スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十五話 宇宙へ

(一、二、三……三、ファイア)

 

 カチリとボールペンの頭を押し込んだ。すぐさまソラは今の押し込んだタイミングを振り返る。

 

(駄目、だな。多分まだ早い……。もう一回やるか。……それにしても……)

 

 そんなソラの耳に先ほどから幾多もの単語が飛び込んできている。単語の発信源はとっくの昔に分かっていたが、残念なことに彼女らの話に飛び込む覚悟が無かった。

 それでも意を決し、ソラは控えめに口を開く。

 

「……なあ?」

 

 ソラの問いかけに答えてくれる様子も無く、隣に座っているフェリアは更に隣に座っているユウリと談笑に花を咲かせていた。それがファッションやダイエットならまだ可愛げがあったのだが、その内容は――あまりにもマニアック過ぎた。

 偏見が過ぎるが、とてもうら若き女性たちのする会話ではないと、ソラは思った。

 

「――ああそれと、この間貸してもらった『狼我旋風ウルセイバー』。……あれは良かったわ、とても」

「そうですかそうですか! あぁ……フェリアさんなら分かってもらえると思ってました!」

「特に主人公の生き様には感動してしまったわ。パンをくれた子供一人を救うためだけに、二億八千万もの規模のタイガージャ軍ロボットへ一人戦いを挑むところなんて思わず拳を握りしめてしまったわよ」

 

 飛び交うのはソラには良く分からない未知のキーワード。フェリアとユウリはそれを良く理解しているようだった。

 ユウリに至ってはフェリアの言葉を聞いた瞬間、手を握ってしまう始末。

 

「その回はファンの間でも伝説の回としてすごい人気があるんですよ! 主人公であるケン・サクラバが戦いに行くのを止めようとする子供に言った『お前はもう依頼料を払っているよ。お前は俺に美味しいパンをくれた。……戦う理由なんてそれで十分だ』って台詞はケンの人格を的確に表した名台詞中の名台詞だと思ってます!!」

 

 共感するモノがあるのか、フェリアも深く何度も何度も頷いた。

 

「そうね。私的には、苦戦するかと思ったらウルセイバーの第五の(つるぎ)であるロウガプラズミネートが解禁されて二億八千万の敵を一瞬で蹴散らした瞬間がとても興奮したわ」

「良いっですよねぇ! 逆境で新たな力に目覚め、困難をひっくり返す……まさに王道! 王道なんですよぉ!!」

 

 この話はいつまでも続くなと嫌な予感がしたソラは申し訳ないと思いながらも無理やり話に割り込んだ。

 

「な、なあさっきからそのウルセイバー? とかロウガプラズなんちゃらとか一体何の話をしてるんだ?」

「ソラさん分からないんですか!? あの隠れた名作ロボアニメ、狼我旋風ウルセイバーが分からないんですか!?」

「いや隠れているなら知らんよ」

 

 熱くなっているユウリに、冷静な突っ込みは無駄だろうなと思いながらも一応言うことは言うソラ。

 そんな彼にフェリアは冷ややかな視線を送る。

 

「視野が狭いわね。もっとアンテナを高く伸ばして幅広い情報を取り込みなさい」

「……っていうかフェリア。お前がアニメの事でユウリと盛り上がっている光景自体、嘘だと思いたいんだが……」

「私はユウリに教えてもらったのよ。好き嫌いせずに色んな情報を取り入れることの重要性にね」

「いや取り入れる情報にも良い悪いがあると思うぞ……」

 

 どうやら今この場では明確な二対一の図式が存在しているようだ。もちろん一はソラである。

 

「いやいや。そんなことはないぞソラ君。柔軟な発想にこそ新しい機体のアイディアが宿るのだよ」

 

 ソラの向かいに座ってずっと話を聞いていたラビーがようやく口を開いた。彼女はユウリ達側のようで、思わず頭が痛くなってしまった。

 

「そんなこと言われても……。っていうか、皆良く落ち着いていられるよな。ここが今、どこだか分かっててその態度なのかよ」

 

 

 ――そう、何を隠そう、現在ソラたちは宇宙に上がっていた。

 

