 

 

彼のまっすぐな目に見つめられ、加賀も涙をぬぐうと、

 

 

「そう……ね。 ごめんなさい、あの人が見つかるまで、どうぞよろしくおねがいします」

 

 

手を差し出し、後輩提督もその手を握り返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、後輩と加賀の二人は先輩である提督の捜索に力を注いでいった。

通常通り、出撃や遠征などの任務をこなしつつ手が空いた者にはどこを探してくれという指示を出していく。 その分、提督代理を務める彼には作業が多くなり負担も増してきたのだが、彼は疲れた様子を見せずに捜索の指揮を取り行ない、加賀もまた秘書艦をこなす傍らで後輩の指示に従い捜索に向かっていたのであった。

 

鎮守府の港。 そこを歩く数人の艦娘たちを、深海棲艦が使うような形のビデオカメラが捉えていたが、彼女たちは気づかない。

 

 

「艦隊戻ったよー。 今日も大変だったね」

 

「遠征に行った子達ももうすぐ戻ってくるって。 そしたら食堂行こうか」

 

「確か今日ってカレーの日だよね? やったー私楽しみ!」

 

「そう言えばさ… 提督ってどこ行ったんだろうね?」

 

「うーん… まあ、提督なら別に心配することないんじゃない? 大丈夫でしょ」

 

「それより早く皆を迎えに行こう! 私ご飯食べたいよー」

 

 

いつも通り振る舞う彼女たちの姿を撮った後、カメラは音もなく去っていったが、一人の艦娘が本音を漏らした途端、他の子達もその場で次々に泣き崩れていった。

 

 

 

 

 

「…提督、本当にどこ行っちゃったんだろう? ちゃんと帰ってきてくれるかな…?」

 

「それは言わないって言ったでしょ! 私だって、泣きたい気持ちを必死に抑えてるんだから…!!」

 

「提督、お願いだから早く帰ってきてよ…!」

 

 

心の内を吐露しながら、彼女たちは提督のいない悲しさを隠すことなくその場で泣きじゃくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またある日の事。 先輩の提督が見つからず、疲労の色が見え始めた後輩。 そんな彼の元に、突然大本営の関係者が現れた。

秘書艦である加賀は、応対して後輩がいる執務室へと通し、後輩が用件について尋ねると、関係者である人物は確認するように尋ねた。

 

 

「件の提督が消息不明になった鎮守府は、ここで間違いありませんね?」

 

「そうです。 今は自分が代理を務めておりますが、ご用件は一体何なのですか?」

 

 

彼が聞き返すと、関係者はちらりと加賀を見ながら答えた。

 

 

「…実は、そちらが今現在捜索している提督について何ですが、深海棲艦との臨戦態勢にある中で、捜索に貴重な戦力である艦娘たちを使うのはいかがなものかと言われております。 それで、上層部は行方不明になった提督を任務による殉職ということで処理し、彼に代わって新しい提督をそちらに派遣させた方が合理的だと考え、今回はそのことで捜索を打ち切りにしろとの命令が来ておられるのです」

 

 

その話を聞いた途端、加賀は目を見開いた。

捜索打ち切りなんて、そんなことできるはずがなかった。

このことをみんなが知れば、ただではすまない。 新しい提督を追い返すどころか、皆で暴動を起こしかねないからだ。

現に、自分も怒りのあまり拳を握り、今にも艤装を取り出してしまいそうだ。

歯を食いしばり、怒れる気持ちを必死に抑え込む加賀。

そんな彼女の肩を叩く人がいた。 後輩だった。

彼は加賀を見据え、「大丈夫…」と笑顔で伝えると、関係者の人に向かってきっぱりと言った。

 

 

 

 

 

「あの人が死んだなんてありえないですよ! 俺が軍学校の頃、未熟で苦しんでるときに先輩は簡単に諦めるなって言った。 だから、俺はあの人を見つけるまでやめるつもりはありません。 これ以上、ここへ先輩に代わって新しい提督を送るなんて話はやめてください!」

 

 

 

 

 

彼の毅然とした態度に加賀も関係者も驚き、関係者を追い返した後、後輩は加賀に顔を向けた。

 

 

「…さて、ちょっと邪魔が入っちゃったけど、午後の作業も頑張ってやろうか」

 

