スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第三話 実働試験

 ある日、ラビーの招集で第五兵器試験部隊は格納庫に集まっていた。

 全員集まったのを確認し、ラビーが口を開く。

 

「おう、今日はいきなり集まってもらって悪かったな」

 

 頷きこそするが、三人の視線はラビーではなく、その後ろに聳え立つ二体の巨人に向けられていた。その視線に気づいたラビーは嬉しそうに、だがどこか不気味な笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。どうやら察しがついたようだな」

「は、博士……これってもしかして……!」

「ああ、お前たちの機体だ」

「うおお! ついに来たあ!」

 

 握り拳を作り、大いにはしゃぐソラ。

 そんな彼を、フェリアは冷ややかな目で見つめていた。

 

「……馬っ鹿みたい」

「またお前かレモン頭……。ま、だけど良いぜ、今日の俺は機嫌が良いから見逃してやる!」

 

 パンパンと手に持っていた書類を叩き、皆の注意を引くラビーは白衣の胸ポケットからレーザーポインタを取り出した。

 

「ったく、お前らときたら何回顔を合わせるたびに同じことをやるんだ? ほらユウリ君がまた困っているぞ」

「きょ、今日ぐらい止めましょうよぉ~……」

 

 一番の苦労人はユウリかもしれない、と当事者であるソラは何となくそう思った。

 本人からしたら冗談ではない話だが、何となく彼女は一歩引いた立場から物事を見ている印象を与えるので尚更だ。……このままではいつまでたっても話が進まないと判断したラビーはそのまま二体の巨人へレーザーポインタを向ける。

 

「それじゃあ機体の説明に入らせてもらうぞ。まずはフェリア君、君の乗る機体からだ」

 

 その言葉を受け、フェリアは機体を見る眼が更に真剣なものとなった。

 

「まずはざっと機体を見てもらおう」

 

 三人はラビーの指示通り、機体の上から下までを注意深く観察する。

 

(……すげえな)

 

 ソラの見たままを感想にするなら、“ゴツい機体”である。

 素人のソラでも、この機体は濃いグレーの《量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ》がベースということは分かるし、通常のバックパックから何やら両サイドに折り畳まれたアームとビーム砲らしきものがくっ付いているバックパックに換装されていることも分かった。

 だが、これがどういう機体なのかが全く見当が付かない。ソラはバレないように、フェリアとユウリへ視線を向けてみる。

 ユウリも同じ感想のようで、首を傾げながら機体を見上げていた。しかし、その隣のフェリアは何かを感じ取っているのか、何度も頷いて見せた。

 

「なるほど……。武装の積載能力を向上させたカスタムタイプですね」

「……何で分かるんだよ?」

 

 ソラの質問に、フェリアは大きなため息を吐いた。

 明らかに馬鹿にした態度だったが、何も分からなかった以上、今回はこちらの負けだ。特に反撃もしないで黙ると、フェリアが機体のバックパックへ指を向けた。

 

「見なさい。あの大型化したバックパック、それに武装を懸架するためのジョイント部の数を。あれだけあれば相当な数の武装を持てるわ。両サイドのアームはおそらく武装の交換をスムーズにするためのものね」

 

 そこまで言ったところでラビーは手を叩き、フェリアを賞賛する。

 

「すばらしいな。そこまで分かったか」

「それほどでも」

「確かにこの機体、“ピュロマーネ”のコンセプトは豊富な射撃兵装を以て僚機の援護、及び制圧射撃を可能とする機体となっている。……今は付けていないが、あとで脚部にミサイルポッドの装着も予定しているんだがね。最大の問題は低下した運動性能と、接近戦用の武装がないことだ」

 

 要は沢山の火器を撃ちまくれる機体、とソラは理解した。

 

「なるほど。それは後々改善――」

「しないぞ」

 

