侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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原作見た方でも、アニメ見た方でも、できれば読み飛ばさずに読んでほしいです。
両者を崩すことないよう混ぜて書いた上に一部内容を入れたりしてます。

そして一言。
どうしてここまで長くなった……予定のぶんまでいくには後1話はいるじゃないか!


第44話 誰かのために死にたくない

「空が……」

 

誰かがこぼした言葉の通り、それまで晴れていたはずの空に黒い雲が集まっていく。

ゴロゴロと雷が鳴る音を聞いて、これが誰によるものかを悟る。

 

(雷……ブドーの帝具か!)

 

ナイトレイドが勢ぞろいして帝国の二大戦力であるエスデス、そしてブドーと対峙する。

緊迫した空気の中、ブドーが問いかける。

 

「ここで貴様らを私は全員処刑するつもりでいる。貴様らも命懸けでその少年を助けに来るとは……それほどの価値が彼にあると言うことか?」

 

インクルシオは確かに強力な帝具。それを考えると革命軍にとっても大きな戦力であり失いたくないのだろうなと

ブドーは口にする。

だが、その言葉はマインによって否定された。

 

「革命軍なんて関係ないわ! アタシはアタシの意思で、命懸けだとしてもタツミを助けたいと思った! それが全てよ!」

「……なに?」

 

マインとしては心からの自分の思いを口にしたつもりだった。

にもかかわらず、それを聞いたブドーはマインの言葉に眉をひそめたのだ。その態度がマインを苛立たせる。自分の思いを馬鹿にしているのかと。

 

だが、ブドーは決してマインの気持ちを馬鹿にしたつもりはなかった。ただ……その言葉を素直に受け入れられなかったのは事実である。

 

(そう、か。その言葉が心からの言葉かそうでないのか、私にはわからないが…‥‥彼らは気づいてはいないのだろう。情報が回っているわけでもないし当然と言えば当然だが)

 

ブドーは悟る。

彼らは知らない。

 

アリィの帝具、死相伝染イルサネリア……その”本当の恐ろしさ”を。

 

敵を自滅させ、時には殺し使用者を守る、という目に見える力だけが全てでは無い。ただでさえ凶悪な能力の中に潜むイルサネリアの本質にブドーは恐らく帝国で唯一、気がついていた。

 

「もういいだろうブドー。お喋りはここまでだ」

 

戦意を止められないエスデスが、ブドーが口を開こうとするのを遮り飛び出した。

剣を抜き、飛び掛かる先にいたのは……マイン。

タツミへの恋を邪魔する存在として彼女だけは自分の手で仕留める。エスデスがそう思ったのはこれまでの彼女からしてみれば当然のことであり、

 

「そうだろう、なっ!」

 

かつて帝国の将軍として彼女の横に並んでいたナジェンダには、その思考が読めていた。

彼女の帝具であり、”帝具人間”であるスサノオが手にした武器でナジェンダの指示のもと、エスデスの攻撃を止める。

その隙にマインを含むほかのメンバーはブドーへと攻撃を開始する。

 

「ほう? 読んでいたか、ナジェンダ」

「お前は獲物と定めた相手は自分の手で仕留めようとする悪癖があるからな」

 

彼女の戦闘狂としての側面をよく知っているナジェンダは皮肉気に答えた。

戦闘を愛し、獲物をしとめる。もともとエスデスは北方の狩猟民族の出身であり、幼少の頃から「狩る」という行動が彼女の身にはしみついている。

 

「そうか……だが、お前とこいつ、二人だけで私を止められるのか?」

「おおおおおおおおっ!」

 

スサノオが武器を振るうが時に躱され、時に氷によって受け止められる。

スサノオとて護衛を目的とした帝具人間であるために、高い戦闘能力は有している。

だが……戦士として頂点の位置にあるエスデスが相手では、どうしても戦闘能力が及ばないのだ。

 

「ハハハハハ! この程度か!?」

 

足を蹴るように振れば氷の刃が地面から生える。

それに気を取られたときには、エスデス自身がスサノオの懐へと入り剣を振るう。

じわじわと、しかし確実にスサノオは防戦一方となり、追い詰められていた。

 

(エスデス相手に、温存している場合ではなかった……!)

