スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第三十一話 執念に取り憑かれた者

 現在、第五兵器試験部隊は連邦軍月面基地の医療施設に来ていた。

 マンティシュパインを無事撃破したブレイドランナーはオーバーヒートを起こし、数秒とはいえ、肉体の限界を超えた機動を敢行したソラの身体へのダメージは甚大なものであったのだ。

 

「ソラさん……。大丈夫でしょうか?」

「ソラ……」

 

 ユウリとリィタの不安げな表情を見たフェリアが深くため息を吐いた。

 

「まあ、気持ちは分かるけど、二人とも少し休みなさい。マイトラ・カタカロルとの戦いが終わってからずっと気を張っているように見えるわよ?」

 

 そう言って、フェリアは診察室の中を見透かすように視線をやる。部隊の代表として、あの中では今、フウカがソラの容態を聞いていたのだ。

 

(……とはいえ、私も他人の事は言えないわね)

 

 正直言って、新型ブレイドランナーの性能はフェリアの想像を遥かに超えていた。加速力、そして攻撃力は完全にあのマンティシュパインを上回っていたように見える。

 だが、それだけに、ソラにはまだ完全に扱い切れないシロモノだということが良く分かった。

 

(生きているだけ儲けもの。そう、考えた方が良いのかしらね)

 

 そんな事を思っていたら、ガチャリとドアノブが捻られる音がした。

 フェリア含め三人の視線は出てきたフウカに注がれる。

 

「……皆さん、休むよう言っていたはずですが」

「それよりも。あいつ、ソラはどうなんですか?」

 

 既にユウリとリィタが泣きそうになっているだけに、一秒でも早く結果を知りたかった。

 すると、フウカは少しの間の後、喋り出した。

 

「……結論から言えば、命に別状はありません。しかし、肋骨の骨折や内臓へのダメージ、肩の脱臼等などの治療で約一週間は絶対安静ですね」

 

 その言葉に、フェリアは胸を撫で下ろした。

 怪我の具合から、決して予断を許さぬ状況ではあるが、とりあえずの無事にようやく大きな安堵のため息を漏らすことが出来た。

 隣のユウリはよほど安心したのかその場にへたり込んでしまった。

 

「ソラ、良かったぁ……」

 

 ずっと暗かったリィタの表情もやっと明るくなっていた。年端もいかぬ少女に、こんな表情をさせること自体、軍人として失格だとは思うが今はソラの無事を喜ぶことにした。

 

「ラビー博士には私から連絡しておきます。三人は三日後に出る定期船で地上に戻ってください。それまではオフです。各々できる事を行ってください」

 

 そう締め括り、フウカは早速連絡でもするのだろうか、どこかへ歩き去って行った。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「振り返ってみると、私とユウリの機体が無事だったのね」

 

 フェリアは整備員に話を聞いてみて、改めてそう思った。

 コスモリオンは大型ブースターが完全に焼き切られており、修復は相当な時間が掛かるとのこと。ゲシュペンスト・フェルシュングは全身に万遍なく損傷があり、関節のサーボモーターや表面の装甲板を取り換えなくてはならないようだ。

 そして、ブレイドランナー。最大稼働のスラスターユニットの圧倒的な推力に加え、クローアンカーを用いた無理な戦闘方法によって、上半身のフレームがまた歪んでしまったらしい。

 それに比べ、オレーウィユとピュロマーネは可愛いものだ。どちらも一部装甲板を取り換えるだけで修理完了だとのこと。

 

「その分、三人には凄く負担を掛けてしまいました……。特にリィタさんには……」

「ううん! 二人が無事で良かった! それで、ね……?」

「――話したくなったらで良いわ」

 

 リィタの表情で()を喋りたいかという予想が付いてしまった。

 故に、フェリアはそれを先延ばしにさせる。彼女の言葉を聞くには、まだ一人足りないのだから。

 

「良いのよ、リィタ。あいつが、ソラがちゃんと回復してからで良いわ。それまで、誰も貴方には辛い事を聞く気は無いから」

 

 よほど言わなくては、という使命感に溺れてしまっていたのだろうか、リィタはフェリアの言葉に酷く安心した様子を見せ、何度もありがとうと呟いていた。

 

(……リィタには悪いけど、そんなことよりも気になることがあるしね)

 