 フェリアの表情が固まった。

 というより、ソラやユウリも固まってしまった。だが、ラビーはむしろ不思議そうに眉をひそめる。

 

「……何かおかしいこと言ったか?」

「いやいやいや! え、弱点って分かりきっているんすよね?」

「当然だ。むしろどうして開発者である私が分からないという話になるのだ」

 

 何だか会話が噛み合っていない。

 自分の言い方が回りくどかったのかと反省しつつ、ならばとはっきり言った。

 

「え? だったら、それを改善しようって気に、普通はなるんじゃ……」

「それが分からん。弱点なぞどんな機体にもあるだろう。むしろそんなことに気を取られて強味を薄めることのほうが有り得ん」

 

 フェリアは呆れたのか、口を閉ざしてしまう。助け舟を出したのは意外にもユウリであった。

 

「あ、あの~それならもう一機の方もそんな弱点が……」

「ん? ああ、“オレーウィユ”の方か。これは特に目立った弱点は無いと思う」

 

 そう言ってラビーは、もう一機の方をレーザーポインタで指し示した。

 

「あっちがユウリ君に乗ってもらう機体となる。バックパックに付けられた大型レドームと、あの卵っぽい頭があるだろ? あれの中に詰め込まれた高性能なセンサーで情報収集や索敵、分析等など……。まあ一言で言えば、情報戦をメインで行ってもらう」

 

 同じく濃いグレーの《量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ》がベースとなっているようだ。

 だが、ソラの良く知る機体とはだいぶ外見が変わってしまっている。バックパックの大型レドームはまだしも、頭部が完全に原型機と変わっており、大型アンテナや目が四つになった卵形の頭部になっている。

 

「目だった弱点は無い。そうだな、強いて言うなら武装が最低限ということくらいか」

「よ、良かったぁ……」

 

 本当に安心したようで、ユウリは胸を撫で下ろしていた。

 フェリアが何とも言えない眼で見ていたが、それを口にすることはしないようだ。何か質問が無いか、とラビーが聞くが、突っ込み所が多すぎて誰も口を開くことはなかった。

 満足げに頷いた後、ラビーはレーザーポインタを胸ポケットにしまう。

 

「さて、それでは機体の慣らしをしよう。演習場は押さえている。三人とも、機体に乗ってくれ」

「……ん? ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺の機体は!?」

 

 フェリアはピュロマーネ、ユウリはオレーウィユと言う機体を与えられたにも関わらず、ソラだけには何もなかった。

 対するラビーが何ともドライに返す。

 

「まだ調整中だ。今日は量産型ヒュッケバインMk-Ⅱにでも乗ってくれ。慣らしと連携の訓練を兼ねているからな」

「や、やる気がでねえ……」

「……やる気がないなら去りなさい。私とシノサカ少尉の邪魔よ」

 

 これまたドライなフェリアの言い分に、ついついソラは噛みついてしまう。

 

「言ってみただけだっつーのちくしょう!」

 

 ソラは半ばやけくそ気味に、今日乗ることとなる機体の元へ走り出した。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「どうだ二人とも。機体の調子は?」

 

 今日の演習場は基地近くの平地であった。

 何だかんだで本物のPTに乗る機会があまりなかったソラは上機嫌で、格納庫での嫌な出来事をほぼ忘れつつあった。シミュレーターで叩き込んだ感覚を思い出しながら、操縦桿とペダルの感触を確かめる。

 そうこうしていると、二機の機体がソラ機の両側を横切った。

 フェリアのピュロマーネと、ユウリのオレーウィユである。

 

「問題ありません。シノサカ少尉は大丈夫かしら?」

「は、はい。大丈夫です。ただ、ちょっと機体の重心が変わっているので、それに慣れるのに時間が掛かりそうです……」

「女男は……大丈夫ね」

「誰が女男だ、レモン頭」

 

