スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第三十三話 小さな“違和感”

 パラオ、グアム間の海上ではマズルフラッシュと発砲音が飛び交っていた。

 連邦軍の輸送機に積まれている補給物資を狙い、SOの攻撃部隊が攻撃を仕掛けて来ていたのだ。所詮はテロリスト集団であるSOの懐事情は厳しく、補給手段にも乏しい。今回の略奪紛いの行為もその一つ。リスクこそあれ、これが一番手っ取り早かった。

 そんな戦場では現在、一機の機体が電子系を掌握し終えたところであった。

 

「ユウリ、敵の様子はどう?」

「ジャミングシステム正常に作動中。現在、SOは各々通信のやり取りが出来ていないはずです」

 

 ユウリ機から放たれた強力なEA(電子戦攻撃)により、バレリオン二機を主力とし、リオン二機が護衛を務めているSOの攻撃部隊は現在、非常に混乱していた。日々バージョンアップされているオレーウィユのEAである広帯域雑音妨害(バラージ・ジャミング)は、敵味方双方の光学無線問わず通信やレーダー探知、電波誘導等の全てを完全に封じていたのだ。こちらが使っている周波数帯に限って妨害解除しているのでフェリアやユウリはこうしてやり取りが出来ていた。

 誘導兵器がただの直進兵器と化しているこの戦場だったが、フェリアは大して不便を感じていなかった。むしろ様々な軌道を見せるミサイル等がただのロケット弾になったのは喜ばしいことである。

 レールガンからの小型質量弾やバレリオンによる低出力ビームをピュロマーネの対ビームコーティングが施された厚い装甲でやり過ごしつつ、攻撃がやってくる方向を目視で捉えたフェリアは手早く狙いを定め、銃爪を引いた。

 

「……多少雑な狙いでもカバーしてくれるのが良い所よね」

 

 左右肩部の砲門から放たれた高出力ビームは空気を切り裂き、敵四機を分断するように通過していった。ビームの余波にあてられ、リオン一機が大きくバランスを崩す。街中ではあまり使えない威力だな――そう、改めてフェリアは感じ、ユウリ機がよろけたリオンのレールガンを破壊するのを見届ける。

 この一撃によって、SOはピュロマーネを最優先破壊対象として認定し、バレリオン二機の砲撃はピュロマーネへ向けられることとなった。機動力を損ねないよう大型化されたスラスターの推力により、被弾を最小限に抑えたピュロマーネは左右前腕部に装備されたマルチビームキャノンの狙点を特に粘り気のある攻撃をしてくるバレリオンへ向ける。

 造りがほぼ同じである肩部ビームキャノンとの違いは単発射撃や拡散射撃、照射など攻撃に様々なバリエーションを持たせられることである。距離もまだ遠く、エネルギー節約の点からフェリアが選択したのは単発射撃。即座にピュロマーネの両前腕部から二発のビームが放たれる。

 

「今よ!」

 

 バレリオンの堅固な装甲を考慮すれば、マルチビームキャノンによる砲撃は一撃必殺とはならない。だから、フェリアは自機の右から、今しがた怯ませたバレリオンへ向かっていく機体をアテにさせてもらった。

 

「まずは大砲一機!!」

 

 バレリオンから雨のように降り注ぐ低出力ビームをその高い運動性能で全て避けきったソラは気合いと共に、操縦桿を倒した。気合いを受け取ったブレイドランナーは携行武装であるシュトライヒ・ソードⅡを真一文字に振るった。高い出力を持つシュトライヒ・ソードⅡのビーム刃は堅固な装甲を持つバレリオンに甚大な損傷を与える。その斬撃は動力源にまで届いており、ブレイドランナーが離れた瞬間、バレリオンは爆発に包まれた。

 

「ようし……本調子!」

 

 ソラは操縦桿の上から手を握ったり閉じたりして、調子を確かめる。……日数にしてみればそれほど長くもないが、療養している間に、宇宙での濃い実戦の感触が抜けていないか非常に不安だったのだ。だが、命まで懸けた濃密な経験はそう容易く忘れられるものではなかったようだ。

