スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十八話 天秤の傾く先は

「俺だ。カームスを出せ」

 

 鹵獲し現在はSOの管理下にあるペレグリンの中で、男は地上のどこかで行動しているエレファント級にいるであろう前線指揮官を呼びつける。

 向こうのオペレーターは実に手早く目的の人物へと橋渡しをしてくれた。早々に見慣れたイカツイ顔が映し出される。

 

「お前か、どうした? 定時連絡は二日後のはずだが」

 

 SOの前線指揮官であるカームス・タービュレスはいきなりの連絡にも関わらず、さして驚いた様子もない。

 こういった突然のやり取りは過去に何度も行われ、カームスからしてみれば“またか”といった感想である。

 そしてカームスは知っていた。このような突然の連絡は大体、男からの不満であると。

 

「何だあの戦力は? 兵器プラントを取り戻しに来る割には、随分と嘗めた質の部隊を投入されたものだな」

 

 男は非常に立腹している。

 元々、大規模な戦闘になるだろうということで渋々宇宙行きを決めたほど、先日の戦闘を()()()にしていたというのに、蓋を開けてみればあの有様である。

 自分を抑えられる手練れが一人も居なかったのも失望したが、男としてはもう一つ腹立たしいことがあった。

 

「それに。お前から預けられたあのリィタという子供。何だあれは? 敵を前に動きを止めるなんて自殺志願者か? 俺が出しゃばらなければ拘束されていたか撃墜されていたぞ」

 

 男を苛立たせていたもう一つの要因であるリィタ・ブリューム。

 彼女に下した任務は防衛部隊を引きつけ、頃合いを見計らって適当に撤退するというものであった。

 カームスからは“問題ない”と太鼓判を押されていたが、正直男としては死んでくれなければ良い程度の期待だった。

 

 ――だが、あっさりと()()()()()()()が覆される。

 

 戦闘面だけで評価するなら、彼女は最高のパイロットであった。

 年齢にそぐわない操縦技術と反応速度は滅多に人を褒めない男ですら、手放しで認めたレベルである。事実、兵器プラントを制圧する際、リィタはまさに一騎当千の働きをしてくれた。

 的確に迅速に、まさに理想の兵士。そう、思っていたのに、突然彼女が晒した無様。

 その保護者が何かを思い出したように、口を開く。

 

「……もしや、カスタムされたヒュッケバインの小隊と当たったか?」

「ああ。機体はそこそこ良い物を使っているようだが、使っている奴らがまるでなっていなかったな。……関係があるのか?」

 

 いきなり何の話だ、と男は少々訝しげに眼を細めた。すると、すぐさまその疑問は解決される。

 

「その中に一人、リィタと同じような人間がいるようでな」

 

 ほお、と今度は興味深そうに目を開いていく男。

 カームスから少しばかり話は聞いていた。独特の脳波を持つ者――念動力者。戦意や殺意、恐怖心などと言った“思念”を読み取れるようで、彼女の戦闘力の基礎となっているものである。他にも、思念で機体を動かしたり、特殊な誘導兵器も使用できるようになるという。

 話だけ聞くと、恐ろしく胡散臭いが、実際に戦場でのリィタは一発の被弾もなかった。……そのヒュッケバイン小隊と当たるまでは。

 

「何だ? ()()だから攻撃を躊躇(ためら)ったとでも言いたいのか?」

「そうではない。恐らく共振でもしたのだろう。リィタも頭が痛いと言っていたしな」

「……とにかく、あの子供は地上へ送り返した。数日もあればお前の元に戻っているだろう」

「……すまんな」

「いや、良い。正直、また同じようなことがあったら面倒見切れん。俺はスタンドアローンでやりたいんだ」

「DC時代の経験か?」

「ああ。半端者なりの経験値と言うのがあるんだ」

 

 そう言って、男は皮肉気味に笑った。

 

「……元『ラストバタリオン』が半端者ならば、SOは半端者以下の集まりだな」

「元ではない。“成り損ない”だ」

 

 ()のエルザム・V・ブランシュタイン、テンペスト・ホーカーが率いていたDC最強の部隊――ビアン・ゾルダーク総帥親衛隊、通称『ラストバタリオン』。何を隠そう男の所属していた部隊である。しかし、その期間は極めて短いものとなっていた。

