比企谷八幡と一色いろはの手違いから始まる同居生活。
 お互い何も知らず、千葉でなく神奈川で出会った彼、彼女に一体どんな展開が待っているのか。

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 気まぐれで書いた短編です。

 八幡×いろはです。雪ノ下、由比ヶ浜の登場はありません。
 完全に自己満足で書いたため、クオリティーのほうは保証出来ません。
 それでもよろしければどうぞ。


やはり俺と一色いろはのハウスシェアは間違っている!

 春の薫風が草木の芽吹きを祝うこの季節。

 彼はまるで魚の死骸の目を移植したかのような目を手の甲で弄りながら一つ欠伸をした。

 辺りを見渡す限りでは遠くにビルが見える、しかしここらは閑静な住宅街だ。

 鳥のさえずりもまた彼の門出を祝っているのかもしれない。――妄想の権利は誰にでもある。

 

 彼はそこそこ良い成績で厳しい編入試験を乗り越えたのだが、通学する予定の高校までの距離は県一つを跨いで神奈川県にあった。

 

 これでは妹、ついでに両親に迷惑がかかる――そう考えた彼は家族との別れを惜しみながらも引っ越しを決意した。

 

 ――とあれば美談なのだが、実のとこ追い出されただけなのだ。

 両親からは『ぶっちゃけ電車代高いから引っ越したらどう?』と、妹からは『あ、お兄ちゃんお土産よろしく~。お兄ちゃんがどこに行っても小町忘れないからね? あっ、今の小町的にポイントたっかい~』と。

 

 そう告げられた瞬間、彼の目が更に腐ったのは言うまでもない。

 

「はぁ……。つかあちぃ。千葉のほうが……あんまかわんねぇか」

 

 汗を額に浮かばせながら慣れない道に右往左往しながら地図片手に進んでいく。

 景色はあまり変わらない。

 同じような住宅が規則的に並んでるせいか、ゲシュタルト崩壊を起こしそうになっていた。

 

 目的地は新築のアパート。

 出来立てホヤホヤぴっかぴかの築一年のものだ。

 アパート選びの際の基準は親への迷惑も考えて家賃を重視し、利便性は全て排除した。

 そこで見つけたのは今向かっているアパートだ。

 駅から徒歩三十分、コンビニやスーパーまでは二十分。築一年、敷金礼金0円の家賃三万円だ。

 初期費用は仕方ないとして、それでも毎月この価格は大変リーズナブルである。

 学校からは歩けば一時間くらいだが、自転車で行けば三十分とかからない。

 

「俺、本当にナイスな物件見つけたな。もっと褒めてやってもいいんだぜ……」

 

(ふぇぇ、はちまんしゅごいよぉぉ~――――すんません)

 

 □□□

 

 ~八幡side~

 

 おぉ、中々良い感じのアパートだな。新築ってだけあってすげぇ綺麗だ。

 ……てかうちよりも綺麗じゃね?

 

 引っ越しを依頼した業者は既に到着している。

 そこで俺に気付いた業者さんは何故か困ったような浮かない表情をしながらやって来た。

 

「えー、あなたが比企谷八幡君……であってるかい?」

「はい。お疲れさまです。……何かあったんですか?」

 

 労を労い、俺は業者さんの向けた視線を追った。

 

「うちのミスかもしれんからもう一度教えてほしいいんだけど、君が引っ越す予定のアパートはここであってるよね?」

「はい。二十メートル先に見える二階建て、築一年のスメラギ荘です」

「うん――――何号室だい?」

「二階の一番奥、203号室ですよ?」

 

 どうにも受け答えの歯切れが悪い。本当に何があったんだ? もしかして契約完了してなかったとかか?

 

「――――どうにも先客がいるんだよ」

「そうみたいですね。トラック二台も借りてませんし」

「……君の部屋にだよ」

「はい……はいっ!?」

 

 俺の引っ越す予定の部屋に無許可で勝手に引っ越して来た馬鹿がいるだと!? 常識的に考えてありえんてぃーだろ!

