スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十二話 これが例の

(ソラはオフの日、何やっているのかしら……?)

 

 少しばかりの現実逃避。何故か第一歩が踏み出せないことへの苛立ちに近い“何か”がフェリアを蝕む。

 いつまでも来ないことを不思議に思ったのか、ユウリの声が飛んできた。

 

「さ、入ってくださいフェリアさん!」

 

 そう促され、フェリアはおずおずと第一歩を踏み出す。

 ニコニコとしているユウリに対し、フェリアの一挙一動に心なしか、ぎこちなさが伺える。

 

(……何で緊張しているのかしら私)

 

 自らを落ち着けるという意味を込め、こうしてユウリの部屋に来ることになった経緯を思い出してみる。

 そもそものことの発端は、格納庫で機体を整備していたフェリアの何気ない呟きからであった。

 

 ――オフは何しようかしら?

 

 そう呟いたのを、隣でオレーウィユを整備していたユウリの耳に入ってしまったのが、運のツキ。すぐさまフェリアの元まで移動してきたユウリが彼女の手をしっかりと握り、こう一言。

 

 ――なら私の部屋に来ませんか!?

 

 自分が知る限り、彼女がこうまで情熱的にアプローチをしてくることは一回も無かった。当然、断る理由もない。むしろこちらからお願いしたいところであった。

 それに、とフェリアは心の中で呟く。

 

(ユウリと二人きりで話してみたかったしね)

 

 ソラとは無人島で二人きりで話す機会があったものの、ユウリとはまだ一度も話したことが無かった。親睦を深める意味でも、この機会を逃す手はない。

 

「フェリアさ~ん?」

「へ? きゃっ!」

 

 とうとう痺れを切らしたのか、ユウリがフェリアを引っ張り込んだ。何はともあれついに踏み入れたユウリの部屋。

 その第一印象は……何とも言えなかった。

 

「……ユウリ? えっと、あの棚に並べてあるのは何かしら?」

「あれですか? ロボットのプラモデルですよ」

「……いや、それは分かるんだけど、私が言いたいのはえ~と……」

 

 とても綺麗に手入れされている棚に飾られているおびただしい数のロボットのプラモデルがそこにあった。PTやAMのプラモデルは勿論、架空のロボットだろうか、そんなものまで並べられている。

 フェリアは顔を近づけ、しげしげと眺めてみた。

 

(これは……何と言うか……)

 

 素人目から見ても、ロボット達は恐ろしく丁寧に作りこまれていた。その旨を伝えると、ユウリの表情がとても明るくなる。

 

「分かります!? 分かりますか!? いやぁ分かってもらえるなんて嬉しいです! ほら見てくださいよこのバレリオン! 四肢の可動域を増やしてみたんですよ!」

「え、ええ……。すごいわね。私、こういうの造らないけど、それでもすごいって分かるわ」

 

 こんなにぐいぐい来る子だったかしら、とフェリアは少しばかり面食らっていた。しかし、さっきの賛辞は嘘ではなく。本当に感心していた。

 よーく見ると、《リオン》の胴体部に砂粒程度だが、強制排出レバーが取り付けられている。市販の物がここまで細かな部分まで作られているとは考えづらいので、きっとユウリが手を加えた部分なのだろう。

 

「ユウリって、ロボットが好きなのかしら?」

「大好きです! 特にこの作品が好きなんですよ!」

 

 そう言って見せられたのは、これまたロボット物と予想できる映像作品のパッケージ。知識として持っているこのテの映像作品は、大体グルンガストのようなスーパーロボットが出てくるのだが、このパッケージのロボットはどことなくPTに近いものを感じる。

 強力なビームより鉛弾を撃ち合って戦う、そんな感じだ。

 

「へ、へえ……。ところで、机に置かれているのは何かしら?」

 

 この話は永遠に終わらないと、何故か妙な勘が働いたフェリアはユウリに悪いと思いながらもやや強引に話を変えてみた。

 すると、どうやらその話もユウリがしたかったようで、また目をキラキラさせ始めた。

 

「これですか? これはですね、Gコンと言って、バーニングPTっていうゲームのパーソナルデータです!」

「バーニング……PT?」

 

 全く知らない単語であった。

 そもそもゲームと言う娯楽に触れる機会が全く無かったフェリアにしてみればそれは当然の話である。

 だが、ユウリは本当に意外そうに目を丸くした。

 