 

ついにスサノオがエスデスの手によって氷漬けにされてしまう。

ナジェンダは決断した。己が命を削り、三度使えば死に至るとされるスサノオの奥の手。

その、二度目の発動を。

 

 

 

 

 

「くらえいっ!」

 

一方、ブドーと対峙した三人もまた、人数の差にもかかわらず優勢とは言い難い状態であった。

まず飛ばされた雷の球はタツミがインクルシオの槍・ノインテーターで弾き飛ばす。

そこへスピードを活かしてタツミ、アカメがブドーへと斬りかかるが対するブドーはマインの狙撃を避けつつ、冷静に対処していた。

 

(この速度についてくる……見た目に反して速い!)

 

鎧を着て強化されたタツミの速度、暗殺者として鍛えられたアカメの速度は常人では対処できるレベルではない。にもかかわらず、巨体かつ重装備であるブドーは速度も兼ね備えていた。

このままではらちが明かないと二人は同時に斬りかかっても籠手型の帝具・アドラメレクによって受け止められる。

攻撃を受け止められて歯噛みする二人だが、アドラメレクの真価は防御ではない。

 

「この……つけあがるなぁ!!」

 

ブドーが怒鳴った瞬間、天より雷が落ちる。

雷を操る能力こそアドラメレクがもつ帝具としての力。

雷に打たれ、痺れた体をかばうようにして下がる二人にブドーは告げる。

 

「前回は捕獲するため加減したが、今度は処刑する」

「……っ!!」

 

ブドーの言葉に。インクルシオをつけたタツミの目が鋭くなった。

 

「む!?」

 

とっさに防御態勢をとるブドー。

雷撃を受け、うまく体を動かせないはずなのにもかかわらず、タツミは驚異的なスピードで攻撃を仕掛けてきたのだ。

悪寒がして意識するよりも反射的に防御態勢をとったことで防ぐことができたが、そうでなければ攻撃を受けていただろう。

 

(動ける、だと……!? そうかインクルシオ。雷撃にも耐性ができつつあるということか!)

 

捕獲作戦の時にも、タツミはインクルシオをつけた状態でブドーの雷を受けている。

ブドーが驚愕をあらわにした一方タツミは、ブドーという大きな壁を前に闘志をたぎらせていた。

かつて自分も憧れた、大将軍という武官の頂点。

それとやり合っている以上……全身全霊で打ち込むしかない。

 

叫びながら放つ攻撃の乱舞に、今度はブドーが押される立場となる。

前回、捕獲作戦にて戦った時とは全く別人だと彼は考える。タツミという少年が、この戦いの中で成長しているのだと。

だが……それを加味しても、その成長率が高すぎる。

 

(この少年、極めて高い素質があることはわかっていたが……それにしてもあまりに急激な変化! いったいなにが)

 

そして気づいた。目の前の少年の目が、まるで鎧の元となった危険種のように変化していると。

あまりにも考えにくいことであったが、答えは一つであった。

 

(混じっている……!? とてつもない無理をしているということかっ!)

 

ブドーはたまらず叫び出したくなる衝動に駆られる。

彼を助けに来た、ナイトレイドの面々だけではなかった。

少年、貴様もか(・・・・)……! と。

 

だが、それでもブドーは彼を止めなくてはならない。

あくまで務めをはたすだけだ。これで終わらせようとひときわ大きな雷を落とす。

それはあたりに強い光と大きな音をまき散らし

 

「雷が落ちてくるのは、さっき学んだ」

 

タツミが逃れたことに、ブドーが気づくまで一瞬の間が空いた。

とっさにふりかえろうとするも、それよりも早くブドーの背後に潜り込んだタツミが武器を振るう。

かつて三獣士との戦いで、インクルシオの前使用者であり頼れる兄貴分であった男が実践し、教えてくれた言葉を口にしながら。

 

「ならあとは……”周囲に気を配れ”だ!」

 

