スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第二十話 死んでもやり遂げる~前編~

 あれから二日経った。

 この間、SOに目立った動きはなく平和な日が続いていたが、事態は急変する。

 不審な輸送機が太平洋側からインド洋を横断する進路を取っているという情報が第五兵器試験部隊へ飛び込んできたのだ。輸送機がSOに関係するものと踏んだ連邦は輸送機の進路上にあり、また彼らとの交戦経験が多く、比較的他のPT部隊よりも小回りが利く第五兵器試験部隊を追撃部隊として選抜した。

 すぐに第五兵器試験部隊はタウゼントフェスラーで現地へ急行し、SOのものと思われる輸送機の追撃を開始する。

 

「ソラさん、フェリアさん、聞こえますか?」

 

 ブレイドランナーの中で待機していたソラは、すぐに音声通信から映像通信に切り替えた。

 

「ああ、聞こえてる」

「熱源反応をキャッチしました。この速度を維持し続けていれば、約十分後に輸送機が有視界領域に入ります」

「こっちには気づいていないのかしら?」

 

 ユウリは首を横に振った。

 確信があったのだ。敵は間違いなくこちらに気づいているはずである。

 機体に乗り込んだ瞬間に感じた視線のようなもの。それこそが、機材では測りきれない“思念”。そしてこの覚えのある念で、ユウリは現在追いかけている輸送機がSOのものという確信を掴んだ。

 

「いえ、あの輸送機にはリィタさんが乗っています。間違いなく」

 

 それを聞いたソラはもう一度ブレイドランナーの点検をやり直すことにした。特に足回りを念入りに。

 前回が宇宙だったからか、まだ少し感覚が抜けきっていないのだ。潰せる違和感は可能な限り潰す。まだ機体の基本的なことが分かっていないソラは都度、フェリアやユウリに数値を見てもらうことで念入りに微調整を行っていた。コンソールを叩きながら、気持ちを切り替えていく。

 こんなに早くチャンスが巡ってくるとは僥倖以外の何物でもない。恐らくそう何度も戦えるチャンスはないので、これが最初で最後のチャンスと考えた方が良いだろう。

 

(やりきる。何が何でもやりきる……!)

 

 輸送機のパイロットから目標が見えたとの報告が入った。それと同時に鳴り響く警報。もはやシラを切り通す事なんて考えていないのだろうか、目標から護衛と思われる熱源反応をキャッチする。

 ソラ達は通信を切り、発進準備へと移った。

 

「ソラ・カミタカ、ブレイドランナー出る!!」

 

 ……今日は鬱陶しいくらいに青い空と海である。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ソラさん、フェリアさん、熱源反応真っ直ぐこっちへ来ています。該当データ……量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ!」

 

 やはり来たか、とソラは操縦桿を握り直す。……だが、どうやらそれだけではないようだった。

 ユウリの声から余裕が消え去る。

 

「えっ!? ……もう一機、高熱源反応確認できました! これってもしかして……!」

 

 ドクン、とソラの心臓が跳ね上がったような錯覚を覚えた。

 ユウリのような念動力者ではないソラであったが、“この妙な感じ”には確かに覚えがあった。気づけば生唾を呑み込んでいた。この相対する者を呑み込まんとする巨大な威圧感。

 ソラはその者の名を呼ぶ。

 

「カームス……タービュレス……!!」

 

 鬼を彷彿とさせる頭部、ワインレッドの巨体、胴体と同じくらい巨大な盾付きの腕。それは間違えようも無かった。

 ソラ達第五兵器試験部隊を壊滅寸前まで追い詰めた特機もどき。ライカの助けが無かったら既に殺されていたであろう仇敵。

 

「ほう。あの時の若造か。なるほど、確かにリィタの言っていた通りだったな」

 

 濃紺の凶鳥がワインレッドの鬼の隣へやってきた。宇宙用装備では無かったので、いつぞやか見た四基の大型スラスターとテールスタビライザーで構成されたバックパックを装備している。

 

「あのヒュッケバインだよ、カームス」

 

 よほど信頼しているのだろうか、リィタの声には前回のような“無機質さ”は見られなかった。ヒュッケバインが指さしたのはユウリのオレーウィユである。それを確認したカームスは次にブレイドランナーとピュロマーネを見やる。

 

(……見極めさせてもらおうか。“剣持ち”の若造)

 