 思い浮かべるはフウカとマイトラの会話。

 ソラはともかく、ユウリやリィタは特に何も気にしていないようだが、フェリアはあの時のやり取りに違和感しか感じていなかった。勿論挑発の意図が大きく割合を占めていたのだとは思う。

 しかし、あの時彼女は確かに言い切ったのだ。

 

 ――私ですか? 私は……“ライカ・ミヤシロ”です。

 

 間違いなくそう言った。双子の姉妹だから、知らない者からすればそれで信じ切るだろう。

 それがフェリアには気持ち悪かった。どこが、というレベルでは無く全てが。あの時の言い回し全部が気持ち悪く感じてしまったのだ。

 

(……ハッタリ、にしても随分と真に迫ったように感じたのよね……)

 

 いつか聞いてみなくてはならない、そう思っていたら、何か違和感を感じてしまった。具体的にはリィタがいない。

 

「……リィタは?」

「ちょっと探検! らしいです」

「……あの子、一応まだ捕虜扱いなのよ?」

「あはは……。ま、まあすぐに戻ってくるって言っていましたし……」

「……ソラの次に、あの子に甘いわね」

「あははは……」

 

 笑って誤魔化すユウリに、これ以上追及をせず、フェリアは整備中のピュロマーネを見上げた。

 

(良い感じだった。少ししかやり合えていなかったとはいえ、私のやりたいことが出来ていたように思える)

 

 鈍足でない程度の機動力、対象を確実に縫い止める火力、多少のミスをカバーしてくれる厚い装甲。正に自分が求めていた機体である。

 ラビーやライカに感謝してもしきれない。

 

「あ、そういえばフェリアさん。ラビー博士からこの間のSRXチームとの模擬戦の動画が送られてきたんですけど、携帯端末に送っておきますか?」

「ええ。お願いするわ。SRXチームとの手合せなんてそうはないしね」

「分かりました。それなら早速――」

 

 ユウリの言葉を遮るよう、突然基地内に警報が鳴り響いた。

 

「っ! ユウリ、出る準備!」

「は、はい!」

 

 第五兵器試験部隊で動けるのはユウリとフェリアのみ。ほんの少しの不安に彼女のこめかみを汗が伝う。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ユウリ、機体は見える?」

「はい! 今データを送りますね」

「リィタにも頂戴!」

 

 格納庫から出てきたガーリオンを見て、フェリアは目を見開いた。

 

「リィタ? そのガーリオン、どうしたの?」

「敵が来たから、動ける機体を探してたの、それで整備の人がいないガーリオンがあったからそれに乗ったの」

 

 つい手で顔を覆ってしまった。

 あとでラビー博士には頭を沢山下げてもらわなくてはならないな、とそう思いながらフェリアはデータリンクによって取得した正体不明機の画像を映し出した。

 

「何かしら、これ?」

 

 有り体に言うのなら、両手が大型ランス、そして一本脚の先端に(ひし)形の盾が装備された奇々怪々な機体。

 PTよりは一回り大きな機体サイズだが、どこかリオンシリーズを連想させる頭部。その後ろには、六機のコスモリオンが付いて来ていた。

 コスモリオンが“両手槍”へ追いつくと、待っていたかのように“両手槍”から全周囲通信が送られてきた。

 

「連邦軍の諸君。私はSO宇宙攻撃部隊の一人であるラスター・ランスローだ! そしてこの機体の名は《ローンブス・キャバリエ》。腐った連邦を撃滅する双槍なり!!」

 

 ローンブス・キャバリエ。

 “菱形の騎士”という名の由来は菱形の盾からだろうか。

 そんな考察をしている間に、ユウリが更にデータを解析したようで、追加情報が流れてきた。

 

「フェリアさん、リィタさん。あの機体、動力源が二つ確認できます。一つは本体と。もう一つはあの盾と両手の槍へ直結されています」

「……SOの機体って割と意味分からない機体が多いわよね」

 

 鬼のような巨人、クモカマキリに続いて、次は一本足の騎士と来た。

 おおよそメジャーなメーカーが手掛けた機体でないことが良く分かる。……真面目に考えるのなら、多種多様な技術が混在している機体、と言えば良いのだろうか。

 試作兵装や新技術のデータを取りたいメーカーが非公式に流している、と考えるのが妥当。もちろん連邦軍が譲渡元を突き止めたとしても、知らぬ存ぜぬの一点張りは確実であろうが。

 

「今回、我らは戦争をしに来たわけでは無い! 目的はリィタ・ブリュームの身柄だ」

 

 ラスターが要求したのは何とリィタの身柄であった。思わず、ユウリは口を開いてしまった。

 

「そ、そんな! リィタさんを撃墜しておいてそんな勝手な!!」

「ほう? 流石は腐った連邦だな。リィタ・ブリュームを撃墜したのをこちらのせいにするとは! 責任を放り投げる肩の何と強いことか!!」

(……撃墜? こっちが?)

