ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

12 / 45
こちらもできたので、久しぶりの投稿です。
夏イベは無事ニムとアクィラをゲットできて大満足の結果でした。
そして今日のアプデで漣の新グラ登場でさらにテンション上がってます!






人と兵器のボーダーライン

 

 

とある鎮守府の正門の前に佇む一人の男性。

彼は片手に荷物の入ったバッグを持ち、じっと視線の先にある鎮守府を見つめている。

その表情は悲し気で、男性の背中にはどこか哀愁のようなものさえ感じられる。

何も言わず鎮守府を見つめる彼だったが、小さな溜息をつくと正門をくぐり鎮守府を後にしていく。

そんな彼の姿を、大勢の艦娘たちが上の窓から見つめている。

彼を見送る彼女たちは、怒りと悲しみが入り混じったような複雑な表情で、無言のまま彼の姿が見えなくなるまで見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は元提督だった。

彼が着任したここは、元は前提督が艦娘たちを酷使していたいわゆるブラック鎮守府で、数日前にその提督が憲兵に取り押さえられ新しい提督として彼がここにやってきた。

だが前提督にひどい目にあわされた艦娘たちは、提督という人間に対し激しい敵意を向けており、彼も例外ではなかった。

彼自身も初めはどうにか友好を築こうと努めてきたが、彼女たちはそんな彼に対し今までの怒りをぶつけるかのようにむごい仕打ちを続けてきた。

顔を合わせるたびに露骨な嫌味を言い、周りで陰口をたたくことなど日常茶飯事。 命令を無視しての独断の出撃や進撃、秘書艦業務のボイコット、あげく直接的な暴力も振るってきた。

提督……でなくても逃げ出したくなるような劣悪な環境だったが、彼は必死に耐え忍んだ。

直接的な原因がなくとも、提督という人間が彼女たちを此処まで苦しめたのも事実。 その償いのため、彼女たちが笑顔を取り戻すためと、どれほどひどい仕打ちも耐えて彼は環境の改善と艦娘たちの待遇がよくなるよう尽力してきた。

そして、転機は訪れた。

ある時、敵を殲滅するためと大破しながらも無茶な進撃を行った艦娘に対し、提督は初めて怒りを見せた。

 

 

 

 

 

「戦いたいというのなら、俺は止めない。 だがな、それでお前が沈んだらもう戦うことはできないんだぞ! それにお前が沈んだら悲しむ者がいるんだ。 お前の姉妹艦も、そして俺もな…… だから、戦うために自分の命を粗末に扱おうとするな! 分かったな……」

 

 

 

 

 

涙を流しながらそう叫ぶ彼の姿を見て、艦娘たちも少しずつだが彼に心を開いていった。

今までの行いを深く謝罪する者。 おずおずと顔を出しながらこれからもここにいてくれると尋ねてくる者。 反応はまちまちだったが、日に日に彼のもとに顔を見せる艦娘は増えていった。

彼もまたそうして自分の元に来た艦娘たちを許し、迎え入れ、今ではかつてのブラック鎮守府の名残は残っておらず、提督である彼は艦娘たちと友好的な関係を築くことができたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、艦隊戻ったぜー! ちょっと入渠してくるから、それが終わったらまた俺の鍛錬に付き合ってくれよ」

 

「ああ、いいぞ天龍。 こっちももうすぐ執務が終わるからな」

 

「提督、私との約束は……」

 

「分かってるって。 ちゃんと昼食には付き合ってやるからそんなに睨むなって、加賀」

 

「やりました…!」

 

「司令官、私達との約束も忘れちゃだめよ!」

 

「午後から皆と一緒に散歩しよう、だろ? ちゃんと覚えてるよ、雷」

 

 

朝からにぎわう執務室。

信頼できる上官として、家族のように、親友のように、そして一人の男性として接してくる艦娘たちに、提督もまた心から嬉しく思うのであった。

 

 

 

 

 

だが、そんな日々も長くは続かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日のこと。 艦娘たちの暮らす寮に一通の手紙が届けられた。