 

 質の悪すぎる冗談に、俺は思わず声をあげ、マイルームに向けて走った。

 よく見れば引っ越し屋のトラックのシンボルや柄は似ているが、ロゴが全然違う。

 八幡……不覚ッ!

 

「す、すすす、すみませーんっ!」

「はーい。どうしましたー?」

 

 俺の部屋から我が物顔で出てきたのは亜麻色のような茶髪の髪を結った、まだあどけない中学生のような少女だ。

 うん、あれだ――俗にいう美少女だろ、これ。

 

 一瞬、その可愛さに目を奪われるが、すぐに自我を取り戻し、本題に切り出す。

 

「いや、その……ですね……そこ俺んちなんですよ」

「は?」

 

 はい、そりゃそうですよね。

 見知らぬ男から突然『そこ俺んち宣言』されちゃうからそりゃそうですよね?

 

「あのー、仰ってる意味がよく分かんないなー……なんですけど……」

 

 キャルンと小首を傾げながらあざとく困った表情を浮かべる彼女。

 あーうん、分かった――――。

 

 俺はポケットから携帯を取りだし不馴れな手つきで不動産会社に連絡をした。

 さっきからピーピー鳥の声がうるさいなぁ……。誰だ、美しいさえずりとか言った馬鹿は。

 

 □□□

 

 ~八幡side~

 

 その数分後。

 とりあえず、行き場を失った荷物を俺んち(仮)に入れておいた。

 業者さんに一応の挨拶を済ませたのち、少し励まされてから本社へと帰っていった。

 

 さて、只今の問題は――――

 

「あの一色さん? どうしますか?」

「え、何でわたしの名字知ってるんですかー?」

「あー、さっきな、不動産屋に電話したときお前の名前が出てきたんだ。すまん、自己紹介が遅れた――俺は比企谷八幡……です」

「わたしは一色いろはです。それで比企谷さんは……どします?」

 

 どします? つまりどっちが出ていくか……ってことだろ? 

 

 今回、担当者はどうやら俺と一色で二重契約をしてしまったらしい。その過失は不動産会社も認めているため、ようするにあぶられたほうの部屋探しは手伝ってくれるという。ある程度融通も聞かせてくれるとも言っていた。

 

「まぁ……結論から言うと俺は無理です」

「なんでですかー?」

「……大人と高校生の事情です」

「あっ、もしかして比企谷さんも高1なんですか?」

「ん? いや、高2だ。一応編入するためにこっちに来たんだからな」

 

 その言い方だと一色は高1なのか?

 

「あっ、じゃー先輩ですねー。これからは先輩って呼んでもいいですかー?」

「どうせ小一時間程度の付き合いだろうから……まぁいいぞ」

 

 俺は大きな間違えを犯していた。

 

 この時の俺はまだ知らない。発言の訂正が出来るのならしておくべきであった。

 

 小一時間どころか一生関わっていくことになるかもしれないのだから。

 

 □□□

 

 ~八幡side~

 

 一色は4月から親の同伴無しの編入それと俺の目を見ただけで大方の事情は察してくれたらしい。

 そして一色の事情も事情だ。

 両者ともに家に帰れない。

 

 となると残された選択肢はどちらかが弾き弾かれるしかない。

 だが、さすがにそれはお互いに酷だと悟った。

 

「あっ、せんぱーい! わたし思い付いちゃいました! 隣の部屋を貸してもらえるように頼みましょうよ!」

「それはいいが……家賃とか大丈夫なのか?」

「へ? 同じ建物なのにお金違うんですか?」

 

 こいつ、何にも見てねーのか?

