バカとテストと召喚獣 観察処分者は女の子?   作:木原@ウィング

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3話

吉井side

さて! いよいよ試験召喚戦争が始まる。僕は召喚獣の扱いは慣れているけど他の人は大丈夫かな?

助けられるんだったらできるだけ助けるつもりだけど……

 

西村「む? 吉井か、丁度良いところに」

 

吉井「え? 西村先生、何ですか?」

 

これから教室に戻ろうって時に職員室前で西村先生に止められた。

どうしたのかな? 

 

西村「いや、お前に観察処分者としての仕事を頼もうと思ってな」

 

吉井「あ~はい、分かりました」

 

あ~忘れていた。私って観察処分者だった。自分から立候補しておいて忘れるなんて私はおバカだな~

……自分で言っておいて悲しくなってきちゃった。

 

「すいません」

 

吉井「ん?」

 

優子「西村先生、自習用のプリントを取りに来ました」

 

西村「おぉ、木下か。いや、今から吉井に持っていってもらおうと思っていた所だったんだが……」

 

優子「……吉井君に?」

 

 

優子さんが何やら不思議そうに聞いて来る。あれ? 優子さんは僕のこと知らないのかな?

自分で言うのもなんだけど、この学校が始まって以来の≪観察処分者≫だよ?

……まぁ、僕の場合は自分から立候補したって言うのが正しいかな。

 

吉井「え~っと、僕ってほら観察処分者だからさ」

 

優子「え? 吉井君って観察処分者だったの?」

 

吉井「う、うん。あれ? 今まで知らなかったの?」

 

優子「え、えぇ。あんまりそういう事に興味もなかったし」

 

へ~意外だなぁ。あ、でも興味が無かったんだったら確かに知らなくて当然か

って、こんな所で話している場合じゃ無かったか。

 

キーンコーンカーンコーン

 

あ、チャイムが鳴った。これで試験召喚戦争が始まったか。

まぁ、その前にこれをAクラスに運ばないとね。

 

吉井「それじゃあ、西村先生。これをAクラスに持っていけば良いんですよね?」

 

西村「あぁ、頼むぞ」

 

吉井「はい、頼まれました!!」

 

優子「あ、わ、私も少し持つわ」

 

吉井「あ~大丈夫大丈夫。こんなの召喚獣で「見つけた!!」え?」

 

「吉井君!! 発見!!」

 

「丁度良いわ!! ここで倒してお願いを聞いてもらいましょう!!」

 

「おのれ、さっきの恨みじゃ!!」

 

なんか、Dクラスの男女達がこっちに走ってくる。

今は仕事しているから後にしてほしいんだけど……

 

「西村先生! Dクラス佐藤が吉井君に数学で挑みます!」

 

「同じくDクラスの佐野、数学で!!」

 

「俺も数学で!!」

 

西村「まてお前ら! 今、吉井は「良いですよ西村先生」吉井……」

 

吉井「ごめん、優子さん。少しの間だけこれを任せていいかな?」

 

優子「え、えぇ。大丈夫だけど」

 

吉井「それじゃあちゃっちゃと終わりにしちゃおうか」

 

「舐めるんじゃねぇぞ!!」

 

「吉井君を倒して……ぐふふ」

 

「煩悩を捨てなさい! 煩悩を持ったまま勝てる相手じゃないよ!!」

 

吉井「そうそう、そこの佐野さんの言うとおりだよ」

 

佐野「え!? よ、吉井君が私の名前を?」

 

西村「承認した、それでは始め!!」

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

Dクラス 佐藤 真知 数学 80      Fクラス 吉井明久 数学 100

Dクラス 佐野 美希 数学 75  VS

Dクラス 伊藤 正信 数学 65

 

「えぇ、嘘!?」

 

「よ、吉井君の点数が」

 

「100だと!? 有り得ない!!」

 

僕の点数に驚くのは嬉しいんだけど、そうやって有り得ないって言われるのは納得がいかないな。

別に、僕は頭が悪いとは1言も言った覚えが無いんだけど?

 

吉井「そんなに驚くことじゃないよ、これが僕なんだから。それよりも、行くよ!!」

 

そう言いながらも僕は召喚獣が持っていた剣を投げて素手で相手の召喚獣たちに向かう。

今回の相手の点数を見て、こっちの方が良いと判断したからだ。

 

伊藤「舐めてんじゃねぇ!!」

 

吉井「別に舐めたいとも舐めようとも思った事は無いよ」

 

佐藤「どっちでも良いから、始めるよ!!」

 

佐藤さんと佐野さんが初めに僕に向かってくる。

僕は召喚獣と「繋がって」それを避ける。

 

伊藤「な、なんであんなにも動けるんだ!?」

 

佐藤「やっぱり、操作になれているから?」

 

佐野「それにしても動きすぎでしょう!!」

 

優子「凄い! あんなに俊敏に動けるなんて」

 

吉井「それじゃあ、こっちも反撃しよっかな?」

 

僕はそのままいつもの様に召喚獣を構える。

そのまま召喚獣を「いつもの構え」で突撃させる

 

伊藤「馬鹿が! 突撃して来たらそれでおしまいだ!」

 

吉井「君がね」

 

僕が突撃してきたのを好機と思ったのか、伊藤君が召喚獣で迎え撃とうとする

……でも、

 

吉井「遅いよ」

 

伊藤「え!? うわぁ!!」

 

佐藤「え、ちょっと!? わ、私まで!!」

 

そのまま伊藤君の召喚獣を飛び越えて背後に回ると腹部を思いっきり殴り飛ばす。

そのままの勢いで佐藤さんの召喚獣を吹き飛ばされる。

 

伊藤 正信・佐藤 真知  数学 0点  戦死

 

よし、一気に減らせた。このまま佐野さんも倒しちゃおっか

 

吉井「さぁ、あとは佐野さんだけだね」

 

佐野「ま、まだ負けないもん!!」

 

吉井「いや、これで終わりだよ」

 

僕の召喚獣がそのまま地面を蹴ってものすごいスピードで佐野さんの召喚獣にめがけて突進する。

そのスピードを見て佐野さんや優子さんだけじゃなく、西村先生も驚いている。

いくら操作になれているからってここまでは動かせないからね。

そんな驚いている隙に佐野さんの召喚獣の腹部を殴って戦死させる。

 

西村「0点になった戦死者は補修~!!」

 

「「「いやだ~!!」」」

 

西村「すまん吉井、それは自分で運んでおいてくれ」

 

吉井「分かりました」

 

そのまま3人を担いで行ってしまった西村先生に頼まれたのでこのままAクラスに行くとしよう。

 

吉井「ごめんね、優子さん。待たせちゃって」

 

優子「う、うぅん。大丈夫」

 

吉井「それじゃあ、さっさとこれを運んじゃおうか」

 

優子「え、えぇ」

 

優子「それにしても、凄かったわね。吉井君の召喚獣の操作技術」

 

吉井「そんな事ないよ。あれは慣れれば誰だって出来るよ」

 

優子「いや、それにしては凄すぎたでしょう。西村先生も驚いていたし」

 

吉井「そうかな?」

 

優子「……吉井君は、謙遜しているのか本気で言っているのか分からないわね」

 

優子さんが何やら呆れたように言っているけど、僕なにか変な事を言ったのかな?

 

 

吉井「着いたね」

 

優子「えぇ、そうね」

 

吉井「……やっぱりこの教室、設備が凄いね」

 

優子「……それは私達も思っているわ。引くくらいに凄いからね」

 

吉井「あ、やっぱりそうなんだ?」

 

優子「えぇ、逆に落ち着かないくらい」

 

あはは、やっぱりやりすぎだって学園長、竹原先生。

これは後で相談に行ったほうが良いかな?