「あ、あの…」

 

「…?」

 

「さっきはその……ありがとうございます。 私に代わって、捜索打ち切りを断っていただいたこと、感謝してます」

 

 

もじもじと気恥ずかし気にお礼を言う加賀。 でも、彼はそんな彼女へにっこりと微笑みかけた。

 

 

「艦娘である加賀さんが断わったりしたら、向こうに何言われるか分からないし、こうするのが一番丸く収まる方法じゃないか。 それに、先輩を捜索したいのは俺だって同じなんだし、そういう事は言いっこなしで行こう」

 

 

彼の気さくな言葉に加賀も笑みを見せ、彼の手伝いをすべく執務室へと戻っていく。

ただ、海辺のほうから先の会話を録音している深海棲艦達がいることに、彼らは気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも任務の傍らに捜索は行われたが、いまだに提督の消息はつかめず、提督だけでなく艦娘たちにも疲労の色が見え始めてきた。

手がかりはなく時間だけが過ぎ、徐々に諦めムードのような空気も流れている。

中には諦めないでと必死に他の子たちを励ます者もいたが、流れ出した空気は止まらない。 一人、また一人と提督はもういないんだと言い出す艦娘たちが増え始めていた。

そして、その空気に影響され始めたのは彼女とて例外ではなかった。

 

 

夜の執務室。 捜索を終えた加賀を後輩は出迎える。 この日も成果はなく、後輩が温かい言葉をかけるも彼女は肩を落とし、すっかり意気消沈していた。

 

 

「お疲れさま、加賀さん。 今回の捜索も空振りになっちゃったけど、次はきっと見つかるさ。 気を落とさず明日も頑張ろう」

 

 

後輩の言葉にも、加賀の表情は晴れない。 肩を落としたまま、彼女は後輩へと不安を漏らした。

 

 

「本当に、見つかるのでしょうか…? 本当に、あの人は帰ってくるのでしょうか……?」

 

「か、加賀さん? 一体、何を言って……」

 

 

気を強く持つよう説得する後輩。 しかし、彼女の不安は止まらない。

 

 

「貴方も薄々感づいているんでしょ? これだけ探し回ってもあの人は見つからない。 そうなると、もう残る可能性は一つしかないと…!」

 

「落ち着いて加賀さん! 少し疲れがたまってるようだし、今日はもう休んで…!」

 

「気休めはやめてください! 貴方に分かるんですか? あの人を失って、探しに行っては徒労に暮れる、私の気持ちが貴方に分かるんですか!?」

 

「加賀…さん……」

 

「私が… あの時、私がついていれば提督はいなくならなかった! こんなことにはならなかった! 私の… 私の慢心が、あの人を死に追いやったのよ!!」

 

 

両手で顔を覆い、加賀は自分を責め立てる。

いつも凛々しい姿勢を崩さない彼女がここまで泣き崩れたのは初めてだった。

その姿に、後輩はただ声をかけることもできず、見守ることしかできなかったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことを言うな、加賀さん!!」

 

「…っ!?」

 

 

唇を引き締め、初めて彼は加賀に向かって声を荒げた。

 

 

「先輩が、どうして加賀さんをケッコンの相手に選んだのか知ってますか? あの人は、どんな困難にも屈せずに前を向いて進んでいく、貴方の強さに惹かれたんだ! その貴方が、ここで心を折って足を止めてしまえば、本当に先輩に会えなくなります。 貴方は、それでもいいと言うのですか!?」

 

「あっ… ああっ…!」

 

「俺は、どれだけ時間がかかろうとも必ず先輩を見つけてみせる。 だから、加賀さんも諦めないで! 貴方のそんな姿を、先輩に見せないでくれ…!」

 

 

涙を流す加賀へと、彼は肩に手をやり必死に説得した。 その言葉にようやく自分を取り戻したのか、加賀は瞳から流れる涙をぬぐうことなく、そのまま彼の胸に顔をうずめていった。

 

 

「ごめん…なさい……! 本当は、貴方もつらいはずなのに、私は…!!」

 

「いいんだ加賀さん。 貴方は先輩にとって大事な人だし、俺も貴方の悲しむ姿は見たくないんだ。 皆の知ってる、気高く凛々しい一航戦の姿を見れるのであれば、俺は喜んで力を貸すよ」