 ソラ・カミタカは回復が早い部類の人間であった。本来なら一週間を見込まれていたが、それより二日も早い回復を遂げて見せた。その驚異的な復帰に、ユウリやリィタは当然として、フェリアですら驚きを隠していなかった。

 

(だけどまだだ……。もっと動きに幅を持たせなくちゃならない。そうじゃなきゃ、カームスにも、あの黒いガーリオンにも、ライカ中尉を倒したっていう奴も越えられねえ)

 

 そう呟き、ソラはもう一機のバレリオンを護衛するリオンへ狙いを定める。実は今回の護衛任務、本来ならフェリアとユウリのみで行われるはずだったのだが、ソラは強引に頼み込むことでこうして弾丸が飛び交う世界に舞い戻ったのだ。

 ソラは少し焦りを感じていた。『ライカ・ミヤシロが落とされた』という事件をフェリア達から聞いたソラは、世界がまだまだ広く、そして自分は弱いということを痛感させられてしまったのだ。……ライカ本人は無事だ。機体は大破してしまったが。肝心なのは、“ライカをあそこまで追い込んだ相手が存在する”、たったこれだけ。

 

「ソラ、射線に入らない!」

「……わ、悪い!」

 

 通信機へ一喝した後、フェリアはすぐにピュロマーネの高度を上げ、ソラ機を射線上に入れないように努めた。いくら加速力と装甲を強化した機体とはいえ、ピュロマーネの砲撃を喰らえばただでは済まない。

 常に後ろから援護をしてきたせいかどうかは分からないが、フェリアはソラの焦りを何となくだが、気づいていた。突撃するのは勿論良い。それを求めた機体特性であり、役割だから。だが、今のソラは明らかに突撃“し過ぎていた”。

 以前のソラならばもう少し、周りを考慮した上で仕掛けていたというのに、今はどうだろうか。ソラ機からも見える位置でエネルギーチャージをしているというのに、敵を追ってあえてその射線上へ飛び込んでくることが多々。

 

(全く……世話の焼ける!)

 

 しかし、フェリアはそんなソラに対してフォローの質を下げない。バレリオンが頭部の大型レールガンでソラ機を撃ち落とそうと砲撃を加えていたので、リオンはソラへ任せ、厄介な火力担当へと狙いを定める。

 

「ユウリ、援護お願い! 接近戦で確実に落とすわ!」

「分かりました! 援護します!」

 

 バレリオンがピュロマーネの接近に気づき、両腕部のミサイルランチャーを向けてきた。ユウリ機のEA下でただの直進兵器と化したミサイル群を前にして、フェリアはあえてペダルを踏み、機体を更に加速させる。ピュロマーネの強固な装甲を押し売り、直撃以外は全て避けない方針だ。

 そうしている内に、頭部へ二発程ミサイルが向かってきた。頭部バルカン砲で迎撃してもよかったのだが、そう考えている内に、ユウリ機がフォトンライフルでその二発を撃ち落としてくれたので、すぐに思考を切り替えた。

 

(相変わらず綺麗な射撃よね……)

 

 格闘可能範囲に踏み込んだフェリアはコンソールを叩き、マルチビームキャノンの出力を調整した。即座にマルチビームキャノンの砲門からビームによる刀身が形成される。

 

「一息の内に……!」

 

 バレリオンから放たれる低出力ビームをそのまま受け止め、ピュロマーネは両腕部を振り上げた後、交差させて振り下ろした。頭部砲身を破壊し、続けざまに右のビームソードでバレリオンの動力部を貫いた。

 一呼吸の内に行われた近接格闘により、バレリオンは徐々に高度が下がっていき、海面に叩き付けられる寸前で爆発した。

 

「ソラさん、あとはそのリオンだけです!」

「分かった!」

 

 リオンを逃がさないよう逃げ道を的確に狙い撃ちながら、ユウリはリアルタイムで流れ込んでくる情報を処理していた。それだけに留まらず、ユウリは現在実行しているEAが表示されているサブモニターのチェックも怠らない。

