スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第九話 刃走らせる者

「う、おおおおお……!!」

 

 予想以上の性能にソラは思わず声を漏らす。

 今まで乗っていたヒュッケバインがまるで玩具かと疑ってしまうような速度に、操縦桿を握るのが精いっぱいであった。しかし、この程度で辟易してはいられない。何せ相手はライカに痛手を与えた手練れ。むしろ操って物足りないくらいでなければいけない。

 決意を新たにしていると、ラビーから通信が入った。

 

「ソラ君、手短に武装の説明をするぞ」

「お願いします!」

「まずは両手首下にアンカーユニットがある。特殊素材で作っているので、多少無茶な使い方をしても大丈夫だ。また耐ビームコーティングもしているので、すぐに溶断はされない」

 

 機体の全体図がサブモニターに映されており、該当する箇所が光った。

 

「次は予備装備として両脇下にコールドメタルナイフが懸架されている。刃を頑丈にした上で、両刃に加工している。これも耐ビームコーティングをしているので、よほどのことが無い限り折れることはないだろう」

 

 これはありがたかった。

 武器の扱いの未熟さは自覚しているので、こういう無茶が出来そうな武装は本当に嬉しい。あとソラが気になっているのは臀部にマウントされた幅広の西洋剣型の武装。

 

「次に、その機体のメイン武装である『シュトライヒ・ソード』だ。ざっくり言うと、その武器は剣と銃の複合武装となっている。剣はそのまま使っても良いが、鍔から放出されるビームが固定されることで、強力な斬撃を可能とする。……鍔から下を変形させることでガン・モードとなり、短距離だが強力なビームを放つことが出来る」

「す、すげえ……! 無敵じゃないですか」

「ただし、それは本来刀身に固定されるはずのビームをあえて解放することによって、可能としているオマケだ。闇雲に撃てば、あっという間にエネルギーが枯渇する。使い所を誤るな」

「了解!」

「そして、最後だ。最後は――」

 

 ラビーの話を聞く前に、ロックオンアラートが鳴り響く。

 濃紺のヒュッケバインがこちらに狙いを付けたのだ。

 

「この、感じ……、そっか、この人が、二人目……」

「……二人目?」

 

 などと、言っていられない。容赦なく襲い掛かるビームの雨。しかし、かなり遠距離から放たれているので、大したダメージにはならなかった。

 

「カームス、言っていた、ガッツあるって、……見せて?」

 

 その発言を聞き、ソラは気づいた。気づいて、舌を鳴らす。

 

「こいつ、おちょくりやがって……! 今までのエグイ攻撃は何だったんだよ!?」

 

 戦闘映像を見ていたからこそ断言できる。このヒュッケバインは“遊び始めた”と。自分でも何とか避けられる程度に、ビームを放ち、回避する様を見ている。

 

「ソラ! 貴方、何やってんのよ! 早く逃げなさい! 一人じゃ無理よ!」

 

 フェリアから音声通信が入ってきた。

 余裕がないソラはやや怒鳴るように、返答する。

 

「逃げられるか! 奴は俺を狙いだした。ってことはそれまでの間は、何とかするための時間を稼げるってことだ。だから、逃げられねえ!」

 

 なるべく味方に流れ弾が当たらないような場所へ誘導しながら、ソラは武装パネルを開く。早速、シュトライヒ・ソードを試してみることにした。

 右手に持っていたシュトライヒ・ソードの鍔から下が折れ曲がり、銃の形に変化する。弾幕を避けながら、ブレイドランナーは敵機へ狙いを付け、引き金を引いた。

 ――瞬間、高出力の熱線が勢い良く放たれる。

 

「す、すっげえ威力……。フォトン・ライフルが豆鉄砲に見えるぜ……」

 

 当たらなければ意味が無い、というのはこの際置いておく。

 

「それ、だけ……?」

「まだだ!」

 

 すぐにソード・モードに戻したブレイドランナーはそのままの勢いで、ヒュッケバインへ斬り掛かった。

 まずは気合いと共に縦一閃。しかし振りかぶった時には既にその場所にヒュッケバインはいない。くるりと身を翻して避けた敵機の手には、プラズマソードが握られていた。

 

「落ち着け……落ち着いて、良く見ろ……!」

 

 操縦桿を引き、ブレイドランナーは首を狙った斬撃を避ける。すぐに来る二撃目も避け、その隙を突くようにシュトライヒ・ソードを振るった。

 

「……当たらない」

「しまった……!」

 

 がら空きの腹部を思い切り蹴り飛ばされ、ブレイドランナーは大きく距離を離されてしまった。地上に激突することはなかったが、代わりに山の斜面に背部をぶつけることとなる。

 

「げほっ! げほっ!」

 