一閃。

タツミの攻撃はブドーの背中を一文字に切り裂き、ブドーの口から血がこぼれた。

 

 

 

 

「禍魂顕現!」

 

ナジェンダの体から生命エネルギーがスサノオへと流れ込んでいく。

それにより氷の中のスサノオの姿が変わり、その目に光が戻った。

 

「さあいけスサノオ……エスデスを倒せ!」

「奥の手か……面白い!」

 

スサノオの姿が変わり、それまでとは違ったスピードで攻撃を仕掛けていく。

エスデスが放った複数の氷柱も、スサノオの技「八咫鏡」によって反射される。

しかし、それでもまだエスデスには届かない。

攻撃をいなされ、かわされる。

 

そこに、突然数多くの雷が落ちてきた。

 

「なんだ!?」

「これは……」

 

エスデスの周りだけではない、闘技場のいたるところに何度も雷が落ちている。

雷を落とすことができるものなど、この場に一人しかいない。

そしてその人物は基本冷静に物事を進める人間であるがゆえに、敵を狙うだけでなく乱雑にただただ雷を落とすなど”怒りに任せたような”攻撃などしない。だが、実際にそれが起こっているということは。

先ほどの視線の先に映った光景から推測するのはたやすい。

 

(ブドーを怒らせたか……そこまでブドーを追い詰めるとはな……タツミ!)

 

好きな男がこうも強くなって自分と同じ戦場にいる。

胸を焦がすような想いと戦意に頬を染めたエスデスは、しかし確かに意識がスサノオから完全にそれた。

 

「天叢雲剣ぉぉぉ!」

 

その隙を逃さず、スサノオは巨大な剣を召喚し、エスデスへと振るう。

すぐに気づいたエスデスは氷の壁を二重三重に作り出したものの、その氷すら切り裂いて刃がエスデスに届こうとする。

後数枚でエスデスへと届く、その刹那――

 

 

 

 

 

 

「私の前ではすべてが凍る」

 

 

 

 

 

彼女の胸にある帝具の印が、添えられた手の中で青い光を放っていく。

エスデスの帝具・デモンズエキスの奥の手が、放たれた。

 

摩訶鉢特摩(まかはどま)

 

すべてを凍らせる。

その言葉通り……奥の手を発動させたエスデスの周囲、その全てがまるで凍ったかのように停止していた。

今まさにエスデスへと向かっていた刃も。

あたりに轟音をとどろかせながら落ちていた雷も。

戦っていたすべての人間も。

 

「この消耗量……一日に一回が限度、といったあたりか」

 

何もかも静止した世界でただ一人……エスデスだけが歩を進める。

歩きながら剣を抜き、ゆっくりとスサノオの胸へと突き刺した。

 

「だが、それでも……充分だとは思わないか……?」

 

そして世界が動き出す。

スサノオやナジェンダは驚愕していた。無理もない、超スピードとかそんな次元ではなく、気がついたらスサノオの攻撃が避けられているどころか目の前に現れたエスデスによって胸を貫かれているのだから。

さらに、剣で貫かれた箇所からエスデスの力によってスサノオが凍り付いていく。

 

「何が……起こった……?」

「時間を凍結させた。これこそタツミを逃さないために、そして敵を確実に葬るために、私が編み出した奥の手だ」

 

完全に凍ったスサノオへエスデスは鋭い蹴りを放つ。

氷と化した彼は完全に砕け、破片の中から赤い何かが空へと浮いた。

それは生物型帝具の心臓ともいえるもの――

 

(スサノオの、コアが)

 

それは、コア。

赤い勾玉を模したスサノオのコアは地面に転がり、そこへ容赦なくエスデスの足が踏み落とされた。

ハイヒールすら武器とするエスデスによって、コアは完全に砕かれる。

 

「さぁ、このまま全員を拷問室へと招待しよう!」

 

エスデスが笑みを浮かべたその瞬間。

 

「おおおおおおおおおおおお!!!」

 

タツミの叫びとともに、ブドーが吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

「貴様ら。それほど気骨のある者が革命軍にいるのは実に惜しいが……」

 