「え、えええ!? CMとか結構やってますよ!?」

「そ、そうなの……? ごめん、分からないわ」

「じゃ、じゃあその……ちょっとやってみませんか? 家庭版が今あるので……!」

 

 フェリアの返事を聞く前にごそごそと準備を始め出すユウリ。

 初めからそのつもりだったのね、と割と早い段階で諦め、彼女の準備が終わるのを待つことにした。と、思っていたのだが予想よりも早く準備が整っていた。

 さっきまで何も無かったユウリの机の上に、モニターとゲーム機とコントローラーが置かれている。

 

「出来ました! さあ、この椅子に座ってください!」

「ええ。……これで動かすの?」

「はい! チュートリアルをやれば操作は大体分かりますので、まずはそれをやってみてください!」

 

 ユウリに促されるまま、初めて握るコントローラーに四苦八苦しながらも何とかチュートリアルモードを選んだ。

 

「……へえ。意外とリアルなのね」

 

 コクピットの中の映像とでも言わんばかりに、モニターの中は荒野が広がっていた。画面の両端には、スラスター量や残弾などと言った機体の情報が表示されている。

 ガイドに従って動かしてみると、それに従い、視界が動く。

 

「おお! 流石フェリアさん! 初心者だとまず動かすことが大変だって言うのに……」

「た、たまたまよ」

 

 言いつつも、フェリアの声色はいつもより嬉しげであった。

 

「そういえばこのゲームの事を家庭版って言っていたわね。他にもあるの?」

「そうですね、ゲームセンターに行くと大きな筐体でプレイできますよ。なんと、基本OSやコクピット周りが全部本物と同じなんです!」

「……すごいわね」

 

 その一言に尽きた。

 メカの知識が豊富なユウリを以てして“本物”と断言するのなら、恐らくそのゲーム筐体は本当にPTのコクピットを再現しているのだろう。

 少なからずそのゲームメーカーと軍が繋がっているのは間違いないとしても、そこまで同じにする必要があるのか、フェリアには疑問であった。

 それと同時にあまり考えたくないことを考えてしまった。

 

「と言うことはそのゲームをやっていれば自然と戦いの訓練が出来てしまうのね」

 

 インターネットでバーニングPTの詳細を検索して出てきた画像を見るとフェリアは素直に驚いた。ユウリの言う通り、本物のコクピットの中と見間違えてしまった。

 ――それはつまり、手軽に実戦さながらの状況を体験できるということで。

 

「……そう、ですね」

 

 少し落ち込んだような表情になってしまったユウリを見て、フェリアは心の中で自分に怒る。

 折角の楽しい時間を自分の下らない一言で台無しにさせてしまった。たかがゲームに何を自分は突っかかっていたのだろう、と反省する。

 気を遣ってくれたのか片づけようとするユウリの手を慌てて止めさせた。

 

「へ?」

「謝るのはこっちよ。別に私はこのゲームもユウリも責めてはいないわ」

 

 そう、自分は少しばかり本質を見失っていた。

 ゲームは娯楽で、何も悪くない。それを進めるユウリも当然。

 訂正しよう、自分は言葉が足りていなかった。フェリアが最も恐れていたこと、それは……。

 

「ただ私が怖かったのは、これに変な影響を受けてPTを用いての戦争をゲームとして捉える奴が出てくることよ」

 

 なまじリアルなだけにきっとそんな輩も出てくるだろう。ただ違いとすれば、実弾が出るか出ないかというそんな微々たるモノ。

 その意見に対し、ユウリの口から意外な意見が飛び出る。

 

「そうですね……。そういう人は必ずいると思います」

「驚いた……。てっきりそんな人はいませんって返すかと思ったわ」

「ゲームをやっているからこそ……ですかね? 私も楽しくプレイさせてもらっていますけど、やっぱりやられる時……ゲームオーバーになることってあるじゃないですか? その時思うんです。“ああ、今のが現実だったら私は死んでいたなぁ”って。逆に強いライバルを倒せて嬉しいと思えることもあります」

 

 ユウリの言葉を、フェリアはただ頷いて聞く。

 

「……何が言いたいかっていうとですね、安全すぎる環境でそんな経験をしていたら考えが歪むのも必然ですっていう話でした」

「じゃあ、ユウリはそう言う人間と敵として出会ったらどうする?」

「その人とぶつかります」

 

 思わず椅子からずり落ちそうになった。今日はいつになく過激な発言が出るなと思いつつ、フェリアは理由を聞いてみた。

 

