バカとテストと召喚獣 観察処分者は女の子? 作:木原@ウィング
だから途中で投げ出しちゃうのに
吉井side
あぁ、なんて事だ。さらしを巻き直していたら本当に遅刻してしまった。
いや、学校に入るから遅刻にはならない……かな? いや、やっぱり遅刻だよね
う~ん、入りにくいなぁ。初日から遅刻何て印象悪いよぉ
でも、でもなぁ……
「あの吉井「さん」」
吉井「は、はい!?」
いきなりさんで呼ばれた事に思わず驚いて声をあげてしまう。
後ろに立って居たのは福原先生がいた。多分、福原先生がFクラスの担任なんだろう
良かった、担任も知っている人で。
吉井「福原先生。おはようございます」
福原「はい、おはようございます。吉井さん? 挨拶は良いのですが教室に入ってください」
吉井「は、はい。……あ、あの福原先生」
福原「何ですか?」
吉井「その、……みんなの前では「吉井君」でお願いします」
福原「……そうでしたね、分かりました。」
福原先生にそれだけ言って僕はFクラスに入った。
吉井「すいません、遅くなりました」
「早く座れ、このウジ虫野郎!!」
酷い!! 教室に入っていきなり罵声を飛ばしてくるなんて!! 一体誰なんだ!?
吉井「って雄二じゃないか。何をしているの?」
雄二「いやなに、担任がまだ来ていないみたいだったからな。代わりに教壇に上がってみたって訳だ」
ふ~ん、雄二らしい理由だ。雄二は相変わらずだなって思えちゃったよ
福原「はい、吉井君も坂本君も席についてください」
福原先生に言われて僕と雄二は席に着く。なんかさっきからチラチラと視線を感じるけど一体どうしたんだろうか?
福原「――では、自己紹介をしていってください」
秀吉「木下秀吉じゃ、演劇部に所属しておる」
あ、秀吉だ。良かった雄二以外にも僕が知っている人が居たんだ
それにしても、いつ見ても女の子みたいだよねぇ~
……なんか、女の子としては少し複雑な気分だよ。
土屋「……土屋康太。趣味は写真を撮る事」
お、土屋もいたんだ。この3人が居れば大丈夫かな?
他の人もどんどんと自己紹介をして行く。やっぱり思っていたのより普通な人ばかりで安心するなぁ
「—―で、趣味は吉井明久を殴る事です☆」
前言撤回、安心出来ませんでした。こんなピンポイントな嫌な趣味を持っている人なんて1人しかいない。
島田「やっほ~吉井、今年こそはアンタの事を殴りまくるからね」
こんな怖い宣言を平気でしてくるこの娘は、島田美波。
僕がこの学校に通うようになってから少し経った時に困っていたのを助けたらこんな風に絡んでくるようになって、僕は言っては悪いとは思っているが助けなければ良かったと後悔するようになっていた。
吉井「……こんにちは、島田さん」
一応あいさつだけでもしておかないと後でなにをされるか分からない。……一応、返り討ちにしようと思えば出来るけどあんまりしたくは無い。
そんな事を思っていると僕の番になった。
吉井「吉井明久です。振り分け試験の日は少し用事があって受けれませんでしたがみなさんと一緒に頑張っていきたいです」
うん、こんな感じに挨拶できた。普通の子って印象を与えられて僕としては満足。
「あれが噂の吉井明久か」
「あぁ、あの男なのに女の子にしか見えないって奴だろ?」
「秀吉とおんなじか、このクラス最高かよ」
何かさっきから他のみんなが騒がしいな。さて、挨拶も終わったからこれからの事を考えないとな。教室の設備は、ちゃぶ台に座布団。……何だろう、Aクラスの設備を見た後だと物凄くひもじく思えちゃう。
吉井(設備は仕方がないとして……当面の問題は翔子さんだな。例の賭けの内容で僕に何を言ってくるのか分からない。
……僕の貞操は大丈夫なのかな?)
ガララッ
翔子さんについて考えていたら少し遠い目になってしまっていた。そんな時に教室の扉が開けられた。あれ? まだ誰か来ていなかったのかな?