 対する第五兵器試験部隊は予定外の事態に少し冷静さがこそぎ取られてしまっていた。ヒュッケバインだけなら正直まだ何とかなったであろう。だが、もう一機エースが追加されたとなったら話がまるで違ってくる。

 そこで、ソラは一つの決断をした。

 

「フェリア、ユウリ。お前たちは予定通り頼む。俺はカームスを押さえる」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 貴方一人じゃ!」

「それしかない」

 

 リィタの未来予知レベルの回避能力に対抗できるのは現在ユウリだけ。あとは十分な火力と冷静な判断力を兼ね備えているフェリアがいれば何とか予定通りいけるはずだ。

 それに、とソラはブレイドランナーの役割を振り返る。

 

「ライカ中尉から言われたことがあるんだ。このブレイドランナーは対特機用でもあるってな」

 

 ブレイドランナーの有り余る加速性能と並のPTを超える堅い装甲は、特殊な装備やサイズ差がある特機とも渡り合うことも想定されていると以前、ライカから言われたことがあった。闇討ちと対特機戦こそ、ブレイドランナーの本来の運用方法。

 この判断に後悔はない、むしろ感謝すらしていた。こうしてまたあの()と刃を交えることが出来るのだから。

 

「だからって、貴方一人であの敵と戦うなんて……!」

「良いから任せてくれ! 今度こそ、あいつへ刃を走らせる!!」

「……やりましょうフェリアさん、二人でリィタさんに対応します」

 

 ソラの覚悟を読み取ったユウリはそう言って、ヒュッケバインをロックオンする。フェリアも大きなため息と共に、照準を合わせた。

 それを見届けたソラは、信じてくれた感謝と共に、カームス機――以前ツヴェルクと呼んでいた――をロックオンし、ペダルを踏み込んだ。

 

「行くぜカームス・タービュレス!」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 開始早々、驚異的な加速力でツヴェルクへ接近したブレイドランナーはすれ違い様にシュトライヒ・ソードを振るう。ビーム展開しない斬撃だったが、ゾル・オリハルコニウム製の刀身に加速力が上乗せされた一撃はツヴェルクの盾に傷を付けるには十分すぎた。

 盾部に刻まれた一文字の痕を確認したカームスは意外そうに口角を上げる。

 

「やるようになったな若造、機体が良いのか?」

「俺が良いんだよ!!」

 

 機体を止めず、ブレイドランナーのアンカーを射出させる。ツヴェルクの背部に突き刺さったアンカーがしっかり固定されていることを確認し、即座にペダルを踏み込み、操縦桿を倒した。

 コンパスで円を描くようにツヴェルクの周囲を旋回し、ブレイドランナーはがら空きの側面をモニター正面に入れる。十分な加速距離と間合いを獲得したブレイドランナーのメインスラスターが火を噴く。

 巨体故に一動作が緩慢なツヴェルク相手だからこそ出来る戦法。今度はビーム展開したシュトライヒ・ソードを左肩部へ振り下ろした。

 

「おおおおお!!!」

 

 咆哮と共に、ソラはすぐさま後方部監視モニターですれ違ったツヴェルクを視界に入れる。振り下ろした際に外れたアンカーを巻き取り、再度ツヴェルクの脚部へ打ち込んだ。

 いくら鈍重とは言え、あのツヴェルクには肘についた大推力スラスターによって一気に距離を詰めてくることが可能であった。

 距離を離し過ぎれば一気に相手のペースに持って行かれる。かといって近づきすぎてもあの剛腕で薙ぎ払われる。

 そこでソラは考えた。

 

 ――適度にアンカーで間合いと加速距離を調整し、こちらのペースを徹底的に維持し続ける。

 

 これが、ソラの導き出した対ツヴェルクへの戦法であった。

 アンカーを打ち込んだ箇所を支点に、ブレイドランナーはまた大きく円を描くように位置取りを行う。機体の加速力に引っ張られたのか、一瞬ツヴェルクのバランスが崩れたのを確認できた。

 持ち前の動体視力でそれを捉えたソラは覚悟したように歯を食いしばり、またペダルを踏み込む。狙いはバランスを崩し、がら空きの脇腹、いやコクピット部。

 弾丸のように突進したブレイドランナーはシュトライヒ・ソードの切っ先をツヴェルクへ向けた。

 

「ふん!!」

 

 だが相手はSOのエース級。そう上手くはいかなかった。

 結果は脇腹へ切っ先を掠めただけ。咄嗟に致命傷を避けるカームスの技量は素直に憧れてしまう。

 