 

吉井「それじゃあ、僕はこれで」

 

優子「えぇ、ありがとう」

 

プリントをAクラスに届け終わったから、僕はそのままFクラスに戻ろう

 

優子「……ねぇ、吉井君」

 

吉井「ん? なに、優子さん?」

 

優子「あなたって……」

 

吉井「? 僕って?」

 

優子「……いや、やっぱり良いわ。急いでいるんでしょう?」

 

吉井「え? あ、うん」

 

優子「それじゃあ、ありがとうね」

 

吉井「うん、それじゃあまたね!!」

 

優子さんは何が聞きたかったのかな? まぁ、また今度聞けば良いか。

さて、急いで戻って試験召喚戦争だ!!

 

吉井side out

 

優子side

結局、聞けなかった。本当に吉井君が……女の子で「半妖」なのかを

代表が言っていた事がまだ信じられなくて聞こうと思ったけど、こういうことをそう易々と聞いて良いのかって思ってしまって聞けなかった。

 

「優子、どうかした?」

 

優子「あ、代表。いえ、何でもないわ」

 

翔子「……今、吉井が居た」

 

優子「なんで分かったの!?」

 

廊下の前まで運んでもらったけど、なんでそれだけで分かったのこの人は!?

さっきまでは本を読んでいたよね、代表!?

 

翔子「嫁の気配を感じるのは得意」

 

優子「代表、それは凄いけどなんか怖い」

 

代表って本当に人間? まさか、代表も「半妖」なんじゃ?

……かくいう私も、「半妖」を1人知っているんだけどね

 

「あら、その話。私たちにも聞かせてくれないかしら?」

 

優子「え?」

 

翔子「良いよ、レミリア」

 

レミリア「ふっふっふ、明久の話だったら私も混ざるのは当然ね」

 

優子「……レミリアさんも吉井君の知り合い?」

 

レミリア「えぇ、明久が小さいころから知っているわ」

 

翔子「……レミリアも小さいけどね」

 

レミリア「う、うるさいわよ! 翔子!!」

 

優子「……代表、レミリアさんと仲良いんだ」

 

翔子「うん」

 

「翔子さんはお嬢様と小さい頃から仲良しなんです」

 

優子「あら、咲夜さんまでこっち来た」

 

咲夜「明久【私の嫁】の話題が聞こえて来たので」

 

優子(咲夜さん、あんたもか)

 

翔子「……咲夜、吉井は私の嫁」

 

レミリア「翔子、寝言は寝て言いなさい?」

 

咲夜「明久は私達の明久です」

 

翔子「認めない、明久はみんなの共通財産」

 

レミリア・咲夜「「そうだった!!」」

 

パチュリー「……なにやっているんだか」

 

美鈴「お、お嬢様。咲夜さんも……」

 

優子「……あなた達は混ざらないの?」

 

パチュリー「混ざる必要が無いもの」

 

美鈴「そうですね~」

 

優子「何で?」

 

美鈴・パチュリー「「だってあの子の師匠だもん」」

 

優子「本当に吉井君って何者!?」

 

何やら騒がしくなってきたAクラス、でもこんなクラスでも話題になる吉井君って一体何者なんだろう?

 

優子side out

 

吉井side

DクラスVSFクラスの試験召喚戦争の火蓋が切って落とされてからしばらくして、前方から一斉に召喚獣を呼び出す合図が声高に響いてきた。

さっき、成り行きでDクラスの人数名を倒したことがあっちに知られているらしくさっきから僕を倒そうとDクラスの人たちが突撃してくる。

それを僕が隊長を務める前線部隊の面々が何とか抑え込んでくれている。

前線の一歩後ろ、中堅部隊に配属された今の僕では、最前線の状況がよく見えないが、視線の向こう側では激しい戦いが行われていることがピリピリと肌で感じ取れた。

まぁ、幻想郷の時よりは何倍も薄いけどね。

 

僕の隣では同じ部隊の島田さんが緊張感漂う中、チルノが僕の頭の上で遠くを見ている。

 

吉井「チルノ、前線の方はどうなっている?」

 

チルノ「う~ん、こっちが苦戦しているみたい」

 

美波「と言うか、何で肩車する必要が有るのかしら?」

 

島田さんは今のチルノを見て何か面白くなさそうに言ってくるけど、どうしたんだろう?

 

吉井「まぁ、それは置いておいて。……ついに始まったみたいね。試召戦争が」

 

美波「そうみたいね。初めての戦争だから、なんだかドキドキしてきたわ」

 

島田さんが何やら楽しそうに笑っている。それを見て僕は少しだけ可愛く思えた。

体の深から湧き上がるこの高揚。久し振りに感じる。これが武者震いだろう。

 

美波「吉井、チルノ。ちゃんとウチらの役割は覚えてる?」

 

チルノ「うん。アタイ達中堅部隊は前線で戦ってる人達のさぽーと?だよね」

 

吉井「そうだよ、チルノ。前線で戦ってる人達が点数を消費して補給する間は、僕達が交代で先行部隊と入れ替わって前線を維持しなくちゃいけないんだ」

 

別に引き受けた覚えはないが、雄二が勝手に僕を中堅部隊の部隊長に任命した。

僕としては、あまり肩が重たくなることはしたくないんだけど……幻想郷でも結構自由気ままに行動していたし。まぁ、決まった以上はしっかり役割を果たさないといけないね。

自分のおかれた状況の重さを改めて認識し、気を引き締める。

 

「戦死者は補習だ!」

 

その時、渡り廊下の先にある新校舎から、聞いたことのある野太い声が響いてきた。この声──西村先生か!

 

「なぁっ!? 鉄人!?」

 

「召喚獣の点数をすべて消費した者は試召戦争終了まで補習室で特別講習を行う。さあ来い敗残兵」

 

恐らく誰かが戦死したんだろう。何やら悲痛な叫びが聞こえてくる。

それにしても、西村先生たち教師人も大変だね。

 

「そ、そんな!? ま、待ってくれ! 鬼の補習は嫌だぁ!」

 

「心配するな。補習が終わる頃には趣味は勉強、尊敬する人物は二宮金次郎という理想的な生徒に仕立て上げてやろう」

 

西村先生、それは指導と言わずに洗脳って言うんです。 まぁ、今の僕は別にそれほど恐れることじゃないしね?

だって、勉強するの楽しいし……あれ? 僕も洗脳されている?

 

「それは補習じゃなくて強制──あ、うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「……田中が連れて行かれた。鉄人の拷問なんてごめんだ。この戦争、絶対に負けられないぞ…………」

 

「俺達も負ければあいつと同じ運命を辿るのか……。くっ、ここは一度引き上げるべきか」

 

ふむ。さっそく僕たちのクラスメイトの一人が戦死してしまったみたいだ。

それによって、Fクラスだけでなく、Dクラスも鉄人に恐怖して戦死を恐れている。相当に酷いものを見たのだろう。

点数をすべて失った生徒の悲惨な末路を目の前で目の当たりにした前線部隊の連中の心中は図りきれない。

試召戦争で点数を失った──戦死した生徒は西村先生に補習室に連行され終結まで監禁される。試召戦争のルールの一つだ。

今頃は僕が戦死させた佐藤さん達もその補修を受けているのか。 ……なんか、申し訳ないな

 

倒した相手への想いを胸に、僕はひっそりと戦場から背を向ける。

 

吉井「島田さん、僕ちょっと急用ができたから保健室に行ってくる。後のことは任せたからね」

 

美波「こらぁっ! 部隊長が一番ビビッてどうするのよ!」

 

吉井「離して島田さん! 鉄人とマンツーマンで補習なんて僕は……耐えられるけど! これ以上、洗脳はされたくないんだ!!」

 

美波「あんた、あれ耐えられるとか凄いわね!? と言うか、落ち着きなさい吉井。試召戦争はまだ始まったばかりでしょうが! ここで中堅部隊長のアンタがいなくなったら前線で戦ってる連中はどうなるのよ! 前衛には木下だっているのよ!」

 

吉井「──っ」

 

