スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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エピローグ

 海が見える防波堤に、二人は座っていた。退院して最初の外出はここと決めていたから

 

「……前から思っていましたが、貴方って本当にゴキブリ並みのしぶとさですよね」

「……それを言うなら、フウカもですがね」

 

 そう言ってフウカとライカは互いにジトーッとした視線を送り合い、やがて目を逸らした。

 結論から言えば、フウカもライカも全くの軽傷だった。強いて言うならライカがレヴナントの爆発に巻き込まれた後、しばらく聴覚が麻痺した程度。フウカは元々コクピットのショックアブソーバーが高性能だったおかげで、あとは自分の頑丈さで重傷を免れた。

 

「……アルシェンと決着はついたのですね?」

「……ええ。彼の執念は私が送り届けました」

「そうですか」

「そちらこそ、センリを倒したようじゃないですか。師匠越えを果たしましたね」

「……いいえ、引き分けですよ」

 

 ライカには確信があった。センリ・ナガサトはきっと生きている。

 あの戦場跡にはセンリの遺体がなかったのもあるが、レヴナントの残骸一欠けらすら残ってはいなかったのだ。更なる追い打ちとばかりに、自分は彼女が死んだ瞬間を見る前に意識を失ってしまっていたのだ。それじゃ分かるものも分からない。

 ハッキリしている事はたった一つ。

 

「……“ハウンド”」

「ん?」

「あの戦いで、私はセンリからこの名を託されました」

「……ああ、託されたんですね。羨ましいです」

「羨ましい? フウカも託されたんじゃないんですか?」

 

 そう聞くと、フウカが空を見上げ、ポツリと呟いた。

 

「私は……自称ですよ。託される前にいなくなりましたからね」

「……そう、ですか」

 

 これ以上聞くつもりはライカにはなかった。“向こう側”と“こちら側”の事情なんてまるで違う。

 

「……これからどうするのですか? フウカ?」

 

 現在のフウカには戦う理由が無くなっていた。アンチシステムを破壊し、アルシェンとの決着もつき、もうフウカに連邦軍に留まる理由はなかった。

 だが、彼女は不思議そうに首を傾げてみせた。

 

「どう……って、情報部で働くじゃないですか何言ってるんですか?」

「……は?」

「まさか、貴方は私に飢え死にしろとでも言うんですか? 働いた後の美味しいご飯を食べるなとでも?」

「連邦に居るつもりなんですか……?」

「……何か勘違いしていますが、私は元々連邦軍です。だから何も不思議じゃないんですよ」

 

 そう言えばそうだったな、とライカはどこか肩の緊張が抜けたような気がした。

 

「そう、ですか。まあ何かあったらまた私が対処すれば良いだけの話ですしね」

「……言いますね。もう二度と遅れは取りませんよ?」

 

 互いが無表情で火花を散らし合う様の何と恐ろしいことか。二人を知る者がこの場に居たら恐怖で縮み上がっていたことだろう。だが、そんな二人を見ても縮み上がるどころか、むしろ笑い飛ばす者がたった一人だけいた。

 

「ライカー! フウカー!」

「メイト……良くここが分かりましたね?」

 

 すると、メイシールが誇らしげに胸を反らした。

 

「当たり前でしょ! 私を誰だと思っているのよ!」

 

 ライカは特に何も言わなかった。というより、この場所は昔メイシールと二人きりで話した、割と思い出の場所であったのだ。恐らくここに居なかったら電話なりなんなりで捜索をしていたのだろう。

 

「それで? メイト、ここに何の用なんですか?」

「ああ、機体の修理が終わったから呼びに来てあげたのよ。感謝しなさい!」

 

 その発言を聞いて、反射的にライカは立ち上がっていた。

 