 

「この部屋の家賃が低い理由は日当たりの問題だ。ここは時間帯に限らず一切日差しがあたらん。その分割安になってるわけだ。それと学割が適用されるのはこの部屋だけで他の部屋は適用外だ。ちなみにこの部屋は三万だが、隣の部屋は四万だ。――――俺んちは一万追加は無理だ」

「わ、わたしも無理です…………」

 

 お互い親に迷惑をかけてる身である。手違いで家賃一万増えたから振り込みよろしく~――なんて頼み事は不可能。

 

 となると残された選択肢は一つ。――――これは俺も出来れば提案したくなかったが……。

 

「なぁ一色……」

「ねぇ、先輩……」

 

 む、気まずい。どうやら俺と一色の声は重なってしまったらしい。

 

 なんとなく、俺は一色に発言権を譲った。

 

「…………わたしとルームシェアしませんか?」

「……」

 

 □□□

 

 彼はうすうすこの可能性に初めから勘づいていた。心のどこかでこうなるのではと直感でわかっていた。

 

 彼の登校日は明後日。仮にも彼が部屋を出てったとして、また一から部屋探しをするとなると下見やら、親との相談やらで間違いなく明後日の登校には間に合わない。

 

 一色いろはの事情もはっきりとは聞いてないが、大方の比企谷八幡と似たようなものなのだと思っている。

 

 お互いが部屋を出ていけず、荷物はすでに部屋にある。

 

 ――ここまで来るととれる手段も一つしかないだろう。

 

 ただ、それを提案しあぐねていたのは彼なりの幾つかの理由があった。

 

「……倫理的にアウトだろ」

「そうですかー? わたしは大丈夫ですけど……。だって先輩へたれっぽいし……顔が」

「さいですか。はぁ……親への説明は?」

「……」

 

 何か巧みのある間がこの空間を支配した。

 

「おい、いっし――」

「わたしの親だったら気にしませんよ。先輩のほうはどうなんですかー?」

 

 一瞬、深刻そうな表情を見せるもすぐに回復し、いつもの慣れた様子で表情を作り直し、笑顔をみせた。

 

「あ、あぁ、うちも……まぁ大丈夫だろ。まぁ何とかなるレベルだ」

「それじゃあ!」

「まてまて――本当にいいのか?」

 

 原点に戻り、やはり残るのは倫理的な問題だ。

 高校1年の女子高生と高2の男子高校生がルームシェア――文字に起こせば色々と問題がありそうである。

 具体的に言うと貞操うんぬんだ。

 

(やっぱ無理してでも一回千葉のほうに……)

 

「むー。さっきから良いって言ってるじゃないですかー。わたしはルームシェアでもかまいませんよ?」

「ほんとの本当に?」

「はい。わたしの目を見てください」

「いや、直視したら羞恥心で倒れそうだから遠慮しとく」

「……はっ! もしかして遠回しにわたしのこと可愛いって口説いてるんですか!? ごめんなさい可愛いのは自覚してますけど、もう少し親睦を深めてからまた口説いてくださいごめんなさい!」

 

 一気にまくしたてながら噛まずに言い放つ一色。

 

(ねぇ、はちまん泣いてもいいかな? なんかコクってもないのにフラれちゃったよ)

 

(それはまぁ置いといて――向こうも許可してるし、俺自身プライベートスペースが減るのは気にくわないが、……まぁ脱ボッチを掲げた以上他人とのコミニュケーションも取らなくちゃならない……。その点、こいつは恐らくコミュの化け物だ。こいつから盗めるコミュ力を盗めば――打算的だが中々筋は通ってる……)

 

「よく分からんが……まぁ……よろしくな」

 

 比企谷八幡は打算的な考えに沿って、久しぶりに見せる笑みとともに一色いろはの提案に乗った。

 

「はーい。こちらこそよろしくでーす!」

 

 そして一色いろはもまた、『この人なら』と期待と希望にあまりない胸を膨らませながらいつもの調子で比企谷八幡に初めて見せる敬礼をビシッと決めた。

 

 これが二人の出会いである。

 この家を主軸として描かれる物語。

 

 もしもこのルームシェアに名前をつけるのなら――――『やはり俺と一色いろはのハウスシェアは間違っている。』だろうか。

 




 お読みくださりありがとうございます。
 駄文につき、お目を汚してしまったら申し訳ありません。若干八幡も違和感があると思います。
 一応設定で脱ボッチを掲げ、一色からコミュ力を貰っちゃおうって考えてる感じです。なので少し捻くれが緩和されます。


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