 シート越しとは言え、かなり痛い。追撃をしてこないのは、情けか油断か。……十中八九、油断だろう。

 涙目になりつつ、ソラは一つの結論に達する。

 

(まともに攻撃していたら、いつかなぶり殺しにされるな……)

 

 幸いこの機体は思った以上に頑丈なようで、目立ったダメージはまだない。

 

 ――あの敵を仕留められる手札はある。

 

 シュトライヒ・ソードさえ当てることが出来れば、一撃……とまでは言わないが、それなりのダメージを与えられることが出来るはず。ならば、どうやってそこまで持っていくかが最大の課題。

 

(……せめてあの機体の動きが一瞬でも止まってくれたらな……)

 

 ふと、気になることが出来、ユウリへ通信を入れる。

 

「ユウリ、ちょっと聞きたいんだけど、あの機体と俺のブレイドランナー。どっちが早いか分かるか?」

「そ、ソラさん! 大丈夫なんですか!? 大分私達から離れていますけど!?」

「あ、ああ! 余裕だ余裕! だから、ちょっと教えてくれるか?」

「えっとですね……。速度に乗られたら向こうに追いつくのはちょっと難しいですけど、その前ならこっちが勝っています」

「……なるほど。ありがとな!」

 

 ユウリがまだ何か言っているようだったが、強引に通信を切り、これからを考える――前に、痺れを切らした敵が低威力のビームを撒き散らしてきた。

 

「うおっ!」

 

 すぐにその場から離れ、二回目のガン・モードによる射撃をし、距離を離す。

 

「碌に考え事もできねえ……! いや、落ち着け……周りを見ろ、周りを見るんだソラ……!」

 

 と言っても、平地と山があるだけ。万事休すかと思われたその時、ソラの脳裏に電流が走る。

 

「そう……だよな。そもそも真っ向に戦おうって考えが悪いんだよな……」

 

 敵の技量とこちらの技量の差は天と地ほどの差があり、これを埋めようとしたら今日明日の努力どころではない。

 そんな自分が、どうしてまともに戦おうとしていたのか。それに、とソラには明確な勝算があった。

 

(あいつが油断せず徹底的に攻撃していたら俺なんか今頃やられているはずだ。それがされていないこの時こそが俺の最大の攻撃チャンス……!)

 

 加速したブレイドランナーは縦や横、斜めなど様々な角度から剣を振るうも、それらは全て空を切る。

 

「もう……、飽きちゃった」

 

 ソラは敵へ通信を入れた。

 

「飽きただぁ……!? 何言ってんだ! この程度が俺の全てだと思うなよ!!」

 

 眼だけは良いソラは、素早く回避先へ左手首下のアンカーを射出した。

 

「やっぱり、その程度……」

 

 少し機体を動かしただけで、アンカーは先ほどソラがぶつかったのとは違う山へ刺さった。すぐにアンカーを引き戻すが、その隙を待ってくれるほど敵は優しくない。

 今度こそトドメを刺すべく、ヒュッケバインはプラズマソードを構え、ブレイドランナーへ接近する。後退するブレイドランナーは苦し紛れに、逆の手首下のアンカーを射出するも、あっさり避けられる。

 しかし、ソラの眼に絶望は無かった。むしろ――そう来ると思っていたまである。

 

「だああああ!!」

 

 途中でアンカー射出を停止してその根元を握り、重力に従おうとするアンカーをワイヤーごと振り回す。

 通信越しに、初めて聞く敵の焦り声が聞こえた。

 

「え……!」

 

 咄嗟にヒュッケバインは下がったが、先端のアンカーが手持ちのプラズマソードを弾き飛ばした。すぐに逆に持っていたビームライフルの銃口を向ける。その前に……間にあった。

 ソラはようやく戻ってきた逆のアンカーに刺さっていた“目当ての物”を見て、少しだけ安堵する。

 ブレイドランナーはソレをヒュッケバインへ投げつけた。

 

「きゃっ……!」

 

 敵から見れば“何も手に持っていなかった”から無理もないだろう。その結果は“成功”。

 一本の樹が、見事ヒュッケバインのカメラアイに直撃した。最初に射出したアンカーはヒュッケバインに突き刺すためのものではなく、山に生えている樹を狙ったものであった。

 

(まさか敵の戦法を真似するなんてな……。ま、仕方ねえよな……!)

