スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第二十四話 新たな刃

「いやぁすまないね、ライカ中尉。無理言ってしまって」

「……いいえ、私も少々気になっていましたので、むしろちょうど良かったです」

「そ、そうか。それは良かった」

 

 ラビーは少々、ライカが苦手であった。

 物腰というか態度というか、ライカの対応の全てに自分以上の余裕を感じ、何だか一歩引けてしまうのだ。もちろん彼女の事は嫌いでなく、むしろ好感が持てる。

 しかも、ライバルであるメイシールのモンスターマシンに喰らいつける技量と、平気で自分を危険に晒す度胸と判断力は特筆に値する。

 ……だけどやっぱり苦手なものは苦手だった。

 

「……どうしましたか?」

「い、いや何でもない。何でもないぞ。ははは……。それで、彼女は今どこで待っているんんだ?」

「医務室です。あそこのほうがより資料が揃っているとかで」

「……なるほど、確かにそうかもしれないな」

 

 そう言っているうちに、医務室についた二人。ライカがノックをすると、中から返事が聞こえてきた。

 

「失礼します。お忙しい中、わざわざすいません」

「気にしないでライカ。これは私の専門分野なんだから」

 

 そう言って、褐色の美女は微笑んだ。

 

「第五兵器試験部隊の開発主任を務めているラビーです。貴方が教導隊外部スタッフの………」

「ラーダ・バイラバンです。よろしくお願いしますね、ラビー博士」

「今日はわざわざありがとうございます。私がライカ中尉に無理やり頼み込んだんです」

「あら……。私のほうが年下と聞いていますので、敬語なんて使わないでください」

「そ、そうか。ならラーダも、出来れば砕けた感じで接して欲しい。その……敬語とか苦手なんだ、私」

 

 自分より明らかに年齢が上だったり、重役クラスの者相手なら敬語もスラスラと出てくるのだが、それ以外の人間と接するときはどう接して良いか分からなくなり、テンパってしまうのが、ラビーの悪い癖であった。

「ところでラーダさん、私とラビー博士がまとめたデータの方には目を?」

「ええ。……ライカとラビー博士の読み通りだわ」

 

 ラーダの言葉を聞き、出来ればそうであってほしくはなかったラビーは少しばかり表情を曇らせた。

 

「そう、か。なら彼女は相当辛い人生を送っていたということか……」

「実は私も驚いているわ。まさか()()()()の生き残り、しかも最初期メンバーが生きていたなんて……」

「……最初期メンバー?」

 

 ラーダはノートにさらさらとペンを動かし、それをラビーとライカに見せた。いくつか見慣れぬ単語が書かれている。

 

「あの機関にはアウルム、アルジャン、ブロンゾ、イエロにラトゥーニクラスというようにそれぞれ“性能”や“運用目的”に合わせたクラス分けがされていたの。そして、彼女はそのクラス分けがされる以前に在籍していて、クラス分けされる前に“処分”された」

「……何故ですかラーダさん? 私の眼から見て、彼女は処分されるような劣等生にはとてもじゃないが見えませんでした」

 

 すると、ラビーはその理由に一つだけ心当たりがあった。それは、ユウリも持ち合わせている力でもある。

 

「念動力者……だからか? 当時の研究から考えると、まだノウハウが不足していたと思われるのだが……」

 

 ラビーの問いに対して、ラーダは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「……ごめんなさい。断言はできないわ。でも、念動力のような特殊な力を持っているのなら、当時の責任者であるアードラー・コッホが見逃すはずが無いわ」

 

 アードラー・コッホ。

 その名前には聞き覚えがあった。当時のDCの副総帥であり、兵士養成機関『スクール』の責任者だった人物だ。

 性格は残虐非道。数々の非人道的な行いは同じような畑にいるせいか、良く耳に入っていた。考えられるのは、ラビーが思っていた通りのことだった。

 

「なるほど……逆に()()()()()のか」

「ええ、恐らくね。もっと詳しいことは本人と直接話してみなければ分からないけど。恐らくアラド達と同じように投薬やリマコンを受けているでしょうね。それもたっぷりと」

 

 聞けば聞くほど腹立たしい単語ばかり出てくるが、ラビーはふと気づいた。

 

「そんな状態なら廃人コース待ったなしだろう。……誰が彼女をあそこまで“戻した”?」

 