姫路「すいません! お、遅れました! 」
福原「丁度良かった。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」
姫路「ひ、姫路瑞希と言います。よろしくお願いしましゅ!」
咬んだ、姫路さん、自己紹介で咬んだ。なにあれ、可愛い。
ほら、咬んじゃった事で姫路さんの顔が真っ赤だよ。
「質問良いですか?」
姫路「は、はい!?」
「なんで姫路さんがこのクラスなんですか?」
確かに姫路さんの学力だったらこんな最底辺のクラスにいるのは可笑しい事だ。それに同意してか他の皆さんもうんうんと頷いている。
というのも、姫路さんはとても頭が良いし、学年で一桁の順位に入ったこともあるみたいで、才色兼備な女の子だと言える。
姫路「えっと、じ、実は振り分け試験日に高熱を出しちゃいまして・・・」
それを聞いてみんな納得したのか、あぁと呟いて話し始める。この文月学園では試験途中で退席すると0点扱いとされ、必然的にFクラスに行くことになる。だからこそ、姫路さんがこんなクラスに来たのだろう。
「そう言えば、俺も熱の問題が出たせいでFクラスに」
「ああ、科学だろ?アレは難しかったな。」
「俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて」
「黙れ一人っ子」
「前の晩、彼女が寝かせてくれなくて」
「今年一番の大嘘をありがとう」
みんなが言い訳をふざけながら話している。みんな、そういう事を話していないで勉強すれば良いと思ったのは私だけなのかな?
福原「それでは、最後にFクラス代表の坂本君。自己紹介を」
雄二「分かりました。福原先生、少し教壇に上って話をしても良いですか?」
福原「えぇ、まぁ構いませんよ」
そう言って福原先生が教壇を降りる。それと入れ替わるように雄二が上ってFクラスの全体を見る。その時に僕と視線が合ったけど特に何にも言わない。
雄二「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺の事は代表でも坂本でも好きなように呼んでくれ」
雄二は自分の名前を言った後にここからが本題の様に緩んでいたネクタイを閉めなおしてから話し出す。
雄二「そこで早速皆に聞きたいんだが、――――かび臭い教室、古く汚れた座布団、薄汚れた卓袱台、Aクラスは冷暖房完備の上に、座席はリクライニングシートらしいが―――
…不満はないか?」
「「「「「大有りじゃあーーーー!!!」」」」」
うぉぉ!? い、いきなり大きな声を上げないでよ!! 思わずびっくりしちゃったじゃないか!!
雄二「だろう? 俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている」
不満だったら振り分け試験前に真面目に勉強してれば良かったんじゃないかと僕は内心で突っ込む。
「そうだそうだ!」
「いくら学費が安いからと言って、この設備はあんまりだ! 改善を要求する!」
「そもそもAクラスだって同じ学費だろ? あまりに差が大きすぎる!」
それはちゃんと普段から勉強している奴が言う台詞だと思うんだけど?
翔子さんみたいな人が言える事だと思うんだけど? あ、僕としたことが少しイライラしているみたいだ。
雄二「みんなの意見は尤もだ。そこで」
雄二はFクラス生徒達の反応に満足したのか、自信に溢れた顔に不敵な笑みを浮かべて…… 戦争の引き金を引く。
雄二「これは代表としての提案だが―――Fクラスは、Aクラスに“試験召喚戦争”を仕掛けようと思う」
「…………“試験召喚戦争”かぁ」
“試験召喚戦争”と言うのは、科学とオカルトと偶然により完成された『試験召喚システム』を使って、テストの点数に応じた強さを持つ『召喚獣』を呼び出して戦い、それを用いたクラス単位の戦争と言う物でこの文月学園の最大の魅力と言っても過言ではない。あぁ、これからは大変なことになりそうだなぁ。
僕の平穏な学園生活なんてものは無かったんや。
「勝てるわけがない」
「これ以上設備が落とされるなんて嫌だ」
「姫路さんや秀吉が居たら何もいらない」
雄二の出した意見にFクラスからは否定的な意見が上がる。それは当然だろう。はっきり言って雄二は、最低成績者であるFクラスが最高成績者のAクラスに勉強で挑むと言っているのだ。勝率は言うまでもないが、もしそれで負けたら設備を1ランク落とされて、ただでさえ最低な教室が更に酷くなるのだから。勝ち目の無い戦いを挑む事に、先程まで高揚していた生徒達が不満を言うのは無理も無い。
雄二「そんなことはない、必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる」
けれど坂本が自信を持って答える。
「何を馬鹿な事を」
「できるわけないだろう」
「何の根拠があってそんなことを」
否定的な意見が教室中に響き渡る。一体雄二は何故あそこまで自信を持って答えているのかが不可解であった。いくらFクラスに成績優秀な姫路さんがいたとしても、それだけで勝てるとはとてもじゃないが言えない。雄二が姫路に頼った策を使った所で、逆に僕達が足手纏いになってしまう。そんな事は雄二も分かっているはずなんだけど?