 今までのオレーウィユも当然電子戦装備は施されていたのだが、今回はラビーがバージョンアップした強化版。ラビーからテストの為、戦闘中ずっと使用するよう厳命されていたのもあって、今回のユウリの負担はいつもの倍である。

 というより、ユウリが今まで使わなすぎたのだ。最低限のデータ解析等は行っていたが、敵の電子兵装に干渉したのは片手で数えるほど。なまじ敵の攻撃を避け、的確に落としていけているからこそ、戦闘時間の短縮に繋がり、それが電子装備をほとんど使っていないという状態を招いてしまった。

 それらを踏まえ、今回のラビーからの指示はユウリにとって、レベルアップの良い機会となっていた。ただ敵と戦うだけでは無い、かといってただ後ろから後方支援をするのでもない。二人よりも情報を得る手段が豊富だからこそ、広い視野で動かなくてはならないのだ。

 

「そこだ!」

 

 苦し紛れのリオンの反撃を避け続け、ソラは一気に踏み込める射程範囲まで機体を接近させると、更に機体を加速させた。背部スラスターユニットから発生する大推力によって、一つの弾丸と化したブレイドランナーはリオンを袈裟掛けに斬り付けた。胴体から胸部まで食い込んだシュトライヒ・ソードⅡを抜くと、リオンは機能停止し、海へと落下していった。

 これで、目視できる敵は全滅した。EAが解除され、三人は索敵を行い、これ以上の増援が無いことを確認する。真っ先に緊張を解いたのはユウリであった。

 

「つ、疲れました……!」

「お疲れ様、ユウリ。損傷はない?」

「はい! ですが、暑いですぅ……」

 

 ヘルメットを脱いだユウリの髪は汗でじんわりと濡れていた。電子兵装のチェック、敵との撃ち合い、全体状況の確認等などやることが多いユウリは常に気が張っている。コクピット内の冷房を少しだけ強め、ユウリは火照った顔を冷ます。

 

「ソラさんは大丈夫でしたか? あんまり無茶しないでくださいね……?」

「良いのよ、ユウリ。無茶しているくらいがむしろ安心できるんだから」

「……そう、だな」

「……どうしたのソラ? いつもならもう少し噛みついてくるでしょうに」

 

 ソラはコクピットの中で今の戦闘で行っていた動きを振り返っていた。そのせいで、フェリアとユウリの言葉は殆ど入って来なかった。

 

(……駄目だ、あんな動きじゃ全然足りない)

 

 先ほどまでの動きがカームスを始めとするSOのエース級相手に通じる訳が無い。ソラは久しぶりの実戦を通じ、そう確信してしまった。

 先のマンティシュパイン戦は何もかもが都合よく行った謂わば奇跡の産物。二度目をやれ、と言われたら恐らく出来ないだろう。……それじゃあ駄目なのだ。目を閉じると浮かんでくる“あの時”の光景。一手間違えればフェリアやユウリ、リィタの三人が無残な肉塊と化していたかもしれない悍ましい瞬間。

 

(もっと俺に力があったらあんな状況になんか……!)

 

 あの時、マンティシュパインへ有効打を与えられたのはブレイドランナーのみ。ピュロマーネも該当するが燃費を考えたら、それほど無理はさせられない。だからこそ、きっちり立ち回っていなければならなかった。あの時の事態は自分の未熟こそ引き起こしたのだと、ソラはそう思っていた。

 当然、そのようなことはなく。またリィタの精神状態等を鑑みて、あの状況はなるべくしてなったというのがあの戦闘の結論であり、全てである。

 だが、ソラはそう思っていなかった。特機とやり合える力を持っていたからこそ、結果を出せなければならなかった。ライカやフウカのように、このブレイドランナーで結果を出さなければならなかったのだ。

