スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十六話 三人の力

「うお……。やっぱ違うな宇宙は」

 

 ペレグリンから発艦したソラを待ち受けていたのは無重力の洗礼であった。地上で感じる上からの圧力がない分、何だか妙な感覚に陥ってしまう。

 上を向いているのか、下を向いているのか。この漆黒の闇の中ではそんなことは些事だというのに。

 いつも通りの動きが出来ていない中、見かねたのかフェリアから通信が入った。

 

「……何やってんのよ」

「こっちは初めての宇宙戦なんだよ!」

「良い? 宇宙(ここ)では上下左右なんて、あってないようなものよ。肝心なのはいかに早くそれに適応できるか。たったそれだけよ。……心配しなくて良いわ。ある程度はオートでバランスを取ってくれているんだから。よほど酷い操縦をしない限りは機体が回転してどこかに行くなんてことはないわよ」

 

 とは言うものの、やはりすぐに慣れる訳が無く。

 オートでバランスを取ってくれているとは分かっているが、どうしても操縦桿を動かしてしまう。それがバランスを崩す原因になっているのがまたもどかしい。

 

「だ、大丈夫ですかソラさん?」

「……ユウリ。お前も確か宇宙は初めてのはずだよな?」

「はい。だから慣れないですね……」

 

 その割にはこちらに近づいてくるオレーウィユに、何の危なっかしさも感じられないのは何故だろう。

 

「……すぐに慣れるユウリもユウリよね」

 

 大体同じことを思っていたのか、通信越しに、そんなフェリアの呟きが聞こえた。ユウリの耳へ届いているかどうかは知らない。

 少し時間が経ち、フェリアから通信が入ってきた。

 

「オルーネ1から2、3へ。今回の私達の役割を再確認するわよ」

 

 今回の作戦からソラ達、第五兵器試験部隊にコールサインが与えられた。フェリアはオルーネ1、ソラは2、ユウリが3と言った割り振りだ。

 ソラはフェリアの言葉に頷いて返す。

 

「今回は宇宙軍との共同作戦よ。それで、私達は先行して敵をかく乱、その後別方向から宇宙軍が一気に兵器プラント制圧するという流れになっているわ。この時点で質問は?」

 

 二人の沈黙を無しと受け取り、フェリアは続ける。

 

「偵察部隊からの情報によると、単純な戦力差ではこちらが圧倒的に有利と聞いているわ」

「……単純な、ですか」

 

 含みのある言い方に、ついユウリが不安げな声を漏らした。

 

「あのヒュッケバインか……」

「ええ。あのヒュッケバインが最大の障害よ。恐らく奴は来るわ。囮だと分かっていても、恐らくこっちに向かってくる」

「やけに言い切るな。根拠はあんのか?」

「あのパイロットは言動から察するに、相当な自信家のはずよ。だから、まず少ないこっちを瞬殺してから、本隊を壊滅したいと考えていると思うわ」

 

 フェリアの考察へユウリが更に補強材料を付け足した。

 

「私も、そう思います。……この頭の中にノイズが走っているような感覚……明らかにこっちへ敵意を向けていますから」

「ノイズ? 大丈夫なのか、それ?」

「はい。戦闘に支障はありません。もし何かあったらフォローお願いしますね」

 

 次の瞬間、ユウリの声色が変わった。

 

「っ! レーダーに反応ありました! 数は一!」

 

 ユウリの言葉に心臓が跳ね上がったような感覚を覚えながら、ソラは改めて操縦桿を握り直す。

 

(……勝負だ、ヒュッケバイン……!)

