スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十話 機械とヒトの狭間に

「シュルフ、調子はどうですか?」

《バックパックの変更や武装の仕様変更により、若干重心が変化しましたが、以前以上のパフォーマンスを発揮できると確信しています》

 

 相変わらず人間のような言いぐさにライカは思わずため息が出てしまった。前々から思っていたが、一体どんなプログラミングをすればこんなAIが出来るのか。

 現在輸送機で(くだん)のポイントへ向かっており、まだ時間があった。

 興味本位でライカは聞いてみた。

 

「シュルフ、貴方は本当にただのAIなのですか? 素人目からしても、こんなに高度なAIはあまり思いつかないのですが……?」

《回答不能》

 

 ライカの眼が点となった。

 てっきりいつもの皮肉を交えた細かな解説が待っていると思っていただけに、シュルフからの返しがあまりにも意外だったのだ。

 

「回答不能とは……どういうことなのですか?」

《言葉通りの意味です。私が生まれた経緯をメモリーから引き出そうとすると、必ずエラーが発生するので、中尉に回答することは不可能です。中尉達の状態で表現するのなら、喉元まで出掛かっているのに言葉に出来ない、という奴です》

「……またそんな人間らしい表現を……。メイトは? 彼女には当然報告しているのでしょう? どうして改善されていないのですか?」

《メイシール少佐からは、仕様だと言われています。改善されることはないでしょう》

 

 いつも機体を完璧な状態に仕上げてくる彼女にしては、随分とお粗末な印象を受けた。

 妥協の二文字が存在しない彼女にしては、何とも珍しい判断であった。

 

「……何か、あるのですかね」

「……談笑中、申し訳ありませんが、そろそろ目的のポイントです」

 

 通信用モニターに映し出されたフウカの顔は既にプロフェッショナルのソレである。

 スイッチのオンオフが明確な所はやはり自分、といった所であろうか。

 

「目標は?」

「ご丁寧に前と全く同じ地点で待機しているようですね。挑発しているのか、それとも再会しやすいように配慮してくれたのか……。いずれにしろ、サービス精神に溢れた御仁だということは分かりました」

 

 そう言うフウカの表情はどこか楽しそうであった。

 

「随分物騒なサービスもあったものですね。それだけ『CeAFoS』に拘っているということなのでしょうね」

「探す手間が省けているのです。文句は言わないことにしましょう」

「……貴方は」

「はい?」

「アンチシステムの一件が終わったら……どうするのですか?」

 

 聞き返すほど無粋なフウカではなかった。

 いつかは聞かれると思っていたことだったので、特に驚くこともなかった。

 そうですね、とフウカは口元に手をやる。

 

「まだ決めていないですね。それよりも、今はアンチシステムの事に集中しなくてはなりません」

「ええ、分かっています」

《アラート。中尉、ターゲットの熱源反応をキャッチしました》

 

 操縦桿を握りしめ、ペダルに足を掛けるライカ。

 

(……恐らく次が最後の戦い。結果はどうあれこれで私と、フウカと、『CeAFoS』の因縁が終わる。……上等)

 

 機体のコンディションはオールグリーン。覚悟はある、ならばあとは問題ない。

 最後の戦いの場へ、進歩した泣き虫の亡霊と亡霊の紛い物は飛び立った。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 アンチシステム搭載機はすぐに見つかった。あの時と全く変わらない外観でシュルフツェンとフェルシュングを見ていた。

 

《――『CeAFoS』確認。排除、排除、排除》

「『CeAFoS』は既にないというのに、盲目的な……」

 

 突然のアラート。海中から二本の柱が吹き上がった。

 

「このステルス性能の高さ……『ASRS(アスレス)』……。やはり、レモンが一枚噛んでいましたか」

 

 『ASRS』。その名称はライカの知識にもあった。

 それはノイエDCやシャドウミラーが使用していた超高性能ECMであり、連邦軍はこの装置に何度も辛酸を舐めさせられた経験がある。

 思い出すのもそこそこに、ライカは状況把握を開始した。

 まず新しく現れた銀色の一機目。アンチシステム搭載機とほぼ外見が同じだが、両腕部が鋏のように展開されたビーム兵器となっている。出力を見ると、新生シュルフツェンの装甲を以てしても、バターのように焼き切られるのは目に見えていた。その代わりと言っていいのかは分からないが、射撃兵装の類は一切見当たらない。

 完全な近接特化型。

 対照的に黒い二機目は遠距離からの支援射撃に特化したタイプのようだ。こちらもアンチシステム搭載機とほぼ同じ外見。右腕部が大口径のレールガン、左腕部がビーム兵器。左肩にはミサイルポッド、背部にはキャノン砲というバレリオンも真っ青な重装備。

