はいふり「狸耳カチューシャは偉大!」   作:多聞猫

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_航洋艦「晴風」反乱す!

教員艦「沖島」乗員と顔合わせした阿野岡は演習に出航する艦の見送りをしていた。

すぐ隣には福内の妹が艦長を務める「比叡」の姿があり、その艦長の姿が沖島からはっきりと見えていた。

「本当に似ているよな・・・あの子。お姉さんに・・・」

 

黄昏ていると、後ろから副長が話しかけてきた。

 

「艦長 何を見ているんですか?」

 

不意に話しかけられたのでびっくりした。

彼女は・・・何て名前の副長だっけな。

「えっと、副長・・・さん 名前は~?」

 

「あ、すみません。着任式で挨拶できなかったので忘れてました。 私は霧ケ峰葵と言います。今後ともよろしくお願いしますね艦長♡」

 

 

副長は笑顔で応えた。

「では霧ケ峰副長 すまないが各生徒艦に健闘を祈ると打電してくれ」

 

分かりましたと言って去る副長。

 

 

比叡の艦長、福内幸絵は電測員からの打電を聞き沖島のほうを見た。沖島艦長に比叡乗組員一同で敬礼してすぐさま、出航に取り掛かった。

 

 

 

 

 

生徒艦は西之島新島方面に向かっていった。当然ながら、晴風や武蔵も。

 

しばらくして、「沖島」に通信が入る。宗谷監督官つまり宗谷真霜からだ。

 

これから会えないかということだった。

 

 

艦長、阿野岡は了解という返答をして退艦する。

副長には急用ができた。しばらく頼むと言って、船を出た。

 

 

 

 

 

宗谷真霜との待ち合わせ場所は校門前だった。車が止まっている・・・。

社内で二言三言話して車から宗谷真霜が出てきた。

 

「宗谷監督官殿、何か御用でありますか?」

「そこまでかしこまらなくていいですよ。俊くん 婚約者なんですから」

 

 

その話は車の運転手、福内姉には特に聞こえていなかったようだ。

福内姉はタヌキミミのヘアバンドを調整していたようなので、まったくといいほど聞こえなかった。

「それで何か用事ですか? 真霜」

「あなたに聞きたいことがあるのだけど、福内さんはもちろん知ってますね?」

 

「ああ、知ってるが?」

「あなたと福内さんが手を繋いでいたという目撃情報があるのだけど本当かしら?」

「・・・デマだよ。それよりも、運転席に居るのは福内さんのようだが何を」

 

福内はタヌキミミのヘアバンドを胸元に押し付けていた。まるで、誰かと抱き合っているかのように。

「(幸絵も言ってたけど、そろそろ恋人くらいは欲しいな。前にこのヘアバンドを拾ってくれたあの人は今、何をしてるのかな~・・・)」

 

 

その様子に真霜はわざと車を叩いて、気づかせた。

福内はビックリして、急いで車から出てきた。手にヘアバンドを持ったまま。

急いでヘアバンドを定位置に戻して聞いた。

「む、宗谷監督官。何かありましたか?」

 

 

 

「いえ、とても嬉しそうにそのタヌキミミのヘアバンドを持っていたから気になったんだけど?」

「すみません。以前、このヘアバンドを拾っていただいた方のことを・・・え?」

 

 

福内は言い訳をしながら、真霜の横の元警官阿野岡に顔が向いた。

阿野岡は心の中で「やっぱり、姉妹なんだな」と思っていた。

「あの・・・ここで何をされているのですか?」

「実は最近、警官を辞めてここに就職したんですよ。警官の前は教員もやっていたので、その経験を活かしてくれと校長に言われて」

 

さらっと理由を言って、肝心なところはかくして話した。

現実的なことを言うと、宗谷3姉妹と自分の関係は隠しておかなくてはならない。

「そ、そうなんですか。」

 

 

阿野岡は腕時計を見る。

「そろそろ、船に戻ります。福内さん 機会があればまた」

 

校門から去っていった。その後、沖島にて執務をこなして今日は過ぎていったのだった。そして、夜未明。執務終了し、帰宅途中に行きつけの屋台を発見し寄ることに。

 

屋台 衣笠酒屋。

「おー あんちゃん。いいところに来たな。今日はあんちゃんと合わせてお客さんは3人だぜ。他の2人は美女の美女だぜ。男一人だったから気まずかったんだぜ」

 

この親父さんは衣笠酒屋のおやじさんで衣笠竜二郎。御年、65歳。

阿野岡の父親もたまにこの屋台を利用する常連だ。

「今日もがんもと大根、頼みますよ。おやじさん」

「おう 今日もおつまみのおでんメニューは最高だぜ。さっ入りな」

 

