ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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この思いを貴方に捧ぐ

 

 

 

綾波型駆逐艦8番艦『曙』

 

 

着任当初から提督に「こっち見んな!」と罵声を浴びせ、普段から刺々しい態度を見せる艦娘。

史実によるせいか、彼女が素直に提督に好感を見せることはまずなかった。

ある鎮守府に所属する曙もその例に漏れず、着任時から提督につっけんどんな態度をとり、ぶっきらぼうな言葉をかけてきた。

そんな彼女だったが、今は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どうだった提督。 さっきの演習は…?」

 

 

 

 

 

「完全勝利なんてすごいなって? 当然じゃない、この曙がいるんだから♪」

 

 

 

 

 

「あっ、そろそろ遠征の時間だ。 えっ… 離ればなれになるのは寂しいって…?」

 

 

 

 

 

「大丈夫、あたしはちゃんと提督の元に戻ってくる。 約束するよ」

 

 

 

 

 

「それに…あたしだって提督と離れるのは寂しいんだから……。 うん、なるべく早く帰るね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とても提督に対して素直な態度をとるようになったのである。

なぜ彼女がここまで変わったのか。 それは今から一月ほど前に話は遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある鎮守府の執務室。

年季の入った提督机にシンプルなブルーカーペット。 大きな窓から母港が一望できるこの部屋で、提督は黙々と作業をこなしていた。

そんな中、突然ドアがはじけるように勢いよく開く。

ドアを乱暴に開けた張本人、曙は不機嫌な態度を隠すことなく提督の元に詰め寄り乱暴に机を叩いた。

 

 

 

 

 

「ちょっとクソ提督、この前の杜撰な指揮はなによ!? アンタが油断してたせいで左舷から敵に襲われて大変だったじゃない!!」

 

 

大きな瞳に怒りをはらんだ彼女は、目の前の提督を射殺さんと言わんばかりにじっと睨みつけている。

 

 

「…すまない曙。 戦況としてはこちらが優位だった分、慢心していたよ。 お前のフォローがあったおかげで、俺もどうにか持ち直すことができた」

 

「ほんと嫌になるわよ! アンタが下手な采配をすれば、こっちにそのしわ寄せが来るのよ。 そんなんじゃ、アンタいつまで経ってもクソ提督のままよ!!」

 

「いや、返す言葉もない…。 次こそは、お前に……いや、お前達に余計な負担をかけさせないようにする。 だから、次も頼めるか?」

 

「ふんっ! ほんとは嫌だけど、あんたに任せたら他の子達が気の毒だから次もまた出てあげるわよ。 じゃあ、あたしもう行くから」

 

 

忌々しげに鼻息を鳴らし、執務室を後にした曙。

そんな彼女を見届けた提督は小さくため息を吐き、

 

 

 

 

 

「やれやれ… 曙の言うことももっともだ。 いつまでもあいつに叱られてばかりじゃ、確かに俺はクソ提督だな」

 

 

と、自分を戒めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室を出た曙はしばらく不機嫌そうに廊下を歩いていたが、廊下を一つ曲がった瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

「あ――――!! どうしてあんなこと言っちゃったのよあたし――――!? あたしはただ、この前の出撃でMVPを取った事を褒めてほしかっただけなのに―――!!」

 

 

 

本音を叫びながら頭を抱えうずくまってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある艦娘寮の一室。

そこでは一人用の個室から、数人が寝泊りできる大部屋まで各階ごとに割り当てられ、この鎮守府に所属する艦娘たちはここで生活している。

大部屋の一つ、第七駆逐隊が暮らす部屋では曙が先の出来事について他の皆に相談していた。

 

 

 

 

 

 

「……それで、今回も提督に褒めてもらうつもりが悪態をついて戻ってきてしまったと…」

 

 

椅子に腰掛けながら話を聞いていた艦娘、『朧』はジト目を向けながら曙を見ている。

 

 

「いやー、ほんっとーにボノやんはご主人様へのアプローチが苦手だよね~! そんなツンばっかりで落とせるほど、ご主人様はMじゃないぞ~!」

 

「う、うるさいわね漣! そんなの、言われなくても分かってるわよ!!」

 

 

ベッドに座りながらジェスチャーを交えて曙をからかう艦娘、『漣』の言葉に曙も語気を荒くする。

 

 

「そ、そんな言い方しちゃだめだよ漣ちゃん。 曙ちゃんだって、提督に素直になろうと頑張ってるんだから」

 

 

漣の隣にいる姉妹艦『潮』が漣を窘めていると、朧が曙に言葉をかける。

 

 

「でも、漣の言うことも一理あるわ。 そんな刺々しい態度ばっかりとっていたら、いくら提督だって本当に愛想をつかすかもしれないよ?」

 

「うっ… そ、それは……」

 

 

朧の指摘に口ごもる曙。 そんな彼女に朧は話を続ける。

 

 

「それに知ってる? 提督、今度長期遠征に出向く予定なんだって。 大淀さんが話してた」

 