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 先ほどから頭の中がやけにザラつくような嫌な感覚に陥っていた。正直、かなり不快であった。少しでも気を抜けば一気に発狂でもしてしまうかのような、そんな感じ。

 

「嫌な感じ……。また、あの人達かな?」

 

 宇宙用に換装されたヒュッケバインの中で、リィタは独り頭を抱えていた。こんな感覚は初めてだった。誰かに常に見られているような、そんな不安。

 

「カームス……」

 

 呼ぶのは地上にいる唯一、心を許せる者の名。

 目を閉じ、心を研ぎ澄ませると、このプラント周辺の意識が流れ込んでくる。その濁流の中、明らかに“違う”流れがあった。

 

「リィタの機体を傷つけた人と……ザラつきの元……」

 

 荒々しい感情と、例えようのない思念の塊。

 

「イデア2からカイト1へ。出撃準備をお願いします」

 

 そんな思考の波を振り払うように、リィタはヘルメットを被り、コンソール上へ指を踊らせた。すると、シート後頭部辺りの機材から鈍い光が点り、コクピット内を駆け巡る。

 

「……機体コンディション、オールグリーン。ロケットブースター接続確認。火器類、搭載確認。PDCシステム正常起動、稼働開始」

 

 一通りの確認を終え、リィタは操縦桿を握りしめる。彼女の意志を反映するかのように、濃紺のヒュッケバインに火が入り、姿勢を前傾に変えていく。

 その姿は凶鳥が翼を広げんと力を蓄えているように見えた。オペレータから出撃の指示が出ると、リィタはペダルを踏み込む。

 

「カイト1、M型ヒュッケバインMk-Ⅱ“エアリヒカイト”、行ってきます」

 

 カタパルトに押し出され、無重力空間に投げ出される機体。すぐさま背部に接続されたロケットブースターが圧倒的な推進力と加速力を与えた。

 

「……全部、叩き潰す」

 

 翼を広げた凶鳥が戦場へ飛び立った。

 まず最初の目標は自身を惑わす有象無象。それ以外、リィタの眼中にはなかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――まあ、こんな所かしら。実際の戦闘では恐らく、そう上手くはいかないでしょうが」

「いや、良いぜ。方針無しで戦うよりは全然マシだ」

 

 エンカウントするまでの少しの時間、三人は軽い作戦会議を行っていた。と言っても、ただのフォーメーションの確認に近いが。

 

「ソラさん、フェリアさん。この速度なら、もう少しで有視界領域に入ります」

「つっても、デブリが多いからすぐには分かんねーな」

 

 この地帯は妙にデブリが多い。

 ただでさえ不慣れな宇宙だというのに、更に操縦難度が上がってしまっているのだ。前衛であるソラは僅かに緊張していたが、それ以上に早く奴と再会したいという気持ちの方が大きかった。

 ユウリのカウントが始まる。

 

「三……」

 

 ここでようやくブレイドランナーのレーダーに反応があった。

 ユウリのオレーウィユがどれほど高性能のセンサーを積んでいるかが分かる。

 

「二……一……」

 

 チカッと何かが光った。脊髄反射でソレが何かを理解したソラは、操縦桿を横に倒す。

 

「来たか!!」

 

 同時に横切る弾頭。機体コンディションが更新されていたので、それを見ると、何と少しだけ掠っていた。

 

「……マジかよ」

 

 既に敵のヒュッケバインは旋回をするために、大きく距離を離していた。やはり上下左右が無いからこそだろうか、大きな虹のような噴射炎の軌跡が下から上へと描かれていた。

 

「言っている場合じゃないわよ! ユウリ、お願いね!」

「はい! 今回から私のオレーウィユに新しくシステムが搭載されたので、それを試してみます!」

 

 そう言って、オレーウィユが少し下がり、バックパックのレドームが展開を開始する。

 

(新しいシステム……何て言ったっけか? ティ、T……なんちゃらシステムだったか?)

 

 ラビーがユウリにしていた説明を何となく思い出すと、念動力者であるユウリが持つ独特な脳波を機体へダイレクトに伝え、機体のレスポンス向上や念動力を用いた特殊な兵装が使えたりするという、とにかくすごい物らしい。

 ブレイドランナーにも付けられないか聞いてみたが、念動力者ではないので、当然の如くご破算となった。

 

「すごい……。機体のセンサーじゃ掴みきれない細かな位置まで……! フェリアさん、ポイントS13に移動してください! なるべく早く!」

「了解」

 

