スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第二十七話 対決、SRXチーム~後編~

「おおおお!!」

 

 ソラには無茶が出来る理由が一つあった。

 それはブレイドランナーの両腕部に搭載されているTフィールド発生装置である。以前と比べ小型化されているが、ラビーとメイシールが出力調整をし、むしろ瞬間的な防御力は向上している。そして、よりエネルギー変換が効率化され、展開可能時間が伸びているのも突撃に踏み切った後押しでもある。

 ソラはサブモニターに目をやり、まだ撃墜判定が出ていないことに安堵する。機体前面に展開できる時間は残り二十秒、切った。

 

「ちっ……ガーリオンのブレイクフィールド以上の強度! リュウセイ、大尉、フォローを頼む!」

 

 ブレイドランナーの加速力と思った以上に強固なTフィールドに、ライディースは一時後退を選択した。

 しかし、いくらパイロットが一流とはいえ、足回りにパラメーターを全振りしている機体から逃げるには少しだけ()()()()が足りていない。

 もう一歩踏み込めばR-2パワードに辿りつく。しかし、それには後退の用意が整いつつあるライディ―ス機をもう少しだけ縫い止めなくてはいけない。

 そこで、ソラは更にダメ押しを選択した。

 

「らあァ!!」

 

 両手に持っていたコールドメタルナイフを力任せに投擲。

 まさか投げてくるとは思っていなかったライディースはR-2パワードを半身にし、ショルダーアーマーを向けることで、()()()しまった。

 

 ――千載一遇のチャンス。

 

 操縦桿を横に倒し、ペダルを踏む力を変え、左右のスラスター噴出量をあえて不安定に。思い浮かべるは敬愛する女性パイロットがツヴェルクへかました戦闘機動(マニューバ)

 真っ直ぐにR-2パワードへ向かうブレイドランナーの両手甲部からクローアンカーが伸びていく。左右肩部のフレキシブルスラスターがそれぞれ急激に上と下を向いた。

 ――その瞬間、ソラの視界では世界が回る。

 

「低空バレルロールだと……!? リュウセイでもやらんぞ!」

 

 そのままの速度を維持して螺旋を描くような横転――バレルロールを繰り出したブレイドランナー。背後を取る間、一緒に回転していたワイヤーがR-2パワードのハイゾルランチャー部や上半身に絡まったのを確認すると、ソラは叫んだ。

 

「今だ撃て!!」

 

 追いかけて来ていたオレーウィユとピュロマーネにそう言うなり、ソラは操縦桿を力一杯握り締める。これから撃たれるまでの数瞬が勝負。

 R-2パワードの馬力を嘗めて掛かってはあっという間に振り解かれる。だから、全霊を以てこの機体を抑える。

 そう思っていたソラは、次の二人の反応に、正直驚きを隠せなかった。

 

「……っ」

「そ、それは……」

 

 R-2パワード拘束から今の台詞を聞くまで、時間にしたら数秒も無い。

 しかし、ライディースとしては数秒あれば十分であった。R-2パワードは有線式ビームチャクラムを大きく振るい、背後にいたブレイドランナーへ思い切り打ち付けた。

 

「嘘だろ!? 攻撃範囲が広すぎる!」

 

 右肩に当たってしまい、機能停止判定が出てしまう。

 出したワイヤーを回収することも出来ぬまま、ブレイドランナーとR-2パワードを繋ぐ鎖と化してしまった。

 

「念じるままに……行きなさい! ストライク・シールド!」

 

 R-3パワードの両肩ホルダーから飛び出た六本の打突兵器がソラと、そしてR-2パワードへ気を取られていたオレーウィユへ襲い掛かる。

 

「し、しまっ……!」

「ユウリ!」

 

 アヤによる精密な念動コントロールで六本のストライク・シールドはオレーウィユの関節部を叩き回り、あっという間に行動不能へと持っていってしまった。あまりに一瞬の撃墜に、フェリアは一気に飛び込んでくるR-1への対応が遅れてしまうという最大の不覚を取った。

 既にR-1の右拳には念動フィールドが集束されている。

 

「R-1!?」

「遅いぜ! 喰らえ! T-LINKナッコォ!」

 

 回避行動が間に合わなかったピュロマーネの胸部へR-1の拳が叩き付けられた。本来の実戦ならばこのまま念動フィールドが解放され、ピュロマーネの胴体は貫かれるのだが、今回は模擬戦である。