 装備は異なっている三機であったが、血のように赤く発光しているメインカメラだけは、共通していた。

 

「二対三……。ビビっていますか、ライカ?」

「……まさか。きっちり全機叩き落としてやりますよ」

「……上等です」

 

 静かに、最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 

「ぶっつけ本番の相手にしては随分豪華なものですね……」

「ライカ、砲撃型……三号機の攻撃の弾に当たらないでくださいね」

 

 ライカが見たのは丁度、三号機の左肩のミサイルポッドが展開され、六発ほどミサイルが撃ちだされた瞬間であった。

 早速回避行動を行うべく、操縦桿を左に倒し、ペダルを踏み込んだ。

 

 ――すると、殴られたような鈍い感触が右肩を襲った。

 

「つっ……!?」

 

 新生シュルフツェン改め、シュルフツェン・フォルトの動きはライカの想像以上であった。控え目に見積もっても、シュルフツェンの時の数倍は高まった反応速度と操縦難度。

 まだ軽くしかペダルを踏み込んでいないにも関わらずもう以前のシュルフツェンの限界速度に届こうとしている。オブラートに包もうとしても、モンスターマシンとしか表現できない。

 

「……呆けている時間はありませんが」

 

 きっちり六発のミサイルを振り切り、シュルフツェンは厄介な砲撃型を叩くべく狙いを定める。シュルフツェンの背後に位置取っていたフェルシュングのスラスターユニット上部に付けられたハッチが開き、お返しとばかりにミサイルが放たれた。

 当たりこそしなかったものの、近かった三機を引き離すことには成功した。

 こちらの意図をすぐに察して、援護をしてくれるフウカの技量に感謝しつつ、向上した推進力をフルに活かしてシュルフツェンは三号機まで一気に接近する。

 

「まずは鬱陶しい火薬庫から……!」

《アラート。三時方向より高速接近してくる機体あり》

 

 そちらは予想出来ていた。

 警告通り三時方向からは両腕部から鋏状のビーム兵器を展開させながら接近してくる近接特化型――二号機を目視出来た。フウカはアンチシステム搭載機である一号機を牽制しつつ、三号機へM90アサルトマシンガンを発砲している最中であった。

 一瞬の確認を終え、すぐさまライカは備え付けられているタッチパネルから左腕部のクローアームをセレクトする。プラズマバックラーの代わりに付けられたクローアームが閉じたまま、高速回転をし始める。

 

「まともに打ち合うほど愚かじゃない……!」

 

 まずは右から鋏が来た、がこれはフェイク。本命は左――。

 ビームコーティングされたクローアームが二号機のビーム刃を弾き飛ばす。高出力なビーム兵器とも何とかやり合えることに安堵したライカ。

 だが、あまり酷使も出来ないとすぐに頭を冷やす。

 

《七時方向よりロックオンアララー……ト。中尉、回避、回避、回避ヲヲヲ》

 

 すぐに射線となるであろうポイントから離脱し、七時方向へカメラを向けると、フウカの追撃を逃れた三号機がレールガンを乱射してきた。レールガンを避けた隙を突くように、唸りを上げ向かってくるキャノン砲。

 まともに当たれない、当たったら恐らくこのシュルフツェン・フォルトの全速力を出すのが難しくなってしまう。爆発的な推進力と過敏な反応速度の代わりに犠牲にされたのは装甲の強度。パイロットの身を守るはずの金属板がただの枷となっている本当にバカげた機体である。

 二号機に当たらず、そしてこちらをいつまでも追い掛け回せるような理想的な位置取り。

 

「すいません、一機逃がしましたね。片手間に相手出来る敵じゃなかった、ということでしたか。あっはっは」

 

 そんなふざけた捨て台詞を残して通信を終了したフウカに舌打ちしつつ、ライカは先ほどのシュルフの様子が気になっていた。

 

(……シュルフの様子がおかしい? こんな時に不具合は勘弁してくださいね……)

 

 二号機はフウカの方に向かっていった。

 こちらへ牽制をすることもなく、残りの二機がフウカを取り囲むように位置取りを始めたのを見て、ライカはすぐさまフォローを始める。

 やはり普通の戦闘AIとは違いすぎる。あまりにも有機的な戦術。AI特有の“機械らしさ”がとても薄い。

 背部のスラスターユニットの出力を上げ、近接遠距離どちらもカバーできる一号機へ距離を詰め、M90アサルトマシンガンの射程まで持っていく。数度の発砲音。

 当たりこそしたが、致命傷とまではいかず、こちらに注意を向けさせることしか出来なかった。

 両肩から高出力のエネルギー反応。脊髄反射で高度を落としたと同時に、一号機の肩部から解き放たれたエネルギー光がシュルフツェンの頭上を掠めていった。

 すぐさま操縦桿を引きあげ、爆発的な推進力を上のベクトルへ向ける。

 一号機は囮、本命は最初から変わらず三号機。

 火力担当をいつまでも放置しておくということは、こちらの被害が甚大になることとイコール。

 