 ユウリの指示通り、ピュロマーネは一旦ソラたちから離れていった。

 一見、斜め下に向かっていったように見えるが、恐らくフェリア的には真っ直ぐに進んでいるのだろう。

 

「ユウリ、俺は!?」

「ソラさんは三十秒後、ポイントY7へ射撃をしてください! 恐らく敵の進行ルートです」

「な、何で分かるんだ!?」

「それは後です!」

 

 とりあえずユウリの言うとおりのポイントへガン・モードに変形させたシュトライヒ・ソードを向ける。

 すると、フェリアから不安げな声が聞こえてきた。

 

「ちょっとユウリ、大丈夫なの? こいつの射撃の腕の悪さは分かっているでしょう?」

「……だ、大丈夫ですよね?」

 

 いつものソラならば、ここで言葉に詰まるところであった。しかし――。

 

「やらせてくれ」

 

 もう、ソラはここで引くことはない。虚勢なんかではなく、然るべき自信に満ち溢れている声色である。

 

「……出来るの?」

「まあ、見てろって」

 

 丁度、後数秒。

 話しながら、メインモニターをジッと見ていると、端からチカリと光が瞬いた。すぐさまデブリが敵機を隠した。

 

「一……二……」

 

 思った以上に速い。

 しかし、眼だけは良いソラはそれに踊らされることはなく、デブリから出た敵の頭を捉えた。

 

「三、三!!」

 

 一拍遅くソラはトリガーを引く。

 シュトライヒ・ソードの刀身から解放された高出力ビームが小さなデブリを巻き込み、ロケットブースターに押されているヒュッケバインへ向かっていった。

 

「……っ!!」

 

 一瞬だが、敵パイロットの驚きの声が聞こえたような気がした。

 結果としては外れたが、あの超反応を誇るヒュッケバインへの直撃まであと数メートルという驚異的なニアピン。

 ソラは確かな手応えを感じていた。

 

「よっし!! ありがとうございますライカ中尉!! 一生ついていきます!!」

 

 思い出すはずっとやっていたボールペンの頭を押すという反復作業。

 

「……どういう魔法を使ったのかしら?」

「ライカ中尉に言われたことをやった結果だよ」

 

 ――貴方はどうも、トリガーを絞るのが早すぎるようですね。

 

 宇宙へ移動する前に、ライカに言われた一言だ。

 補足をするのなら、動体視力が良すぎて指が追いついていないということ。それを改善するためにライカから手渡されたのは一本のボールペンだった。

 それからソラはボールペンを操縦桿に見立て、何度もトリガーを引く練習をしていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そ、ソラさんすごいです!」

「というより、ライカ中尉の洞察力が凄まじいわね……。この馬鹿の操縦の癖を一目で見破るなんて」

 

 身を翻したヒュッケバインがブレイドランナーへバズーカを向けるのが見えたので、すぐさま逃げに徹することとした。幸い、デブリを盾にしながら逃げればいいので、地上の時のように遊ばれたりはしない。

 ヒュッケバインは進行方向を変え、ソラから距離を離した。

 

「頼むぜ、フェリア」

「そっちがそこまでやったのだもの。無様は見せられないわ……!」

 

 ユウリを通して、リアルタイムで映像を送ってもらっているので、ヒュッケバインがフェリアが待機している場所へ向かっていることは分かっていた。

 そうしている内に、ヒュッケバインが接近しているデブリの陰からピュロマーネが飛び出す。

 

「動揺しているのかしら?」

「……嫌っ」

 

 両手のM950マシンガンと両の三連マシンキャノンによる一斉射撃。デブリの破片すら弾丸とするかのように、銃口から弾丸を吐き出し続ける。

 右側のスラスターが噴出したヒュッケバインが横転し、寸でのところで弾幕がやり過ごされてしまった。

 

「逃がさない……!!」

 

 デブリを蹴り、勢いを付けたピュロマーネがヒュッケバインへ更に追撃を掛ける。

 