「そうなればしばらく会えなくなるけど、曙はそれでいいの?」

 

「………」

 

 

曙は無言のまま、何も言わず俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督とは初期の頃から一緒だった。

素直になれないが故に罵倒や憎まれ口を叩くのはしょっちゅうだが、提督はそんな自分にもやさしく笑いかけてくれた。 いつからだろうか、曙はそんな提督のことが好きになっていた。

でも彼女は言えなかった。 感謝の言葉も、自分の気持ちも。

姉妹艦として付き合いの長い第七駆逐隊の皆に相談しながらも、素直に思いを伝えられず今に至っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の港。

数多の星がきらめく夜空のもと、曙は一人散歩をしていた。

 

 

「…私だって、素直に言えたらどれだけいいか……」

 

 

朧の指摘が未だに頭から離れず、曙はとぼとぼと港を歩いている。

気分転換をかねてこうして外に出てきたが、結局良い案も思いつかず彼女は一人ため息を吐く。 そんなとき、

 

 

 

 

 

「あっ、曙」

 

「ふぇっ? くく、クソ提督!?」

 

 

向かいからやってきた提督に動揺を隠せない曙。

思い切りどもる彼女の様子に、提督はどうかしたのかと首をかしげている。

 

 

「こんな時間に散歩なんて、どうした? 眠れないのか?」

 

「あ、アンタには関係ないでしょ!?」

 

 

またも素直にいえず、いつものごとくつっけんどんな態度を見せてしまう。

そんな彼女の返事にも、「そうか」と提督は笑って返した。

 

 

 

 

 

「…ところでさ、曙は今錬度いくつだっけ?」

 

「…98よ。 もうすぐ99に到達するけど」

 

「そうか。 もうそこまで上がってきてたんだな」

 

「どこぞのクソ提督が散々演習に駆り出したおかげでね」

 

「うっ、すまん…。 ただ、それも訳あっての事なんだ」

 

「何よ、その訳って…?」

 

 

そう言いながら、曙はじろりと睨みつける。

提督は仰ぐように空を見上げ、真っ直ぐに手を伸ばす。

 

 

「もうすぐ、俺が長期遠征に出向くことは知ってるか?」

 

「朧から聞いたわ。 それが何…?」

 

「実は、その内容がケッコンカッコカリの指輪を受け取りにいくというものなんだ。 それで……」

 

「…それで? 男ならはっきり言いなさいよ!!」

 

 

もどかしさのあまり、声を荒げる曙。

そんな彼女の言葉に、提督も意を決したかのように曙に顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……もしよければ、その指輪を曙に受け取ってほしいんだ!」

 

 

夜の港に響く提督からの告白。

それを聞いた曙は、徐々に顔を赤く染めパニクりながら叫んだ。

 

 

「な、なな、何言ってんのよ!? 意味わかんないわよそれ!! 大体なんであたしを選ぶの!? 他にアンタにふさわしい子がいるんじゃないの!?」

 

 

曙も知っていたが、自分以外にも提督に好意を抱く艦娘は大勢いた。

それも相手は自分よりスタイルの良く綺麗な戦艦や空母、自分より素直に接してくるかわいい軽巡や駆逐艦などなど。

その中からなぜ提督は自分を選んだのか、曙にはまるで理解できなかった。

 

 

「お前には新米の頃から助けてもらった。 他の子たちが上官相手に言いにくかった事を、お前は面と向かって言ってくれた。 俺に至らないことがあれば、お前ははっきり教えてくれた。 俺がこうして提督として今までやってこれたのも、お前がいてくれたからなんだ。 だから…」

 

 

 

 

 

 

「…お前にはこれからも俺のそばにいてほしい。 お前の支えで立派な提督になった俺を見てほしいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ダメ、かな…?」とぽつりと呟きながら苦笑いを浮かべる提督。 そんな提督に対し、しばらく顔を伏せたままの曙はぷるぷると肩を震わせ、

 

 

 

 

 

「なによそれ……」

 

「えっ…?」

 

「アタシが今までどんな思いでアンタに接してたか分かってんの!? 人の気も知らないで、そんなこっ恥ずかしいこと口にして! アンタなんてクソよクソ! とんだクソ提督よ!! アンタみたいな奴、さっさと遠征に出てってさっさと指輪もらってくればいいのよ!!」

 

 

顔を真っ赤にし半泣きになりながら、曙は感情を爆発させる。

ポカポカ自分を叩いてくる彼女に「イテッ、落ち着け…!」と提督が宥めていると、急にしおらしくなり、

 

 

「……それまでに、あたしも錬度を99にして………待ってる…から」

 

 

その場にへたり込んでしまった。

提督は優しいな笑みを浮かべると、膝を折りその場にしゃがみながら涙を流す曙の頭をそっとなでていた。

 

 

「ありがとう…」の言葉と共に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、提督が遠征に向かった日から曙は熱心に演習や出撃に取り組んでいた。

