スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十三話 向上への決意

 宇宙には連邦軍の所有する兵器プラントがいくつもあり、ここはその内の一つ。比較的地球と距離が近いそのプラントは主にAMを生産しており、DC戦争ではDCが使用していた場所である。

 

「ふぁ~暇だな……」

 

 バルト曹長は《コスモリオン》の中で水分補給をしながら、各種センサーが取得する情報を流し読みしていた。

 彼の独り言を諌める者は誰も居ない。それもそのはずであり、バルト曹長以外の警備も皆、彼と似たような勤務態度であったからだ。

 封印戦争時では毎日緊張感を持ちながら、警備に就いていたが、それを乗り越えた今となっては、暗い宇宙をただ眺めているだけ。

 腐るのも無理はなかった。

 

「今時こんな所襲いに来るやつなんていないってのにな。……まあ、乗っているだけで金がもらえる仕事と思えば楽なもんか」

 

 ごくまれに反連邦組織が喧嘩を吹っかけてくることがあったが、補給や修理を直ぐに行えるこの場所で長期戦を仕掛けてくる馬鹿はまずいない。

 やられたらやり返してやれば、すぐに敵は逃げていってしまう。最近はそういうことも起きない為、本当にただ機体に乗って、決められた時間を過ごし、決められた休息を取るだけのルーチン。

 バルト曹長以外の上官や同僚もそういう仕事と割り切っており、眼には覇気がまるで感じられなかった。

 

「……ん?」

 

 センサーが一瞬、何かを捉えた。

 他の警備も気づいたらしく、僅かながらに緊張が走る。基地に情報を入れ、バルト曹長は他の警備達と一緒に反応があったポイントへ機体を移動させた。

 

「こちらエーデル12。こちらは異常なし。そちらは――」

 

 バルトが言い切る前に、遠くから爆発音が鳴り響いた。続けてもう一回。

 

「敵襲……!?」

 

 バルト曹長がいきなりの事態に思考を止めなかったのは、大なり小なり実戦の中に居続けたから。すぐさま基地に緊急連絡を送り、残った機体で索敵を開始する。

 

「エーデル4、正体不明機発見!」

 

 送られてきたデータを見て、バルト曹長は驚愕する。

 

「一機だと……!?」

 

 このプラントに集団で攻撃を仕掛けてくることはあっても、単騎で仕掛けてくる奴は皆無であった。

 考察はさておき、バルト曹長らはすぐさま正体不明機の元へ急ぐ。いくら怠惰に過ごしていたとはいえ、身に染みついた技術は確かなもので。

 すでにこちらは二機をやられている。

 正体不明機を捕捉した者から問答無用でレールガンを放ち始めたが、正体不明機は弾丸の雨をものともせず、バルト曹長の近くで攻撃をしていた《コスモリオン》へ真っ直ぐ向かってくる。

 

「ひ……! うわあああああ!!!」

 

 抵抗する間もなく、機体は宇宙へ散っていった。

 別の機体から放たれたミサイルを振り切り、正体不明機は旋回するべく距離を離していく。

 バルト曹長は冷や汗が止まらなかった。

 

 ――十一秒。

 

 それなりに場数を踏んだ熟練者が乗っている《コスモリオン》三機がスクラップにされた時間だ。

 僅かに捉えていた映像を見たバルト曹長は、更に訳が分からなくなる。

 

「量産型ヒュッケバインMk-Ⅱだと……!?」

 

 カメラが取得した映像には、暗い宇宙に溶け込むような濃紺のヒュッケバインが映し出されていた。

 相当手を入れられている。一番目を引いたのは、背部に付けられた一本の巨大なロケットブースターである。おまけにバズーカが三本にミサイルランチャーらしきものがマウントされていた。

 いつまでもロックオンできない程の異常な速度はその所為だったかと、納得は出来たが、それこそ異常である。

 

「このっ……テロリストが!」

 

 己を奮い立たせるため、咆哮し、ヒュッケバインへレールガンを放つ僚機。

 

「何……だと!?」

 

 一発撃つ度、逆に味方が一機減っているという恐怖。

 肩に架けていたバズーカを捨てたヒュッケバインがマウントしていたバズーカに持ち替える。

 バルト曹長含め、この場にいる生き残りは確信した。

 

(こいつ……本気で一人でこの基地を攻略しようとしてやがる……!!)

 

 こちらの攻撃をやり過ごす()()()()プラントへ攻撃を仕掛けていることだけでも驚きだが、戦闘開始してから今に至るまで傷一つついていないときた。僚機が何とかヒュッケバインを捉え、ミサイルとレールガンの一斉射撃を掛けるも、敵はすぐに進行方向を変え、別の僚機の元まで向かっていく。

 

「ぐわああ!」

 

 なんと僚機を蹴って、無理やり進行方向を修正し、追ってくるミサイルを完全に振り切った。ついでとばかりに、蹴った僚機へバズーカの弾頭を叩き込むことも忘れない。

 ミサイルを放った僚機も撃墜され、ついに一人となった。

 

「な、んなんだこいつは……!」

 

 レティクルに収めようとしても、そもそもメインモニター内にヒュッケバインがいる時間が短すぎて全く捉えられない。宇宙の暗闇に同化しているような機体色と相まって、薄ら寒さを覚える。

 突如、ガクンと機体が揺れた。

 

「ちっ……!」

 

 今のは脚部が切断され、機体バランスが崩れたことで起きた揺れであった。すぐさまオートで姿勢制御が行われ、バルト曹長はロックオンもままならない状態でトリガーを引く。

 当然、当たることも無く、逆に反撃をもらってどんどん機体がボロボロになっていった。それを待っていたとばかりに、バズーカを構えたヒュッケバインがバルト曹長の目の前に現れる。