 いくら馬鹿にされようが、自分の後ろ髪を切るつもりはない。切ってしまったら大体良くないことが起きるというのに、それをあえて選ぶ馬鹿がどこにいようか。

 その旨言ってやろうとしたとき、ラビーから指示が入った。

 

「さて、やってもらうことは簡単だ。ターゲットドローンを何機か配置したので、それを撃破してもらうだけという簡単なお仕事だ。楽だろう?」

「ま、まあ……」

「制限時間は十分。今回は連携を意識しながらターゲットドローンを破壊してくれ。あ、あと言い忘れたがドローンにはペイント弾を装填している。被弾したらしっかり掃除をするように。したくなったら当たるな。それでは状況開始」

 

 まくし立てるように言った後、通信が切れ、訓練が始まった。

 

「……段々、あの人がどう言う人か分かってきた気がする……」

 

 さて、と小さく呟き、ソラは索敵を開始する。まず一機発見できた。

 ドローンとして使われていたのは、二連装の主砲が特徴である《71式戦車バルドング》であった。既に戦車の主力の座は《82式戦車ガヴァメント》となっているし、頭数だけはある為、こうしてドローンとして使われることも多々あるという持て余された機種である。

 ソラが降下しようとしたら、ユウリから通信が入ってきた。

 

「すいません、お待たせしました。周囲の索敵が終わったので、データリンクを開始します。多分、これで全部だと思います」

「……随分手際が良いのね」

 

 そう言って送られてきた索敵結果を見て、ソラは目を丸くする。

 自分がようやく一機発見できたというのに、ユウリは既に六両発見できていた。素人の自分でも、機体性能だけではこうも早くデータ処理できないことぐらいは分かっている。

 当然、フェリアもそれを理解している上で、賞賛の言葉を漏らしていた。

 当のユウリは照れているのか、小さな声で謙遜する。

 

「べ、別に大したことはしていないですよ……! あ、フェリアさん。二時、十時の方向のドローンに動きがあります。挟み撃ちされないようにしてください」

「了解」

「よしっ。じゃあ俺はあの手近なドローンを!」

 

 上唇を舐め、ペダルに足を掛けたところで、ソラの眼下を何かが通り過ぎた。

 次の瞬間、火を上げてドローンは爆発した。飛んできた方向にゴーグルアイを向けると、その先には大型携行火器であるレクタングルランチャーを構えたピュロマーネがいた。

 

「おいレモン頭! 俺の獲物だぞ!」

「なら早く破壊すれば良いじゃない。それよりも、私の射線上には入らないことね。うっかり当てちゃうかもしれないから」

 

 そう言って、レクタングルランチャーをバックパックに戻した後、両手にM950マシンガンを持ち、新たなドローンへ向け乱射しだした。

 よく見ると両手に持っているM950マシンガン二丁の他に、今しがた使ったレクタングルランチャーと予備のレクタングルランチャーが背中に懸架されていた。まだ使っていないが、この他にビームカノンと脚部に装着予定のミサイルポッドが控えているから恐ろしい。

 なんとなくソラはユウリに通信を入れた。

 

「なあシノサカ。ピュロマーネってどういう意味なんだ? ついでにオレーウィユも知ってたら教えて欲しい」

 

 フェリアに聞いていたら恐らく馬鹿にされるところだろうが、相手はユウリ。そういうことも言わず、すぐに教えてくれた。

 やはり良い子である。

 

「ピュロマーネはドイツ語で“放火魔”という意味ですね。オレーウィユは……たぶん、フランス語の“耳”と“目”を組み合わせた造語だと思います」

 

 なるほどと、フェリアの撃ちっぷりを見ながらソラは納得したように頷いた。

 

(確かに放火魔だわ、あれは)

 

 そうこうしている内にもうフェリアによって三台が破壊されていた事実にソラは焦る。

 このままではまたフェリアに馬鹿にされて終わりだ。たった今、四両目が破壊された。

 手近なドローンに狙いを定め、今度こそソラはペダルを踏み込んだ。

 

