スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

76 / 80
第四十四話 “絶望”に刃を走らせる~後編~

 静寂。

 周りにはデブリ一つなく、横には青い地球が良く見える。このまま宇宙旅行でも出来ればなんと有意義なことだろうか。

 

「ふん。随分と喰らい付いてきたようだな……」

 

 だが、目の前に悠然と立ちはだかるヴァルシオン・ディスピアーへ再度、意識を集中させる。同時に機体のコンディションチェックを素早く済ませる。ヴァルシオンが盾になったお蔭で、最低限の冷却を行うだけで大気圏を突破出来たが、それでも普通なら有り得ないシチュエーションだったので、どこかかしらの異常が発生しているかもしれない。

 チェック終了。幸い、どこにも異常は起きていないし武装も全て使用可能。

 

「お前をあそこで逃したら取り返しがつかない気がしてな……!」

「ほう、良い勘をしている。それに敬意を表して、教えてやろうではないか」

「何を……!?」

「ポイントFZ-62-TS7G。そこがどこか分かるか?」

 

 ポイントFZ-62-TS7G。ポイントの検索をかけるとすぐにその場所は出てきた。一見何の変哲もないただ宙域だったが、肝心なのはそこと“対”になっている場所だった。

 

「……あの兵器プラントと正反対の場所か!」

 

 その宙域は以前、リィタが単騎で制圧した宇宙兵器プラントと正反対の地点であった。だが、そこに何があるのか。ゲルーガが告げる。

 

「くくく……気づかないのも無理はあるまい。我らが地球のみで戦闘を行っていたのは宇宙(うえ)へ意識を向けさせぬためだ。そして、更にハーフクレイドルから離れたところで戦闘を活発化させ、このディスピアーの完成までの時間を稼いだ」

「宇宙にだって連邦がいるだろ! 見つからない訳……まさか……!」

「連邦にも私の考えを理解する者がいるということだ」

「……そこに何があるんだ!?」

「知りたいか? このヴァルシオンと直結することで威力を発揮する大型レーザー砲だ。地上を十二分に蹂躙できる威力のな」

 

 ということは、相当な数の内通者がいるということで間違いなかった。サイズは分からないが、そんな規模のレーザー砲なら相当目立つはず。だが、今は一旦その事は置いておいた。事実よりも、ソラはこの発言の()()の方が重要だった。

 そんな切り札があるなら、最後の最後まで黙っておくのが普通だ。それを、ましてやそこまで詳細に喋るということの意味はたった一つ。

 

「そこへ私は至ろう。貴様を木端微塵にした後にゆっくりとな!」

「その大型レーザー砲は後でじっくりと破壊してやるよ。……お前を倒した後でな!」

「抜かしおる!!」

 

 ヴァルシオンがハルバードを構え、接近してきた。斧部が若干欠けているが、それでも十分ブレイドランナーを破壊できる。ソラは一瞬たりとも目を離さず、操縦桿とフットペダルに力を込めた。

 肩部フレキシブルスラスターを吹かし、痛烈な薙ぎ払いを避けたソラ機はすぐにハルバードの柄に狙いを定める。

 しかし、ゲルーガ機の脇腹から展開した副腕がブレイドランナーを遮る。

 

「っ!!」

 

 副腕が握っていたビームソードに対し、ブレイドランナーはシュトライヒ・ミドルを抜き放ち、コクピットを狙った斬撃を防いだ。ソードを一旦臀部に戻し、ソラ機は空いた手にショートを持つ。

 ブレイドランナーの接近戦の強みは肩のフレキシブルスラスターと元々高い基本性能のみ。背部のスラスターユニットはこの超近接戦闘に於いては緊急回避用のみにしか使えない。両の副腕から繰り出される斬撃をやり過ごしながら、その隙を突くように振るわれるハルバードを避けるというのは中々に骨が折れる作業であった。

 そこで、ソラは気づいたことがある。

 

(ん……? そういや何でバリアを使わないんだ? ここが使い所じゃねえのか?)

 

 大気圏を突破して以降、ヴァルシオンが一度もバリアフィールドを展開していなかった。こんな時に出し惜しみするほど馬鹿な話はない。一対多ならともかく、一対一ならさっさと展開して、すぐに片づけた方が効率が良いはずだ。

 

(……ん、もしかして……?)