 リミッターが発動し、念動フィールドが消え、ピュロマーネのメインモニターには『撃墜判定』の四文字が。

 これで一対三。勝敗が確定した瞬間であった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ま、負けた……」

 

 ブレイドランナーから降りたソラの一言目を聞いていたフェリアが珍しく嫌味を言うことはなかった。

 

「ええ……負けね」

「負けましたぁ~……」

 

 後ろからトボトボと歩いて来たユウリが半泣き状態だ。しかし、今のフェリアには彼女を慰める余裕がなかった。

 

()()()、引き金を引けていれば……)

 

 自分の右手を見つめながら、フェリアは呟く。

 ソラがギリギリで掴みとったR-2パワード拘束という一条の光。だが、フェリアとユウリはそれを掴みとれなかった。

 理由は――何となく分かっていた。

 

「おお……間近で見ると中々イカしてるなぁブレイドランナー。特にあの剣! どことなくバーンブレイド3の武器に似ているような……」

 

 そんな子供みたいな感想を漏らしながら歩いて来たのは先ほど手合せをしていたリュウセイ・ダテであった。

 

「もう! いきなり走らないでよリュウ!」

 

 アヤ・コバヤシはリュウセイに追いつくなり、注意を始めた。

 小さな注意は飛躍に飛躍し、挙句の果てには『だからマイにも悪い影響が……』などと言いだす始末。

 

「……流石にあの武装とこの武装では細部が違いすぎるだろう」

 

 最後にやってくるなり妙に的確な突っ込みをしたのは、“天才”ライディース・F・ブランシュタイン。

 思わずソラは彼らの青いジャケットへ目をやった。三人が纏っているその青いジャケットこそが、地球圏の守護者であり鋼の戦神を操る『SRXチーム』という何よりの証であったのだから。

 

「アヤ大尉! リュウセイ少尉! ライディース少尉! ありがとうございましたっ! 滅茶苦茶勉強になりました!」

「リュウセイで良いって。俺より一つ年上だって聞いてるぜ」

「お、そうなのか? それじゃあリュウセイだな!」

「それでこっちはライな」

「……勝手に人の呼称を決めるな」

「ライさんにアヤさん、リュウセイさんすごく強かったですぅ~……」

 

 ユウリが既に“ライ”と呼び始めたため、ライディースはあまり強く言うことも無く、それぞれが呼びやすければいいということで受けいれた。

 それからはすっかりとライとなったようで、フェリアも感想を一つ。

 

「流石だったわ。こっちの完敗よ。せめて一人でも落としたかったわ」

「い~え。少なくともあの時、ライは落とせていたわね」

 

 アヤは全てお見通しだったようだ。

 フェリアはこれこそが念動力者の力なのか、とも思ったが、単純に洞察力がすごいのだろう。

 負け惜しみになるかもしれないが、確かにあの時ライディースだけは落とせていたのだ。後にも先にも落とせるタイミング恐らくあの一瞬のみ。

 しかし――。

 

「当ててあげようかしら? ソラを巻き添えにしてしまうと思ったから、でしょ?」

 

 フェリアはアヤの一言で、自分の中の全てがカチリと当てはまった。やはり、()()()()()()()

 ユウリも図星を突かれ、困ったような笑みを浮かべていた。

 

「そ、それであの時二人とも撃たなかったのか……。模擬戦なんだから遠慮すること無いのに」

「いいや、それは違うぜソラ」

 

 ソラの言葉に真っ先に反応したのは意外にもリュウセイであった。

 

「模擬戦って言っても、あれはゲームじゃなくて空気は実戦と何一つ変わりないんだ。フェリアとユウリはそれを意識し過ぎたんじゃねえのか?」

「……っ!」

 

 そのリュウセイの言葉に、ソラは後頭部を思い切り殴られたような感覚を覚えた。自分の戦闘を振り返ってみると、あの時やっていた無茶な動きの数々は()()()()()()出来たのだ。

 もし仮に、相手が本気で殺す気で砲撃してきていたらどうだろう。Tフィールドでは防ぎきれなかったのかもしれない。

 バレルロールに失敗したらどうだろう。そのまま機体と運命を共にしていたのかもしれない。

 思い返せば思い返すほど、いかに自分が低い意識で模擬戦に臨んでいたかが分かる。いくら新しい機体の動きを確かめなければならないとはいえ……いや、訂正しよう。

 

 ――浮かれていたのだ。

 