「お願いしますねフェリアさん! ソラさんは私と来てください。もう少しです!」

「……すげーなユウリ。フェリアからの作戦を聞いた時は思わず耳を疑っちまったんだけどな」

「あはは……。このデブリ地帯とオレーウィユの豊富なセンサー類が可能としたんですよ。何より、ラビー博士が付けてくれたこの『T-LINKシステム』は本当にすごいです……。見える世界が変わりましたよ」

「そんなにすごいのか、それ?」

「はい。この一帯を抱きしめているみたいです。これなら……いけます」

「頼むぜユウリ。俺とフェリアを誘導して奴の進む先に回り込んでいくって作戦なんだからな」

「はいっ!」

 

 遠くで何度も爆発の光が見えた。どうやら順調に誘い出しているようだ。

 

「ソラさんはポイントD32へ。掠らせるだけ良いですから」

「任された!」

 

 オレーウィユと別れ、ブレイドランナーは指示されたポイントへ進行方向を変えた。

 フェリアは決して深追いすることなく、デブリを盾にしながら実に消極的な射撃を加え続けていた。……この堅実な点が自分とフェリアの違いなのだろう、と受け取るソラ。

 

「ソラ、もう少し! ……くっ! やはり鋭い射撃を……!」

 

 二機が近づいてきたのか、爆音が良く聞こえる。

 そろそろだと踏んだソラは、ブレイドランナーの速度を上昇させる。同時に、シュトライヒ・ソードをビーム展開を行う。

 

(悔しいけど、俺ら一人一人じゃヒュッケバイン、お前には一生勝てないんだろうな)

 

 ようやく慣れてきたのか、まだ危うさが伺えるも、何とかスムーズにデブリを避けられるようになってきた。そのままの速度を維持し続ける。

 

(だけどな……!)

 

 一際大きな爆音と閃光。

 巨大なデブリが邪魔で良く見えないが、それでもソラは自分を、そして二人を信じ――走り抜けた。

 

「三人ならぁぁぁーーー!!!」

 

 シュトライヒ・ソードを振り下ろしきる寸前、ヒュッケバインの姿が見えたような気がした。

 

「……よぉし」

 

 遠ざかっていくヒュッケバイン。

 ソラは確かに見えていた。一部が赤熱化したロケットブースターを見て、彼は少しばかり口元を緩める。

 

「ヒット! 燃料量から考えて、あのロケットブースターはもうパージするしかありません!」

 

 ユウリの読み通り、ヒュッケバインの背部から長大なロケットブースターがパージされた。

 

「嫌……嫌、嫌々イヤいやヤイヤいヤ!!」

 

 ロケットブースターに付けられた武装のいくつかが爆発に巻き込まれたようで、敵の武装は手に持っていたバズーカと臀部に懸架されているバズーカの二丁のみ。袖口に仕込まれているプラズマカッターの事を考えると、まだ敵を無力化出来た訳ではない。

 小回りが利くようになったヒュッケバインがブレイドランナーの元へ向かってきた。

 

「やべえ……!!」

「三十秒持ち堪えなさい! 今行くわ!」

 

 ブレイドランナーとヒュッケバインを分かつように、一筋の光弾がオレーウィユから放たれた。

 

「いえ、私がいます!」

「助かるユウリ!」

 

 ――瞬間。

 

「っ――!!」

「うぅ……!!」

 

 ヒュッケバインの動きが止まった。同時にオレーウィユも。

 

「嫌……誰、あなた? 誰?」

「リィ……タ? それが、貴方の、名前……?」

 

 ――リィタ。誰も口にしていないはずの単語。

 

「もしかして、それがあのパイロットの名前か……?」

「リィタ……知らないわね」

 

 パイロットの動きをトレースでもしているのか、ヒュッケバインが頭を抱えだした。

 

「貴方、リィタちゃんって、っ痛……! 言う、の?」

「いや、だ。怖い、怖い怖い怖い怖い……! ――――テ。嫌だ嫌だ!」

 

 どこからどう見ても様子がおかしい。

 しかしこれはある意味好機である。とりあえずソラは敵を拘束しようと、敵のヒュッケバインへ手首下のアンカーを射出した。

 

「いやいやいや。それは頂けんよ」

 