 

 ふとヴァルシオンの肩部を見ると、その謎は解けた。先ほどヴァルシオンはあの肩が展開することによってバリアを発生させていた。しかし、宇宙に上がる際、クローアンカーを肩部に向けて射出した。今ヴァルシオンの肩部は火花を上げている。クローアンカーが偶然バリア発生装置を破壊したのだろう。

 

「ならあとは接近戦に気を付ければ……!!」

 

 宇宙で良かったとソラは改めて思う。重力の軛から解放されたブレイドランナーは全てのスラスターを活かして三次元機動を行えている。このアドバンテージは大きい。あとはソードを叩き込めれば、ヴァルシオンを十分破壊できるだろう。

 

「小童よ! 何故私の邪魔をする!? もう少しで全てが終わる。地球圏に平和が訪れるのだぞ!? それが何故分からんのだ!?」

「お前の言う平和って何なんだよ!? 虐殺することが平和なのか!?」

「私の目的は地球圏の意志統一を行い、来たるべき異星人との戦いに備えることだ。そのためには全人類が私のことを認めなければならん」

「その為に殺すのか!? 馬鹿げてる!」

「輪を乱す者は排除する。それは当然の事だろう! そこには人種も宗教も関係ない。私は全てを等しく見ているのだ!」

 

 それはつまり、言うことを聞かない者はすべて消すと言っているのと同義で。そんなゲルーガを、ソラは認める訳には行かなかった。そんなことのために、カームスは凄絶な人生を送ったわけでは無いのだから。

 

「どんな大義を掲げようが、お前がやったこと……そして、これからやろうとしているのはただの虐殺で、人の命を馬鹿にしたものだ! ――ふざけんじゃねえぞ!! そんな下らない願望の為に命を失った人達がいるなんて……考えただけで吐き気がする!!」

「知った風な口を利くなァァ!!」

 

 挟み込むように振るわれた二刀のビームソードによって、手に持っていたショートの刀身が切り裂かれてしまった。出力自体は負けていなかったのだが、上手い具合に弱い所を切り裂かれたのだ。ショートを捨て、もう一つのミドルに持ち替えたブレイドランナーは一息に、ヴァルシオンの側面を取った。

 

「他人の考えなんて全て分かるか! だから話し合うんだろうが! 分かるまで、何度も!」

 

 交差するようにミドル二本を振るい、ハルバードの柄を溶断したソラ機は続けざまに斧部も真っ二つに切り裂き、完全に使用不能に追い込んだ。この局面、あの拡散ユニットの破壊は非常にありがたかった。非常に強力な威力を持つクロスマッシャーに追い回されるなんて悪夢はまっぴらごめんである。

 

「それが不可能だから私はこの神聖騎士団を立ち上げた! もう時間が無いのだ! いつまた異星人がこの地球圏に覇を唱えに来るか分からん! だから一刻も早く、全人類の意志を統一させる必要があるのだよ!!」

「お前一人の判断で、人の光と闇を量るな! そんな奴がいるから戦争が無くならないんだよ!」

「必要な犠牲だ! それが分からん貴様はやはり餓鬼か!」

「話し合いを拒否する奴に分からないもクソもあるか!」

 

 ミドルでヴァルシオンの腕部を切り裂けたが、浅い。再び攻撃をしようとした瞬間、ソラは背筋に悪寒が走る。

 

「ディバインアームを破壊したくらいで粋がるなよ小童が!」

「何だと!?」

 

 パーツが展開された左腕部を向けられた刹那、ソラは操縦桿を思い切り倒した。それとほぼ同時、左腕部から赤と青の奔流が解き放たれる。ソラは失念していた。右腕部と全く同じ外装ということは同じことが出来るという発想には至らなかった。

 

「くそっ……左足が……!!」

 

 その代償が左脚部の損傷である。膝から下が消し飛ばされたので、懸架されていたショートは無事だったが、機動性が若干低下してしまった。だがそれで終わる訳には行かなかった。手に持っていたミドル二本をガン・モードに変形させ、今しがた奔流を解き放った左腕部のパーツへ何度もビームを放つ。

 だがまだ破壊には足りない。ダメ押しとばかりに両脇下のコールドメタルナイフを投擲。突き刺さったナイフでとうとう限界が来たようだ。左腕部が火を噴いた。

 

「はっ……! はっ……!!!」

 

 左足を犠牲にした結果はヴァルシオンの左外装の破壊。これで警戒するべきは右腕部と左右副腕のみ。

 

「だけど、まだやれる……! ブレイドランナー……力を貸してくれ!! あいつだけは、絶対に倒したい!!」

「このディスピアーは我がSOの決戦兵器だ! 地上を蹂躙した後、このディスピアーが地球圏の象徴となるのだ! それが……貴様ごときに傷をォ!!」

 

 ゲルーガの執念が膨れ上がったような気がした瞬間、ヴァルシオンの右副腕が閃いた。

 

「しまった……!!」

 

 フレキシブルスラスターを前面に向けることで後方へ緊急回避したお蔭で致命傷となることはなかったが、右胸部装甲が溶かされてしまった。しかも悪いことにやられた場所は排熱ダクト。機体の排熱に影響が出てしまった。

 

(あまり派手に動けばオーバーヒートを起こしてしまう……! その前にケリを付けなきゃ死ぬ……!)