島田さんの台詞に体がピタリと停止する。

そうだった。今も前線で戦ってる秀吉達をサポートするのが僕達の役割。それを放棄したら先行部隊が全滅してしまう。

それは、Fクラスの敗北と同義。幻想郷で言えば、ピチュる事と同義!! 目の前の洗脳への恐怖に怯えてその事をすっかり忘れていた。

 

吉井「ご、ごめんね島田さん。ちょっと気が動転してたみたいだ」

 

美波「まったく、しっかりしてよね部隊長」

 

皮肉げにそう言って口を尖らせてくる島田さん。あぁ、そんな目で見ないで。

こんな風にくだらない掛け合いをしている間にも、渡り廊下の向こう側の新校舎では熾烈な戦いが繰り広げられている。

DクラスとFクラスの点数差ではこちらがすぐに押し切られると思っていたけど、予想外に踏ん張れているようだ。

旧校舎からでは新校舎の様子がイマイチ分からない。できれば現状の詳細な情報が知りたいな。

 

吉井「チルノ。前線の様子はどうなってるの?」

 

チルノ「え? んーと、ちょっと待ってて、確かめてくるから」

 

チルノは僕の肩から降りると、足早に渡り廊下まで様子を見に行った。

Dクラスの人たちに気が付かれないその身を小さくして、最前線の只中に飛び込んでいく。

しばらく待っていると、程なくしてチルノが帰ってきた。

 

吉井「あ、お帰りチルノ」

 

チルノ「……ただいま」

 

妙に不機嫌そうな声。どうしたんだろう。

 

吉井「? どうしたの。もしかしてかなり押し負けてたとか?」

 

チルノ「そうじゃないけど、……さっきあっちで「おい、バカが来たぞ!!」ってとても失礼な事を言われた。あきひさ、アイツ等ボコボコにして良い?」

 

吉井「えっ!? そ、そうなんだぁ。ち、チルノ、いくらなんでもボコボコはダメだよ?」

 

チルノ「でもっ!」

 

吉井「だ、か、ら! ……僕がそいつらボコボコにしてあげるよ。チルノがそんなのする必要ないから」

 

美波「吉井、あんた今、物凄く怖いわよ?」

 

吉井「え、そう? 僕はいつも通りのつもりなんだけど?」

 

美波「そ、そうかしら? で、でも、少し落ち着きなさい?」

 

吉井「……分かったよ」

 

……あぁ、ヤバい。島田さんに言われなかったら危なかった。もし島田さんに言われなかったら今頃僕はチルノに対してそんな事を言った奴らを冷たい床の上に転がせていた事だろう。

いけない、ここは幻想郷じゃないし相手は人間なのに……。

 

吉井「それで、前線の様子はどうだった?」

 

急いで話題を変えるべく僕は偵察結果を伺う。

 

チルノ「うん、今のところはアタイが押してる感じ」

 

チルノは前線で見た状況を説明する。

押してるってことは、今の所は前線部隊の連中はDクラスと対等以上に戦えてるってことだろう。

それは、戦況的には僕達が有利なはずだが、どうしてか島田さんの表情は暗い。

 

吉井「他に何かあったの……?」

 

チルノ「んー。……アタイの気のせいかもしれないんだけど。Dクラス側はあんまり前線に力を入れていない気がしたの。敵部隊の人数もアタイらよりかなり少なかったわ」

 

吉井「敵の人数が少ない? それって先行部隊が頑張って数を減らしたんじゃ」

 

チルノ「う~ん、でもそんな感じでも無かったし……」

 

吉井「うーん、じゃあ僕達みたいに後方に待機させているってことかな」

 

美波「そこまでは分からないわ。でも、この情報からするとDクラスは攻めよりも守りを固めているのかな? まるで何かから身を守るみたいに」

 

どういうことだろう。初めての試召戦争ということでまずは様子見を決め込んでいるのだろうか。

僕達みたいに点数で負けているならともかく、全体的に戦力が勝っているDクラスが攻めを躊躇う理由はないような気がするんだけど。

いやでも、さっきだって僕に対して仕掛けてきているのに様子見なんてするのかな?

一部だけがやる気なのかな? ちぐはぐなDクラスの動きに少し不安を覚える。

 

吉井「なんだかきな臭いね。Dクラスは何を考えているんだろう」

 

美波「もしかしたら奇襲を狙ってどこかに隠れてるかもしれないわね。とにかく周囲にも注意を払った方がよさそうよ」

 

吉井「そうだね」

 

「島田! 吉井! チルノ!」

 

と、そこで前方から先行部隊の一人である芝崎君が息を切らして走ってきた。

 

チルノ「どうしたのよ。前線で何かあったの?」

 

「ああ、チルノ。Dクラスのやつら、急に人員を増やしてきやがった。その所為で戦線が徐々に後退してきてる! なんとか生き残っちゃいるが俺達の点数も限界が近い」

 

チルノ「なんですって!」

 

なるほど、こうするために前衛の数を少なくしていたのか。Dクラスもバカじゃない。さすがに前線が押されていると知って人が増やしてきたか。

新たに戦力が投入されたとあっては消耗した先行部隊ではかなり分が悪いだろう。ここは一旦離脱させて点数の補給をするべきだ。

 

吉井「了解。ありがとう芝崎君」

 

「気にするな。とにかく先行部隊はここで後退する。すまんが点数補充の間前線を頼んだ」

 

美波「みんな! 聞いた通り前線部隊が補充試験に入る! 中堅部隊は前線の人間が下がると同時に全員突撃! なんとしても最前線を守り抜くの!」

 

「「「おおおぉぉっ!!!」」」

 

島田さんの号令の下、先行部隊と入れ替わる形で僕達の戦隊がドドドドドドォと砂煙を巻くような勢いで一斉に渡り廊下に押しかけた。

みんなの後の続く形で、僕と美波も新校舎へと走り出す。

 

「明久!」

 

その途中、今まで戦っていた前線部隊の方から僕を呼ぶ声が聞こえた。秀吉だ。

可愛い顔に汗を滴らせながら、秀吉は十数人ほどの中堅部隊と入れ替わるようにこっちに向かって走ってくる。

 

吉井「秀吉! よかった。まだ無事だったんだね!」

 

秀吉「なんとかの。じゃがワシの召喚獣の点数も風前の灯じゃ。これ以上の戦闘はとちとキツイのう」

 

吉井「それじゃあ早く補充試験を受けないと」

 

秀吉「そうじゃな。さすがに全教科を受けている時間はなさそうじゃが、一、二科目でも受けておこう」

 

吉井「うん、分かった。でも、その前に……」

 

そう言うと、秀吉は背後に控えた先行部隊を連れて教室へ引き返そうとしていた。

僕はその前に秀吉の肩を掴んで抱き寄せる。

 

秀吉「あ、明久!?」

 

吉井「……秀吉。召喚獣の扱いは秀吉も僕と同じくらい上手いけど、今回は手加減していたよね?」

 

秀吉「……うむ、流石にここで実力を出して怪しまれるわけにはいかんからの」

 

吉井「うん……僕が話す前から分かってくれていて助かったよ」

 

秀吉「ふふっ、お主の考えなど分かっておる。……それよりも、いい加減離してくれないかの?」

 

吉井「あ、ごめん」

 

秀吉と話し終え、そのまま秀吉が離脱するのを最後まで確認し終えると、僕も主戦場まで足を運ぶ。そこではすでに中堅部隊がDクラスと交戦を開始していた。

 

美波「吉井! 前線部隊は全員撤退した?」

 

廊下の端の方にいた島田さんが僕を見つけて駆け寄ってくる。

 

吉井「うん。全員教室まで逃げ込んだよ。島田さんは? もうDクラスの誰かと戦った?」

 

美波「ええ、かなり苦戦したけど一人補習室に送ってやったわ」

 

さすがは島田さん。点数の差をものともしないその胆力さには恐れ入る。

 

美波「ウチは理数系ならまだ点数はあるほうだからね。けど、あっちは化学教師の五十嵐先生と布施先生を引っ張ってきてるみたい。それとその後ろに学年主任の高橋先生がいたわ」

 