封筒を見ても送り主の書いてない匿名のもので、艦娘たちは首をかしげながらも手紙を読んでみることにした。

次の瞬間、

 

 

 

 

 

「な…何よ、これ……」

 

 

 

 

 

彼女たちは言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如提督のいる執務室に駆け込む艦娘たち。

皆憎悪にたぎった表情で、いつものように執務をこなす提督を睨み付けている。

普段とはまるで違う彼女たちの姿に困惑を隠せない提督。 

 

 

「ど、どうしたんだお前たち? そんな恐ろしい形相で…」

 

「どうしたもこうしたもない! 貴様、これはいったいどういう事なんだ!?」

 

 

怒りをぶちまけるように長門は手にしていた手紙を机にたたきつける。

驚きながらも提督は机の手紙を読むと、

 

 

「…な、何だこれはっ!?」

 

 

大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

手紙には、彼がこの鎮守府に来る前のいきさつが書かれていた。

彼がここへ来る前は別の鎮守府の提督として働いていたが、そこで彼は嫌がる艦娘たちに対しセクハラまがいの行為を行っていたこと。

そしてそれがばれて憲兵に拘束された後、大本営からブラック鎮守府と化したここの艦娘たちと友好的な関係を取り戻せ。 そうすれば今回の提督解任の件は免除してやるという条件を受けてやってきたことが事細かに記されてたのであった。

 

 

 

 

 

「提督… 貴方がまさかこのために私達の元に来たとは思わなかった」

 

「待て長門っ! 俺はこんな事してはいな…」

 

「言い訳は見苦しいぞ提督っ!」

 

「武蔵…」

 

「…提督、お願いですからこれ以上私たちを失望させないでください……」

 

「妙高… 頼む、どうか俺の話を聞いて……!」

 

「提督… 私は、貴方を……信頼……して…いました……」

 

「か…加賀……」

 

「所詮アンタもあいつと同じだったってことね。 提督なんてみんなクズしかいないのよ!!」

 

「そんなことを言うな霞! 俺は本当にお前たちを…!」

 

「お前の話など聞く気はないっ! これは俺たち全員の総意だ!!」

 

「き…木曾……お前まで…」

 

 

何かの間違いだと必死に説明をしようにも、一度提督という人間にひどい仕打ちを受けてきた彼女たちに彼の言葉は届かない。

冷徹な目に晒され肩を落とす提督へ、長門は怒りを押し殺しながら言った。

 

 

 

 

 

「提督… 貴方には明日までにここを出て行ってもらう。 頼む、私達も貴方を手にかけるような真似はしたくないんだ……」

 

 

 

 

 

その言葉を最後に皆は執務室を去っていき、提督は未だに目の前の現実に頭がついてゆけず、呆然とするしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、彼は鎮守府を去っていった。

寮にいた艦娘たちは皆怒りと悲しみが入り混じった複雑な思いを胸に抱いていた。

彼は本当に優しかった。

今まで散々理不尽な暴力をふるっても、それをしてきた自分たちを受け入れてくれた。

出撃から戻ってくれば心から喜び、敵を取り逃してもそれを責めるようなことはしなかった。

今までの提督とは違い、自分たちを思いやり心配してくれる彼を心から信頼していたのだ。

しかし一枚の手紙から暴かれた彼の過去によってそれは脆くも崩れてしまった。

暖かく、楽しい毎日から一変してしまった日常を艦娘たちは皆無気力にすごし、提督代理を任された長門もまた、虚ろな気持ちで日々を過ごしていった。

 

 

 

提督が去ってから数日後、大本営に所属する大将が彼女たちの所属する鎮守府へと訪れた。

嫌いな提督とはいえ、無碍に扱うわけにもいかない。

長門は暗い表情を浮かべたまま、大将を迎え入れ執務室へと案内した。

 

 

「今回の彼の件については、私も聞いている。 まさか、彼ほどの男がこのようなことをしてたとは…」

 

「あの人の話はもうしないでほしい…… それより、大本営の方がここへ来るということは何か伝えることがあるのでは…?」

 

 

抑揚のない声でそう話す長門。 それを聞いて、大将も少し顔を俯ける。

 