雄二「根拠ならあるさ、このクラスには試召戦争で勝つ事のできる要素が揃っている」
雄二「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートを覗いてないで前に来い」
「……!!(ブンブン)」
姫路「は、はわっ」
必死になって顔と手を左右に振る否定のポーズを取る土屋。スカートを覗かれた姫路さんが裾を押さえて遠ざかると、土屋は顔に付いた畳の跡を隠しながら壇上へと歩き出す。
土屋も相変わらず変わっていないみたいだ。でも、あれは後で怒っておこう。同じ女のみとしてはあんまり嬉しい事じゃないからね。
雄二「土屋康太。コイツがあの有名な、寡黙なる性識者ムッツリーニだ」
土屋「…………!!(ブンブン)」
「ムッツリーニだと……?」
「馬鹿な、ヤツがそうだというのか……?」
「だが見ろ。ああまで明らかな覗きの証拠を未だに隠そうとしているぞ……」
「ああ。ムッツリの名に恥じない姿だ……」
周りが納得していると、土屋は否定しながらも頬に付いた畳の跡を隠していた。もう分かっている事なのに、あそこまで必死に否定すると逆に感心してしまうよ。
姫路「???」
姫路さんだけが頭に“?”ばかり浮かべながら分からないと言う顔で首を傾げている。僕としては君は知らない方が良いと思う。というか、知らないままの姫路さんでいてほしい。
雄二「姫路のことは説明する必要もないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」
姫路「えっ?わ、私ですかっ?」
雄二「ああ、ウチの主戦力だ。期待している」
やっぱり雄二は姫路さんを一番の頼りにしているみたいだね。でも、それだけじゃダメだろうって思いながら僕は雄二の話を聞く。
「ああ、そうだ。俺たちには姫路さんがいるじゃないか」
「たしかに彼女ならAクラスに引けをとらないな」
「ああ。彼女さえいれば何もいらない」
さっきから誰が姫路さんに熱烈なラブコールをしているんだ? 姫路さんの事が好きなら思い切って告白をすれば良いと思うんだけど……
雄二「木下秀吉だっている」
「おお……!」
「確かアイツ、木下優子の……」
雄二「当然、この俺も全力を尽くす」
そして雄二も代表として責任感を持った表情をしながら大体のメンバーの事を言い終えるとと……。
「確かに何だかやってくれそうな奴だ」
「坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていなかったか?」
「それじゃあ、振り分け試験の時は姫路さんと同じく体調不良かなんかだったのか」
「実力がAクラスレベルが二人もいるって事だよな!」
いけそうだ、やれそうだ、そんな雰囲気が教室内に満ちてきている。このまま行けばいい感じじゃ無いかな?
雄二「それに、吉井明久だっている」
……シ~~ン―――
さっきまで上がっていた士気が、一気に落ちてしまった。なんで僕の名前が出た途端にこんな事になっているの!?
