侍女のアリィは死にたくない 作:シャングリラ
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第38話 革命が迫る中死にたくない
革命軍は進攻を開始した。
腐った国を打倒するため、鍛錬を続けて来た革命軍の兵たち。
なまりきった帝国の地方軍が勝負できる相手ではなかった。
そのため、革命軍の本隊は帝都にむけ順調に進軍していた。
帝国の圧政に長年苦しめ続けられてきた民衆たちは、暗黒時代を打破せんと立ち上がった革命軍の到来を歓迎。
物資をすすんで献上した。
そもそも、地方において領主とされている人間の多くは、大臣によって帝都から飛ばされた人間も多い。
そのような、いわば良識派の人間とはあらかじめ革命軍が接触、すでに協力体制が築かれていた。
また、革命軍と内応していなかった領主たちも無血開城を次々と行っていく。
これは、革命軍を拒否、交戦するとなれば領内においても内乱が発生するからである。
外の革命軍だけでなく中の領民まで相手をすることなどできはしない。
しかし帝国も甘くはない。
シスイカンにて大将軍・ブドーが指揮をとって革命軍を迎撃、これを押しとどめる。
ブドーの近衛兵が守るシスイカンは鉄壁の要塞と化し、革命軍の進攻は完全に防がれていた。
膠着する状況の中、革命軍に属するナイトレイドのボス・ナジェンダは新たな一手を打っていた。
「あの。ナイトレイドの方、ですよね」
「君が……レジスタンスの人?」
タツミとラバック……帝国側にナイトレイドとして顔が割れていない二人は、城に仕えるという侍女と接触していた。
今回の任務は宮殿におけるレジスタンスとの接触。帝都内にいる革命軍の密偵を通じて革命軍およびナイトレイドとレジスタンスは連絡を取り合っており、今回はナイトレイドの二人が実際に宮殿に潜入・レジスタンスと接触することになった。
そして、ラバックたちに話しかけた彼女は宮殿内で反大臣派たるレジスタンスの一員として活動しており、潜入するラバック達を宮殿へ招き入れるのが彼女の任務だった。
彼女の父は皇帝の教育係をしていたが、余計なことを吹き込まれないよう妻共々オネストによって幽閉されてしまった。それが彼女がレジスタンスに参加するきっかけとなっている。
「ここから先は、お静かに願います」
「オーケイ……」
侍女の先導に従い、慎重に歩を進めていく。
見回りや見張りの兵士たちがいないルートを通り、外周部ではあるが庭にあるひとつの建物のところまで無事にたどり着いた。
そこに、レジスタンスのメンバーが顔合わせのために集まっているという。
「ここです」
そう言って扉にノックをするが……だんだんその顔がいぶかしげになっていく。
「どうした?」
「変です……暗号代わりにノックが返ってくるはずなのに。反応がないんです」
「っ!?」
すでに人は集まっているはず。それなのに反応がないということは……
瞬時に、タツミやラバックの顔が険しいものに変わる。
「下がってろ」
まずはラバックが慎重に、扉を開けていく。
そして……
「きゃああああああああああああああああああああ!!」
中の光景を目の当たりにした侍女が悲鳴を上げる。
中は惨状という言葉が正しい状況になっていた。
建物に集まっていたはずのレジスタンスの人間が、全員殺害されている。
壁には血が飛び散り、床には物言わぬ骸がいくつも血まみれになって転がっている。
これが示すことはつまり……すべてバレていた、ということ。
「まずい、ここからにげ」
「おせぇよ」
即座にタツミやラバック、侍女の足元が光り輝く陣に変わる。
この光景はすでにナイトレイドの二人は見たことがある。タツミにいたってはこれをくらったこともあるのだから。
「これは、帝具のっ……!!」
暗闇の中に潜んでいた暗殺部隊のリーダー・カイリは笑う。
暗殺部隊によってレジスタンスの暗殺が終わった後も、彼は一人暗闇の中に身を潜めていた。
連れてこられるであろうナイトレイドを、兵たちが待ち構える檻の中へと送り込むために。
様々な思惑が絡み合った結果……全員が光に飲み込まれて、転移していった。
アリィの書いた、脚本どおりに。
時はしばらく前のこと。アリィがドロテアを処分した日の翌日。
「ブドーが時々、シスイカンに出向いているようだな」
「えぇ。のこのこやってきた敵を釘付けにするためです。陛下はご安心を」
宮殿では皇帝とオネスト大臣が食事をとっている。
その傍らでは、皇帝付き侍女であるアリィ・エルアーデ・サンディスが給仕を行う。
彼女の表情に一切の揺らぎはない。
革命軍が近づいているというのにもかかわらず、だ。
彼女は理解している。
すでに革命は始まっていると。
しかしだからこそ、彼女が静かであることがオネストにとっては不気味でならない。
彼女は革命を憎悪する。
彼女の安寧を、未来を否定する革命を彼女は決して許さない。
「そう……か。時にアリィ。以前お主が申し出た、宮殿に潜む賊は処分できたのか?」
「賊、ですかな?」
寝耳に水な話に、オネストは不思議そうな顔でアリィの方を見る。
だが、その顔を見ただけでおおよその予測をたてたのは、やはり彼が切れ者であるからだろう。
皇帝にはわからない冷たい目のまま、アリィは静かに頭を下げる。
「はい。皇帝陛下がお許しいただきましたことで、宮殿に潜んでいた賊の残党はこちらで処分いたしました。
その言葉だけでオネストはすべてを察する。
ましてや彼女の鋭い視線が、こちらを射殺さんばかりに向けられているのだ。
これで察することができないほどオネストは愚かではない。
「そうですか。皇帝陛下を危機からあらかじめ守るその忠義、お見事ですなぁアリィ殿」
「恐れ入ります。オネスト大臣」
互いに直接的な言葉を口にすることはない。
だが、言わずともドロテアの話をしているということは二人ともわかっているのだ。
だからこそ、アリィの言葉なき批判も受け止めたうえで微笑み返す。
(ドロテア殿が討たれたのは痛いですが……依頼は大方完了していたようです。ならばこれでよしとしましょうかねぇ)