 

「あの話は本当だったのか。命令無視を繰り返し、ビアン総帥やエルザム・V・ブランシュタインらから見限られたというのは」

 

 男がすぐにラストバタリオンを去ることになった理由はありふれたものである。

 数々の命令無視を繰り返し、エルザム並びにテンペストからの警告までも無視した挙句の結果だった。理由が分かり切っていたので、特に男は食い下がることもなくあっさりと最小限の人数で行動する特殊部隊へ回されることを受け入れた。それ以降はDC戦争終結まで、ずっとその部隊で前線に立ち続けていたのはまた別の話である。

 

「俺にはあの部隊は窮屈過ぎただけだ。……マイトラはどうした?」

「北欧方面へ行ってもらっている。もう少し連邦の眼を引きつけておく必要があってな」

「……進捗具合は?」

「三割にも満たん。奴らの眼を掻い潜りながらだからな。無理もあるまい。お前の乗っている“ペネトレイター”一つ調整するのだって相当な時間調整が重ねられているぐらいだ」

「……ふん、それを言われては仕方がないか」

 

 二人の会話が途切れるのを見計らったかのように部下が話に入ってきた。

 

「――お話し中、失礼します。大尉、連邦の哨戒部隊の網に掛かってしまったようです。ただ今、ペレグリン一隻がこちらへ真っ直ぐ向かってきました。AM二個小隊も艦からの出撃を確認されています」

 

 部下の報告を受け、男は立ち上がる。

 

「そういうこととなった。まだ言い足りんが、ひとまず蹴散らして来よう」

「……抜かるなよ」

「誰に言っている」

「ふ、武運を。アルシェン」

「このアルシェン・フラッドリーは運命などに頼らん。俺は俺の手で道を作る」

 

 男――アルシェン・フラッドリーはそう締め括り、通信を終えた。

 外を見ると、既に逃走のための足止め部隊が出撃しているのが確認できた。こうしてはいられないと、アルシェンは愛機の元へ向かう。

 戦いを求め、生死の境界線を歩くために。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「メイト、どうしましたか? 急に呼び出して」

 

 メイシールの部屋は相変わらず汚かったが、今更突っ込むの野暮だったので、特に触れることはなかった。

 

「まあ、待ちなさい。もう一人来るから」

 

 椅子に座っていたメイシールはそう言って、机の上に置いてあるお菓子入れから飴を放り投げた。以前、メイシールの部屋を掃除した時にもお菓子の空袋が沢山あったな、とライカはおぼろげながらに思い出す。

 見た目通りと言えば良いのか、メイシールは甘いものを好んでいる。常に斬新な武装を生み出すべく思考している彼女は時折、大量のお菓子に囲まれながら考える事があった。

 食べたくなったら食べる、食べたくなかったら放置。そうやってなるべくストレスを感じずに思考することで思いがけぬヒラメキがやってくるのを待っているのだ。……余談だが、()の悪名高きシュルフツェン・フォルトへの改修もこうした思考運動の末、導かれたものである。

 とりあえず飴をキャッチしていたライカは包み紙を取り、中身を口に放り込む。青い色からして想像は出来ていたが、見事なソーダ味である。

 

「失礼します。何の用ですかー?」

 

 非常にやる気が無さそうに入室してきたのはフウカだった。

 役者が揃ったとばかりに、メイシールは近くに置いていたリモコンのスイッチを入れる。すると、カーテンが閉まり、僅かなモーター音と共に、壁沿いの天井からモニターが下りて来た。

 それを見たライカは言葉を失った。趣味で部屋を改造した結果であるのは分かる。当然、部屋の改修伺いなんて取っていないのだろう。思わず半目でメイシールを見てしまった。

 

「……怒られますよ、これ」

「まあ、その時はその時よ」

 

 モニターに映像が映し出された。

 漆黒の闇、重力を無視して浮いているデブリ群、どこからどう見ても宇宙の映像である。

 

「……これは?」

「おっ……ソラ達ですね」

 