(敵じゃなかったらPTの操縦でも教わりたかったぜ……)

 

 それだけが少しの無念であり、ソラの混じりけの無い本音であった。

 

「はぁ……! はぁ……! はぁ……!!」

 

 一度距離を離したソラは体中の酸素が無くなったような感覚に襲われ、全身からは汗が噴き出ていた。ほぼ最大速度でアンカーを用いた急制動は想像以上に自身の肉体へ負担を掛けていた。脇腹にはじんわりと鈍い痛みが広がり、操縦桿を握る手も少し震えていた。

 そう何度もこの手は使えないなとソラは、改めてライカの頑丈さに恐怖する。確かツヴェルクに助けてもらった際、ライカはこのブレイドランナー以上の速度でバレルロールを実行していたはず。

 一連のやり取りで全身が痛むソラには絶対不可能である。

 

(体が痛てぇ……けど、イケる……っていうか、これで行くしかねえ……!)

 

 だが、身体への負担が凄かろうが、この手を何度も使うしかなかった。

 真正面からぶつかりあって打ち倒す技量は生憎持ち合わせていない。ブレイドランナーの運用法と自分のやりやすい戦い方をすり合わせた結果が、この戦闘機動であった。

 

「良い動きだったな。まるで毒蜂のようだ」

「なら、そのまま……倒れてろ」

 

 斬り付けたツヴェルクの左肩部を見て、ソラは心が折れそうになるが、それを悟られないようにするため、あえて笑ってやった。

 敵のビーム兵器すら切り裂ける高出力のシュトライヒ・ソードを以てしても、小破程度といった所だろう。しかしこの結果をポジティブに考える事も出来た。

 

(塵も積もれば山となる、だ。積もらせに積もらせてエベレストにしてやるよ、カームス・タービュレス……!)

 

 ほとほと自分は単純だと思い知らされた。気持ちを切り替え、ソラはブレイドランナーを加速させる。

 

「……少し遊んでやるつもりだったが、気が変わった」

 

 またすれ違い様に斬ってやるつもりでソラはブレイドランナーを推進させていた。

 それに合わせたようにツヴェルクが両腕の盾部を(かざ)す。それだけなら良かったのだが、盾の一部がスライドした瞬間、ソラの全身に悪寒が走る。嫌な予感に従い、半ば無意識にソラはコンソール上から“盾”を選択していた。

 ブレイドランナーの両肩部が展開したのとほぼ同時、スライドして一部分が露出した盾部が光る。そこからまるで、雨のような細く大量のビームが放たれた。

 

「うわああああ!!」

「良い反応だ。咄嗟に勘付くとは運の良い奴」

 

 ガーリオンのソニックブレイカー使用時に発生するエネルギーフィールドと同質の『Tフィールド』が無ければ、既にこのブレイドランナーは眼下の海に藻屑と消えていただろう。

 すぐに機体のチェックを掛け、その結果を見たソラは愕然とした。強固なフィールドが少し抜かれており、右腰部装甲や左胸部装甲が少しだけ焼けていたのだ。もし至近距離でこれを喰らっていたら確実にこのフィールドは破壊されていた。

 情報処理もすぐに済ませ、気持ちを切り替える。

 

(これだけの威力だ。きっとそう何度も使えるもんじゃないはずだ。それに、あいつの口ぶり……今の一撃で片づけたかったようにも感じられる)

 

 何も言わず近づいて連射しまくればこちらをあっという間に落とせるなら、あんな言い捨てるような台詞は吐かないはずだ。ツヴェルクの側面を取るようにブレイドランナーを移動させつつ、ソラは武装パネルへ一瞬視線を移す。

 

(『Tフィールド』はチャージに入ったか、時間は確か……そう、百秒。……敵のインターバルは!? 上手く噛み合えば良いが、そうじゃなかったらブレイドランナーは完全に無防備だ!)

 

 ソラは今の攻撃のせいで完全に見落としていた。初めて会った時、ツヴェルクがどんな兵装で攻撃していたかを。

 

「これは防げるか“剣持ち”!?」

 

 ツヴェルクの胸部装甲が展開した刹那、ソラは全てを思い出す。

 PT部隊やAM部隊を壊滅させたあの極光がツヴェルクの胸部で膨れ上がっていた。

 

「しまった……!!」

 

 ――放たれた極光は、あの日と変わらない輝きでソラを包み込む。


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