吉井「ちょっと雄二! どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ! 全くそんな必要はないよね!」
「誰だよ、吉井明久って」
「いや、知らん」
吉井「ホラ! せっかく上がりかけてた士気に翳りが見えてるし!」
というか、さっきの自己紹介で普通の人って印象を与えられたと思っていたのにそうでもないのかな? だって誰も覚えてくれていないんだもん。
雄二「そうか。皆は余り知らないようだから教えてやる。こいつの肩書きは《観察処分者》だ」
「……それって、馬鹿の代名詞じゃなかったっけ?」
言うまでもなく、その肩書きは他の生徒も知っていた。
でも、ここでは僕はあえて「道化」を演じる
吉井「ち、違うよっ!ちょっとお茶目な十六歳につけられる愛称で」
雄二「そうだ。バカの代名詞だ」
吉井「肯定するな、バカ雄二!」
《観察処分者》。学園生活を営む上で問題のある生徒に課せられる処分で、僕がこの学園で唯一、その処分を受けている。
いや、僕が自分から処分を受けていると言ったほうが正しい。
姫路「あの、それってどういうものなんですか?」
姫路さんが首を傾げながら何なのかと雄二に聞いてきた。まあ、成績優秀の姫路さんには、とても縁の無い物だから知らないのは当然だろう。
雄二「具体的には教師の雑用係だな。力仕事とかそう言った類の雑用を、特例として物に触れられるようになった召喚獣でこなすと言った具合だ」
雄二の質問の答えに姫路さんはキラキラと目を輝かせながら、僕に羨望と尊敬の篭った視線を送る。そんな姫路さんの視線に僕は……。
吉井「あはは。そんな大したもんじゃないんだよ、姫路さん」
僕は姫路に向かって手を振りながら否定した。
召喚獣を自分の思い通りに動かせると言うのは凄く便利で、腕力も普通の人間の何倍もある。その気になれば岩だって砕く事が出来る。
これは、確かに一見素晴らしい機能だと思われる。だけど、それとは裏腹にかなりのデメリットがある。
何故なら、召喚獣は教師の監視下で呼び出さないといけないからだ。つまり、僕が便利に使えたくても使えない。教師が召喚獣を使っての雑用作業を僕に任せ、僕は教師に頼まれた雑用作業をする。ただそれだけの事だ。だから先ほど言ったメリットは教師の監視下でやっているに過ぎなく、僕には自由に召喚獣を活用する事が出来ない。
それに加えて物理干渉が出来る召喚獣に負担が掛かると、何割かが召喚者の明久にフィードバックされる。簡単に言えば、召喚獣が重い物を持って移動している最中に疲労していると、召喚者にもその疲労の何割かが返ってくるのだ。更には物にぶつかった時の痛みも、そのまま帰ってくる。聞くだけで、これはもう罰だろうと思うだろう。
でも、私にはそのフィードバックが通常よりも少ない。それは先生たちがそういう風に設定をしてくれたおかげでもある。
それが無ければ、今頃は私は観察処分者を続けていない。
「おいおい。《観察処分者》って事は、試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいって事だろ?」
「だよな、それならおいそれと召喚出来ないヤツが一人いるってことだよな」
当然、そんなペナルティを課せられた奴が自分から戦闘に参加する気は無い。召喚獣が戦闘中によって受けた痛みが自分に帰ってくるのだから。
だからこそ、僕としても疑問なんだ。なんでそんなことをみんなに言ったのかが
雄二「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」
吉井「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきだよね?」
ただ単に僕をバカにしたかっただけみたいだった。
……雄二、後で翔子さんに電話してやる。覚悟しておけ
僕が目を細めながら雄二を睨んで復讐計画について考えていると……。
雄二「まあ、他の召喚者達とは違って、召喚獣の扱いには慣れているから、それなりの役には立つぞ」
吉井「…………雄二、今更フォローしても遅いんだけどね」
雄二、今更そんな事を言っても無駄だよ。もう僕が君に復讐する事は確定なんだから。
雄二「と…とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う」
雄二「皆、この境遇は大いに不満だろう?」
「当然だ!」
雄二「ならば全員筆ペンを執れ! 出陣の準備だ!」
「おおーーーっ!!」
雄二「俺たちに必要なのは、卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」
「うおおーーーっ!!」
姫路「お、おー……」
「…………………………………」
下準備が出来たと雄二が号令を出すと、クラスの生徒達は一斉に雄叫びをあげて勉強を開始する。姫路さんも小さく拳を作り掲げていた。
雄二「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」
吉井「……下位勢力の宣戦布告の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」
何が悲しくて自分から危ない目に遭いに行かないといけないんだ?
そもそも試験召喚戦争の使者は相手クラスにひどい暴行を受けるのが慣例のようになってしまっている。そんな物に行きたくは、ない。
雄二「大丈夫だ。やつらがお前に危害を加えることはない。騙されたと思って行ってみろ」
吉井「本当に?」
雄二「もちろんだ。俺を誰だと思っている」
雄二の凄く良い笑顔を見て、僕は折れてしまった。
こういう時程、自分のお人よしを恨むときは無い。
雄二「大丈夫、俺を信じろ。俺は友人を騙すような真似をしない」
吉井「……わかったよ。それなら使者は僕がやるよ」
雄二「ああ、頼んだぞ」
雄二にそう言われて僕はDクラスに向かう。
その後ろを誰かが付けているのにも気が付かづに