「ぶつかるということは……戦うってこと?」

「はい。それで言うんです。『貴方がやっているのは本当の命のやりとりなんですよ!』って。分かってもらえるまで、何度もぶつかってみせます」

「そう……。何だか貴方の事、少し誤解していたわね」

「そうなんですか?」

 

 そうね、とフェリアはユウリの初めて出会った時の第一印象を話してみた。

 

「最初貴方を見た時は、正直言ってぽわぽわ……というか緩い人だと思っていたわ」

「そ、それは傷つきますよぉ~……」

 

 これでもだいぶオブラートに包んだほうであった。

 口には出せないが、ユウリの第一印象は『甘そう』である。兵士としての自覚に欠けてそうな、そんな感じ。

 しかし、今こうして彼女の話を聞いてみるとどうだ。

 

(もしかしたら私よりも割り切って戦ってそうね)

 

 そうとすら思えてくるぐらい、彼女の言葉には明確な意志が感じられた。

 

「で、でもそれを言うなら私もフェリアさんのこと、少し誤解していました」

「……私?」

「はい。私、最初フェリアさんの事すごく怖かったんですよね……」

 

 自分の態度を振り返ってみると、思い当たる節しかなかったので反論できなかった。だがこう、ハッキリ言われると少し落ち込んでしまう。

 そんな様子を察したのか、ユウリが慌ててフォローに入る。

 

「で、でも! ソラさんと話している時のフェリアさん見てたら何だか仲良くなれそう! って思えたんですよ!」

「……そんなにあいつと話している時の私って親近感湧くのかしら……?」

「何だかありのままっていうか、男の友情? みたいなのを感じました!」

 

 とてもとてもリアクションに困るコメントをされてしまった。

 しかしどこか納得している自分がいる。

 

「……確かにまあ、あいつなら遠慮せずにモノが言えるわね」

「最初なんていきなりソラさんと模擬戦始めるから私、本当にどうしようか分からなかったんですよ?」

「う……悪かったわね。あいつが腕も無いくせに分かった風な口を利くからついカッとなってね」

「今はどうなんですか?」

「まだまだよ」

 

 これに関しては即答できた。

 最初はユウリとソラのどっこいどっこいだと思っていたが、ユウリが意外に()()ことが分かったので、今では部隊で一番操縦技術が低いのはソラだと断言出来る。

 だが、とフェリアは少々のフォローを入れる。

 

「だけどあいつ、あの手この手でその低い技術をカバーしようとしているから厄介なのよね」

「厄介……ですか?」

「厄介よ。楽に落とせると思っているその隙を突いてくるからね。罠よ罠」

「だからあの敵のヒュッケバインを追い返せたんですかね?」

 

 あの戦いは確実にソラが負けると思っていた。それにも関わらず、生還してくるのだからそう言うことなのだろう。

 

「きっとね。……けど、それはあくまで敵が油断していることが前提の話」

 

 そう、言うならばソラは『初見殺し』なのである。

 今の戦法でやっていくのであれば、敵はその時の戦闘で確実に落とさなければならない。そうでなければ、二度目はない。

 

「まあそれはあいつが一人の場合よ。しくじってヤバくなっても、それをカバーしてやるのが――」

「――私達! ですよね?」

「機体特性上、前衛はあいつだしね。囮がいなくなられたら私達がヤバいからそこは全力でフォローしてやるわ。不本意だけどね」

「やっぱりフェリアさんは素直じゃないですね」

「……そんなこと無いわよ。私はいつだって素直よ」

「そう言うことにしておきます! ……ところでフェリアさん?」

「……何かしら?」

 

 ユウリがモニターを指さして一言。

 

「もうそのゲームのシングルモード、クリアしちゃったんですね」

 

 今までコントローラーを握っていたことに気づき、フェリアは顔を紅くする。

 いつの間にかこのゲームにハマっていた自分がいたらしい。気づけばスタッフロールが流れていた。

 ユウリの方を見上げると、彼女は“仲間が出来た”とばかりに顔を綻ばせている。

 その内、ユウリに遊びに誘われる回数が増えそうだと半分諦め、半分それを待ち望んでいる自分がいることに苦笑しつつ、フェリアは一言。

 

「――ええ。こういうのも悪くはないわね」

 

 コントローラーを置いたフェリアに手渡されたのは、ロボットのプラモデルの箱だった。




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