第七駆逐隊の皆はあまり無理しすぎないよう心配していたが、彼女は笑顔で平気だと返し、ようやく念願の錬度99へと到達したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日は、ついに提督が遠征を終え戻ってくる日。

曙にとっても待ち望んだ、ケッコンカッコカリの指輪とともに提督が帰ってくる日だった。

快晴の空の下、曙は今か今かと港で提督の乗った艦が来るのを待っていた。

曙は心の中で決めていた。

提督が帰ってきたら、そのときは素直にお帰りなさいって言おうと。

お疲れ様って声をかけてあげようと。

そして、私も大好きだよって正直に提督に告白しようと。

胸の高鳴りを押さえながら、彼女は息を整え提督が早く戻ってこないかとそわそわしていた。

しかし、予定時刻を過ぎても提督の乗った艦は戻ってこなかった。

さすがにこれはおかしい、と曙は疑問を感じる。

そのとき、鎮守府の方から潮が息を切らせながら曙へと駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

「た、大変だよ曙ちゃん!! たった今、鎮守府海域から深海棲艦に襲われてるとSOS信号が届いたの! それで、信号を送ってきたのは提督が乗っている艦からなの!!」

 

 

それを聞いた曙は大きく目を見開き、わき目も振らずに飛び出していった。

「そんな…! 嘘でしょ…!?」とひたすら自分に言い聞かせながら、曙は海面をひた走り、そしてSOS信号の発信源へとやってきた。

だが、それは嘘ではなかった。

提督の乗っている艦には数多の深海棲艦たちが攻撃を仕掛けていた。 砲弾が着弾するたびに艦が大きく揺れ動き、乗員の悲鳴が聞こえてくる。

遠征のため護衛として同行していた艦娘たちも応戦していたが、多勢に無勢。 敵の数が圧倒的に多く、ここにいる彼女達だけでは攻撃を捌ききれずにいた。

悪夢としかいえない状況にパニックになりそうになる曙。 しかし、どうにか冷静に今の状況を確認した。

 

 

 

 

 

(大丈夫… 提督の乗っている艦は、深海棲艦の攻撃にも耐えられるよう頑丈に作られている。 どうにか、あたしが提督を助け出せれば…!)

 

 

曙は深呼吸して気を落ち着けると、提督のいる艦に向かって一気に突撃していった。

周囲にいた深海棲艦たちの何体かは曙の存在に気付いたが、曙は素早く砲撃を繰り出し自分目掛け襲ってくる深海棲艦たちを迎撃する。

うまく敵の襲撃をかわし、どうにか甲板へと乗り込んだ曙。 後は、中にいるであろう提督の元に向かうだけだった。

 

 

「待ってて提督! 今助けに……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボオンッ!!!!

 

 

 

 

それは、突然の出来事だった。

戦艦タ級の放った砲撃が空高く舞い上がり、提督たちがいる艦の上部分を直撃し爆破炎上を引き起こした。

曙の目の前で煌々と照らされる炎。 その中から誰かは分からないが、炎に焼かれ苦しむ人の声がはっきりと聞こえてきた。

 

 

「あっ… あっ…! あああ…!!」

 

 

呆然としながら立ち尽くす曙の足元に、炎上する上部分からあるものが落っこちてきた。

曙がそれを拾い上げ、確認すると…

 

 

「う、うそ…でしょ…!? これ…これって……!!」

 

 

それは指輪だった。

元はケッコンカッコカリのものであろうシルバーリングだったが、今は炎に焼かれ黒ずんでいた。

曙は指輪を握り締めたまま、大粒の涙をこぼしながら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤ…イヤ………イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴を上げ、その場で気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に分かったことは、あの後鎮守府の方から増援が来て、どうにか深海棲艦を追い払うことはできた。

しかし、艦に乗っていた者は全員死亡が確認された。

同じく艦にいた曙もひどい火傷を負ったが、他の艦娘に助けられたおかげで命に別状はなく、その後は意識の回復も確認された。

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府の医務室。

そこにある個室の前の廊下では、第七駆逐隊の皆とここを担当する工作艦、明石がこっそり中を覗き込んでいた。

 

 

「…明石さん。 もう、曙は戻ってこないの…?」

 

「…残念だけど、これ以上私からできることはないわ。 後は、こうして見守るだけね…」

 

 

明石の悲しげな声に、朧たちは肩を落とし、病室の中にいる曙に目をやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、ほんと? やだー、それっておっかしいじゃん♪」

 

 

 

 

 

「…うん、私も好き……ううん、大好き! だから、これからも一緒にいてね、提督…」

 

 

 

 

個室の中では、誰もいない空間に向かって一人楽しげに話をする曙がいた。

あの後、目の前で大事な人を失ってしまったショックに彼女の精神が耐えられず、今はそこにいない提督へと素直な思いを告げていた。

そのときの彼女の表情はこれ以上ないほど明るく、そして彼女の左手の薬指には提督から彼女へ送られるはずだった物。 黒ずんでしまったケッコンカッコカリのリングが収められていたのであった。

 

 

 


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