 

 

そう言って、後輩は加賀が泣き止むまで何も言わず、彼女の背中を優しくさするのであった。

 

 

 

…よもや、その姿を夜の海に浮かぶ深海棲艦達に取られているとも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その数日後に事件は起きた。

 

 

 

 

ある朝の鎮守府。 いつものように執務室の窓から提督を探しに行く加賀達を見送る後輩。

さて、今日も執務を行おうと机に向かおうとした時、彼は外の景色に違和感を覚えた。

遠くの空からこちらに向かって、黒い何かが飛来していた。

初めは鳥の群れか何かかと思っていたが、すぐに違うと気付いた。

それは、深海棲艦達が飛ばしてきた艦載機の大群だった。

提督は急いで艦載機を迎撃するよう無線を手に取ったが、同時におかしいとも感じていた。

よりによって加賀達主力部隊がいなくなり、他の者達も休憩に入ろうとしていたところを狙うとは、いくら何でもタイミングが良すぎる。 まるで、今が一番隙ができることを知っていたかのようだ。

だが、今はそれを考えている時ではない。 彼はすぐに無線を使い、鎮守府にいる艦娘達へ敵襲による艤装の装備と、練度の低い者達の避難を促した。

だが、部下である艦娘達の安全を優先するあまり、彼自身の避難が遅れてしまった。

非情にも、敵の艦載機は彼のいる建物を一斉に攻撃。 後輩は逃げる間もなく、崩壊した建物の瓦礫に下敷きになってしまったのだ。

 

幸い、そのことを知った艦娘たちが急いで後輩を助け出したことと、鎮守府からの救援を聞きつけた加賀達が、即座に引き返し敵を追い払ったことで、どうにか艦隊全滅だけは免れた。

しかし、被害はかなりのもので、鎮守府の建物はほぼ全壊。 艦娘達にも多数の負傷者が出てしまい、提督代理を務めた後輩に至っては軍病院へ運ばれ、半死半生の重体となってしまったのであった。

 

 

 

 

 

軍病院の一室。 生命維持装置をつけられ、全身に包帯を巻かれ寝たままの後輩に、一人の艦娘は彼の手を取り涙ながらに訴えていた。

 

 

「提督、お願いですから死なないでください! 貴方に先立たれたら、私は… 私は……!!」

 

 

必死に意識のない後輩へ呼びかける艦娘……翔鶴は、その手を離すことなく彼への呼びかけを続ける。

そんな彼女へ、加賀は暗く落ち込んだ表情で話しかけた。

 

 

「…ごめんなさい、翔鶴。 私の不手際で、貴方の大事な人をこのような目に……」

 

「……いえ、加賀さんを責めるつもりはありませんよ。 この人ってば、何かあったら自分よりほかの子を心配する人だから、危なっかしいんです」

 

「…まあ、それがこの人の魅力ですし、私もその姿に惹かれたんですけどね」

 

 

翔鶴は、加賀の方を振り向くことなく答える。 後輩の手を取る彼女の左手の薬指には、加賀と同じケッコンカッコカリの指輪が収まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、後輩提督が捜索に協力したのは自分が慕っている先輩のためだけではなく、加賀に元気になってほしいという理由があった。

彼女は自分がケッコンカッコカリした艦娘、翔鶴にとって憧れの存在。

加賀の落ち込みようを知った翔鶴は、すごく彼女の事を心配しており、それを見た彼は自分が加賀を元気にすることで彼女に喜んでもらえればと、今回の捜索を志願したのだ。

 

 

しばらく二人きりにしてほしいという翔鶴に従い、加賀は病室を後にした。

自分の提督だけでなく、自分の後輩の愛した人も失いそうな今、加賀は自分でもどうすればいいのか分からないほど追い詰められていた。

 

 

 

 

 

「提督、貴方は今どこにいるの!? 私も、皆も、貴方の帰りを待っているのよ!」

 

「提督……帰ってきてください!!」

 

 

誰もいない病院の廊下で、加賀は壁に寄りかかりながら今の胸の内を叫ぶ。

だが、その叫びに応えてくれる者は、ここには誰もいなかった。

 

 

 


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