タツミに背中を切り裂かれた後、それまで以上の気迫を放ちながら立ち上がったブドー。

空の雷鳴から何か来ると直感したマインは

 

「何しようとしてるのよ!」

 

砲撃を放つも、防がれる。

ブドーが練り上げた雷のエネルギーもまた、今までよりもはるかに強いものだったのだ。

 

「私も帝具も先ほどとは違い! 怒っているのだ!」

 

――”雷帝招来”。

 

ブドーが両の拳を突合せ、帝具の芯を激突させることで放たれた技は闘技場一体を雷の攻撃で埋め尽くした。

体がボロボロになっていくのを自覚したブドーは、血を吐きながらも、どれだけ傷つこうともここでナイトレイドをしとめる、その一念で大技を放ったのだ。

 

だが、そんな中でもタツミはあきらめず、どこにそんな力がと驚愕を隠せないままのブドーを全力で殴り飛ばした。

竜の力に耐え切れず、吹き飛ばされる中でブドーは、彼らが死力を振り絞るその姿から、自分の予想は正しかったと確信した。

 

「すさまじいな……成長したものだ」

 

吹き飛ばされたブドーを見て、次はタツミだ、とエスデスが標的を定める。

だが、彼女が攻撃に向かうことはかなわなかった。

 

「なに?」

 

彼女の目の前で、砕いたはずのスサノオのコアが浮かび、そして元の形へと合わさっていく。

振り返ってみれば、そこには手をかざすナジェンダと、彼女からコアへと流れていくオーラが見えた。

 

(三度目の……禍魂顕現! 重ねがけなんて使い方、本来は不可能であろうが……)

 

スサノオが砕かれたのは奥の手を発動している中でのことだった。

故にこれは重ねがけとなる。三度目を使い、血を吐くナジェンダだったが駆け寄ったアカメによって肩を支えられ立ち上がる。

その前には、完全に元の姿を取り戻したスサノオがいた。

 

「行け。脱出するなら今しかない」

「させん……逃さんぞ!」

「やらせるか!」

 

スサノオの短い言葉を受け、歯噛みするもうなずいたナジェンダは脱出用に呼び出した危険種へと向かう。

撤退をはかりはじめたナジェンダたちに対し氷を放つエスデスだったが、その攻撃はスサノオの反射の鏡によって防がれる。

スーさんも来い! というタツミの言葉を振り切り、

 

「帝具として生まれ千年。これほど楽しい時を過ごしたことはなかった……。さらばだ」

 

タツミ達に笑みを浮かべ、完全に足止めとして残ることを決断したスサノオ。

タツミたちが去った後、命に代えても通さないと立ちふさがる彼に対しエスデスはあきれたような声を出した。

 

「ナジェンダの部下は甘いやつばかりだな」

「俺は帝具人間だ。奥の手も使い切った。切る駒としてはちょうどいい」

 

そうか、と笑ったエスデスは剣を向け、お前の名はスサノオといったな、と呟いた。

 

 

 

「帝具としてではなく。戦士としてその名を覚えておいてやろう……最期の瞬間まで、全力で私を楽しませて見せろッッ!!」

「おおおおおおおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリィさん。聞いてよろしいですか」

 

「なんですか?」

 

「彼らは……なぜ、最後まで向かってきたのでしょうか。逃げた者だっていたというのに」

 

「……今なら、少しわかる気がします」

 

「と、言いますと?」

 

「託されたものが、あるからでしょう。背負ったものが、あるからでしょう。たとえ死が目の前にあっても、わずかな可能性を信じてでも貫きたかったものが、あるのでしょうね」

 

「アリィさんも……同じ境遇なら、そうしたと?」

 

「……どうなのでしょうね。今の私には、もうわかりません」

 

「…………」

 

「さぁ。次へ行きますよ。用意を」

 

「了解しました」

 

そして、その場からアリィたちは消える。

 

 

 

 

 

後には、死体だけが残っていた。

 

 

 

スサノオ、死亡。

ナイトレイド 残り4人。




なお、原作で1話分、アニメではそれ以下しか進んでないのに最長の話になった模様。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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