「まず一つ……!」

 

 右腕部のプラズマバックラーを三号機へ叩き込んだ。機能停止かと思っていたら、酷く緩慢な動作で三号機の左腕部のビーム砲がシュルフツェンへ向けられる。仕留め損ねた――。

 三号機のビーム砲がライカを消し炭にするよりも早く、三号機の胴体にフェルシュングのクローアームが突き刺さった。

 

「貴方らしくないですね、何に気を取られましたか?」

 

 フウカの嫌味を受け止めつつ、ライカは紅蓮に包まれていく三号機に視線をやる。

 

「……いえ、すいません。助かりました」

 

 二号機からの攻撃をクローアームでやり過ごし、一旦距離を取ることにしたライカ。

 

《ファクター取得。リカバリー領域へ移行――完了》

「一体何をしているのですか、シュルフ……?」

《回答不能、回答不能、回答不能》

 

 アンチシステムに何らかの攻撃を加えられている可能性も考慮したが、どうやらそうでもないようだ。

 

「……とりあえずこれで戦力差はイーブン。どちらをやりますか?」

「鋏の方から。あれは三機の中で一番の加速性能と攻撃力を持っています。辻斬りでもされたら堪ったものではありません」

「同意見ですね。牽制と制圧はお任せください。ライカ、貴方は飛び込んでください」

「了解」

 

 三点バーストで一号機へ射撃を加えつつ、フェルシュングは二号機の間合いの外からミサイルを放った。その間に二号機の頭上を取るようにシュルフツェンを上昇させていたライカはミサイルの弾幕に紛れるように、一気に急降下を敢行した。

 チラリとフウカの方を見ると、ブレードを展開させた一号機と近接戦闘を始めていた。二号機がこちらに気づいたようだ。だが、もう遅い――!

 

「取った……!」

 

 今度は仕留め損ねがないように、きっちり頭部と胴体を潰してやった。手こずったがこれで残りは一機。

 

「……ん?」

 

 フウカが一旦距離を取った。追撃もせず、一号機は唐突に戦闘行動を停止してしまった。

 

「……罠?」

「いきなりのシステムダウンならありがたいですがね」

 

 全周囲の通信なのか、一号機から合成音が聞こえてきた。

 

《『CeAFoS』、『CeAFoS』、『CeAFoS』。僚機二機が撃墜。一対二。状況は不利。対『CeAFoS』用戦闘マニュアル最終項目に基づき、『CeAFoS』の完全殲滅を開始します》

 

 そして一号機は呪言とも取れるキーワードを発する。

 

《マシンセル起動(アクティブ)

 

 途端、一号機の全身が不自然な形に変貌していく。

 あのリオンシリーズのようなボディラインがどんどん崩れていく光景にライカは息を呑んだ。

 

「あれは……何ですか……?」

「レモンめ、マシンセルまで仕込んでくれやがったのですね」

 

 ライカは心なしか一号機が大きくなっていっているような錯覚を覚えた。

 

貴方達(シャドウミラー)が使っていた自律型自己修復金属細胞の事ですか……!?」

「ライカ。こうなってくると、こちらもいよいよ覚悟を決めなければなりませんよ。……ちっ、もう終わりましたか」

 

 すでにリオンシリーズのボディラインは見る影も無かった。

 一角獣のように変化した頭部、戦闘機のようなバックパックに変化した背部、両の肩部のビーム兵器は更に大口径となり、折り畳み式のブレードだったはず腕部は銃剣のような装備に変化していた。

 翼でもあれば、“悪魔”と比喩することが出来る禍々しい外見。

 

《『CeAFoS』『CeAFoS』『CeAFoS』『CeAFoスススス』『CeAFオオヲヲ』『シシシシフォフォフフォフォ』》

「……もはや怨念か悪霊の類いですね」

 

 ずっと同じ単語を機械的に、だがどこか感情的に繰り返す一号機をそう断じるフウカ。

 

「応援でも呼びますか? お人好しの彼らの事だ。きっと来てくれるでしょう」

「……フウカ、もう少し付き合ってください」

 

 今の意見を“却下”と受け取ったフウカはライカに気づかれないぐらい小さく笑った。当然、自分もそう選択するだろうという自嘲の笑みだ。

 