 

「その… 君たちにとっては追い打ちをかけるようなことで申し訳ないが、上層部からこれほど問題を起こした鎮守府を置いておいては市民への心証が悪くなるということで、近くこの鎮守府を解体することが決まったんだ」

 

「そう、別に構わないさ… ここには辛い思い出しかない。 私達のためにも、この鎮守府は無くなってもらった方がいいだろう……」

 

「…すまない。 君たちの処遇については追って連絡する。 一応は各々、別の鎮守府へ配属させることを考えている。 配属先に希望があれば事前に申請してほしいが、もし望むなら解体も許可しよう… 私から伝えることは以上だ」

 

 

そう言って大将は執務室を後にしていったが、長門は未だに心ここにあらずといった様子でソファに座っている。

それだけ彼の存在は大きく、彼女たちの心の支えになっていた。

それを失った今、ここがどうなろうと自分たちがどんな事になろうともうどうでもいいという心境だった。

その時だった。

 

 

 

 

 

「ん…?」

 

 

 

 

 

向かいのソファ、大将の座っていた場所に一本の万年筆が落ちていた。

彼の落とし物か?

そう思いながらも長門は万年筆を手に大将を追いかけていく。

忘れ物を届けようとして、正門にいた大将に声をかけようとしたとき、彼女は大将が誰かと通話していることに気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ああ。 これで、ようやく厄介払いが出来たよ」

 

 

 

 

 

「全く… 本当にあの男にも困ったものだ。 あんな兵器どもにいらん知識を吹き込むから、こっちも余計な手間をかけることになってしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話越しに会話をする大将。 後ろでそれを聞いた長門は思わず目を見開いた。

今の会話はいったいどういう事だ…?

あの男…? 厄介払い…? 何の話をしている……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の話はどういう事だ…? 提督に関係のある事なのか…? お前たちは、一体提督に何をした!?」

 

 

 

激昂しながら大将へと詰め寄っていく長門。

背後からそれを聞いた大将は一瞬驚きの表情を作るも、長門が今の話を聞いたことに気づくと小さく溜息を吐き、訝しげな顔つきになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だったんだよ。 われわれにとってあの男は…」

 

 

まるでゴミを見るかのような冷めた目つき。

そのまま、大将は話を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々大本営は常日頃から艦娘は兵器だと提督たちにそう言い含めている。 だってそうだろ? 突然現れた深海棲艦という怪物たちと戦える唯一の存在であり、人間より頑丈ではるかに高い身体能力を持った者達。 それを兵器や化け物と呼ばずして何と呼ぶのかね?」

 

 

 

「そうして、提督たちは艦娘を兵器として効率的に運用し制海権を取り戻す。 こちらは兵士のように無駄な人員を消費しなくて済むし、市民たちからも信用を得られる。 素晴らしいシステムだ」

 

 

 

「なのに、あの男はお前たち艦娘に『お前らは人間と変わらない存在だ。 俺にとっては、お前たちは一人の少女でしかない』などとくだらない与太話を吹き込み、あまつさえ連中を自分に従順になるよう仕込んでいく。 こちらにとっては悩みのタネだった」

 

 

 

「だから我々は奴をここに送ったんだ。 ここの艦娘たちの提督嫌いはよく知っていた。 だから奴がここの艦娘たちから嫌われ自信を無くせばそれで良し、無くさずともお前たちが問題を起こしてくれれば上官の監督不行き届けとして奴を解任する口実ができるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大将の口から語られる胸糞が悪くなるような話に長門は拳を震わせる。

しかし、彼の話はまだ終わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、あの男はしぶとかった。 あんな場所に飛ばしてなお、奴は艦娘との関係を築こうなどという馬鹿げた真似をやめず、挙句にここの艦娘たちをも篭絡してしまった。 そのおかげで、こちらもあのような手紙を用意せざるを得なかったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手紙。 その言葉に長門は過敏な反応を見せる。

数日前、突然自分たちのもとに送られてきた匿名の手紙。

それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか、あれは貴様らが送ったのか!?」

 

 

 

 

 