吉井「学年主任ってことは総合科目か。それだけの数の教師を配置してるってことは、Dクラスも勝負に出てるね」

 

きっと秀吉達が引き返してきたのはこれが原因だろう。

個人の勝負では勝ち目のないFクラスにとって、戦力を分散されるのは何よりも痛い行為だ。Dクラスは方針を変えたのか立会人を増やして一気に片を付けに来ている。

 

吉井「なるべく一対一で戦わないように! 周りを囲んで多数で仕留めるんだ!」

 

後方から今も召喚獣を呼び出して交戦している味方に指示を飛ばす。一応指揮官なんだから、それらしいことはしておかないとね。

最底辺クラスである僕達の戦力は最弱だ。一部の生徒は突出しているがそれでも基本能力で負けている以上、どう戦っても僕達はジリ貧になる。

点数で負けている僕らがDクラスの召喚獣に勝つには多対一で取り囲むのが一番効果的で合理的だ。この際一人や二人戦死になっても捨身になって相手召喚獣を討ち取って貰うしかない。

幸いDクラスとFクラスの点数差はそこまで絶望的じゃない。うまく立ち回れば十分戦える範囲内だ。

 

「囲まれるな! 個人の勝負なら俺達に負けはない! Fクラスに包囲網を作らせるな!」

 

向こう側の指揮官の佐々木君も僕に追従するように指示を送っている。

チルノの話では前線部隊の数が少ないって聞いたけど、今は僕らと同等──もしくは少し少ない程度の人数に増えている。

短期戦は間違いなく不利。とすれば戦死者を増やさないためにはなるべき時間を掛けての長期戦が望ましい。ここは僕達も戦闘に加わるべきだろう。

 

吉井「島田さん。化学の点数は何点ぐらい?」

 

美波「60点ぐらいよ。だけどさっきの戦闘で少し消費したから後40点ぐらいしかないわ」

 

やはりFクラス。万全の点数でも心もとないことこの上ないなぁ。

……ここで彼女を連れてくるべきか?

いや、まだ時期が早いか。

 

吉井「それじゃあ布施先生と五十嵐先生は避けた方がよさそうだね。校舎の端を移動して奥にいる高橋先生のところまで行こう」

 

美波「わかったわ」

 

「はっ! そこにいるのは! 見つけましたよお姉さま達ーーーーーっっ!」

 

移動を開始しようとした瞬間、そんな声と共にDクラスの包囲から女生徒が一人僕達に向かって飛び出してきた。

 

美波「なっ!? 美春! ──そういえば美春もDクラスだったわね! すっかり失念してたわ」

 

美春「そうです! 美春はお姉さま達が他の豚野郎にやられてないかと冷や冷やしておりました。だってお姉さま達を倒すのはこの美春なのです!」

 

ふむ、どうやら美春というこの子は美波に用があるらしい。

……ん? ちょっと待った。今、この子は「お姉様達」って言った?

 

吉井「ち、ちょっとストップ!!」

 

美波「な、何よ吉井! いきなりどうしたの!?」

 

吉井「い、今のお姉様達って?」

 

美春「? 何を言っているんですの? だってあなたは「わーわー!!」

 

美波「ちょっと!! いきなり大声出さないでよ!!」

 

吉井「ごごご、ごめん!! い、いきなり大きな声を出したくなる発作が」

 

美波「どんな発作よ!!」

 

危なかった! 美春さんはDクラスで言った約束の事をすっかり忘れているのか!?

今、あのまま続けていたら僕の秘密が大暴露される所だった!!

 

美波「そんなことより、吉井! この子は任せたわ」

 

吉井「いや、ごめん。彼女の相手は島田さんがして」

 

美波「どうしてよ!! ここは男としてウチを守ってくれるんじゃないの!?」

 

吉井「──そうしてあげたいのは山々なんだけど」

 

美春「(*´Д`)ハァハァ。美春はどちらのお姉さまでも愛します!!」

 

吉井「あの子に戦いを勇気は僕にはないんだ。じゃあ頑張って──!」

 

美波「こ、この裏切り者ーーー!」

 

島田さんの悲痛な悲鳴を聞き流しながら僕はゆっくりと召喚範囲外である10メートル先まで下がる。ここならフィールドがないから勝負を申し込まれることはない。

 

美春「さあ美波お姉さま! 美春と一緒に愛の逃避行と行きましょう──試獣召喚《サモン》!」

 

美波「く──っ、やるしかないのね。試獣召喚《サモン》!」

 

二人は召喚獣を呼ぶ言葉を声高に叫ぶ。

その瞬間、二人の足元から幾何学的な模様が浮かび上がり、そして魔方陣の中から、それぞれの召喚獣がゆっくりと姿を現した。

 

島田さんの足元から出てきたのは軍服にサーベルという装備以外、島田さんにそっくりな外見の召喚獣だった。

ただしその大きさは床から肘程度のサイズで、言うなれば『デフォルメされた島田美波』という感じである。

相手も召喚獣の呼び出しを終えており、手に持った剣を構えながら腰を低くしている。今にも襲ってきそうな体勢だ。

 

美波「あんたもしつこいわね──! ウチは同性になんて興味ないって行ってるでしょっ」

 

美春「嘘です! お姉さまはいつまでも美春のお姉さまなんです!」

 

美波「ウチは普通に男が好きなの!」

 

美春「美春とお姉さまの間に豚野郎の入る隙間など1mmもありません! 美春がお姉さまの目を覚まして差し上げます!」

 

美波「──っ」

 

まるで肉食獣を思わせる疾走で相手召喚獣が一気に美波の召喚獣に肉薄する。

美春さん、中々の操作技術ね。これは私も戦ってみたいな。

逃げ切れないと瞬時に悟り、島田さんが咄嗟にサーベルで振り下ろされる剣を防いだ瞬間、二体の召喚獣の間に小さな火花が散った。

 

美波「は──っ!」

 

そのまま島田さんは力任せに武器を振りかぶり相手の剣を弾き返す。さすが、すでにDクラスの一人を下した実力はあるな。

僅かに後退した相手の召喚獣は弾かれた剣を持ち直し体勢を整える。島田さんもそれに合わせて僅かに前に進んで距離感を図っていると、それぞれの召喚獣の上に点数が表示された。

 

Fクラス 島田美波 

化学 42点

 

VS

 

化学 90点

Dクラス 清水美晴 

 

うわっ。倍以上の点数差だ。これはかなりヤバイかも。

 

美春「行きます!」

 

美波「くぅ!」

 

再び美春さんは島田さんの召喚獣の前まで詰め寄り左から右へ、剣を一閃する。

さっきは力を抜いていたのか、島田さんの召喚獣はその勢いを殺せず吹き飛ばされてしまった。

無理もない。この点数の差は絶望的とも言えるだろう。

 

美春「さあお姉さま。これで美春の勝ちです」

 

倒れた召喚獣に剣を突きつけ勝利宣言を告げる。

 

美波「──っ! い、嫌よ! 補習室だけは嫌ぁ!」

 

さっき戦死した田中君の断末魔を思い出したのか、島田さんは子供のように騒ぎ出した。だがこのままだと間違いなく補習室へ連行されるだろう。

……あの子に近づくのは色々な意味で怖いけど、ここで大事な戦力を失うのは痛いし──仕方ない!

 

吉井「試獣召喚《サモン!》」

 

召喚フィールドに足を踏み入れ召喚を開始する。

学ランに木刀というなんとも頼りない出で立ちの僕の召喚獣は、現れると同時に今も島田さんの召喚獣に剣を振り下ろそうとしている美春さんの召喚獣に突進をかました。

完全に島田さんしか見ていなかったのか、美春さんは防御の体勢もとらず攻撃を受けた。

 

Fクラス 吉井明久 

化学 49点

 

VS

 

化学 68点

Dクラス 清水美晴

 

うわぁ。いくら何でも適当に解きすぎたな。僕の化学の点数も他に負けず劣らず弱いなぁ……。

まぁ、Fクラスとしては普通位に思われるから良いかな

 

美波「っ!? 吉井!」

 

美春「んなっ!? そ、そんな……。美春とお姉さまの愛の語らいに……混ざりに来てくださったんですね!!」

 

吉井「悪いけど、ここで島田さんを死なせるわけにはいかないし、混ざりに来たつもりも無いんだ」

 

今後の戦いに支障をきたすしね。

 

美波「吉井……。そんなにウチのこと……」

 

目をハートマークにしながら僕の召喚獣に剣を向けて突撃してくる──! 怖い! やっぱりこの子怖いよ!