 

 時間を巻き戻せばあの嫌がらせをしに来た男との模擬戦が終了した直後となる。

 

『面倒なことになったぞ……! 宇宙の兵器プラントが占拠された。第五兵器試験部隊に出撃命令が出たぞ。私達はこれからすぐに宇宙に上がる』

 

 血相を変えて現れたラビーはそう告げてきた。そうなるともうオフがどうとかの騒ぎでは無くなってくる。残念ながらメイシールとの約束も保留に。

 すぐさま用意されていた移動用シャトルに乗り込んだ第五兵器試験部隊のメンバーは今、こうして目的地まで移動していた。

 

「分かっているわよ。……私にしてみれば、地球より宇宙(こっち)の方に懐かしさを感じるぐらいよ」

「へ? フェリア、お前地球生まれじゃないのか?」

「生まれも育ちもスペースコロニーよ。だから、最初は地球の重力や匂いに慣れなかったわ」

「そうなのか。俺にしてみたら宇宙は住みにくい所ってイメージしかないなー」

「あら、そんなこと無いわ。慣れてしまえば不便は感じないものよ?」

 

 住めば都、とは聞くが本当にそんなものなのだろう。そういえば、とユウリがラビーへ顔を向けた。

 

「私達って占拠された兵器プラントに直接向かうんですか?」

「いや、既に待機している制圧部隊と合流して、そこからプラントを取り戻す」

「規模はどれくらいなんですかー?」

「詳しいことは聞いていないが、ただ一つハッキリ言えることがある。恐らく我々は例のヒュッケバインとまたやりあうこととなるだろう」

 

 ――例のヒュッケバイン。

 まずはソラの表情が引き締まり、それに続いてフェリアとユウリの表情も変わった。

 言葉の代わりにラビーが手持ちの端末で映像を流し始めた。

 

「これは兵器プラントが制圧された時の映像だ」

 

 時間にして五分にも満たない時間であった。

 だが、その時間はソラ達を絶句させるには十分すぎるほどの時間で。

 

「……う、嘘だろ……?」

「これは……ちょっと想像以上ね」

 

 ソラには過信があった。

 あの濃紺のヒュッケバインに遊ばれた屈辱からだいぶ経ち、そろそろやり合えそうかと思っていたところで、この単騎でプラント防衛部隊を壊滅させる映像を見せられては、その認識を改めざるを得なかった。

 次元が違いすぎる。特に回避が神掛かっていた。被弾ゼロという馬鹿げた戦果を当たり前のように挙げられてはもはやゾッとするしかない。

 

「う~ん……」

 

 だが、ユウリだけは少し持った感想が違うようだ。

 

「どうしたの?」

「いえ……。前から思っていたんですけど、何でこのヒュッケバインは真っ白な状態で戦っているんでしょうね」

 

 ユウリの言っている意味が少し、いやかなり分からず、思わずソラは聞き返してしまった。

 いきなりの発言だったので、ラビーだけはどこか品定めをするような眼になっていたことは誰も気づいてはいない。

 

「ど、どういうことだ?」

 

 フェリアも同じことを聞きたかったようで、黙ってユウリの方を見ていた。

 

「えーとですね。今まで戦ってきた相手なら強い戦意とかを感じられたんですけど、この機体のパイロットにはそれが全然感じられないんですよね……」

「……ん? マジでどういうこと?」

「ん~……ごめんなさい。私にはこれ以上、上手い表現が見つからなくて……」

「……やはり、か」

 

 納得したように何度も頷くラビー。

 次の瞬間、ラビーの口から驚くべき事実が告げられた。

 

「どうやら『念動力者』と言うのは本当のようだな」

「……念動力者?」

 

 聞き慣れない言葉に思わずオウムのように言い返すソラ。そんな彼にフェリアは呆れたように肩をすくめた。

 

「貴方も恐らく受けているはずよ。念動力者っていうのは、『テレキネシスαパルス』っていう独特の脳波を持っている人の事を言うのよ」

「……ん~。お、確かになんかそんな感じの名前のやつが出るかどうかのテストをした記憶が……」

「情報の多さは生存力に直結するわ。そういうのはちゃんと覚えておきなさい。……それにしてもユウリ、それならそうと言ってくれたら良かったのに」

「え? え?」

 