 

 また感じた違和感。

 こちらの反応が悪かったせいか、ローンブス・キャバリエの双槍が基地へ向けられた。それに合わせるよう、ローンブス・キャバリエの後ろに控えていた六機のコスモリオンも攻撃準備に入る。

 

「もはや問答無用! 貴様らを駆逐した後、ゆっくりリィタ・ブリュームを確保するとしよう! 皆の者、掛かれ!」

 

 そして始まったコスモリオン部隊の射撃。

 基地の防衛部隊である量産型ヒュッケバインMk-Ⅱも応戦を開始した。その射撃の合間を縫うよう、リィタのガーリオンがコスモリオン部隊へ突撃する。

 

「リィタ、そのガーリオンで行けるの?」

「あの一本足は無理そうだけど、コスモリオンなら……。フェリアとユウリはあの一本足をお願い……!」

「無理そうならすぐに下がりなさい! 良いわね……!!」

 

 ラスターの意識をこちらに向けるべく、マルチビームキャノンの狙いをローンブス・キャバリエのコクピットへ定める。手早くロックオンを済ませ、フェリアは引き金を引いた。ピュロマーネの前腕部から一条の光が放たれ、一本足の騎士へと向かっていく。

 攻撃を確認しているにも関わらず、ラスターの声には余裕があった。

 

「砲兵か! しかし、その程度の花火、このローンブス・キャバリエには通用せん!」

 

 避けることもせず、ローンブス・キャバリエはピュロマーネの砲撃へ一本足の盾を向けるだけ。

 すると、菱形の盾の中央が僅かに輝いた。

 

「……ユウリ、どう?」

「ヒットはしています。ですが、あの盾に当たっただけです……」

「手応えからしてただの実体盾じゃないことは分かったわ。……どういう類の“盾”か分かる?」

「候補は二つです。一つは単純に強力なEフィールド。もう一つは、重力障壁です」

「グラビコンシステムを積んでいるとでも言うの……!?」

「はい。……ピュロマーネのビームの弾き方が独特だったので、恐らく後者が濃厚かと思います」

 

 敵は思った以上の“盾”を持っていたようだ。

 となると、上半身よりも大きい腰部に重力制御装置が載せられているのだろう。なら、動力源が二つあるのも何となく納得出来た。思う存分、盾へエネルギーを回すためであろう。

 何とも頭が悪く、何とも厄介な機体だった。

 

「貫けそう?」

「ちょっと待ってください、シミュレートを――」

「ええ、お願いするわ。向こうが待ちきれなくなったみたいだしね……!」

 

 ローンブス・キャバリエが真っ直ぐにピュロマーネへ向かってきた。

 まずは火力を潰す算段のようだ。双槍には薄く、それでいて視認できるほど密度の高いブレイクフィールドが纏われている。

 すると、コスモリオンとの戦闘に夢中だったのか、友軍のヒュッケバインMk-Ⅱがラスターとフェリアの間に飛び出してきた。

 

退()けぇぇ!!」

 

 槍が掠っただけ。

 たったそれだけで、ヒュッケバインMk-Ⅱの右腕が吹き飛んでしまった。

 

「一撃で……!?」

 

 今度は出力を上げてマルチビームキャノンを放つが、また一本足の盾で防がれてしまった。ローンブス・キャバリエは一度大きく距離を離し、再度ピュロマーネへ向かっていく。

 

「無駄と言っている!」

「立ち直りが速いっ……!」

 

 二度目の突撃は避けきれなかった。

 すぐさまカバーに入ったユウリのお蔭で、すぐに一本足の騎士は盾で射撃を防ぎつつ、離脱をしていった。安堵しつつ、フェリアは損傷した左脚部の状態を直ぐにサブモニターに映し出す。