「その通り。 いくら奴に篭絡されていようとも、心根では提督という人間に深い憎悪と疑念を抱いているお前たちなら、そこを刺激してやれば奴を激しく追い立てると踏んだんだ」

 

 

 

 

「そしてそれはうまくいった。 根も葉もないデマを書いた手紙をお前たちは鵜呑みにして、奴をここから……いや、この海軍から追い出してくれたんだ。 我々の狙い通りにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長門はその場で崩れ落ちた。

でっちあげの手紙に踊らされ、自分達の信頼する人を信じることができなかった事。

しかも、それを行ったのが自分達が毛嫌いする大本営の提督たちの手によってもたらされた事。

そして何より、自分たちの大好きだった人を自分たちの手でここから追い出してしまった事。

あまりにたくさんの出来事に、激しい怒りと後悔だけがぐるぐると渦巻きながら、彼女の頭の中を駆け巡っていった。

 

 

 

だが、そんな彼女の様子など気にすることもなく、大将は下卑た笑みを浮かべ長門を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「今回の事で、お前たちも自分の立場が理解できたであろう。 分かったのなら、兵器は兵器らしく我々の命令に従うことだ。 身の振り方次第では、それなりの待遇は保証してやろう」

 

 

 

 

 

 

大将の言葉を聞いた長門はゆっくりと立ち上がる。

どこか卑屈な表情を浮かべる彼女は、ポツリとつぶやく。

 

 

 

 

 

「我々が兵器、か… そうだな、なら兵器は兵器らしく命令に従うことにしよう」

 

 

「ほう、物分かりがいいな。 では…」

 

 

「だがっ!!」

 

 

 

先ほどの卑屈な顔から一転、すさまじい剣幕で長門は大将を睨む。

突然の豹変ぶりに大将は思わず怯み、長門は毅然とした態度で言い放った。

 

 

 

 

 

「私達の上官はあの人だけだっ! 貴様らの命令に従うつもりはないっ!!」

 

 

 

 

 

そう叫びながら長門は拳を握り、大将に飛び掛かる。

艦隊の仲間たち全員の怒りを乗せた拳で、大将へと殴り掛かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。 提督だった男は布団から体を起こすといつものように朝の身支度を整える。

今では提督どころか軍人ですらない、ごく普通の一般人として過ごしていた。

この後は朝食を終えて、仕事に出るといういつも通りの日を迎えるはずだった。

だが、この日は違った。

朝食を取ろうとテーブルに置いてあるリモコンでテレビをつけた瞬間、男はその場から動くことができなかった。

 

 

 

 

「こ、これは…一体どういう事だ……!?」

 

 

 

 

 

テレビは昨日起きた事件をニュースで取り上げていたのだが、その内容が大本営が襲撃され破壊されていくというものだった。

しかし、襲撃しているのは深海棲艦ではなく艦娘、それも自分が数日前まで提督をしていたあの鎮守府の艦娘たちだったからだ。

自分も彼女たちが提督という人間に対し、敵意を抱いていたことは知っている。

だが、今までこのようなことはなかった。

何故、彼女たちがこのような暴挙に出てしまったのか?

訳が分からないままの男の前で、テレビは艦娘による大本営襲撃の様子を淡々と説明していく。

とにかく原因が知りたくて、男は急いでその場へ向かおうと玄関の扉から飛び出した。

 

 

 

 

 

「あっ… て、提督っ!!」

 

 

玄関を飛び出した瞬間、目の前にいた一人の艦娘が彼を出迎える。

 

 

「お前……神通か!」

 

「はいっ! 提督、また会えて嬉しいです!!」

 

 

扉の先にいたのは涙を流しながら自分に抱き着いてくる神通と、

 

 

「もう神通ちゃんってば! 嬉しいのは分かるけど、そんなに見せつけたら流石に那珂ちゃんたちも妬いちゃうんだから!!」

 

 

そう言って神通を引き離す那珂がいた。 さらに後ろには、二人に同行してきたらしく数人の駆逐艦娘たちがこちらを見ており、

 

 

「いいなー、神通さん……」 「むぅ… 神通さんだけずるいっ!」

 