 

吉井「うわぁっと!」

 

振り下ろされる剣を後ろに下がってかわす。

しかし美春さんは止まることなく、まるで暴風みたいに剣を振り回して攻撃してくる。あれを一発でも受けたらどんな激痛が走るやら、想像もしたくないな。

こっちが攻撃する暇もないほど連続で繰り出される剣戟をこっちは紙一重で交わし続けるしかできない。くそ、なんて激しい攻撃なんだ。この子、完全に僕を殺りにきてるよ。

 

美春「──大人しく切られてください!」

 

吉井「無茶言わないでよ!」

 

「大丈夫か島田、吉井! 援護するぞ──試獣召喚《サモン》!」

 

吉井「君は──須川君っ!」

 

同じ部隊の須川君が召喚獣を召喚して相手に切りかかった。

 

Fクラス 須川亮

化学 76点

 

VS

 

化学 39点

Dクラス 清水美晴

 

美春「く──っ。しまった。点数が」

 

不意打ちが効いたのか召喚獣の点数はかなり減っていた。

……でも、ここは

 

須川「これで終わりだ!」

 

吉井「させない!」

 

間髪いれずに振りかぶった須川君の召喚獣の攻撃を僕の召喚獣が剣で受け止める。

 

須川「んな! なにをしているんだ吉井!!」

 

美波「そうよ! なんで今、止めたの!?」

 

吉井「2人とも、今は僕が美春さんと戦っているんだ。邪魔しないでくれ」

 

美春「豚野郎が不意打ちをした所で美春を止められると思ったら大間違いです。地獄に落ちなさい!」

 

すでに瀕死だというのにこの気迫。一体何が彼女をこんなに突き動かしているんだ!

だからこそ、今は全力でこの子と戦いたい!

 

吉井「さぁ、美春さん。続きをやろう。僕を倒せたら……好きにしても良いよ?」

 

美春「ッ!? ……今の言葉に嘘偽りは無いですね?」

 

吉井「うん、無いよ」

 

僕のその宣言を受けて美春さんの目がさっきよりも鋭くなった。

よし、本気にさせることに成功した。このままやらせてもらおうか。

 

美春「行きます!!」

 

吉井「あぁ、来い!!」

 

美春さんの召喚獣が僕の召喚獣の懐に飛び込んでくる。それを僕は木刀で横なぎに一閃する。

それを受ける前に美春さんの召喚獣も飛んで避ける。

うん、やっぱり召喚獣の扱いが上手い。これは幻想対に来てもらいたいね。

……駄目だ、あっちの人たちの貞操が危ない!!

 

吉井「やるね、美春さん!!」

 

美春「美春の愛の力はこの程度では無いです!!」

 

吉井「そうだね……でも、これで終わりだよ」

 

僕の召喚獣が腰に差した木刀に手をかけてそのまま構える。

それを見て少し警戒する美春さんだけど、すぐにまた懐に飛び込んで来る。

 

吉井「……楼観剣  一の型 雫」

 

それだけ言って僕の召喚獣は消える。否、歩いている。

他のみんなは呆然としているけど、見ていたのなら分かる者だったら分かっただろう。

僕の召喚獣が「一瞬で」美春さんの召喚獣の心臓部を突いて見せたのを。

 

美春「そ、そんな……い、一瞬で美春の召喚獣を」

 

吉井「……妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど無し」

 

召喚獣も人と同じく弱点が存在する。腕や足を切られた程度じゃ大して点数は減らせないが、首や心臓のある胸辺りを攻撃すれば運がよければ即死させることもできる。

僕は美春さんの召喚獣に心臓部を突いて、即死させただけ。点数を失った召喚獣は霧のように霧散して消えていった。

 

美波「あ、危なかった。危うく私達まで戦死するところだったわ、助かったわ須川。さあ西村先生! この戦死者をさっさと補習室へ連行してください!」

 

西村「うむ、さあ行くぞ清水」

 

美春「み、美春は諦めませんから! 絶対にお姉さま達の愛を手に入れて見せます!」

 

美波「いい加減諦めなさいよもうっ!」

 

なんていうか。変わった子だなぁ。

でも、面白かったなぁ

 

美春「ブタヤロウ……。私に不意打ちをした事、いつか必ず後悔させて血祭りにアゲテやりますカラ。カクゴしていなさい……」

 

最後に須川君に対して大変危険な捨て台詞を残して清水さんは補習室に連行されていった。

須川君は夜道に気をつけたほうがいいかもしれないな…………。

 

美波「よ、吉井……」

 

吉井「うん? どうしたの島田さん?」

 

美波「……さっきは助けてくれてありがとう…………。ウチ、すっごく嬉しかった。それに……格好良かった」

 

すたすたと僕の前までやってきた島田さんは顔を赤くしてモジモジしながらお礼を言ってきた。

うーん、嬉しいけどこうして改まって言われるとなんだか照れくさいな……。

僕としては、美春さんとただ戦ってみたかったっていう理由も有ったんだけどね。

 

吉井「き、気にしないで。化学の点数も消費しちゃったし本陣に戻って補給試験を受けてくるといいよ」

 

美波「うん…………そうする」

 

吉井「────?」

 

やけにしおらしい島田さんの態度に返って疑問を抱く。

あ、ひょっとして僕が危ない所を助けたことで変な気を抱かせちゃったのかな。暴力を振るってくる僕の天敵とはいえ島田さんも一人の女子。

うーん、これは後々の誤解を無くすために言っておいた方がいいかな。

 

吉井「あのね島田さん」

 

美波「な、なに……?」

 

吉井「僕が島田さんを助けたのは試召戦争に勝つためであって、別に島田さんのことなんてなんとも思ってないから大丈夫だよ」

 

バキッ!

 

吉井「痛だぁーーーーっ! どうしてそこで僕の関節を外すのーー!?」

 

美波「あんたは毎度毎度一言多いのよぉーー!」

 

吉井「ぎゃああっ!? 僕の脊椎が人体にあるまじき方向へ曲がっていくぅっ!?」

 

須川「落ち着け島田! 吉井隊長は味方だぞ!」

 

美春「敵! やっぱりコイツはウチの敵よぉーっ!」

 

僕の天敵だから、否定できない……っ。

 

「おい……」

 

美波「え?」

 

あ、ま、不味い!!

さっきから見なかったから忘れていた!!

 

チルノ「アンタ、あきひさに何をしているの?」

 

ち、チルノ!! すっごい怒っている!!

 

吉井「す、須川君! 美波を早く本陣に連れて行って!」

 

須川「り、了解」

 

美波「こらぁ待ちなさいよ吉井!」

 

須川君に羽交い絞めにされながら、美波は本陣であるFクラスへと戻っていく。危うく味方に殺されるところだったよ……。

……その味方も味方に殺される所だったけどね。

 

吉井「……チルノ、僕は大丈夫だから」

 

チルノ「どこが、さっき凄く叫んでいたのに」

 

吉井「こんなの、幻想郷じゃいつものことだったでしょう?」

 

チルノ「それでも……」

 

吉井「良いんだ、チルノ。怒ってくれて、ありがとう」

 

僕はチルノの頭を撫でてどうにか落ち着かせる。少しだけチルノの機嫌が良くなってきた。

危なかった、島田さん。……君はもう少し、落ち着いて周りを見る癖をつけないと死ぬことになるよ?