 ソラの“反省”は、伊豆基地に帰還するまで続いていた――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ソラ達が戦っている間、伊豆基地にいたラビーは自室で戦いをモニタリングしていた。オレーウィユのセンサーが取得したデータの一部をラビーが使用しているパソコンへ送られるようにセッティングしていたからこそ出来る芸当である。戦闘終了まで見届け、ラビーは隣で一緒に映像を見ていた女性へ声を掛ける。

 

「……やれやれ。ソラ君も相変わらず無茶が好きだな……そうは思わないか?」

「……ええ。身体は大事にし過ぎて損はないでしょうに」

 

 そういう君が一番大事にしていないのではないか――そこまで言いかけ、ラビーは口をつぐんだ。下手にちょっかいを掛けて、後ろで控えている天災(メイシール)を召喚してしまう事態は御免被る。

 

「それにしても、今回も成果は上々のようですね」

「ああ。今回はユウリ君もちゃんと電子兵装を使ってくれたようだしな」

 

 額に包帯を巻いていたライカは形の良い顎に指をあて、早速戦闘の評価を行っていた。現在ライカはしばらくオフ状態である。身体の具合は極めて良好。センリが駆るレヴナントに撃墜された時、少し額を切ってしまったのを除けば、後は打撲と手首のねん挫という“軽傷”で済んだのだ。

 だが機体は大破。シュルフにダメージが無かったのが不幸中の幸いである。修理とついでにオーバーホールも掛けているので少しの間、シュルフツェンに乗ることは禁止されてしまった。

 そうして手持ち無沙汰となったライカは偶然ラビーと出会い、ソラ達が交戦中という話を聞き、今こうしてラビーの部屋にお邪魔していたのだ。

 

「……強力なジャミングで誘導兵器の使用制限と有視界戦闘を強いた上で、強力な白兵戦闘機と誘導兵器を持たない砲撃機で各個撃破を行う。こうして見ると、やはり効率が良いですね」

「だろう? 将来的にはこれを一機で行えるようにM型をアップデートしていきたいと考えている」

 

 だがラビーの夢の実現はまだまだ先だろう。ただでさえ高い基本性能を持つ量産型ヒュッケバインMk-Ⅱにそんじゃそこらのデータではまるで役に立たないからだ。まだラビーは、高い高い山のふもとに立っているだけである。

 そんなラビーの言葉を聞きながら、ライカはPTパイロットならではの着眼点を見せた。

 

「……ソラの動きが硬いですね。フェリアとユウリがフォローしているようですが、これは些か……」

 

 ライカは“らしくない”ソラの動きに疑問を抱いていた。機体性能を押し付けている、と言えば言葉は悪いが、今のソラの戦い方は正にそうとしか言えない。また、あまり連携を意識した動きをしていないことも看破していた。

 

「ん? 何か、ソラ君に問題が?」

 

 PTパイロットではないラビーはソラの“違和感”に気づいていなかった。顔を合わせれば気づけるが、PTパイロットでないラビーに『動きを見ただけで違和感に気づけ』、と言う方が無理な話である。

 ラビーの質問に対し、ライカは少し黙考させられてしまった。何も考えず、そして言葉を選ばずハッキリ言うのは簡単だ。正直な話、いまいちソラの“違和感”の正体に正確な名前を付けられずにいたのだ。

 

(確かめておかなければ後々、重大な事故を引き起こすかもしれませんね……)

 

 そこでライカは一策思いつく。しかし、メイシールの顔がちらついてしまい、内心苦笑してしまう。

 

(……また、『休め』と怒られてしまいますね)

 

 そう思いながらもやはり気になるので、ライカはラビーに思いついた事を喋ってみた、ソラに抱いた“違和感”もついでに。聞いている内に、ラビーも少しだけ彼女の顔がチラついたのか、同じように苦笑する。しかし、ラビーの答えは既に決まっていた。

 

「ああ、出来ればお願いしたい。特に、私はPTパイロットではないから、そういうのには疎い。恥ずかしながらソラ君の事、頼んだ」

「了解です」

 

 メイシールよりも部下の事を考えているラビーに少しばかりの羨ましさを感じつつ、ライカはこれからやることを頭の中でリストアップし始める――。


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