 

「う、うあ――」

 

 爆風に身を焼かれ、意識が消える刹那。

 バルト曹長が視たモノは、暗い夜に翼を広げ、不幸を告げる凶鳥の姿であった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「さーて、貴方はどこの回し者なのかしら……?」

 

 モンキーレンチの感触を確かめるように何度も振るメイシールに対し、ソラは未だ信じられないと言った様子で彼女を見ていた。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!」

「……何かしら?」

「君がメイシールって本当か? 信じられないんだが!」

 

 ソラの言い分はもっともである。

 控え目に見ても、彼女の容姿はライカとフウカの機体の開発者とはとてもじゃないが思えなかったからだ。しかし、それを予想していましたよとばかりに、メイシールは白衣の内側を探り出した。

 

「全く……そんな失礼なことを言う奴はどこかの教導隊メンバーだけだと思っていたのに……」

 

 どことなくライカが居心地悪そうにしていたのは気のせいだろう。それ以上に、フウカが面白そうにしているのはもっと気のせいだと思いたい。

 目当ての物が見つかったのか、メイシールはそれを取り出し、ソラへ突き付けた。

 

「なっ……!?」

「……さて、問題です。二十七歳でありながら少佐である私と、十九歳で少尉のソラ・カミタカさん。どちらが上でしょーか?」

 

 突き付けられた身分証明証を二回ほど読み返し、じっくりと内容を理解した瞬間から、ソラは額を地面に擦り付けていた。

 

「申し訳ございませんっした!!」

「分かればいいのよ分かれば」

 

 対するメイシールはどこか得意げに身分証明証を白衣の内ポケットに戻した。

 

「……そう言えばメイト、私はまだソラの事を紹介していなかったのですが」

 

 ライカがそう質問した瞬間、メイシールがどんどん不機嫌になっていく。

 

「ああ……その事ね。当然よ、ラビーの手下なんでしょ、貴方?」

 

 怒り半分、呆れ半分と言った様子で、彼女はそう言い切る。特に隠す理由も無いので、ソラは黙って頷いておくことにした。

 

「は、はい。そうっすけど……、何で知ってるんすか?」

「あいつと私はマオ社時代の同期なのよ。当時は同じ開発チームで働いていたわ」

「……の割にはなんか清々しさが感じられないんすけど」

 

 すると、ライカは理由が分かったようで、明後日の方向へ視線を移し、ボソリとメイシールに声を掛ける。

 

「オブラートに包んだ方が良いですか? それともはっきり言った方が?」

「……そうよね、貴方はそういう陰湿なタイプだったわよね」

「どうとでも。まあ、良いです。ソラ、メイシール……メイトはご覧の通り偏屈(へんくつ)です」

「誰が偏屈よ」

 

 鋭い突っ込みをさらりと受け流し、ライカが更に続ける。

 

「私もラビー博士と会ってみて確信しましたが、彼女もメイトと同類です」

「磁石の同じ極を合わせても反発しかしませんしねー」

 

 黙って様子を見ていたフウカがあっはっはと、無表情で笑い、メイシールを煽る。

 当の本人は二人の言葉を鬱陶しげに手で払った。

 

「うるさいわよ、そこの二人。……ま、そういうことよ。それで? そんな憎き相手の所のテストパイロットが私の所に何の用よ?」

「い、いやそれは……」

「彼に、PTとは何たるかを教えてあげてくださいよメイシール」

 

 フウカの頼みにメイシールはただ一言。

 

「い、や、よ」

 

 まさに一刀両断。だが意外だったのか、フウカが一瞬面食らった表情を浮かべた。

 

「……意外ですね。PTの事だったらすぐに自分の理論を並べ立てると思っていたのですが」

「“少佐”としての私ならいくらでも喋ってあげるけど、“メイシール・クリスタス”としてなら、私は認めた相手としか喋る気は無いわ」

 

 何ともめんどくさそうな相手だ、とソラは失礼ながら、メイシールの姿とラビーの姿が重なって視えてしまった。

 

(やっぱ似てんだな~。……でも)

 

 簡単に引き下がる気は無い。

 カームスとの一戦、濃紺のヒュッケバインとの一戦、そしていつか戦うであろうあのクモカマキリのことを考えたら、一歩も引き下がれない。

 それに、これはライカとフウカが自分の為になると思って取り計らってくれたことだ。

 そういう様々な理由が、ソラの口を動かさせた。

 

「なら、どうやれば俺を認めてくれますか? メイシール・クリスタス博士?」

 

 ソラの眼をジッと見つめたメイシールが少し面白そうに笑みを浮かべた。

 

「へぇ……普通、ここで引き下がると思っていたわ」

「引けません。……正直言って、俺には足りないものが多すぎます。だけど全部を一度に手に入れられるほど俺は頭も、操縦技術も足りていません。……だから一つずつ確実に。まずは……貴方からです」

 

 ソラの言葉を聞いた瞬間、メイシールは唐突に笑いだした。

 それもお腹を抱えるほど可笑しそうに、本当に可笑しそうに、彼女は笑った。

 彼女を知る者ならば誰もが顔を青ざめさせたことだろう。何故ならばそれはメイシールに対する最上級の挑発行為。

 プライドの塊である彼女にそんな事をのたまう者に対する返事は決まっていた。突っぱねるわけでもない、ただ彼女はこういうスタンスを取る。

 

「貴方、良い性格してるわね! 事もあろうに、このメイシール・クリスタスを利用しようだなんて!」

「利用するんじゃありません。協力をしてくださいとお願いしているんです」

 

 手に持っていたモンキーレンチをソラに突き付け、メイシールは言い放つ。

 

「なら良いでしょう。それなら、私を認めさせてもらいましょうか?」


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