 

吉井「さあ、秀吉達が補給試験を終えるまで耐えるんだ! 前線を守りきれるように!」

 

剣戟や怒号が飛び交う戦場に負けないよう大声で呼びかける。

こっちも疲弊しているけど、向こうだってかなりダメージを与えられている。

先行部隊が回復すればまだなんとか乗り切られるレベルだ。ここからが僕達の独壇場だ──!

 

 

 

「吉井隊長! 横溝がやられた! 布施先生側は残り二人だ!」

 

「総合科目側の藤堂が戦死しそうだ! 誰か助けてやってくれ!」

 

が、戦況は想像以上に劣勢だった。

部隊の人数はすでに半分以下まで減らされて、残りの戦力の点数もそこを尽きかけてる。

できれば本陣の方へ援軍を求めたいけど、そうしたら作戦につぎ込む戦力がなくなってしまう。

ここは僕達だけで喰い止めるしかない──!

 

吉井「布施先生側は防御に専念して! 五十嵐先生側の人は総合科目と切り替えながら臨機応変に戦うんだ! 藤堂君は可愛そうだけど勝利のための犠牲になって貰おう!」

 

「「「了解!」」」

 

戦いの喧騒の負けないよう大きな声で指示を出すと、みんな僕の言う通りの行動に移ってくれる。一応隊長として認めてくれているらしい。

 

「Fクラスのヤツ、明らかに時間稼ぎが目的だぞ」

 

「思い通りにさせるな! 力はこっちの方が有利だ! Fクラスを切り崩していけぇ!」

 

「だ、だけど、もうもたねえ!」

 

「戦力が足りねえ! このままじゃこっちも全滅だ!」

 

Dクラスがこちらの意図に気がつき始めた。これはますますやりづらくなる。

でも、Dクラスの人達も満身創痍だ。

僕達の点数ももうギリギリだけど、これ以上は戦死を覚悟して持ち越えないといけない。

どんどん不利になる状況に下唇を噛んでいると、島田さんを本陣に連れて行った須川君が血相を変えて戻ってきた。

 

須川「吉井! Dクラスのやつら、数学の木内を連れ出したらしい!」

 

吉井「なんだって!?」

 

数学の木内先生といえば、採点がきびしい変わりに採点の速さが群を抜いていることで有名な先生だ。

Dクラスのやつら。ついに決着に踏み込んできたか。

 

────雄二に託された僕達の作戦はとにかく時間を稼ぐ事。前線を長く保つこと。

 

だけど、数学だと僕の点数がばれてしまう。でも、ここで愚図って動かなかったら部隊はッ!!

すでに部隊は敗戦濃厚状態だ。長くても後10分持つかどうか…………。

 

「吉井隊長! 布施先生側が後一人だ! もう後がねえ!」

 

「Dクラス! このまま敵部隊長の吉井を攻め落とせ!」

 

「田村直人、戦死!」

 

「くそぉっ! ここまでなのか!」

 

生き残った味方も残り数人。やばい。このままじゃ本隊が到着する前に全滅してしまう!

 

「く、くっそぉぉっっ!!」

 

絶体絶命の窮地かと思われた、その時──、、

 

 

吉井「試獣召喚《サモン》────っ!」

 

僕は今後の事よりも、今消えそうな味方を守るために行動する!!

 

吉井「みんな、ごめん! 待たせた!!」

 

 Fクラス 吉井明久 数学 100

 

「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????」」」」」」」

 

僕の点数を見てD・Fクラスの面々が驚愕の声を上げる。

みんな、僕がバカだと思っていたからこの点数に驚いているんだろう。

そんな風に僕の前で驚いているのは命取りだけどね!!

僕の召喚獣はそのまま走りながらその場の召喚獣たちを切り裂いていく。

 

Dクラス モブ×10 戦死

 

西村「戦死者は補修~!!」

 

「「「「「「「「「いやぁぁぁぁ!!!!」」」」」」」」」」

 

僕が倒したDクラスのみんなが西村先生に運ばれていく。

 

「お、おい吉井?」

 

「……なに?」

 

「さっきの点数は何だよ!?」

 

「お前、まさか……」

 

あぁ、ばれちゃったか。

 

「「「「「「カンニングしたのか!?」」」」」」

 

吉井「いや違うから!! ケンカ売ってんの!?」

 

何で僕がカンニングなんかしないといけないんだ!!

せっかく僕が助けたのに!!

 

「いや、だってあの吉井だぞ!?」

 

「馬鹿の代名詞である吉井だぞ!?」

 

吉井「よし、そんなに補修を受けたいんだったらそう言ってよ。今すぐに受けさせてあげるから!!」

 

須川「じょ、冗談だ。そう怒るなって」

 

須川君が止めてくれるけど、今のは本気でムカついた。

全く、命拾いしたね。みんな

 

吉井「ふん!! 点数が残り少ない人は戦線を離脱して補充試験を受けて来て! まだ余裕がある人と本隊のもう半分はこのままDクラスに行って相手の戦力を一掃するよ!」

 

「「「おおおおおおおおっ!!」」」

 

僕の指示と共に味方の部隊がこれまでにないほどの声を上げた。

多分、僕のさっきのあの点数を見て勝てると思っているのだろう。

そのまま僕たちは、Dクラスの召喚獣をゴミのように蹴散らしていく。

 

「Fクラス近藤! Dクラス中野に世界史での勝負を申し込む!」

 

「なっ!? 世界史だと! くそ! Fクラスめ、田中先生を連れていたのか──!」

 

「こっちにもいるぜ。俺はDクラス塚本に日本史で勝負を申し込む!」

 

「俺は地理だ!」

 

須川「なら俺は英語でやるぜ!」

 

「く──っ」

 

敵の部隊長である塚本君の周辺にたくさんのFクラスの本隊と教師が集まる。

部隊の点数が回復したおかげで、僕を筆頭に復活したFクラスの戦力は確実にDクラス教室前の部隊の数を減らしていっていた。

さっきまで不利な形勢だった陣営は逆転している──!

 

「Dクラス塚本。討ち取ったりーーー!」

 

一際大きな声が上がった。今まで散々苦戦させられていたDクラスの前衛隊長をようやく倒せたらしい。

放課後という時間もあることで、下校中の生徒の人ごみに紛れ奇襲しやすかったというのもあるだろう。

 

「遅れるな! まだここまでは想定内だ! Dクラス本陣! これ以上前線を進ませないよう吉井君を取り囲め!」

 

いよいよ決着かと思われた時、新校舎の前線より向こう──Dクラスの教室の中からそんな大声が廊下に響き渡った。

 

吉井「この声──平賀君かっ」

 

僕は驚きながら声のした方へ振り向く。

Dクラス代表、平賀君が教室内にいた本隊を連れて現れた。前線の陣形を崩されてついに姿を現したのか。

平賀君の前には、前線に立っていた部隊の倍ほどの本隊が集まっていた。

 

その数────ざっと十五人以上──。

 

………えっ? な、なんだ!?

 

吉井「ってなにこの人数──っ!?」

 

どういうこと!? 明らかに人員過多だと思うんだけど!? クラスの3分の2が本隊ってちょっとおかしくない!? 

チルノが妙に敵の前線の人数が少ないって言っていたし、美波が何か有るかもって言っていたのはこういうことだったのか。でもどうして……?