 それはリィタ駆る濃紺のヒュッケバインとの交戦記録であった。

 ロケットブースターを装備し、圧倒的な火力で終始三人を圧倒していたが、それだけでは終わらない。

 フェリアのピュロマーネが追い立て、ユウリのオレーウィユが常に援護できる位置取りをキープし続け、ソラのブレイドランナーが一気に削り取る。まだまだ動きがぎこちないが、それは間違いなくライカが理想とする三人の連携であった。

 それに、とライカはブレイドランナーの射撃を見て、満足げに頷く。

 

(射撃タイミングが良い具合にズレていますね。ボールペン、役に立ったようですね)

 

 徐々にヒュッケバインを追い込みつつあるところで、フウカが口を開いた。

 

「メイシール、まさかこれを見せるためだけに呼びつけたのですか? いや、まあ、彼らも成長したなーとは思いますけど」

「最後まで見なさい。話はそれからよ」

 

 と言っても、今しがたヒュッケバインのロケットブースターが破壊され、ようやくまともな戦いが出来るといった所だ。まだ掛かるだろう、と思っていたら、突然オレーウィユの動きが止まり、釣られたかのようにヒュッケバインの動きが止まった。

 

「ん? どうしたのですか?」

「そこら辺は後で説明するわ。……次よ」

 

 ブレイドランナーが拘束するためにアンカーを放った。

 次の瞬間、いきなり現れたガーリオンによって弾かれる。

 

「なっ……!」

「……なるほど、そう言うことですか」

 

 いきなり現れたのは高性能なステルスシステムによるものらしいが、ライカにしてみれば、そんなことはどうでも良かった。艶の無い真っ黒なガーリオン、翳した右手から確認できるエネルギー力場。

 そして、ブレイドランナーを圧倒する白兵戦のセンス。

 そこでメイシールは映像を一時停止する。

 

「ライカ、特にフウカは見覚えがあるわよね?」

 

 あえてメイシールはフウカの方を見た。

 むしろこれで(とぼ)けたら引っぱたくつもりでいた。だが、眼付きが変わったフウカを見て、メイシールは少し安堵する。

 

「――間違いないですね。あれはアルシェンの機体です」

 

 最近はやる気の無さ――というよりだらけていた――が顕著だったフウカの纏う空気がいつの間にか戻っていた。今の彼女は元シャドウミラーであり、ライカと命のやり取りをしていた“ハウンド”時代のソレである。

 

「生きていたのですね……」

「いや、どうでしょうね」

 

 ライカの言葉に疑問をぶつけたのは他でもないフウカであった。

 ――判断しかねる。それが現状でのフウカの見解だ。

 その見解を裏付けているものはあのガーリオンである。

 

「私の知るアルシェンはああいった防御の仕方はしないですね」

「……と言うと?」

「あの『T・ハンド』です。あれはいわばアルシェンの奥の手です。こう言っては失礼ですが、ソラ達相手に晒すことはまず有り得ません。素直に、持っている武装で弾くなりの対応をするでしょう」

 

 アルシェンの駆るガーリオンとは、基本性能を徹底的に底上げし、パイロットの技量をダイレクトに反映できるようなカスタムとなっている。

 武装はありふれた実弾兵器を使い、本人の希望でソニック・ブレイカーはオミットされている。基本的に避けるか弾くかという攻撃の凌ぎ方だが、それでも避けきれない攻撃は必ずある。

 『T・ハンド』とはそう言った場面で初めて解禁されるのだ。

 

「だったら、あのガーリオンは“こっち”のアルシェンが乗っているのかしら?」

「……それは、判断が付きませんね」

 

 フウカが答えに淀んだ時点で、メイシールの疑問に答えられる者はこの場に居なくなった。

 断定するには情報が少なすぎるのだ。部屋に流れる空気が重くなろうとしている。

 しかし――。

 

「――なので、こちらから出向こうと思います」

 

 ――“猟犬”の血を再び目覚めさせるには十分すぎた。

 

「フウカ、貴方……良いの?」

「“こちら側”なら敵として排除します。“向こう側”ならば――――」

「……そう、ですか」

 

 フウカの()()()の言葉を聞いたライカは、否定も肯定もせず、ただ静かに目を閉じた。


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