 

(追加装甲が抉られただけで、脚自体は大丈夫みたいね……)

 

 左脚部の増加装甲をパージし、全体の推力バランスを手早く調整したフェリアはこの難敵への対処に頭を悩ませる。

 

(突進力は当然として、あの盾と槍は厄介ね……)

「我がローンブス・キャバリエの双槍に貫けぬもの無し! この槍を折りたくば奴を……()()()()()()を持ってこい!!」

「忌まわしき、盾……? なら、貴方も……!」

 

 その単語は久しぶりに聞くことになったフェリアの表情は苦いものであった。台詞から察するに、ラスターというパイロットも恐らくは――。

 

「そこの砲兵、まさか貴様……コロニー出身が何故連邦なんぞにいる!?」

「『ホープ事件』……。あれはもう、終わったことなのよ……!」

「終わってなど居らん!! 現に、奴はああしてのうのうと地球圏にのさばっているではないか!! またいつ奴のせいで何人もの人が死ぬかを考えただけで怖気が走る……!!」

 

 ローンブス・キャバリエのメインブースターにまた火が入る。

 

「だから私はSOに入った!! 今度こそあのような悲劇を繰り返さぬために……!!」

 

 オレーウィユの牽制射撃があって、今現在は紙一重でラスターの突撃を避けられている状況だ。

 

「フェリアさん、出ました! ピュロマーネの一斉射撃なら、強引ですが捻じ込めます!」

 

 その言葉を聞いて、フェリアは腹が決まった。

 もし力押しが無理ならば、大破覚悟で接近し、マルチビームキャノンのビームソードで叩き斬るつもりであった。だが、フェリアの誰も知らぬ賭けは、いい結果となって彼女に返ってくる。

 

「ならユウリ、私の言うことを聞いてくれる?」

「は、はい! 私にできる事ならば……!」

 

 旋回をし、双槍を向け、突撃してくるローンブス・キャバリエの真正面へピュロマーネは移動した。

 

「気が狂ったか、砲兵!」

「これ以上なく真面目!!」

 

 ロックオンを終え、ピュロマーネに装備された砲門全てを向かってくるローンブス・キャバリエへ向ける。

 ユウリが弾きだしてくれた速度から計算すると、三秒の間があった。その三秒をエネルギー充填に充て、フェリアは()()()が来るのを待つ。

 

「ラスターと言ったわね。確かにホープ事件は凄惨だったわ。憎悪も良く分かるわ」

「なら何故連邦ごときに与する!?」

「……乗り越えていかなきゃ……駄目でしょうが!!」

 

 十分に接近してきたところで、フェリアはトリガーを引いた。

 ピュロマーネの計四門のビームキャノンが蓄えた十二分のエネルギーが、突貫してくる一本足の騎士へと解き放たれた。当然、ローンブス・キャバリエは一本足の盾でそれを受け止める。

 そこから、二人の根競べが始まった。

 

「機体の動力全てをビームキャノンへ……だけど、駆動系に回す分は温存して……まだ回せる? いやもう少し欲張ってエネルギーを……!」

 

 これで押し込めなければこの機体を止める手立てが無くなってしまう。

 フェリアはコンソール上に指を踊らせ、回せる限りのエネルギーを全て攻撃へと充てた。

 

「何も知らぬ小童が! 知った風な口を!!」

「パパとママ、妹に姉がその事件で死んだ!! 後は何を知っていれば良いの!?」

「何だと!?」

 

 砲撃と盾はまだ拮抗していた。駆動系には回す分を考えると、そろそろ照射を続ける訳には行かない。

 チラリと、フェリアはレーダー上に映っているオレーウィユの位置を確認した。

 

「そんな目に遭い、何故貴様は連邦なんぞに居られる!? 憎悪して然るべき集団に何故!?」

「家族が知っている“私”でいたいから! 憎悪に囚われた時点で家族が知っている私が死んでしまうからよ! 皆に笑って誇ってもらえる私でいたいから……だから、貴方も!」

「そんなものォォォォ!!」

 

 瞬間、ローンブス・キャバリエの背中に光子弾が直撃した。

 回り込んでいたオレーウィユによる狙撃である。すぐさま、突進したオレーウィユはプラズマカッターでローンブス・キャバリエの左腕部を斬り落として離脱する。

 