 

「なんだありゃあ。数が多すぎるだろ!?」

 

「Dクラスが戦力配分をミスったと思っていたのに!!」

 

驚く僕や周囲のFクラスの仲間と対照的に、平賀君は余裕そうに笑っている。

 

平賀「吉井君がFクラスに居るって聞いた時からこうするって決めていたんだ」

 

吉井「なんで──」

 

平賀「FクラスにAクラスレベルの学力を持つ君がいるんだから当然だろう?」

 

僕の問いかけに、平賀君は小さい声で答えてくれる。小声のお蔭でFクラスの他の面々には聞かれていない。

 

吉井「……買い被りすぎだよ。まさか、僕対策でDクラスは部隊を組んでたっていうの?」

 

平賀「そういうことだ。新学期始まって早々だったけど、こっちには情報を集める事に特化している人がいたからね。お陰でいろんな噂が耳に入るんでね。例えば──振り分け試験に参加出来ていない生徒が居るとかね」

 

吉井「……それじゃあ」

 

平賀「ああ。元々前線部隊は君を引きずり出すための囮。Fクラスの点数程度じゃあ多人数で包囲でもしない限り、代表を討ち取る事はできないからね」

 

平賀君が話している間にもDクラスの人達は包囲網を固めていく。

 

平賀「だったらこっちは君一人さえ封じ込めてしまえば勝利は確定する。あえて前線を薄めにして本隊の人員を増やしたのはその為だ。Aクラスレベルの学力を持つ君を討ち取るんだ、念には念を入れておかないと危ないだろ? 分かったかい?」

 

吉井「……うん、良く分かったよ」

 

文「あやや~明久さんも年貢の納め時ですね~」

 

平賀「まぁ、FクラスとDクラスじゃそもそも勝利条件が違うんだよ」

 

余裕ぶった態度で平賀君はぺらぺらと口上を並べ立てる。

僕達のクラスは数で囲んで戦うしかなかった。

対してDクラスは僕や秀吉達さえ無力化してしまえば後は怖いものなんてない。

Fクラス程度ならば点数に物を言わせた力任せで突っ込んでいっても勝利を手に入れられる。

 

────つまり、はじめからDクラスの標的は代表である雄二ではなく、Fクラスの切り札である僕や秀吉だったんだ。

最初の前衛部隊だった秀吉が消耗して僕が出てくるところまで、すべて向こうの思惑通りだったってことか──!

 

吉井「──っ」

 

まんまと敵の策に溺れたことに歯噛みしているうちに、僕達の周囲にDクラスの本隊が集まって来ていた。

相手も確実に僕を仕留められるよう慎重なのか。十数人という一人を相手にするのは多すぎる人数で徐々に逃げ道を塞いでいく。不味い、これだけ相手にしたら確実に戦死してしまう!

 

吉井「十、十一、十二……、さすがにこれだけの部隊で攻められたら……。抑えることはできても、突破は難しいね……」

 

周囲の状況を確認しながら、僕は僅かに後ずさろうとしたところで、それができないと気づき足を止めた。

背後はフィールドの召喚範囲外。ここで僕がフィールドを出てしまえば、敵前逃亡ということで失格。補習室送りになってしまうからだ。

 

本隊の後ろに控えた平賀君はすぅっと手を掲げる。

まるで──配下の兵隊に命じるかのように。

 

「Dクラス本隊! 全力を持って吉井君を討ち取れ──っ!」

 

「「「「「「「「「試獣召喚《サモン》──っ!!!」」」」」」」」」」」

 

平賀君の号令の下、Dクラス本隊は一斉に召喚を開始した!

 

「させねぇ! 試獣召喚《サモン》!」

 

「吉井は殺らせねえ!」

 

「Dクラスの奴らに思い知らせてやれ!! 俺達だってやれば出来るってな!!」

 

Fクラスも召喚獣を呼び出し僕を攻撃しようとした召喚獣の間に入りかち合う。といえこの人数だ。向こうの方が戦力で勝っている以上、不利なのは否めない。

皮肉にも、さっきまで僕らがDクラスに対してやっていた作戦をそのまんまお返しされていた。

 

吉井「うっ──この!」

 

「やぁ!」

 

吉井「っ!?」

 

僕が召喚獣の持った武器で一体、敵召喚獣を葬ると同時に、背後から別の召喚獣の剣が剣を振り下ろす。

 

Fクラス 吉井明久    Dクラス 前原圭吾

世界史 150点    VS 世界史 85点

 

無防備な背中に攻撃な受けた所為で、僕の点数は著しく減っていた。

それを見計らったかのように、僕を囲んでいた敵は上下左右から縦横無尽に攻撃を繰り出してくる。

 

急いで召喚獣と繋がって、横方向から攻撃を加えようとしていた召喚獣を木刀で受け止めた。

 

「くぅ──痛ぅっ」

 

痛つっ、……強く繋がりすぎてフィードバックが。

だが泣き言を言ってる場合じゃない。ここで戦死してしまったらその時点で僕達の敗北は決定するんだから──!

 

Fクラス 吉井明久    Dクラス 斉藤信也

          VS

 

世界史 100点        世界史 45点 

 

相手はすでにダメージを負っていたのか。少しの点数でもなんとか倒すことが出来た。

 

「Aクラス並の学力を持っていようが所詮は一人。数で囲めば怖くはない!」

 

吉井「ああもうっ。やりづらい!」

 

「胸が痛いけど、これもクラスの為! そして吉井君を好きにする為に!! 吉井君、覚悟──っ!」

 

須川「やらせるか!」

 

「きゃあっ!?」

 

横から来た召喚獣を須川君の召喚獣が弾き返す。

すると、召喚獣の主らしきおさげの女の子は驚いた顔で僕を見てきた。

 

「あ、アキちゃ……吉井君!」

 

吉井「え?」

 

今、この子は僕の事をアキちゃんって呼ぼうとした!?

なんなん!? Dクラスの人達は約束を守る気は無いのか!?

 

吉井「申し訳ないけどここで戦死してもらうよ──!」

 

召喚獣に木刀を真っ直ぐ構えさせる。

そして陸上ランナーを思わせる疾走で敵の眼前まで迫り迷うことなく敵召喚獣の頭に木刀を振り下ろした。

 

Fクラス 吉井明久    Dクラス 玉野美紀

 

世界史 70点    VS  世界史 60点

 

 

ぼうっとしていたのか、玉野という女生徒は一切抵抗せず、まるで吸い込まれるように木刀による攻撃を受けて点数をすべて失った。

 

美紀「うっ。やられました。さすがアキちゃん──吉井君」

 

「あの、さっきから気になってたんだけど玉野さん、どうして僕のことをアキちゃんって呼ぶの?」

 

美紀「だって……アキちゃんはアキちゃんです」

 

……僕の事をアキちゃんって呼ぶのは幻想郷の人達位なんだけど。

……まさかね?

 

吉井「玉野さん。僕がDクラスで言った事を覚えていない?」

 

美紀「? 何か言っていたっけ?」

 

吉井「うん、聞いていなかったんだね!?」

 

結局玉野さんはそのまま鉄人に連行されて行った。

……他の子も気まずそうに顔を背けているのを見て悟った。

「あぁ、この子達。ちゃんと聞いていなかったんだ」と

 

「ええい、くそ! まだDクラスの包囲網を崩せないのか!」

 

「Dクラスの連中、何か物凄く動くんだよ!!」

 

「何なんだ、一体!!」

 

Fクラスからそんな悲痛な声が耳に入る。

Dクラスのみんな、なんでそんなにも操作が上手いの!?

でも、このままじゃお互いジリ貧だ。最悪両陣営全滅という結末になりかねない。

 

吉井「────こうなったら、ここからは本気で落としに行くよ」

 

ここにきて、僕の召喚獣は逃げから攻めの姿勢に切り替わる。

これ以上は長引かせない。本気だ。

僕のその気配を感じたのか、Fクラスのみんなも離れる。

 

「うおおおおおおおりゃああああああああっ!!!!」

 

「なっ!? なんだ!? 今、吉井の召喚獣から斬撃が!」

 

「なにこの能力! 腕輪じゃないよね!?」

 

お生憎、今回のテストでは僕は腕輪を1つも持っていない。これは僕の師匠から教わった技だ。

 

楼観剣 三の型 風切 斬撃を大量に飛ばす技

 

僕の攻撃に面食らったのか、包囲網に綻びができ始める。

このまま突破をッ!!

 

文「行かせませんよ!! 明久さん!!」

 

吉井「っく、文さん!!」

 

突破しようとした先に──文さんが!