 当のユウリは、ソラよりも訳が分からないと言った様子で不安げに三人へ視線を行ったり来たりさせていた。

 そんな彼女を見て、ラビーは少し予想とは違っていたようだ。

 

「……知らなかったのか? 念のため結果のコピーを見せてもらったが、その時点で念動力者と言うことは確定していたはずなんだが……」

「私、結果はクロだって言われたから、特に該当はしていなかったんだなーって思っていたんですけど……」

 

 鈍いソラでも、今のユウリの一言で全てが理解できてしまった。

 フェリアもなるほど、と苦笑を浮かべる始末。ラビーに代わり、フェリアが事実を伝えてあげた。

 

「ユウリ。クロって該当しているって意味よ?」

「…………へ?」

 

 体感にして一分、実際の時間にして数秒。元々頭の回転が早いユウリの顔は、すぐさま真っ赤になっていく。

 

「えええ!? そうだったんですかぁ!? じゃあ私、念動力者なんですかぁ!?」

 

 その様はとても演技に見えず、ユウリが本気で勘違いをしていたことが良く分かった。ラビーは思わず口に咥えていた煙草を落としそうになっていたのはきっとソラしか見ていなかっただろう。

 

「……いやはや。これは正直、予想外だったよ。てっきり隠しているかと思っていたのだが……」

「……と言うことはユウリが言っていた変な表現はあながち外れている訳ではないって事かしら?」

 

 変な表現と言うくだりでユウリが涙目になっていたが、今のソラには慰めてやる心の余裕はなかった。

 

「だったら、何であのヒュッケバインはあんなことを? 良い悪いはともかく、要は本気で動いていないってことだろ?」

「その辺は……すいません、分かりません。でも、もう一回戦えば恐らくは……」

「ああ、それなら安心してくれたまえ。多分、私達は嫌でもあのヒュッケバインとやり合うことになるだろう」

「まあ、あのプラントの防衛部隊を壊滅させた張本人だし、そりゃあ……」

 

 ソラの言葉を訂正するかのように、ラビーは人差し指を左右に振った。

 

「すまない、言葉が悪かったな。そういうことではないんだよ」

「じゃあ、どういうことなんすか?」

「それは……っと、見えたな。悪いが私の言いたいことは目的地に着けば分かるさ」

 

 シャトルの外から見えたのは、三隻の戦艦であった。

 知識が乏しいソラには戦艦の名前が出なかったが、そこは流石と言うべきか、フェリアが一発で当てて見せた。

 

「……ペレグリンね」

「お、おう、そうだよな。ペレグリンだよな!」

「……どうせ分からなかったんでしょ?」

 

 半目で睨み付けられてしまった。

 俗にいう『ジト目』というやつなのだろうか、やられて嬉しいものではないが……。それは置いておいて、変に誤魔化してもドツボにハマるだけだったので、ソラは正直に頷いた。

 

「……悪いかよ」

「悪いわよ。最新鋭モデルならまだしも、ペレグリンって言ったら、連邦宇宙軍やコロニー統合軍、DC残党すらも使っているドが付くほどポピュラーな宇宙航行艦でしょう。何回も言っているけど、この世界に入ったなら、この世界の最低限の知識は持っておいた方が良いわよ?」

「分かった分かった……。俺が悪かったよ」

 

 そうこうしている内にペレグリンの帰艦口に近づいていたシャトル。初めて入る宇宙航行艦に、ソラは少しばかりソワソワしていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「おお、ご苦労だったな」

 

 ペレグリンに着艦してすぐにソラたちはブリッジに通された。

 待ち受けていた狸顔の艦長は少しばかり横柄な態度だった点については、そういうものだとソラは割り切った。

 艦長の労いに、ラビーは極めて普通に返した。

 