 

 ただでさえフル稼働状態で動いているのだ。これ以上の無茶は下手をすれば機体が動かなくなる恐れがある。……だからと言って、攻撃に手心を加える余裕なんて少しもない。

 

「一気に畳み掛ける……!! ゲルーガ・オットルーザ。お前の言うことにもきっと一理あるんだろう……だけどな、俺はお前を認めない! 人の命を軽んじる奴を、俺は許さない!!」

「青臭い餓鬼がァァァ!!!」

 

 スラスターユニットを最大出力に上げ、機体を加速させる。ヴァルシオンの右胸部へミドルを振り下ろすが分厚い装甲に阻まれ、刃が止まってしまった。そのミドルは放棄し、左のミドルも振り下ろそうとした瞬間、武器の鍔から先が副腕のビームソードによって切り払われてしまった。

 

「まだだ!」

 

 ソラはビーム展開されたまま切り裂かれてしまったミドルの刀身へ視線をやる。その刀身へブレイドランナーは、右腰のクローアンカーを射出した。そして刀身を掴んだソラ機はそのまま機体を捻り、鞭のようにヴァルシオンへ振るう。

 その鞭は左の副腕を根元から破壊することに成功したが、右の副腕がワイヤーを切断した。そのまま副腕はブレイドランナーのコクピットを破壊しようと動くが、ソラ機はすぐに左腰のクローアンカーで迎撃する。クローは副腕を掴むと、最大稼働状態で握り潰した。だが負担が大きかったようで、握り潰した後、クローはそのまま二度と動かなくなる。

 

「どうして貴様は……私の前に立ち塞がれる!? 私の願いに立ちはだかれる!?」

 

 ゲルーガの問いに対し、ソラは迷うことなく答えた。その問いは既に乗り越えたものだったから。

 

「そこに悲しんでいる人がいるなら俺は誰が相手だろうと刃を走らせる! それが、あいつらと見つけた道だ!!」

「私と同じではないか!! 自分の思うことを、思うままに為そうとしている同じ穴のムジナだ!!」

「分かってるよ!! 俺がお前と変わらないクソ野郎ってことはな! だからさ、死ぬ時は地獄行きだよ! 天国なんてこっちから願い下げだ、行く資格なんてねえ!」

 

 既にソラの思考はフル回転という生易しい表現では無く、文字通り限界を超えていた。息を吐く間もなく繰り出される攻撃、それに対する解。意識と無意識が操縦桿とフットペダルを動かしていた。

 ヴァルシオンが右腕部を向けてくるのとほぼ同時、ソラはフルエッジの最後の装備であるショートを抜き放ち、スラスターを最大出力に跳ね上げる。

 モニターに視線を落とすと、既にブレイドランナーはオーバーヒート寸前。排熱効率が落ち、機体全体に熱が籠もり始めているのだ。いつ強制停止してもおかしくはない危険な状態であった。

 

(気合い入れろよブレイドランナー……!! 一秒でも長く、一コンマでも良い! 俺に――勝たせてくれ!!!)

 

 ショートの出力を限界以上に引き出し、クロスマッシャーの発射口に突き立てたブレイドランナーはそれを更に、足で蹴りこんだ。エネルギーの吐き出す場所を失った右腕部は次第に爆発を起こし始める。

 

「小童ァァァァ!!!」

「ゲルーガァァァァァァ!!!」

 

 既に爆発の余波でセンサー類が異常をきたしてしまっていた。臀部からソードを抜き放ったブレイドランナーはそのままヴァルシオンの胴体へ突き刺した。

 

「おおおおおおお!!!!」

 

 突き刺したまま、ソードのリミッターを外し、全ビーム発振装置を起動させる。後先は考えない。その刃はヴァルシオンを内部から蹂躙し始めた。

 