(そう、か。フェリアやユウリはそれをちゃんと理解していたから……)

 

 もちろん()()()()()()なら、自分も躊躇っていただろう。

 

「そっか、俺がやってたのはただの遊びと変わらなかったんだな……」

「……だが、意表を突かれたのは事実だ」

 

 ライディースがソラと視線を合わせる。

 

「結果としてR-2の動きを止められた。実戦なら俺がやられていただろうな」

 

 事実を事実として告げるライディースを見て、第五兵器試験部隊よりリュウセイの方が驚いていた。

 

「め、珍しい……ライがフォローしてるぜ」

「ありのままを言っただけだ。それよりもリュウセイ、お前随分とフェリア少尉に翻弄されていたようだな」

「ち、違うって! 砲撃戦用だから接近戦に弱いと思ってだなぁ!」

「それ、ライの前で言う?」

 

 リュウセイの苦し紛れの言い訳に、アヤが呆れ顔を浮かべる。

 ライディースとアヤのプレッシャーに耐え切れなくなったのか、リュウセイが唐突にユウリの方へ顔を向けた。

 

「そ、そうだ! ユウリだったっけ? 模擬戦直前から気になってたんだけど、もしかしてスーパーロボットが――」

 

 その瞬間、ユウリの眼の色が変わった。

 

「は、はい! 大好きです! 特に好きなのは超機合神バーンブレイド3と狼我旋風ウルセイバーなんですよ!」

 

 高まったユウリのテンションに合わせるかのように、リュウセイの眼の色も変わった。

 

「おお! バーンブレイド、しかもウルセイバーを観ている奴がここにもいたのか!」

「はい! 一番好きなシーンは、バーンブレイドがパワーアップしてウィングが追加されるところです!」

「そこから一気に形勢逆転するところが熱いよな! ウルセイバーは?」

「第六の剣ロウガフォルトレスで五十六億もの敵の砲撃を防ぎきるところが一番好きなんですよぉ!」

「中々渋いところ行くな! 俺はウルセイバーが破壊寸前のところでロウガネティックエナジーをオーバードライブさせるところかな」

 

 ユウリとリュウセイの会話をジッと眺めていたソラがボソリと呟いた。

 

「ま、マニアの会話だ……本物の」

 

 すると、突然肩をちょんちょんとつつかれた。

 振り返ってみたら、割と近い距離にアヤがいたのでソラは思わずビクついてしまった。何か言う暇も無く、彼女は小声で訪ねてきた。

 

「あ……貴方はああいうのは興味ないのソラ?」

「いやぁ……俺はあんまりないッスね」

 

 とても不安げに尋ねてくるので、思わず本音を喋ってしまったソラ。

 だが、アヤにとってはそれが()()だったようで、あからさまに安心されてしまった。

 

「良かった……私だけじゃないのね」

「へ?」

「……ライを見てみなさい」

 

 アヤの言うとおり、ライディースの方を見てみると、どことなく二人の会話を理解しているような雰囲気が感じ取れた。彼女からの補足によると、だいぶリュウセイによって影響されつつあるらしい。もちろん彼女にとっては悪い意味で。

 しかし、それを言うなら、こちらだって負けていない。そう思いつつ、ソラは先ほどから会話に入りたそうにソワソワしているフェリアの姿をぼんやりと眺めていた。

 

「……何よソラ?」

「い~や、何でもない何でもない」

 

 ジロリと睨まれてしまったので半ば棒読みになりながらも適当にあしらうソラ。そうこうしている内にリュウセイとユウリの会話が物凄い盛り上がりを見せている。

 

「な……っ!? DX超合金バーンブレイド3高速三段変形が出来るのか!?」

「もっちろんですよ! 乙女の嗜みですよ!」

「マイですら説明書を読まなければ出来ないってのに……」

 

 どうやらリュウセイにとっては衝撃的な事らしい。何故かフェリアも衝撃を受けているようだ、いつもより表情が険しい。

 すると何を思ったのか、リュウセイが両手を広げ、高らかに宣言した。

 

「ヨシッ! 次のオフの日、バーンブレイド3の上映会やろうぜ!」

「やりましょーーー!!」

「ま、またぁ!?」

 

 どうやら二回目のようで、アヤの顔がヒクついている。ライにいたっては無表情だ。

 

(……え、俺も?)

 

 チームはいつも一心同体。そんな言葉を、今このタイミングで思い出したくはなかった。


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