 リマコン――強力な精神操作――はそう簡単なものではなく、記憶や感情などと言ったものを自分の都合の良いように弄る為、回復するには相当な時間を要する。ラーダ・バイラバンのようなメンタルの専門家はそうはいない。

 すると、ライカが小さく呟いた。

 

「……SO。彼女の言ったことを鵜呑みにするのなら、カームス・タービュレスですね」

「だが、カームスは不要を告げる言葉と共に彼女を攻撃した。その理由が分からん」

「その辺を含めて、リィタ・ブリュームさんとはじっくり話をした方が良さそうね」

「お願いします。アラド達のこともあるのにすいません」

「良いのよ。その時にはアラドやゼオラ、ラトゥーニとも会わせたいわね。良い友人が出来るはずよ」

 

 ラーダの言葉に頷いたラビーはとりあえずこの問題が何とかなりそうなことを予感し、安堵する。

 すると、次にやることがある。

 

(……機体はどうにかなる。あとは、ソラ君達の底上げだ)

 

 これまたライカの計らいで先方とのラインは繋がっている。

 あとは連絡を取るだけとなっていた。忙しくなるな、とラビーは妙な充実感を感じていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 リィタへの聞き取りから一日が経った。快諾とまではいかないが、彼女がこちらに協力してくれるのは第五兵器試験部隊としては大きなことである。

 それに、とソラは備え付けの電波時計に目をやる。

 

(確かこれからだよな。いや~楽しみだ楽しみすぎるぜ)

 

 午前中、ラビーから機体の改修が午後に完了するという連絡が来ていた。話に聞けば、ユウリとフェリアの機体も改修したらしい。

 まだあの惨敗から三日程度しか経っていないというのにこの作業の速さは恐るべきとしか言えない。きっとリビーが頑張ってくれたのだろう、とまだ確証も得ていないが、今度何か奢ってやろうとソラは考えた。

 そう思っていると、ふいにこちらへ走ってくるような音が聞こえた。

 

「ソラ! 外に行こう!」

 

 背中に感じた程よい重さ。ふわりと香る優しい匂い。そして首に回された華奢な腕。

 昨日とはまるで別人のような無邪気な声の主へ、ソラは首を回す。

 

「おうリィタか、とりあえず降りようか」

「駄目! ソラ! リィタと外に遊びに行こう?」

 

 まるで憑き物が落ちたかのようににっこりとした笑顔だった。

 気を許してくれているのだろうか、昨日の一件を境にリィタは自分の事を“リィタ”と呼ぶようになっていた。

 元々こういう性格だったのだろう。むしろ今まで抑圧されていた分が一気に爆発しているのかもしれない。

 

「いやいや、今日はこれから改修した機体の説明があるんだよ。だから、また今度な?」

「ソラの意地悪ー!」

「そ、そんな人聞き悪い事言うなよ」

 

 すると向こうからフェリアとユウリが歩いてきた。

 ユウリはリィタの顔を見るなりニコニコと笑顔を浮かべたが、隣のフェリアは半目でソラを睨んでいた、俗にいう『ジト目』というやつである。

 

「リィタさんこんにちは!」

「ユウリ! ソラが遊んでくれない!」

「へー……随分懐かれているじゃない。嬉しい? ねえ嬉しい?」

「何でお前はいきなり攻撃的なんだよ!」

 

 リィタも随分心を開いたようで、今では第五兵器試験部隊のメンバーに年相応の態度で接していた。近々、ユウリがリィタを()()()()()に誘うという計画を立てているらしい。

 もちろんソラも誘われていたが、物凄く丁重にお断りをしておいた。フェリアが既に陥落している今、自分だけはのめり込まない様にしよという決意から来ていた。

 

「それよりも! 早く行こうぜ! ラビー博士が待っているって!」

 

 これ以上ここに止まっていたらまたフェリアからの口撃を受けることを確信していたソラは我先にと廊下を走り出した。その姿を見たリィタが追いかけっこだと思い、猛スピードで追いかけてきたときは、流石のソラでも命の危険を感じてしまったのはここだけの秘密だ。

 何とかラビーが待っている格納庫に辿りつけたときには、既にソラの息は絶え絶えであった。

 追いかけていたリィタがケロリとしていた時は、体力が無いんじゃないかと本気で心配になってしまったが、ユウリと言う規格外も居るので『そう不思議な事でもないよな』などとソラは変な慣れを見せる。

 待っていたラビーと目が合った時、何となく事情を察したのか、やれやれと肩をすくめた。

 