「シュルフは大丈夫ですか……?」

「私を誰だと思っているのよ? 大体、四肢を全損しただけだし、肝心のシュルフ本体には何のダメージも無かったわよ」

「……やはり、そうだったんですね」

「やはり、とは?」

「レヴナントの四肢の爆風が妙だったんですよ。爆発は派手でしたが、破壊は実にピンポイント。さも完全破壊したかのような演出でした」

 

 意識が無くなる寸前に見たレヴナントの爆発は明らかに四肢の破壊を目的としたものだった。光と音で大分誤魔化していたようだが。

 そこから導き出される答えはただ一つ。

 

「センリは最初からライカを殺すつもりはなかった、とそう言いたいのですか?」

「それは違います。攻撃には明確な殺意が込められていました。……もしかすると、あれは自分の名を受け継ぐにふさわしいかのテストだったのかもしれませんね」

「……スパルタなのは昔から変わりませんね、センリ」

「ええ。本当に……厳しい人です」

 

 テストの結果は聞くまでもないだろう。あの瞬間から、ライカはセンリの“誇り”を受け継いだのだ。

 

「さ、行くわよ二人とも。機体は治ったんだから、またバシバシ働いてもらうわよ!」

「了解です」

 

 ようやく立ち上がったフウカに、ライカは視線をやった。そして、軽く拳を作って、フウカに翳した。

 

「……これからも、よろしくお願いしますね。フウカ」

「よろしくされましょう。寝首を掻かれないように気を付けてください」

「言うだけタダなので見逃してあげましょう」

 

 コツン、と二人が拳を合わせた。殺し合い、命を共にし、そして因縁を乗り越えた二人にはもはや言葉はいらなかった。

 ベテラン二人は歩き出す。天才博士の無茶ぶりの日々に終わりなんかないのだから――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「色々あったわね……」

「はい。本当に色んなことがありました……」

 

 輸送機が離着陸する飛行場に、フェリアとユウリは立っていた。あの戦いから二日経ち、事後処理が一段落着いた割と穏やかな日だった。

 

「ゲルーガのヴァルシオンが宇宙で破壊されたという情報を聞いたSOの構成員達はほとんど投降したそうね」

「そうですね。まだ諦めきれない残党が各地で活動しているようですが、直に鎮圧されると思います」

 

 善悪はどうあれ、ゲルーガ・オットルーザという人間は間違いなくカリスマを秘めた人物だったようだ。ある者はゲルーガがいなくなったことで完全に燃え尽きた、またある者はその事実を認めないように一段と破壊活動に精を出す。そんな人物を倒した人物は今――。

 

「フェリア! ユウリ!」

「来たわね、リィタ」

「うん! 今日なんだよね! ラビー博士が行っても良いって言ったから来たよ!」

 

 ぴょこぴょこと走ってきたのはリィタである。彼女は最終決戦後、改めて事情聴取を受けていたのだ。SOという組織は瓦解し、指導者はその人生を終えた。そしてリィタは一時的に連邦の第五兵器試験部隊に所属していただけ。

 有り体に言えば、行くところがなかったのだ。

 

「あ、リィタさん、その胸のバッジ……!」

「昨日付で正式に第五兵器試験部隊に配属されたんだよ! ね、すごい!? リィタすごい!?」

「はい! すごいですよリィタさん!」

 

 しかしそれは昨日までの話。ラビー博士とレイカー司令が話を回してくれたようで、連邦に投降したSO兵士ということで正式に連邦の人間となったのだ。そこにどんな取引があったか分からないが、それでも収まるところに収まったことに、フェリアは小さな喜びを感じていた。

 

「もう……大丈夫なの?」

「うん。……カームスから送られてきたメッセージと、金平糖を食べたら元気になっちゃった! そうだ、二人にもあげるね」

 

 そう言って、リィタはポケットから金平糖が入った小袋を取り出し、フェリアとユウリに手渡した。自分も一つ口に含みながら、リィタは言う。

 