「お心遣い、痛み入ります。共に制圧された兵器プラントを取り返しましょう」

「もちろんだとももちろんだとも。どこの野良犬か知らんが、軍にとっても、地球圏にとっても重要な兵器プラントを占拠する不届き者は一匹残らず殺処分してやろうではないか」

 

 正直、ソラはこの狸艦長が気に入らなかった。

 もちろんSOのやっていることは許されることではないが、相手は命ある人間だということには変わりはない。それを野良犬だとか殺処分などと言う非人道的な発言が、ソラにはどうしても理解できない。

 

「それで、作戦の詳細を確認したいのですが」

「ああ、それならもう決まっている」

「……というと?」

「今回は挟撃してプラントを制圧する。諸君ら第五兵器試験部隊は先行して敵をかく乱し、我らがその隙を突き、一気に崩す」

「はぁ? それって要は――」

「了解しました。私達の実力を買って頂いた上での判断と受け取りましょう」

 

 ソラの言葉を潰すように言ったラビーの言葉に、狸艦長は満足げに頷く。

 

「期待しているよ」

 

 貼り付けられた笑顔と共に――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ふっざけんなよあの艦長! 要は囮ってことだろ!?」

 

 ブレイドランナーの中でソラはずっと溜め込んでいた感情を爆発させた。現在、第五兵器試験部隊は機体の中で待機させられていた。余計なことをするな、という遠回しのお達しなのだろう。

 

「フェリア! ユウリ! お前らはムカつかないのかよ!」

 

 通信用モニターに映っているフェリアはあからさまに顔を手で覆った。

 

「……腹立たない訳ないでしょう。それよりもソラ、ラビー博士に感謝することね」

「何でだよ!? あそこは言うこと言っておかなきゃなんねえだろうが!」

「……本気でそう思っているの?」

 

 それを言われては黙るしかなかった。全てを見透かしていたフェリアの言葉に、ソラの勢いは段々落ちていく。

 

「……分かってるよ。あそこでラビー博士が言ってくれなかったら、俺は今こうして機体に乗っていないんだろうなってことぐらいは」

「それが分かっているなら良い。……全く、流石の私でもあの場面はヒヤヒヤしたぞ、ソラ君」

 

 音声だけだが、ラビー博士が嘆息しているのが目に見えるようだ。反省ついでに、ソラは何となく聞いてみた。

 

「ラビー博士は悔しくないんすか? 囮なんかにされて」

「囮も重要な役割だよ。それに、むしろ私はラッキーとすら思っているよ」

「……ラッキー?」

「ああ。恐らく迎撃として例のヒュッケバインが出てくる。私の作品でそれをどうにかすることが出来れば、有用性も認められるというやつだ」

「やっぱり、あのヒュッケバインと戦うんですね……!」

 

 モニター越しのユウリの表情にはまだ迷いが伺えた。だが、その眼には間違いなく“戦う覚悟”が感じられる。

 

「恐らくはな。奴とは交戦経験もある。だから今回、私達が呼ばれたのだろう。囮はもちろんのこと、あわよくば落としてくれると踏んでな」

「素晴らしい見通しですね。あの艦長の性格が良く分かります」

「合理的と言えばそこまでだがな。まあ、私も勝算がなくほいほい引き受けた訳では無いよ」

「ん? 何かあるんすか?」

「……ああ、私の予想が当たっていればな。それよりも、君達の機体を宇宙用に調整している。詳細を各機体に送っている。目を通しておいてくれ」

 

 ファイルを開こうとすると、ペレグリンのオペレータから通信が入った。

 

「こちらガリア1。間もなく戦闘宙域に突入します。出撃準備をお願いします」

 

 操縦桿を握りしめ、ソラは一度目を閉じる。

 

(あれから俺はどれくらい成長したんだろうか……? 対等に渡り合うまでは望まない。……だけど!)

「カタパルト解放、システムオールグリーン。第五兵器試験部隊は各自出撃開始」

 

 オペレータの指示を受け、ソラは閉じていた目を開く。

 

「オルーネ2、ソラ・カミタカ。ブレイドランナー、行くぜ!」

 

 濃紺の凶鳥が待ち受けている戦場へ、刃走らせる者が飛び立った。


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