「全く、廊下は走るなと学校で習わなかったのか?」

「す、すいません!」

「ごめんねラビー……?」

 

 ソラを追いかけるように、フェリアとユウリが走ってきたのを確認すると、ラビーは白衣のポケットからレーザーポインタを取り出した。

 

「さて、四人が揃ったところで、改修した機体の概要を説明したいと思う」

「こ、これが……俺達の機体……!!」

「へえ……」

 

 ピュロマーネ、オレーウィユ、ブレイドランナーの順に並べられていた。一番見た目が変わっていたのはブレイドランナー、逆にほとんど見た目が変わっていないのはオレーウィユであった。

 ラビーはピュロマーネにポインタを向け、説明を始めた。

 

「まずこのピュロマーネから行こうか。実は今までの運用データを見て気づいたことがあってな」

「気づいたこと?」

 

 フェリアの相槌に頷くラビー。

 

「『敵を制圧するのに過剰な火力は必要ない』と言うことだ。以前のピュロマーネは状況に合わせた装備を可能な限り積み、弾薬が続く限り撃ち続けて場を制圧することを目標とした。だが、フェリア君の運用を見ていると、適切なタイミングで適切な大火力を叩き込んだ方がコスト的にも戦術的にも効率が良いことが分かった。そこで、このタイプの元祖であるシュッツバルト、それに『SRXチーム』が運用しているR-2パワードを参考に武装を煮詰め直し、私なりに改良をした結果が……これだ」

 

 新たなピュロマーネは以前のピュロマーネよりもスッキリとしたシルエットになっていた。その理由は恐らくバックパックと両前腕部に装備された計四門の大型砲だろう。

 前がアシンメトリーな外見だった分、シンメトリーになったらそれが顕著になっている。ちなみに単眼のカメラアイは変わらない。

 

「まず以前の大型バックパックを取り払い、新型のバックパックへ換装した。この二門の大型ビームキャノンはシュッツバルトのツイン・ビームカノンを私なりに改良したものとなっている。エネルギー効率や出力は単純計算、シュッツバルトの二倍は向上させた」

 

 そう言って、ポインタを当てたのは全体的に角ばったフォルムの大型砲であった。

 フェリアがバックパックを指さす。

 

「ウェポンラックが無い所を見ると、武器搭載量が大幅に減ったんですね」

「ああ。その分総合火力は増している。あとで説明するつもりだったが、機体を重装甲化していてな。低下した機動性能を補うために、ウェポンラック分のスペースをスラスターの増設に充てている」

 

 そう言ってポインタで指したのは三つの大型スラスターであった。良く見ると、脚部の外側にもスラスターが増えている。

 

「そして、左右両前腕部に装備されているのが、二つ目の主力兵装であるマルチビームキャノンだ」

 

 左右の前腕部には先ほど説明があった大型ビームキャノンを少しだけダウンサイジングしたような大型砲が装備されていた。

 

「これはあらゆる距離の戦いをソツなくこなすフェリア君用に考案された武装でな。このマルチビームキャノンには、散弾と集束の二つの射撃モードがあり、おまけに接近戦に対応できるよう、砲口からビームソードが出るようにした。四門のビームキャノンを用いた最大出力の砲撃は敵のAB(アンチビーム)フィールドをぶち抜く所か、特機や戦艦相手にも有効打となる」

「……すごいですね」

「それに伴い、三連マシンキャノンなどの装備は全て外し、ピュロマーネの装備は大型ビームキャノンとマルチビームキャノンの計四門のみとなった。だが出来る事は大幅に広がったはずだ。それに……」

 

 近距離から遠距離まで器用に対応できるからマルチビームキャノンだ、そう締め括ったラビーは最後に、ピュロマーネの装甲をレーザーポインタで指した。

 

「最後にこのピュロマーネの増加装甲はハイブリッドアーマー製となっているのに加え、気休め程度だが対ビームコーティングが施されている」

「なるほど。ソラのフォローをしつつ、場を制圧しつつ、ユウリに来る攻撃をこの装甲で耐えろ、とそういう役回りですね」

「ああ。正直一番負担が掛かるポジションだ。大丈夫か?」

「ええ。やって見せます。恐らく私にしか出来ませんから」

 

 頼もしいとばかりに深く頷いたラビーはピュロマーネの説明を終え、隣のオレーウィユをポインタで指した。

 

「次は私ですね!」

「ああ。と言っても、ユウリ君のオレーウィユにはほぼ手を加えていない。強いて言うなら、ここだ」

 

