スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第三十九話 鬼が吠える

 ハーフクレイドル制圧作戦から二十分が経過した。午前五時二十分を以て、攻撃部隊の第二陣が行動を開始する。

 第二陣を積んだ輸送機が三時、六時の方向から戦闘空域に侵入し、速やかに部隊を展開、一気にハーフクレイドルへ物量を投入するという電撃作戦だ。四方向からの攻撃に対応しつつ、その内の二方向からの本命に備えなければならないというSOにしてみたら相当な負担を強いられている。

 

「ソラ、ユウリ、リィタ。第五兵器試験部隊にも出撃命令が出たわ。行くわよ」

「よしっ! 皆、行くぞ!」

 

 輸送機から次々に戦場の空へ飛び立つ第五兵器試験部隊。他の輸送機からもどんどん攻撃部隊の第二陣が出撃している。ソラ達第五兵器試験部隊はライカが暴れまわっている六時方向からの攻撃だった。

 第五兵器試験部隊にとってはこれが初の大規模戦闘となる。今まで小規模な戦闘を繰り広げていただけに、迎撃部隊の数を見て、驚きを隠せなかった。

 

「敵が沢山いるな」

「今まで局地的な戦闘ぐらいしか経験していなかったし、流石に少し緊張するわね……」

「ざっと索敵しただけでもすごい戦力ですぅ……。それにエレファント級が何隻も。今じゃ陸戦艦の主力はライノセラス級なのに……」

 

 そう言いつつ、すぐにEAを仕掛ける辺り、ユウリは中々に肝が据わっていた。あのフェリアですら少し緊張しているにも関わらず、データ解析をするユウリの指の動きは決して止まることはなかった。

 

「シンプルな構造に、フレキシブルな射角と高い火力を持つ強力な輸送艦だから敵からしたら造らない手はないわよね。……輸送艦じゃなくて普通に攻撃艦ってカテゴライズでも良いんじゃないかとも思うけど」

 

 長距離射程ビームの威力は凄まじく、直撃はそのまま撃墜を意味していた。護衛であるランドリオンの攻撃も油断できない。第一陣が陽動を行っているにも関わらず、SOの戦力に切れ目は見当たらない。

 右から左を見ても敵戦力の塊。ユウリから送られてきたデータと照らし合わせながら、フェリアは改めてSOの底力を認識する。今まで小規模戦力としかやり合っていなかった分、ハーフクレイドル周辺に展開している敵部隊の物量にひたすら脅威を感じていた。

 

「敵リオン小隊接近! 皆さん、気を付けてくださいね!」

 

 第五兵器試験部隊の進攻ルート上にリオンとバレリオンの混成部隊が向かってきていた。接敵するまで二分と掛からない距離。交戦直前、フェリアは三機へ音声通信を送り、今回のフォーメーションを再確認する。

 今回限定だが、リィタが第五兵器試験部隊の一員として数えられている。それに伴い、フォーメーションの再編も行っていた。

 

「良い? 打ち合わせした通りで行くわ。ソラが前衛、私とリィタが中衛、ユウリが後方で電子戦と援護よ」

「リィタ、やれるのか?」

 

 ソラの心配に、リィタは静かに頷いた。

 

「大丈夫。もう一回カームスと会うまで……誰が相手でも関係ない。リィタ、頑張るよ」

「……そうか」

「リィタは私と中衛だけど、自由に動いてもらって構わないわ。そのためのヒュッケアインだし、むしろリィタにとってもそっちの方がやりやすいでしょ?」

 

 第五兵器試験部隊三機のデータが統合され、改修されたヒュッケバイン――通称、ヒュッケアインは比喩抜きでどの距離でも十全の活躍が期待できるオールラウンダーとなっていた。

 ユウリ機によるEAで六時方向攻撃部隊の戦闘エリアは既に掌握済み。誘導兵器制限並びに敵限定の通信封鎖が行われているので、自然と直進兵器と格闘戦による戦闘が繰り広げられることが予想されていた。よって、誘導兵器を持たない第五兵器試験部隊はフォーメーションを少しいじれば十分動けた。

 

「うん! どこからでもこのヒュッケアインならやれるよ!」

「なら、頼むぞ!」

 

 ソラはスロットルペダルを踏み込み、機体を加速させる。高い運動性能と加速性能でリオンからの攻撃を避けつつ、ソラ機は左腰部にマウントしている中型シュトライヒ・ソード――シュトライヒ・ミドルを抜剣した。

 ガン・モードに変形させ、手近なリオンへ牽制射撃を仕掛ける。シュトライヒ・ソードⅡ程ではないが、それでもメガ・ビームライフルよりも高い威力のビームはリオンの逃げ場所を奪うように横切っていく。その中出力ビームを避けようと大きく回避運動を取ったリオンへ、ソラは必中のタイミングを視る。

 

「一機!」

 