「カームスってね、いつもこうしてリィタに金平糖をくれたんだ。だから、ね? 今度はリィタが皆に金平糖をあげる番なんだと思うんだ」

「リィタさん……」

「カームスが言ってくれたんだ。幸せになりなさいって。だからリィタは幸せになるために頑張るよ。皆に金平糖をあげて、幸せになるんだ!」

 

 その目にはハッキリとした意志と覚悟が秘められていた。子供故の無邪気さか、それともそのメッセージと金平糖に“何か”が込められていたのかは分からない。だが、その目は本当に真っ直ぐなものとなっていた。

 

「ええ、とても良いと思うわ。私も応援するわ」

「私も応援じまずよリィタざん~……!!」

 

 クールに微笑み返すフェリアと、涙をにじませながら返すユウリ、正反対な二人が面白かったのか、リィタはまた花を咲かせたような笑顔を浮かべた。

 

「あとね! ソラともっと一緒にいたいな!」

「あんな馬鹿と一緒にいたら頭悪くなるわよ。止めときなさい」

 

 すると、リィタが笑顔のまま言い放つ。

 

「あれ? フェリアとユウリってソラのこと大好きなんじゃないの?」

「……へっ!?」

「ええーっ!?」

 

 まさかの発言に、ついユウリが、そしてフェリアを以てしても頬を染めてしまった。フェリアは一瞬物凄い頭痛がしたのを感じながらも、極めて平静を保つ。

 

「……か、勘違いしているようだけど、私はそんなこと思ってないわよ。ただの戦友として、私はあいつを見ているのよ」

「わた、私もですよ! リィタさん、酷いですよ~……!」

「じゃあその思念を感じ取ってみるね!」

 

 そして目を閉じようとするリィタに、二人は慌てて掴みかかる。

 

「駄目!」

「駄目ですぅ!」

「おおう、これは中々面白い場面に出くわせた」

 

 そう言って遠くからラビーが歩いて来た。今日は風もそよそよと吹いているので、纏っている白衣がゆらゆら揺れていた。

 

「諸君。改めてお疲れ様だったな。しばらくバタバタしていて顔を合わせる機会がなかったが、ようやく言えたよ」

「いえ、ありがとうございます」

「……私の機体達はどうだ?」

 

 ラビーの問いに、代表してフェリアが答えることにした。恐らく思っていることは同じだったろうから。

 

「最高です、掛け値なしに」

「それは良かった」

「……あっ!」

 

 リィタが指さす方を見る皆の表情はとても穏やかなものだった。

 最初はチームワークという言葉には縁遠い三人とラビー博士からこの第五兵器試験部隊は始まった。常にいがみ合い、時にはぶつかりあった――。

 

「……ど、どうしましょう。何か私……涙が止まりまぜん……!!」

「ほう、予定よりも早いご到着だったな」

「思ったより、元気そうね」

 

 だが、そうしている内に乗り越え、心を一つにし、苦難に立ち向かった。だが、その苦難は大きく、そして何度も振り掛かってきた――。

 

「当ったり前だ。皆に約束したろうが。決着つけて帰ってくるって」

 

 しかし皆は決して諦めず、何度もその苦難へと刃を突き立てた。その刀身は決して折れず、刃こぼれすら伺えない。

 人はそれを“馬鹿野郎”とも、“諦めの悪い奴”とも言うだろう。だが、その中でも極めて尖った男が一人だけ居た。特上の“馬鹿野郎”である彼は常にあらゆる困難へ刃を走らせていくだろう――。

 

 

「――だから、ただいま。約束通り、戻ってきたぜ!」

 

 

 これは、そんな男のこれからも続いていくであろう物語のほんの一部である――。




これで『刃走らせる者』編は終了となります。
ご愛読ありがとうございました!
リメイク&加筆ということでまた更新してもなお、リメイク前の読者さん達や新規の読者さん達からの応援を頂けて嬉しい限りでした。
今まで本当にありがとうございました!

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