「フェリアさん!!」

「上出来よユウリ!!」

 

 バランスを崩したの見計らい、一気に機体を推進させたピュロマーネは砲撃を止め、左右のマルチビームキャノンからビームによる刀身を形成させた。

 

「くっ……!! いつの間に!?」

「その機体は確かに凄まじい防御力ね、攻撃力も。だけど、その分、どちらかに集中しなくてはならなかった!」

 

 思えば、最初からただ突撃してくるだけでよかったのだ。あれだけ洗練されたブレイクフィールドを展開させられる双槍ならば攻撃も防御も両立できたはずなのに、あの機体はそうしなかった。

 不思議に思ったのは初手。こちらの砲撃に対し、ラスターは突撃を止め、わざわざ盾で防いだのだ。

 ピュロマーネの砲撃の威力が高いのもあるのだろうが、あのままでは突撃中に集中攻撃を喰らうとでも思ったのだろう。だから確実に攻撃を止められる盾を選んだのだ。

 最強の矛と盾の両立を目指した結果が、致命的な弱点になるとは何たる皮肉。しかし弱点はたったそれだけというのも事実。

 防御を強いることが出来るピュロマーネがいたからこその攻略方法。

 ローンブス・キャバリエの盾の中央部へ、ピュロマーネはビームソードを突き刺した。そして、すぐさまコマンドを入力したフェリアは方向と共に、ビームの刀身を解放させる。

 

「エクステンション!!」

 

 突き刺したビーム刃のエネルギーを一気に解放し、盾を内部から破壊した。

 

「私はまだ……まだ終わらぬ! 粛清を見届けるまでは!」

「復讐は虚しいもの、なんて言うつもりはないわ。だけど、いい加減前を向きなさい。死んだ人を言い訳にして自分を惨めにしないで、太陽を仰ぎなさい。少なくとも私は……そうしていきたい」

 

 そう言って、ピュロマーネはローンブス・キャバリエの胸部へビーム刃を突き刺した。

 動いていた残りのランスの動きが止まる。生命反応は感じられる。コクピットの無事を確認したフェリアは少しばかり溜め込んでいた息を吐き、リィタのへ機体を向ける。

 

「フェリア、ユウリ、こっちも終わったよ?」

 

 リィタのガーリオンがこちらへ手を振っていた。

 防衛部隊との連携もあるのだろうが、無傷でコスモリオン部隊を制圧するのは流石と言える。

 

「……何故、殺さなかった?」

 

 ラスターの質問に、フェリアは目を閉じ、黙考する。色々と言葉を考えては見たが、やはりこの一言しかないだろう。

 

「……貴方はまだ戻れると思ったから。それだけよ」

「…………甘いな」

「最近そう言われるようになったわ」

 

 指揮官機の制圧という結果で、この防衛戦は見事連邦の勝利となった。

 しかし、今のフェリアにはそんな清々しい感情はない。久しぶりに嫌な事を思いだしてしまった。

 だが、フェリアは流れ込んでくる思い出に対し、こう言ってやった。

 

(……私は精一杯生きます。いつかそっちに行ったときに、頑張って生きたねと言ってもらえるように、私は……)

 ピュロマーネは右腕を軽く上げ、一発だけビームを撃ちだした。

 それこそが、手向けと言わんばかりに……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「やりましたね。三人とも」

 

 基地のモニターで一部始終を見ていたフウカがそう言って、薄く微笑んだ。

 しばらくすると、携帯端末が鳴った。フウカは訝しげな表情を浮かべつつ、携帯端末を耳に当てる。

 

「もしもし」

「フウカ、私よメイシール」

「どうして貴方が私の番号を知っているのか知りたいですが、今は良いでしょう。……どうしました?」

 

 相手はメイシールであった。

 ギリアム始め情報部にしか教えていないはずの番号がどうして漏れているのか甚だ疑問であったが、今は置いておくことにしたフウカ。

 何せ、メイシールの声が()()()()()()()

 

「ライカが……ライカが……」

「ライカ? どうしましたか?」

 

 時間にしたら数秒だろう。だが、妙に長い時間のあと、メイシールが泣きそうになりながら、告げた。

 

「ライカが……撃墜されたの……」

 

 静寂が、一帯を支配する。


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