 一息で近づいたソラ機は、ビーム展開させたシュトライヒ・ミドルをリオンのレールガンへ走らせる。一振りでレールガンを破壊したソラは更なる追撃を選択。右太ももに懸架していたシュトライヒ・ショートを抜き放ち、リオンの脚部を一閃した。バランスが取れなくなったリオンは徐々に高度が下がっていき、それはすなわち戦線離脱を意味する。

 新型シュトライヒシリーズの調子は実に良好。ミドルもショートも、ソードよりリーチや威力が落ちているが、その分、咄嗟の取り回しは遥か上を行っていた。

 

「まずい、出過ぎた……!」

 

 各種シュトライヒの事に意識を取られ過ぎて、いつの間にかソラ機はバレリオンの射線上に入っていた。失敗を意識したのもつかの間、ソラ機を横切ったビームがバレリオンへと突き刺さる。

 

「何、子供みたいにはしゃいでいるの、ソラ!」

 

 両手のマルチビームキャノンによる砲撃後のエネルギー残量を確認しながら、フェリアは残りのバレリオンを素早くレティクル内に収める。バックパックに装備された予備ジェネレーターからのエネルギー供給は正常に稼働中。これならよほど無闇に撃たない限り、そう簡単にエネルギーが枯渇することはない。途切れの無い砲撃を意識しつつ、再びフェリアは銃爪を引いた。

 フェリア機の両肩両腕の砲門から放たれた大出力の閃光は残りのバレリオンどころか、遠くに展開していた複数のリオン小隊を呑み込んだ。ビームが通り過ぎた後の空はまるで台風が過ぎ去ったあとのように、ぽっかりと穴が空いていた。

 

「す、すげえ威力だなやっぱり……」

「ペース配分が緩くなった分、すごくやりやすくなったわね。だけど、すごいという評価をするのならあの子よ」

「あ、ああ……だな」

「へ……? 私ですか……?」

 

 今しがたガーリオンの全身を串刺しにし終わったT-LINKストライカーがユウリ機に戻っていくのを見たソラとフェリアは背筋を凍らせる。

 六基のT-LINKストライカーを手に入れてから、ユウリの戦闘の幅が凄まじく広がった。元々念動力による感知に優れていた彼女は命中率と回避率がずば抜けていた。正確無比な射撃に加え、EAに囚われない思念誘導による打突兵器のおかけで、運良くユウリの第一射を避けられてもその回避先へストライカーが突き刺さっていくという無慈悲な二段構えが確立していたのだ。

 

「あ、ソラ。危ないよ?」

 

 ソラ機の背後を狙っていたガーリオンへリィタは狙いを定める。ブレイドランナー程ではないが高出力のメインスラスターを積んだヒュッケアインは容易にガーリオンへ追いつくことが出来た。

 すれ違い様にシュトライヒ・ミドルを振るい、ガーリオンの推進装置を切り捨てたリィタ機はバックパックの左側から伸びたビームキャノンを脇に抱えるようにして構えた。ぴたりとガーリオンのコクピットへ狙いを定め、リィタが銃爪を引く。瞬く閃光。ビームキャノンからの砲撃は一ミリの狂いも無くガーリオンを貫いていった。

 

「た、助かった……」

「今までの戦闘と同じにしない! あっという間に囲まれて蜂の巣になるわよソラ!」

 

 言いながら、フェリアはリィタの操縦技術に改めて脅威を感じていた。実戦での運用はこれが初だというにも関わらずあっという間に乗りこなして見せるリィタの適応能力と的確な狙いは手放しに賞賛出来る。そして状況判断も堅実だ。ソラが接近戦で不手際をしたら即座にカバーに入り、フェリアが砲撃を行うと一緒に加える、ユウリが他二機のカバーに入るとそれを更に手厚くする。

 例えるならリィタは潤滑油となっていた。それも上質な。

 

「奴は、どこだ……!?」

 

 ソラはユウリからのデータリンクを更新し、大きな熱源を探していた。素人のソラでも分かるこの重大な局面、カームス・タービュレスが出てこないのは有り得ない。それまでは極力消耗するわけにいかなかった。

 

「ユウリ、全体の状況って分かるか?」

「十二時、三時、六時、九時とも順調に攻撃が継続されています。ですが……」

「ですが?」

「ライカ中尉とフウカ中尉がどうやら攻撃部隊とはぐれ、単独で交戦しているようです。恐らく……エース級」

「エース級……あの黒いガーリオンとライカ中尉を落としたって奴か!?」

 

 本能的にソラは二人が相手をしているであろう敵を推測する。

 

「心配?」

「いや、あの二人だぜ? 心配するだけ失礼だ」

「それで良し。女々しく心配しているなら、後ろから撃ち落としていたわよ」

 

 エレファント級が味方の攻撃部隊へ長距離射程ビームを連射しているのが見えたソラは次の狙いを決める。無言のやり取りでフェリアはソラの意図を瞬時に理解し、砲撃位置を確保するため機体高度を上げる。