 ヒュッケバインへ向かっていくはずのアンカーが弾かれる。

 次の瞬間、ヒュッケバインの近くの空間が歪み、艶の無い真っ黒なガーリオンが現れた。翳している右手が何やら力場のようなもので覆われていた。

 

「後詰めで来てみれば、この有様か。まあ、時間は稼げたのだから良しとするとしよう」

「誰だお前は! いきなり現れやがって……! 邪魔だ!」

 

 口ぶりから敵と判断したソラは先手必勝とばかりに、シュトライヒ・ソードを構え、突撃する。対するガーリオンは動かないまま、逆の手に持っていた両刃のアサルトブレードをぶらりと構えるだけ。

 その立ち振る舞いを見ていたフェリアの背筋に悪寒が走る。

 

「駄目よソラ! あのガーリオン、普通じゃ……!」

「このぉぉおおお!!」

 

 フェリアの制止を振り切り、ブレイドランナーは出力を上げたシュトライヒ・ソードをガーリオンへ振るう。

 最後まで敵機は回避行動を見せず、ただ手のひらを翳すだけであった。

 

「――(ティードットアレイ)・ハンドだ。コイツは()けんぞ」

 

 ソラは全身の力が抜けたような錯覚を覚えた。なんとガーリオンはビーム展開をしているシュトライヒ・ソードを()()()のだ。

 

「ぐあっ!!」

 

 そのまま別の手のアサルトブレードの腹で思い切り殴りつけられる反撃までもらってしまった。

 

「吠えるなよ。そこで大人しくしていろ。そこのヒュッケバインのカスタムタイプ二機もだ。少しでも抵抗する素振りを見せてくれるなよ?」

「ソラさん!」

「駄目よユウリ……! この敵、単純な突撃とは言え、接近戦に特化したブレイドランナーを軽くあしらったわ。この意味が分かるわよね?」

「……っ!」

 

 通信を傍受したのか、ガーリオンは満足げに頷く動作を見せた。

 

「そこの重武装は良く分かっているようだな、良いリスク管理だ。ついでに教えてやろう。もう俺達SOにはあの兵器プラントは不要となった。このリィタが迎撃に出ているんだ。直に制圧されるだろう」

 

 嘘を言っているようには見えなかっただけに、ソラには益々理解できなかった。

 

「そんな平然と何言ってやがんだ! お前らがこの基地を制圧するために殺した人達の前でも同じことを言えんのか!!」

「言えるな。お前は何を言っているんだ? こっちは戦争をしているんだぞ。敵の命なぞ知ったことではない」

「貴様ァ!!」

 

 再びブレイドランナーに火を入れようとしたソラの行動に気付いたのか、フェリアから焦ったような通信が入った。

 

「ソラ、動かない!!」

「馬鹿言うな! こいつは今倒す!」

「無理よ、止めなさい! それに敵はまだ本気じゃない!」

「それでもこのブレイドランナーなら――」

「今、そのブレイドランナーで真正面から向かった結果があれでしょう!! いい加減にしなさい!!」

 

 その一言で、完全にソラの熱くなった血が冷えていく。言い返せなかった。歯嚙みをし、今はみすみす逃がすしかないという事実を受け入れる。

 

「威勢は良し。だが実力が伴なっていない、か」

 

 ソラの非難を受け流し、ガーリオンはヒュッケバインの肩を掴んだ。

 

「俺に物を言いたいのなら、俺と対等以上が条件だ。それ以外は聞く耳持たん」

 

 そう言い残し、ガーリオンはヒュッケバインと共にこの戦域を離脱していった。その直後、作戦終了の知らせが流れた。

 ガーリオンの言った通り、あのリィタと言うパイロットが居なくなったことで防衛力が激減したのだろう。

 

「ソラ、大丈夫……?」

「……情けねえ」

 

 誰に言うでもない呟き。

 ようやくいっぱしのパイロットになったと思ったら、それは何という傲慢だったのだろう。井の中の蛙という言葉が先ほどからソラの脳裏に浮かび続ける。

 

 ――初の宇宙は、あまりにも苦すぎる経験となった。




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