実のところ、オネストがドロテアに対して成功報酬として挙げていた「アリィの説得」は、オネストにとっても命がけなのだ。そのような危険な橋を渡るくらいならば、全てが終わってからドロテアを処分したほうがよっぽどリスクが少ないというもの。
そしてそれはすでにアリィによって実行されているのだ。
彼にとってはいい落としどころであったと言える。
オネストはアリィに黙ってドロテアを保護していたこと。アリィはオネストに黙ってドロテアの排除に動いていたこと。
お互いに相手の問題は非難せず、ドロテアの存在自体をただの賊として処分する。それだけでいいのだ。
「さしあたり、お二方に申し上げたいことがございます」
「む?」
「ほう?」
主に皇帝からの許可によって動いていたアリィが、「オネストを含めた」二人に話しておきたいということ。
これはつまり、オネストにとっても見逃せる話ではないということだ。
「ブドー大将軍が申しておりました。”ネズミの群れが現れる前には、必ず先に数匹の子ネズミがうろちょろしているものだ”、と。先日の賊は今回のネズミと繋がってはいなかったでしょうが……」
そう言ってアリィは目を細める。
彼女にとっては、これもまた自分のため。だからこそ、そのためにどれだけ血が流れようと知ったことではない。
「どうも、子ネズミが城にいるようです。侍女としてネズミの処分をしたいのですが、お許しいただけますでしょうか」
「大臣。余はアリィに任せてよいと思うのだが、どうだ?」
「えぇ、えぇ。アリィ殿にお任せいたしましょう。よろしくお願いしますよ」
満足そうにオネストは頷く。
過剰防衛がすぎる傾向はあるが、帝国のために敵を排除するその姿勢は、オネストにとっても好ましい。
ましてその人物が有能であるならなおさらだ。
二人の承諾を得たアリィは深々と一礼すると皿の片付けを始める。
話している間に、二人の皿はすでに空になっていた。
「……じきにブドー大将軍が戻ってくると聞いております。彼に話を通してから、実行に移らせていただきます」
「彼の協力が必要なら、私からも話を通しておきましょう」
アリィは台車に食器を乗せると、一礼して部屋を出て行った。
洗い場に移動する途中、反対側からエスデスが歩いてきた。
エスデスもアリィの存在に気がつくと、口をゆがめて話しかけてくる。
「聞いたぞアリィ。ランが死亡したそうだな。今回ばかりはお前の采配であるにもかかわらずの殉職だ」
「えぇ。ですが任務は達成されました。皇帝陛下にも満足していただいております」
暗に「お前は任務すら失敗しただろう」と牽制するアリィ。
それを突かれると面白くないのか、一転して苦々しい表情になったエスデスは興がそがれたといわんばかりに歩き去っていく。
その間際に、アリィに釘を刺すことも忘れない。
「フン、口の回るやつだ。だがもう私が戻ったんだ。私抜きでお前の思うようにイェーガーズを動かせると思うなよ」
「えぇ。ですが、イェーガーズへの指令を私が出せることもお忘れなきよう。それに、あなたにも仕事を頼むと思います」
「……チッ」
この会話より二日後。
ブドーが帰還し、作戦を伝達。さらに数日後、作戦は実行される。
実行の日付やその段取りは……全てアリィに漏れていた。
なぜなら、レジスタンスと革命軍の橋渡しをしていた密偵が……アリィの手先であり、元暗殺部隊・現諜報部隊に所属するメイリーだったのだから。
「……タツ、ミ?」
「…………」
転移先は、闘技場。もちろんその内部や出入り口、至る所に装備に身を包んだ兵たちが配備されている。
そしてその中心、転移先としてマーキングされたところにはブドー大将軍に暗殺部隊、エスデスをはじめとしたイェーガーズが勢ぞろいしていた。
エスデスはナイトレイドがおびき出されるとは聞いていたが、まさかそこに想い人たるタツミがいるとは思わず呆然としている。
周りには兵士。加えて帝具使い数名。さらに帝国最強格。
一方で追いつめられたタツミとラバック。
いかに鍛えられ、帝具を使う二人といえど、ここから逃亡することは……あまりに絶望的だった。
その戦力の揃い具合には、もはや執念すら感じさせる。
絶対に逃がさないという、執念が。
「残念ですよ、リカさん」
侍女に声がかけられ、彼女は震えながら振り返る。
兵士たちの先……戦いには巻き込まれないよう、離れた位置にいたアリィは本当に残念そうに話していた。
もっとも。ドロテアについての情報を集めるさなか、なぜか自分と話をすることを避けていたような彼女たちに、アリィはずっと目をつけていたのだが。
「同僚たる貴方ですが、かばいようもありません」
抵抗も逃亡も、させる気はありませんがね。
革命軍やナジェンダの一手を覆し。
帝国側・アリィの第一手が打ち込まれた。
全ては、名前もないアニメオリジナルの「侍女」から始まった。
えぇ、彼女がアリィのきっかけです。その内面にはセリューなどがモチーフとなりましたが、見た目や肩書きは彼女からです。
今回の策も元はアニメにおけるシュラの策ですが、アリィは情報を全てつかんだ上でもっと徹底的に出ています。
最低でも、殺せるように。
予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください
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IFルート(A,B,Cの3つ)
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アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
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皇帝陛下告白計画
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イルサネリア誕生物語
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アリィとチェルシー、喫茶店にて