文さんは確か……

 

Dクラス 射命丸文     Fクラス 吉井明久

世界史 200点     VS 世界史 70点

 

こんな点数じゃ、流石に勝てないな。

くそっ! ここまでか

 

文「あやや~明久さん。恨まないでくださいね~」

 

文の操る召喚獣が僕の召喚獣に切りかかる!!

 

「あきひさ!!」

 

そんな声が聞こえるのと同時に僕の召喚獣が飛ばされた。

 

吉井「な、なに!」

 

チルノ「あきひさ、大丈夫!?」

 

お空「遅れてごめんね! 明久!!」

 

吉井「お空!? チルノも!!」

 

文「あやや~これは少し面倒な相手が来ましたね」

 

吉井「チルノ、一体何処に行っていたの!?」

 

チルノ「最強のアタイが、援軍を連れて来たの!!」

 

チルノがそう言うと向こうから秀吉たちが走ってくる。

 

平賀「なっ! しまった!! あっちの援軍が!!」

 

チルノ「そういうこと!! さぁ、文。私たちと戦ってもらうよ!!」

 

お空「うにゅ~負けないよ!!」

 

文「っく、まさかこのタイミングで来るなんて!!」

 

お空「明久、先に行って!!」

 

吉井「チルノ、お空! ありがとう!!」

 

僕はお礼を言ってそのまま平賀君の元に向かう。

周りの包囲網を引いていた人たちも僕たちの援軍と戦っていている。

そして、僕はようやく平賀君の前に来れた!!

 

吉井「勝負だよ平賀君! 氏家先生! Fクラス吉井明久、Dクラス代表平賀源二に日本史勝負を──」

 

「Dクラス前田由紀、受けます!」

 

「坂上郁夫! 吉井明久に召喚獣勝負を申し込む!」

 

吉井「っ!? まさか、近衛部隊!? 代表の護衛か!」

 

突如目の前に男女の二人組みが現れ道を阻む。

くっ、包囲網のほかにまだ護衛がいるなんて、なんて慎重なんだ!

 

「「「試獣召喚《サモン》!!」」」

 

二体の召喚獣を前に、後ろから同じタイミングで召喚獣の呼び声が聞こえてきた。

 

Fクラス 木下秀吉    Dクラス 前田由紀

日本史 90点    VS Dクラス 谷口 快斗

             日本史 101点

             日本史 99点

 

僕の前まで来た二人は、新たに現れた召喚獣を見据えて武器を構える。

 

吉井「秀吉!? 来てくれたんだね!」

 

秀吉「うむ。護衛はワシが引き付けるのじゃ!」

 

吉井「秀吉! ありがとう」

 

僕に背中を向けたままそう言って、近衛部隊を引き受けてくれた秀吉に感謝し、僕は護衛の間を走って抜けた。

召喚獣勝負を挑まれた場合にも拘らず召喚しなかった場合、戦闘放棄と見なされて補習室行きとなるが、戦いを”交代”するならばルール違反にはならずに済む。

本当、僕は良い友人を持ったよ。

 

「──っく! たった1人で俺達に勝てると思ってるのか!」

 

秀吉「思っておる。じゃが、ワシは今、お主らを倒す理由はないのじゃ」

 

「何だと!?」

 

秀吉「明久がそっちの代表を討ち取るまでの時間稼ぎをするだけじゃ!!」

 

すぐ後ろから秀吉達のそんな会話が聞こえて来た。信頼してもらっているんだ。

だったら、その信頼にこたえる義務が僕にはある!!

後は、僕が平賀君を倒せば新学期初めての試召戦争は終結する──!

 

平賀「そ、そんなバカな……」

 

吉井「さあ、これで君を守る壁はなくなったよ。ここで最期おわりだ。試獣召喚《サモン》──っ!」

 

平賀「くっ! 試獣召喚《サモン》!」

 

呼び声に応えて、お互いの足元に幾何学的な魔方陣が現れる。その中から、召喚者をデフォルメされた召喚獣を姿を現した。

勝負科目は日本史。戦争終結間際のこの瞬間、ついに午前の猛勉強の成果を試す時が訪れた。

 

Fクラス 吉井明久   Dクラス 平賀源二

日本史 200点  VS日本史 140点

 

 

僕の点数は200点。日本史は得意だから手を抜いた他の教科に比べれば格段に良い点数だ。

だが相手はDクラスの代表、油断はしない。

 

平賀「────ははっ」

 

僕の点数を見た平賀君が、焦りの表情から一転、頬を緩ませて笑っている。

 

平賀「流石だよ、吉井君。やっぱり君はFクラスなんかは似合わない位の点数だ」

 

吉井「……そうでもないよ」

 

平賀「謙遜しなくていいよ。まぁ、こんな風に喋るのはいつでも出来るから……始めようか」

 

吉井「そうだね、平賀君。僕も全力でやらせてもらうよ!!」

 

平賀「ふんっ。──じゃあ僕も本気で君を戦死させてみせるよ!!」

 

主の命令を受け、平賀君の足元に出現した召喚獣が僕の召喚獣を切り倒そうと襲い掛かってきた。

 

吉井「危なっ!」

 

横に薙ぎ払う剣を屈んで回避する。

 

平賀「良く言うよ! 余裕で避ける癖に。そらっ! 足払いだ!」

 

吉井「甘いよ!!」

 

平賀君の召喚獣が次の攻撃態勢に入る前に、僕の召喚獣は腰を低くしたままの姿勢で木刀で平賀君の召喚獣の膝近くを横に一閃する!

 

平賀「っく!?」

 

吉井「そのまま追撃っ!」

 

足を崩され地面に倒れようとしている召喚獣に追い討ちを掛けるように、その後頭部に手を当てて床に叩きつける。

 

「ど、どうしてあんなにも召喚獣が操れるの? いくら観察処分者だからって!」

 

秀吉の相手をしていた前田さんが自分の勝負も忘れて、僕達の方へ顔を向け叫ぶ。

 

吉井「まあ、一応《観察処分者》の数少ない利点の……慣れってやつかな」

 

前田「慣れ?」

 

吉井「ようするに、日々の雑用で召喚獣を使うのに慣れてるってことだよ」

 

今日初めて試召戦争を体験し、幾重もの戦闘を行って分かった。本当は召喚獣の操作が思った以上に難しい。

 

召喚獣は。見た目形こそ人間と同じだが、その大きさや視界、足や手の長さから歩幅に至るまで細かい部分でいくつもの生身の人間との違いがある。

その召喚獣を自分の手足の如く思い通りに操作するというのは、簡単なようでかなり難しいのだ。

 

その中で、僕だけは《観察処分者》として荷物持ちをしたりグラウンドの整備をする為に何度も召喚し、痛みや疲労を共有してきたおかげか、人より召喚獣を細かく動かせる。『走る』『曲がる』程度の操作では雑用なんてできないからね。

 

吉井「そりゃ!」

 

話ながらも僕は的確に平賀君の召喚獣に攻撃を与えて行く。鎧の上からだから大したダメージにはならないだろうが、数回も続ければ確実に点数は底を尽く──っ。

 

Fクラス 吉井明久  Dクラス 平賀源二 

日本史 200点  VS 日本史 89点

 

表示された点数を見ると、倍近い差が広がっている。

 

平賀「そ、そんな。一撃も入れられない……」

 

今度こそ、平賀君は渇いた声で動揺の言葉を吐いた。

 

吉井「言ったでしょう? 本気で行くって」

 

僕はそれだけ言って平賀君の召喚獣に向けて刀を構える。

その構えを見た平賀君は防御の体勢を取ろうとするけど……遅い

 

吉井「楼観剣  ニの型 叢雲」

 

その呟きと共に僕の召喚獣が平賀君の召喚獣の懐に入り首を切り裂く。

Dクラス代表 平賀源二

日本史 0点 戦死

 

0点になった召喚獣は、自分が倒されたことすら気づいていないかのように、両手に剣を持ったまま消え去る。

 

こうして初めての試験召喚戦争は僕達Fクラスの勝利で幕が閉じた。


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