 

と、彼に抱き着く神通を羨む声がちらほらと聞こえてきた。

突然自分の元に押しかけてきた艦娘たち。 なぜ急に来たのか気にはなったが今はそれを気にする時ではない。 提督は血相を変え神通に詰め寄った。

 

 

「神通、さっきテレビで見たんだがあれは一体どういう事だ? 何故、お前たちは大本営に攻め入ったんだ!?」

 

 

すると、先ほどまで嬉しげな表情から一転。 目からハイライトが消えた虚ろな表情になり、神通はそのわけを淡々と話し始めた。

 

 

 

 

 

「それは、あそこが提督に害をなす場所だからです」

 

「なん…だと…?」

 

 

困惑と恐怖の入り混じった表情を浮かべる提督へと、神通は続きを話していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこの上層部は私達艦娘を兵器としか見ておらず、あろうことかそのを自分たちの都合のいいように操ろうと考え、提督を利用したのです。 あの日、私たちのもとに送られた手紙も大本営が私たちに提督を追い出させるよう仕向けるため、でっちあげた物だったのです」

 

 

 

「ですが、私達はそのことに気づかず、貴方をあそこから追い出してしまいました。 提督、貴方にあのような言葉を向けたこと、今では深く後悔しています。 本当に、申し訳ありませんでした…」

 

 

 

 

そう言って、神通は彼に向かって深々と頭を下げる。

それに倣ってか、那珂や他の艦娘たちも深く彼へと謝罪した。

自分達に頭を下げ謝る艦娘たちに、男も小さく溜息を吐くと皆に言った。

 

 

 

 

 

「…誤解が解けたのならそれでいい。 元よりお前たちはそれだけ深く心の傷を負っていた、あの状況で俺の言う事を信じろと言う方が無理な話だ。 済まなかった…」

 

「提督……」

 

「俺の方はもういい。 それより、話の続きを聞かせてくれ」

 

 

提督の言葉に神通は小さく頷くと、話を再開した。

 

 

 

 

 

「私達を兵器としてみていたことはまだ我慢できました。 ですが、私達を利用するために提督を騙していたことは許せなかったのです。 全てを知ったあの日、私達は決めたのです。 私達艦娘を兵器と呼ぶのなら、私達は提督のために戦う兵器になろうと…!」

 

 

神通は力強くこぶしを握り締めながら力説し、その話を那珂が続けていく。

 

 

「長門さんを筆頭に、皆もこの考えに賛同したんだよ。 それで、まず手始めに提督さんをひどい目に合わせた大本営をやっつけようって話になってね、提督さんを利用した悪い人たちにちょっとお仕置きしてきました~♪」

 

 

それを聞いた途端、彼の頭の中で先ほどのテレビの光景がフラッシュバックした。

次々に建物へ砲撃し、中に人がいようが関係ないと言わんばかりに表情一つ変えずに撃っていく彼女たちの姿に彼も背筋がゾッとした。

そして悟る。

彼女たちは、自分のためならどんな事でも実行してしまう、まさに生ける兵器と化してしまったのだと……

 

 

 

彼女たちの話が終わった後もしばらく呆然としていた男だったが、周りの住人たちが彼の周囲に集まる艦娘たちに気づき、騒ぎ出した。

 

 

「お、おいっ! あれって今朝のニュースに出てた艦娘じゃないのか!?」

 

「やだっ…! ここでも暴れるつもりなのっ!?」

 

「きっとあそこにいる男が指示したんだ。 おい、早く警察か海軍を呼べ―――!!」

 

 

周囲の人々は騒ぎ、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出す。 中には逃げる際に彼を人殺し呼ばわりする者も現れ、それを聞いた神通達はハイライトの消えた目を群集に向け始めた。

 

 

「……。 どうやら、まだ提督を侮辱する愚か者がいるみたいですね…」

 

「皆ー、提督さんを悪く言う人はどうなるか、那珂ちゃんたちが教えてあげよー!」

 

 

艤装を構え周囲の人たちに主砲を向けようとする神通達を男は慌てて止める。

 

 