促されつつ、入っていった。確かに女性が2人いた。

ちょうど隣の女性に話しかけられた。ショーカットが特徴の女性だ。

「? あのあなたはもしかして、横須賀女子の教員さんだったりしますか?」

「え?はい そうですが・・・あなたは?」

「あ、すみません。私は平賀と言います。ブルーマーメイドを本職としています。今は一度帰宅したので、私服です。」

「そうでしたか。申し遅れました、私は横須賀女子海洋学校の教員で阿野岡と申します。よろしくお願いします」

 

 

なんと、隣に座っていたのは海上安全整備局情報調査隊に所属する平賀二等観察官だった。制服を着ていないのでまったく気がつかなかった。

「平賀さんですか。もしかして、宗谷監督官の下で働いてますか?」

「その通りですけど・・・宗谷監督官をご存知なんですか。あ、横須賀女子の教員ですもんね。愚問でした」

「ところで・・・もしかして、その隣に居る人は福内さんだったりしますか?」

 

そう、特徴的なタヌキミミのヘアバンドが見えていたもののブルーマーメイドのいつもの制服ではなかったので、一瞬 見間違いをしたと思っていた。

自分の名前が出た福内は平賀の隣の男性を見て、仰天した。

「え、阿野岡さん・・・ですか。先ほどは見苦しいところをお見せしました」

「いいえ、とても美しかったですよ。いえ、失言でした」

 

 

何の気なしに平賀と福内を交互にちらちらと見ていた。やはり、平賀さんは大きいなと考えていた。

視線に気づいたか、平賀は胸を隠したが隠しきれていない。福内に関してはネコミミヘアバンドを見ていると勘違いしているらしく気づいていない。平賀、福内はお互いにほんのり頬が赤く見えるが気のせいだろう・・・。

 

 

 

 

 

気分を変えようと阿野岡はとりあえず、泡盛を注文した。

「おやじさん いつものを」

「あいよー 泡盛のソーダ割りな」

 

 

平賀と福内もそれぞれ、チューハイ等を注文して飲んでいく。

「そういえば、阿野岡さんは演習に参加しないのですか?」

 

泡盛のソーダ割りをグビグビ飲んでいた阿野岡。

「演習ですか。参加したかったですが、基本 私は特別な事が無い限り出航することは無いので。残念ですけどね」

「さっきから話し聞いてたんだが、警官辞めたのか?勿体無いなぁ。えーと、横須賀女子の教員だったか?そこにはカワイコちゃんは結構いんのか?」

「そうだな・・・結構、際立っている子はいるかな・・・」

 

 

 

平賀は阿野岡が元警官という事に驚いているようで・・・。

「え、阿野岡さんは海洋学校出じゃないんですか?」

「いいえ 海洋学校を出て、一度は教職に就いたんですが。両親がそろそろ孫の顔が見たいとかで戻って来いと。本当に参っちゃいますよね~」

「そ、そうなんですか。 ・・・福内さん?どうしたんですか?」

 

 

福内は不意に立ち上がると、

「そろそろ帰りましょうか。明日も仕事ですから。」

 

平賀は時間を確認すると、

「あ、本当ですね。もうこんな時間、明日は哨戒艇で見回りするんでしたね。」

 

阿野岡も丁度、勘定を終えたところだった。2人の会計も済ました。

「女性だけでは心配ですので、送りますよ? 近いんですか?」

「私は少し距離が離れてますが、平賀さんは近くだったかと」

「はい すぐそこなので大丈夫ですよ。阿野岡さん、福内さんのことお願いしまーす!」

 

 

福内は平賀の提案に少し動揺するも了承した。

「阿野岡さん 実は・・・少し飲みすぎて、ふらふらなので支えていただいていいですか?」

「分かりました。任せてください」

 

とりあえず、福内さんをおぶることにした。

当の福内は肩を貸してくれるのかと思っていたようで、少し戸惑っていたが酒が入っているせいか了承した。

歩き出してしばらくして・・・

 

「あの~重くないですか? もし辛かったら降りますけど・・・」

「いいえ、丁度いい感じで問題ないですけど・・・(微妙なサイズの胸が当たってるんですが・・・言えない。)

「気になっていたことがあるんですが、さっき平賀さんと私の何を見比べていたんですか?」

 

 

福内は本気で気になっているようで、背中に胸があたっていることにも気にしていないようだ。

他の事に気を逸らせる為に敢えて、阿野岡は

「福内さんって、好きな人いますか?」

「?! そ、そんなのいません。気になる人はいます・・・けど。たぶん、気づいていないと思います。あっ、そこですマンション ありがとうございました。」

 

 

そそくさと降りると速攻で中へ入ってしまった。

だが、一安心もしていた。さすがに寝ている状態だと後が怖いからだ。

だいたい予想ができていたので、ある名前を呼んでみた。

「真冬? そこにいるんだろ?」

 

 