「グヌォォォ!! 我が、我が……悲願、がァ!!」

「ゲルーガ・オットルーザ。刃を……走らせたぞ!!」

 

 ソラの咆哮と共に、ブレイドランナーはそのまま思い切りソードの柄頭を殴りつけ、ヴァルシオンの内部へ更に押し込んだ。殴った衝撃で左のマニュピレーターがへしゃげてしまい、使い物にならなくなってしまった。

 ヴァルシオンの全体から爆発が起き始めた。

 

「我が悲願が……絶望が……! 貴様ごとき……にィ!」

「……お前は、やり方を間違っていたんだよ」

「私が……だと!?」

「手段はどうあれ、お前に付いて来てくれた奴がいた。それは間違いない。……だったら、何で血を流さない手段にそれを使えない……!?」

「平和を脅かす愚者共を呑気に諭す程、私は愚かでは……ない!」

 

 ようやく、ソラは気づいた。ゲルーガと話して、ようやくその本質を理解した。

 

「ようやく分かったぞ……! お前は人の上に立ちたいだけなんだ!! 平和や絶対正義と言う言葉で自分を彩った、ただのエゴイストだ!!」

「何だと!?」

「導くべき人を愚者と断じる奴にどうして人を導くことが出来るんだ!? 笑わせんじゃねえ!!」

「物を知らぬ餓鬼がァーー!!」

 

 ヴァルシオンの口が上下に開いた瞬間、ソラは“マズイ”と体全体が警告を発し、ほぼ無意識に操縦桿を動かしていた。

 

「まだ武装が……!?」

 

 口の奥が瞬き、閃光が吐き出された。だが、その速度は思った以上に速く、庇った左腕と頭部の左側が吹き飛んでしまった。コクピット内にアラートがけたたましく鳴り響く。コンディションパネルを見ると、いよいよ本格的に機体内部の熱が上昇し、オーバーヒートへの秒読みが始まっていた。

 繰り出せる攻撃は恐らくあと一回。それを行ったら完全に止まってしまうと見て間違いない、下手をすればそのまま燃える。だが、そんなのはどうでも良かった。それよりも大事な問題があった。

 

(どうする……!? 武装が無い! 右側の頭部バルカン砲だけじゃ火力がないだろ……!)

 

 あろうことに、この土壇場に対応できる武装は使い果たしていた。シュトライヒ各種は全て使用不能。使用できるアンカーは右手甲部のみ。あとは火力の低いバルカン砲だけときた。

 そうしている内に、またヴァルシオンの口が上下に開閉し、エネルギーの集束が始まっていた。しかし、ヴァルシオンも大分消耗しており、いつ大爆発が起きても不思議ではない状態となっていた。ソラに切り刻まれ、既に上半身はぐちゃぐちゃとなっている。

 

「ふ……ははははは!!! このヴァルシオンが……貴様ごときに負ける訳には……いかぬ!! 死んでくれ!! 我が“絶望”と共に!!!」

「……まだだ!!」

 

 ソラは既に思考が真っ白であった。ただ、目の前の状況を処理すべく意識と無意識の狭間で解を作り上げていた。

 右手甲部のクローアンカーをナックルガードに見立て、ソラは機体のエネルギーを全てT-フィールド発生装置に回し、起動させた。ソラの数値入力により、クローアンカーの先端のみにフィールド発生ポイントを絞り、そこへありったけのエネルギーをぶちこんだ。

 

「言ったはずだぞ……ゲルーガ・オットルーザ!!」

 

 その発想に至れたのはSRXチームのR-1の動きを見ていたから。そしてライカのプラズマバンカー、フェリアのマルチビームキャノンの使い方、ユウリのT-LINKストライカーを用いた戦い、リィタの局所破壊の戦い方をずっと見ていたから。全てがソラの中で生きている。

 皆の想い、そして自分の諦めの悪さ、それら全てを乗せたブレイドランナーはその右腕を――今にも発射せんとするヴァルシオンの口腔へ叩き込んだ。

 

「俺は、お前の全てに……“絶望”に刃を走らせると!!!」

「ぬあああああああ!!!」

 

 溜め込まれたエネルギーの吐き出し口が潰され、行き所を失ったエネルギーが解放される。一際大きな光がヴァルシオンの口、そして全身から発した。やがてそれは熱を持ち、ソラの視界にはもはや真っ白な光しか見えていなかった。

 

「ブレイドランナー!!」

 

 そこは静寂が包む暗い宇宙。真っ黒なキャンバスに今、巨大な紅蓮の花が咲いた――。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。