 ラビーの言うとおり、オレーウィユは肩部が微妙に違うだけで以前と何ら変わりない様子を見せる。

 前置きしたラビーはオレーウィユの肩に積まれた装置をポイントする。

 

「ユウリ君が念動力者として力を発揮するようになってきたので、念動フィールド発生装置を回してもらった。これで悩み所であった自衛力が向上された……はずだ」

「な、なんか随分歯切れが悪いっすね」

「……話に聞くと、この装置の効果はユウリ君の念の力に左右されるらしい。だから、使いこなせると信じて一応搭載したという感じなんだよ、白状すると」

 

 この装置を搭載している機体で有名なのは『SRXチーム』で運用されているR-1、そしてR-3パワードであった。前者はマニュピレーターを保護しての殴打、後者は誘導兵器や飛行などに使われている。

 またどちらにも良く使われているのが念動フィールドを応用したバリアである。ラビーはどちらかと言うと、この念動フィールドを用いたバリアによってオレーウィユの自衛力を向上させる腹積もりであった。

 

「あと意識的にやっているのか無意識にやっているのかは分からないが、ユウリ君は良くT-LINKシステムを介して敵の思念を感じ取って回避行動や攻撃をしている節が見られる。非常に悔しいが、元々激しく動くことを想定していなかったオレーウィユでは段々ユウリ君の反応速度に追いつかなくなりつつある」

「す、すいません……」

「いや謝ることはないさ。元々念動力者と気づかなかった私にも非はある。だから、今回オレーウィユには操縦系や照準系の再調整、それに各関節にマグネットコーティング化を施して、レスポンスを向上させている。これでユウリ君の反応速度に付いて行けるようになっただろう」

 

 ラビーはあえて口にはしなかったが、実は機体の()()を徹底的に弄ったのはオレーウィユしかなかった。

 ピュロマーネやブレイドランナーはまだまだ二人の反応速度に対応できるが、オレーウィユだけは一からシステムを再調整しなければとてもじゃないがユウリの要求するレスポンスを返せないレベルであった。反応速度を試算してみると、まだまだリィタには及ばないが、将来的にはそれを越えうるであろう数値を叩きだした。

 これに()()が伴ったら、そう考えるとラビーは末恐ろしさを感じてしまった。

 

「まあ、その辺は動かしてながら確認してほしい。さて、最後は……」

「ソラ!」

 

 リィタに自分の台詞を取られてしまい、口をパクパクさせるしかなかったソラは少ししょぼんと肩を落とす。それはさておき、と自分に言い聞かせソラは一番変わったであろうブレイドランナーの説明を聞くために耳を澄ませる。

 

「ああ、それでは最後はブレイドランナーだな。大破したという経緯もあり、今回はほぼ全面改修だ。さて、まず目立つところから説明しようか。バックパックを見て欲しい」

「前と違ってデカいスラスターユニットが二つ付いてるんすね。……だけど、何かこれに似たようなのどっかで見たような……?」

 

 前のバックパックとは全然外見が違い、二基の大型スラスターユニットが装備されていた。それは良い。だが、ソラは初めて見るはずの装備にどこか強烈な既視感を感じていた。

 ラビーがすぐに恐ろしい事実と一緒に答えを教えてくれた。

 

「ああ、これはライカ中尉のシュルフツェンの予備パーツをブレイドランナーに合うように加工して装備したんだ」

「ああ、なるほど……はあぁぁぁ!?」

 

 シュルフツェンと言えば、パイロット殺しの大推力だ。そのモンスター的パワーを生み出している元凶がくっつけられてしまった事実に、ソラは酷く動揺していた。彼の動揺を想定していたようで、ラビーはやんわりと落ち着かせる。

 

「安心しろ。ソラ君が耐えられるギリギリの数値にリミッターを掛けている。ペダルを踏んだら身体がバラバラになったぜ! とかは無いから安心しろ」

「いや二回も安心しろ、とか言われても、逆に不安しかないんですが……」

「あれが生み出す突進力は知っているだろう? 今から説明する武装と組み合わせれば……今度こそ特機相手でも渡り合える」

 

 ドクンとソラの心臓が高鳴った。思い出すはツヴェルクから受けた屈辱の数々。

 ソラは無言で先を促した。

 

「段違いに跳ね上がった直線の速度だが、その分小回りが利かなくなってしまってな。それを補うため両肩に、フレキシブルに向きを変えられるスラスターユニットを増設した」

 