電柱の影から姿を現したのは宗谷真霜の妹で次女の真冬だった。いつもの黒いブルーマーメイドの制服を着ていた。少しイラついてるようにも見えた。

「アニキ・・・他の女に手を出すなって言っただろ?まさか、真霜姉さんの部下に手を出すたぁー。」

「何もしていない。まったく、手を出していない。酔っていたのでおぶっただけだ」

「胸が当たってたんじゃねえのか? それも手を出してるようなもんだぞ!ホントにアニキはモテすぎなんだよ。もう少し、節操を持てよな。今回だけは見逃してやるが今度は無いと思えよ。」

「わ、分かった分かった。お前の声は近所迷惑レベルなんだぞ。もう少し抑えろ」

 

 

宗谷真冬は阿野岡に近づくと頬にキスしてきた。そんな行動に出たのが恥ずかしかったのか、真冬は頬がほんのり赤い。

「ちょっ、オマ・・・」

「分かったな・・・私もアニキが好きなんだ。もう少し考えて行動してくれよ。んじゃ、私も仕事に戻らないといけないから。じゃーな、アニキ」

 

 

 

返答しようとしたが、早々に走り去ってしまった真冬だった。

 

頬をさすりながら帰宅していった。

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

 

朝 横須賀女子海洋学校。教官艦「沖島」内にて

俺は昨日のことを思い出していた。真冬と福内さん、そして・・・胸の大きな平賀さん。 気になっているのは福内さんだが、一部の女性にも惹かれていた。

節操が無いと言われて返す言葉も無かった自分としては不甲斐ないと考えていた。

執務もおぼつかない様子で資料に飲み物をこぼしてしまったりと色々、失敗をした。

 

 

そんな昼過ぎのことだった・・・

 

「「「横須賀女子海洋学校。教官艦「猿島」より受信。生徒艦「晴風」の魚雷攻撃を受け、大破。「晴風」は反乱したとのこと。早急の対策を求む。こちら羽田港湾管理局・・・」」」

 

 

という無線を教官艦「沖島」が無線を傍受したのだった。

「沖島」の副長 霧ケ峰はこの無線を聞いて、驚愕した。まさか生徒の船が教官艦を攻撃するとは思わなかったからだ。

 

<教官艦「沖島」艦長 阿野岡俊作 直ちに作戦会議室に出頭してください。繰り返します。直ちに>

 

校庭で寝ていた艦長の阿野岡は飛び起きるとすぐさま、会議室に急いだ。

が、迷ったのは言うまでも無い。そんなときだった。

教頭が前方から歩いてきて、阿野岡を引っ張って部屋に入った。

「校長 阿野岡を連れてまいりました。」

「早速ですが、阿野岡教官 あなたに「晴風」の監視をお願いします。」

「え・・・? なぜ、「晴風」に監視を・・・?」

 

 

まったく情報が無い阿野岡は分からなかった。「晴風」は確か、遅刻の連絡がありそれを「猿島」は了承していたはず。何が起こったのかは知らなかった。

代わりに教頭がその疑問に答えた。

「実はだな、教官艦「猿島」が航洋艦「晴風」から魚雷攻撃を受け大破したらしいのだ。既に「猿島」のほうには人をやったので問題ない。「晴風」はビーコンを切ってしまったので、位置が分からなくなっているのだ。そこで、特殊作戦に従事できる教官艦「猿島」の別型である「沖島」の出番というわけだ。ここまで分かったか?」

 

 

つまり、「晴風」が本当に反乱を起こしてしまったのかを確認して欲しいとのことだ。「晴風」には宗谷3姉妹の三女で副長の宗谷ましろが乗艦している。

校長としても心配の種である。そこで、特殊作戦に有効な沖島でそっと監視をしてほしいとのことだ。

「もし反乱したと確信した場合はどうすればいいのですか?」

 

 

校長は間を少し置いて、静かに告げた。

「もし反乱と断定したら、あなたの手で「晴風」を・・・」

 

 

阿野岡は言葉をなくした・・・妹のように考えていたましろの乗る船を沈めろとの指示でもし反乱と断定されたらと思うと。

俺が何とかしなければならないと強く感じた。

「了解しました。 ですが、もし反乱と断定されなければ・・・上が攻撃を断行するというなら俺は全力で「晴風」を守ります! いいですか校長?」

 

「任せました。 阿野岡艦長、幸運を祈ります!」

「任せたぞ。阿野岡、お前なら何とかできる。いや、何とかしてもらうぞ!」

 

 

 

 

そして、阿野岡は「沖島」に乗船して「晴風」を追尾することに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多聞丸(猫)です。


教官艦「沖島」・・・ブルーマーメイドから借用中。最新鋭とあるが旧式。乗員もブルーマーメイドから出向しており真冬の後輩。外伝的な所でも登場しており阿野岡とは顔見知り程度。

比叡・・・艦長は福内妹。福内姉に恋人作りをすすめる。

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