 

 このアイディアの元は、憎きカームス・タービュレスだった。

 潰したリオンを質量弾代わりに投げつけていたのを見て、そこそこ重い物があれば同じことが出来ると思い、イチかバチかで実行に踏み切ってみたのだ。もし敵が用心深く、かつ油断なく戦っていればこんな手に引っかからなかっただろう。

 ともかくこれで、念願は叶った。

 

「素人舐めんなあああ!!」

 

 アンカーをヒュッケバインの肩へ打ち込み、一気にワイヤーを巻き取る。頭部のバルカン砲で迎撃をしてくるが、ソラは当たる寸前、武装パネルからとある装備を起動させた。

 瞬間、ブレイドランナーの両肩部が展開し、機体前方に青いフィールドが発生する。

 

「ガーリオンの肩っぽいと思ったらやっぱりか……!!」

 

 この“盾”こそ、ラビーが説明し損ねた装備――『(ティードットアレイ)フィールド』であった。フィールドはバルカンの弾丸を次々に弾いていく。想像以上の防御力。その瞬間、ソラはこの機体の特性を理解した。

 

(加速力とこのフィールドを活かして、相手に痛打を与えるのがこの機体――ブレイドランナー。落とさせてもらうぜヒュッケバイン……!!)

 

 しかし、強固な盾はいつまでも存在し続けられる訳ではなかったらしい。

 

「な……!? もう展開終了だと!?」

 

 僅かな時間の展開の後、フィールドが消えてしまった。一瞬動作不良を疑ったが、エネルギーチャージを再開したところを見ると、どうやらしっかり作動したらしい。たったのこれだけの展開時間とは思わなかったので、ソラは一瞬眉を潜めたが、言及するのは目の前の難敵を乗り越えてから。

 どのみちヒュッケバインとは目と鼻の先なので、少しのダメージは覚悟の上。ブレイドランナーがシュトライヒ・ソードを構えると、刀身を覆うようにビームが発生した。

 すると、ヒュッケバインがいつの間にかプラズマソードを握っているのが見えた。こちらの意表を突くため、予備を温存していたのだろう。

 

 しかし――この千載一遇のチャンスを中途半端に終わらす気は毛頭なかった。

 

「てやあああああ!!!」

 

 咆哮と共に、ブレイドランナーはシュトライヒ・ソードを振りかぶり、一気に振り下ろした――。

 

「う、そ……!?」

 

 拮抗したのはたったの一瞬。

 シュトライヒ・ソードの高出力ビームはプラズマソードごとヒュッケバインの左胸部へ深く食い込んだ。

 アンカーが外れ、ヒュッケバインが後退しようとする。もちろん追撃一択。だが、出だしが遅れてしまっていた。どんどんヒュッケバインが遠ざかっていく。

 そうしている間に、地上の追撃者が凶鳥を討ち取らんと迫っていた。

 

「……逃がしませんよ」

 

 追撃の主であるライカがそう言って、アサルトマシンガンを発砲する。

 良く見ると、無事な方のスラスターユニットと壊れた側の腕部肘裏の二連ブースター、おまけに全身のスラスターで補正しながら無理やり地上をホバリング移動していた。

 その執念に鳥肌が立ったが、これ以上にない援軍であった。

 

「う……!」

 

 ヒュッケバインが逃げるも、損傷が激しいためじわじわとライカ機に追いつかれようとしている。更にライカ自身の元々の技術と洞察力をフルに活かし、ヒュッケバインの移動先を読み切っているので、追い付くのは時間の問題。

 

 

「――駄目ですよぉリィタ嬢。あんたに死なれたら俺はカームスに殺されちまう」

 

 

 そう聞こえてきたと同時に、ヒュッケバインとライカ機、ブレイドランナーの間に巨大な機体が“降ってきた”。

 

「な、んだよアレ……!? 気持ちわりぃ!」

 

 端的に表現するなら、クモの下半身にカマキリの上半身が組み合わさったような機体であった。

 大ざっぱに見積もっても、このブレイドランナー三体分はあるほどの巨体だ。謎の機体の脚部から、小型のミサイルが大量に打ち上げられた。

 すると、次々にミサイルが割れ、中から電流を纏ったネットが地上へ降り注ぐ。

 

「スパイダーネット……! ソラ、下がってください。アレに絡め取られた恐らくあの機体に喰われる……」

 

 後退するライカの指示に従い、ブレイドランナーも後退した。それが意味する所は一つ。

 

「くそっ……!」

「逃げられましたか。……ヒュッケバインだけならともかく、今の状況であのクモカマキリを相手にするのは得策ではないですね」

 

 既にヒュッケバインと謎の機体は遥か彼方。振り返ってみれば、決して少なくない犠牲であった。現に、三機撃墜されている。

 一方的にやってきて、一方的に去っていく敵へソラはつい苛立ち、コクピットの内壁を殴りつけた。

 

「何なんだよあいつらは……。適当に暴れていきやがって……!! ふざけるな……ふざけるなああああ!!」

 

 刃走らせることには成功したが、その代償は酷く後味の悪い結末であった。諸手を挙げて喜ぶことは、とても出来ない。

 

 ――ブレイドランナー、刃走らせる者。

 

 今日この日をもって、ソラの戦いが、ついに始まることとなった。


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