「う、おおおおお……!」

 

 最大速度にはすぐに到達した。しかしシミュレーターと実機ではやはり感覚が全然違う。

 思わず顔をしかめてしまった。だけど負けていられない、とソラは目を見開く。

 ドローンの砲塔がこちらに向けられた。まだ、大丈夫なはず。つばを飲み込む音が大きく聞こえる。しっかり狙いを定めているようだ。

 武装パネルを開き、プラズマカッターを選択すると、ソラ機はすぐに右手にプラズマカッターを握りしめた。

 

「ちょっと、前に出過ぎよ女男……!」

「うっせえ! 大丈夫だ、何とかする!」

 

 フェリアの制止を振り切るように、更にペダルを踏み込み、操縦桿を横に倒した。同時に放たれたドローンの砲撃。左肩をペイント弾が掠ったが、直撃では無い。

 第二射が来る前に、ソラ機のプラズマカッターがドローンを上から貫いた。

 

「よしっ撃破一! ラスト!」

 

 丁度、飛び込めばプラズマカッターの範囲となる位置にいたドローン目掛け、ソラは機体を推進させる。

 

「っ! 馬鹿! 離れなさい!」

「えっ――?」

 

 唐突に鳴り響くアラート。

 ドローンとは反対方向を見ると、今まさにフェリアのピュロマーネがM950マシンガンを乱射した直後であった。離れたところから撃ったため、フェリアの警告に気づいたソラが操縦桿を引き戻して機体を後退させることで、何とか巻き添えになることは避けられた。

 障害物が無くなった弾丸は、難なくドローンの装甲を食い破り、車体から炎が吹き上がった。

 結果を見届けたラビーから通信が入る。

 

「四分五十七秒……。まずまずのタイムだ。二人とも、見事だ。機体の癖を掴んだようだな。じゃあ一旦引き揚げ――」

「――女男、どういうつもりよ?」

 

 ラビーの言葉を遮るように、フェリアから通信が入った。

 その声には明確な怒りが込められていた。

 

「そっちこそどういうつもりだよ。味方ごと巻き添えにする気だったのか?」

「自分と僚機の位置も把握していないの……!? これだから素人は……!」

「ふ、二人とも喧嘩は止めてくださいよぉ……」

 

 ユウリの仲裁も聞かず、フェリアとソラは更に言い合いを続ける。

 実はあの場面、どちらにも非があった。ソラはフェリアの指摘通り、僚機の位置を把握せず、連携を放棄しての単騎突撃。フェリアはフェリアで、ソラが射線上に入ることが予想出来ていたはずなのに、直前まで声を掛けなかった。

 これがペイント弾でなく実弾だったのなら、起こりうる被害は甚大なモノとなっているのは火を見るよりも明らかである。

 

「素人って何だよ!? 人を見下すことしか出来ない奴とどうやって連携取れってんだよ!?」

「状況を的確に把握出来ない奴を他に何て言うのよ……!?」

 

 売り言葉に買い言葉。

 もはやどうすることも出来ずにユウリは半泣きになっていた。自分にもっと発言力があったらと、的外れな後悔をし始める始末。

 混沌とし始める演習場。その時――基地から一本の通信が入った。

 瞬間、鼓膜が破れそうなほどの怒声が飛びこんでくる。

 

 

「貴様ら!!! 喧嘩がしたいなら別の場所でやれ!!! ここをどこだと思っている!?」

 

 

 どこかで聞いたことがある声だった。

 

「だ、誰……?」

 

 フェリアが恐る恐る聞くと、声の主は毅然とした口調で名を告げた。

 

「――極東伊豆基地所属特殊戦技教導隊隊長、カイ・キタムラ少佐だ。貴様ら今すぐ基地に戻って来い」

 

 告げられた名は、ソラでも聞いたことのある超絶有名人のものであった――。


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