 フェリア機が四門のエネルギーを解放し、エレファント級を上空から砲撃する。それと同時に、リィタ機が別の角度から敵艦の装甲を狙い撃つ。火力に優れた二機だが、それでもエレファント級の堅牢な装甲は一撃で貫くことは出来なかった。

 

「おおおおお!!」

 

 爆炎に紛れ、ソラはフェリアが傷つけた箇所へ機体を加速させる。臀部にマウントしていたシュトライヒ・ソードⅡを握ったソラ機は刃をビームコーティングし、水平に構えた。勢いはそのままに、エレファント級の装甲板へ刃を突き立て、莫大な推力を以て、そのまま真一文字に剣を走らせた。

 だが轟沈とはいかず、エレファント級は未だ健在。それどころか、瀕死のエレファント級の主砲がソラ機へ向けられる。だが、その砲身はユウリ機のT-LINKストライカーによって即刻針のムシロと化した。

 

「……あれか!? あれが、ハーフクレイドルなのか!?」

 

 遠いながらも見えてきた黒い物体。この距離で見えるのなら、近くで見た時の大きさは言わずもがな。半球状の黒いドームこそ、SOの本拠地であるハーフクレイドルであった。

 あそこを押さえればこの短いようで長い戦いが終わりを告げる。そんな矢先、ユウリ機のセンサーが“彼”を捉えた。そして、リィタもその気配を感じ取っていた。

 

「み、皆さん……」

「来る……」

「どうした、二人とも?」

 

 ユウリからもらったデータを見て、ソラは唾を呑み込み、操縦桿を握り直した。遠くにいても、機体という壁を通しても、発せられる威圧感はダイレクトにソラへ襲い掛かる。やがて敵部隊が波を割ったように掃けていき、“ワインレッドの鬼”が第五兵器試験部隊の前へ悠然と姿を現す。何度見ても見る者を委縮させる凶悪なデザインだった。

 

「――いつか来ると思っていたが、思ったより早かったな」

「カームス、タービュレス!!」

 

 ツヴェルクの姿を確認した直後、リィタ機が飛びだした。

 

「カームス!!」

 

 ソラの敵意には何の興味も示さなかったカームスが飛び出してきたリィタ機へ視線を向ける。声の主を確認した彼は誰にも気づかれないよう、どこか皮肉げな笑みを浮かべた。その笑みの意味を理解する者はカームスただ一人。

 

「なるほど……そういう展開になったか」

「カームス! リィタだよ!? 分かる!?」

「久しぶりだな、リィタ。戦場に出てくるということは……連邦にでも洗脳されたか?」

 

 その物言いにリィタは言葉を失ってしまった。カームスの言葉には“心”が込められておらず、まるで機械。無機質な感情を向けられてしまったリィタは次の言葉を発せずにいた。そんな彼女の機体をかばうように、ソラは前へ出た。

 

「カームス・タービュレス! お前、リィタに何を言っているんだ!?」

「その威勢の良さ……まだ生き残っていたのか連邦の剣持ち」

「そんなことはどうでも良い!! リィタは洗脳なんかされていない。リィタはリィタ自身の意志でカームス、お前の前に現れたんだぞ!」

「リィタの……?」

 

 ソラはすぐに斬り掛かりたい一心であったが、鉄の意志でそれを抑え込んでいた。リィタの意志を尊重に尊重した上で決めたことである。

 

(リィタ、上手くやれよ……!)

 

 リィタは今、勇気を振り絞っているはずであった。いくら懐いていたとはいえ、撃墜した相手の前だ。怖くない訳がない、恐れない訳がない。一歩間違えれば殺されていたかもしれない相手を前にするリィタの何と心の強いことか。

 そんなリィタの決心を無駄にするほど野暮なソラではなかった。

 

「カームス、どうしてリィタを撃墜したの……?」

「お前はSOにとって必要ないと判断したからだ」

「っ……! い、今まで……リィタにくれた……金平糖は、嘘だったの?」

「……金平糖はもう無い」

「り、リィタの事……もう嫌いなの?」

 

 数瞬の間の後、カームスは静かに答えた。だが、その答えはリィタが求めていたものではなく、実にドライなものだった。

 

「……下らんな。そういった話をするために、俺はお前たちの元に出向いたわけでは無い」

 

 カームスはそこで会話を打ち切った。ツヴェルクがファイティングポーズを取るのに合わせ、ソラ達が戦闘態勢に入る。こちらは四機だというのにも関わらず、たった一機であるツヴェルクの存在感の方が大きいのは乗っている者の気迫だろうか。

 

「……事態は望みが薄かった方へと転がった。長く、そして遠い回り道だったな」

「何を言っているんだ……!?」

「だが、それも最後となる。……来い! この先にゲルーガ大佐がいる。退きたくば退け! だが、進みたくば俺を乗り越えていけ!!」

 

 ハーフクレイドルを背に、ワインレッドの鬼が吠える――。


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