 見ると、両肩の上部にスラスターユニットが装備されていた。これで接近戦における細かな機動を補助するのだと補足を受けた。

 しかし、ここで気になることが出来てしまった。

 

「あれ? 『Tフィールド』の発生装置はどこっすか?」

「落ち着きたまえ。順番に説明する。『Tフィールド』の発生装置はここに移動した」

 

 そう言って指し示されたのはブレイドランナーの両腕だった。見ると、手首下にあったアンカー射出装置が手甲部に移設されている。

 

「R-1を参考にして両腕部に装置を移動した。そして、あの黒いガーリオンも参考にしてフィールドの発生箇所を指定できるようにしている。無駄なく高出力のフィールドが作れるようになったので、稼働時間が延長している」

「おお! それはすげえ!」

「あとは手甲のアンカー射出装置だ。クロー状のアンカーは基本閉じているが使用時は先端が開き、ハサミのようになる。突き刺すだけだった前とは仕様が違うから忘れるなよ?」

「はいっ!」

「あと同じ種類のアンカー射出装置を腰部の左右装甲にそれぞれ一基ずつ増設した。これで手甲部と腰、計四基のアンカー射出装置が使用可能となった」

 

 手甲部の方のアンカー射出装置はナックルガードのようにクロー部が出ており、両腰の方も同じようにクロー部が出ていたが、動くことを考え、下の方を向いている。

 

「さて、最後だ。メイン武装であるシュトライヒ・ソードだが、実はツヴェルクとの戦闘で内部装置が修復不可能なレベルでイカれてしまってな。思い切って新造することにした」

 

 ブレイドランナーの側に立て掛けられているシュトライヒ・ソードがピカピカの新品のようになっていたので疑問に思っていたが、まさか本当に新造されているとは思わなかったソラは、少しばかり目を閉じた。

 

(……今までありがとうな、世話になったぜ)

 

 呟くは短い時間ながらも戦場を駆けてきた()()への感謝であった。

 

「さて、新シュトライヒ・ソード。シュトライヒ・ソードⅡとでも呼称しようか。今までビーム発振装置は鍔に付けていたのだが、より高圧力、そして効率的にビーム刃を形成するために少々工夫をさせてもらった。見てくれ」

 

 ポインタの通りシュトライヒ・ソードⅡを見ると、確かに微妙に違っていた。刀身に沿うよう、それでいて非ビーム展開時の斬撃の邪魔とならないよう、無数のビーム発振装置が内蔵されていたのだ。

 

「今までは鍔がやられたらおしまいだったが、今回は両面合わせて計十八基の装置がそれぞれをカバーするようにした。これらから生み出されるビーム刃は、シミュレート上ではグルンガストに採用されているVG合金ですら容易に切り裂ける。つまり……」

「ツヴェルクと……カームスとやり合える……!!」

「そういうことだ。ちなみにガン・モードはこれまで通り使えるが、デメリットは変わりない」

 

 そうそう、とラビーが説明会を締めるにあたって一つ大事なことを告げた。

 

「今回の改修にはメイシールとライカ中尉が大いに関わっている。正確に言うなら、メイシールはブレイドランナーに、ライカ中尉はピュロマーネとブレイドランナーの武装の監修だ」

「つまり、ライカ中尉から見て、マルチビームキャノンと大型ビームキャノンが私に合っているということなんですね」

「俺は今まで通りなんだな。……ありがとうございます、ライカ中尉、メイシール博士……!」

 

 ソラは自分の周り全てに感謝をした。誰か一人でも欠けていたらこれほどの機体にはならなかっただろう。

 SO打倒、並びにカームス打倒の決意を改めて固めたソラ。

 その高まったやる気を感じ取ったのか、ラビーが注目を集めるように人差し指を立てた。

 

「やる気が高まってきたところで諸君らにお知らせがある。二日後、君達の為に模擬戦をセッティングさせてもらった。新しい機体の慣らしに付き合ってくれると言うありがたいチームがいてな」

「おお! どこっすか!? もしかしてライカ中尉ですか!?」

 

 ラビーは首を横に振った。

 見せられた携帯端末のスケジュールを見て、ソラ含め第五兵器試験部隊は驚愕した。いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべ、ラビーが言う。

 

「彼の名高き『鋼龍戦隊』が主力の一つ、『SRXチーム』だ」

 

 ――告げられた名は、冗談も誇張も抜きで、地球圏の未来を左右する部隊の名であった。


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