「待て、やめるんだ神通!!」

 

「提督… 何故止めるのですか? あの人間たちは提督を侮辱したのですよ!」

 

「ひとまず、落ち着いてくれ…! それと……」

 

 

何故止めるのかと訝しむ神通に、彼は落ち着くよう宥める。

他の子たちも不満そうな顔を向ける中で、男は神通に言う。

 

 

 

 

 

「すぐに他の皆を集めてくれ。 これから大本営に行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、月日は流れ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、艦隊帰投した。 今日も敵艦隊を殲滅してやったぞ!」

 

「ああ。 よくやってくれたな、長門」

 

「司令官、第2艦隊ただいま遠征から戻りました! 任務中怪しい船を見かけましたが、ただの漁船だったので指示通り見逃してきました」

 

「よし、よく言いつけを守ったな朝潮。 偉いぞ」

 

「い、いえ…! 当然のことをしたまでです…///」

 

「……提督」

 

「あっ、すまん… ありがとう長門、これからもこの調子で頼むぞ」

 

「……び、ビッグセブンとして当然の事だ。 だが、提督のためならまたやってみせるさ」

 

 

執務室に戻ってきた朝潮と長門に提督は感謝の言葉を送り、頭を撫でてあげる。

朝潮はもちろん、長門も照れながらも嬉しさを垣間見せており、その姿には彼も内心かわいいなと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは近くに人のいない小島に建てられた泊地で、そこで彼は鎮守府にいた艦娘たちと共に過ごしていた。

あの後、彼は鎮守府の艦娘たちを連れ大本営の元に訪れた。 そこで生き残りの者たちに頼み、周りに人がいないような孤島に泊地を建ててもらい、周りに被害が出ないよう移り住むことを提案したのだ。

艦娘たちの圧倒的な武力差を見せつけられた大本営の者たちは二つ返事で了承し、彼は艦娘たちを連れて孤島に向かい、今はそこで艦娘たちが暴走しないよう見守りながら暮らしていた。

ちなみに、表向きは他の鎮守府の提督たちが彼らを拘束し捕らえたということにしてある。 国民に余計な不安を抱かせないようにするための処置だった。

現在では月一で大本営の方から水や食料を届けてもらっている。 そうすることで自分が艦娘たちのストッパー役になると話したからだ。

もちろん、本心はこれ以上彼女たちに人を傷つけてほしくないからだった。

ただ……

 

 

「痛つ…!」

 

「っ…!? 大丈夫ですか、提督っ!!」

 

「そんな心配するなって。 ちょっと書類のふちで指を切っただけだ」

 

「こんな物騒な書類を送りつけるなんて…! 提督、私ちょっと大本営の方へ行ってきます」

 

「待て、落ち着けっ! 単に俺の不注意でこうなっただけだ、そこまで激昂するな」

 

「ですが…!」

 

「なら、代わりにちょっと救急箱を取ってきてくれ。 これは命令だ、いいな?」

 

「は、はいっ! では提督、すぐにとってきますので!」

 

 

そう言って執務室を飛び出す神通を見て、提督は胸をなでおろした。

あれ以来、艦娘たちは自分が傷ついたり自分を傷つけようとするものに過敏な反応を見せるようになっていた。

これ以前にも、食料を持ってきた大本営の人間が提督の肩にぶつかってしまったのを見て、

 

 

「私の前で提督を傷つけるとはいい度胸ですね…!」

 

 

そう言いながら艤装を構えたり、またある時は食事中にハエが飛んできたのに対し、

 

 

「提督の食事を邪魔するなんていけない虫ですね」

 

 

と言って、主砲をハエ向けて撃ったこともあった。

そんなことが起きるたびに、提督は慌てて艦娘たちを宥めどうにか落ち着かせていた。

そしてそれは今日も続いている。

いつものように出撃や遠征の指示をこなす中で、今日は何も起こらずに済んでくれよと提督は心の中で祈っていた。

艦娘は人間と変わらない。 そう思っていた提督だったが、皮肉なことに今では彼自身が一番艦娘は兵器に近しい存在なんだということを感じているのであった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。