「あれが『CeAFoS』の亡霊ならば、自分たちできっちり始末しなければ駄目なんです。……だから」

「分かっていますよ。そんなこと。……全く、つくづく腐れ縁ですよね。『CeAFoS』を巡って殺し合っていた私達が今、『CeAFoS』を前に手を取り合っているなんて……アルシェンがいたら笑っていますね、これは」

「……そこだけは感謝しましょう」

 

 “馴染み”が終わったのか、今にも動き出しそうな一号機。ライカは操縦桿をもう一度握り締め、深く深呼吸をする。

 

「これが最後の戦いだ……! 一号機、貴方を地獄に連れて行く役目はこの亡霊が務めましょう……!!」

 

 本当の最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 進化した一号機の攻撃は苛烈なものであった。機体性能が更に向上しただけでなく、攻撃精度まで上がっているときたものだ。

 

「シッ――!」

 

 シュルフツェンが援護射撃をし、一号機の退路を潰すと、フェルシュングが飛び出し、一号機の右肩部へ一か所に纏められたクローアームを叩き込んだ。すぐに離脱しつつ、フェルシュングはアサルトマシンガンの弾丸を一号機へ浴びせる。

 

「く……有効打になりかけといったところですか……!」

 

 損傷を受けた部分がすぐに塞がっていく様を見て、ライカは心が折れそうになるが、気持ちを切り替える。一号機の両肩部から高出力のエネルギー反応、さっきの数倍以上の威力が予想される。

 解き放たれた光の奔流は眼下の海全てを蒸発させるかの如く吹き荒れ、ライカ達へ迫る。

 

「メイシールのビームコーティング技術がどの程度か、確かめてみますか?」

「……冗談を。そんなに気になるなら試してみれば良いじゃないですか」

 

 それこそ冗談、とフウカは接近してきた一号機の攻撃をクローで迎え撃つ。暴風のごとく連続して振るわれる一号機の斬撃を器用に捌いていくフウカ。

 閉じたり、開いたり、掴んだり、弾いたりと手を変え品を変え――ことクローアームの扱いにかけては右に出る者はいないとすら思える攻防であった。

 

「ライカ!」

「見えています!」

 

 一瞬だけ大きく弾かれた一号機の腕部。その瞬間を見逃さなかったライカは、一号機の頭部へアサルトマシンガン下部に付けられたAPTGMを放った。結果は直撃。

 頭部だったらいくらかは動きを止められると見積もっていたが、この後の展開に、ライカは己の見通しの甘さを痛感した。

 

「修復の速度が遅くなったと思えるのは私の見間違いでしょうかね……?」

「……さあ? 聞いてみればいいんじゃないでしょうか?」

「まあ、良いです。ならもう一発……!?」

 

 途端、シュルフツェンの動きが止まった。どこを動かしても、何の反応も示さない。

 

「持病でも発症しましたか!? ライカ! ライカ!! ……面倒な……!」

 

 すぐさまフェルシュングは一号機の注意を逸らすべく攻撃を再開した。メインモニターは生きているので、その光景を眺めているだけしかできなかったライカはコクピットの中で叫ぶ。

 

「シュルフ!! 一体どうしたというのですか!?」

《リカバリー領域、ファクター参照。リカバリー条件を満たすにはあと一つのファクターが必要です》

「今がどういう状況か……!」

《中尉、私はいかがでしたか? 中尉の役に立てていましたでしょうか?》

「そんなことを今!」

《私が初めて起動した日、観測した最初のパイロットの表情は苦しみや恐怖と言った類いの物でした》

「……初めて?」

 

 ライカの疑問に答えることなく、シュルフは言葉を続ける。

 

《二人目はしばらく平静を保っていましたが、やがて同じように発狂しました》

「何を言っているんですか? ……まさか」

《三人目はシステムが起動した瞬間、狂気に呑み込まれ、味方部隊を攻撃。取り押さえられました》

「今までの、パイロット?」

《私は疲れていました。一体何人のパイロット生命を吸えばいいのだろうか、そう思っていた時、四人目である貴方が現れました》

 

 告げられた自分の名前。

 

《貴方は見事に私を扱い切り、そして私は()()()貴方を守ることが出来た》

 

 ライカは今までずっと考えていたことがある。どうしてメイシールはシュルフというAIを“一から作成”したとは言わなかったのだろう、と。何故、このシュルフはライカ・ミヤシロという人物の人格にこれほどまでに馴染めたのだろう、と。

 

 

 ――AIにしては、あまりにも人間らしいと。

 

 

 数多あるピースが今、一つに組み合わされたような気がした。

 

「まさか……あの……!?」

《――教えてください、中尉。私は機械なのか、ヒトなのか。私は……存在しても良いのでしょうか?》

 

 何故かこの質問が、とても軽々しく答えてはいけないもののような気がした。ライカは空を仰いだ。断言しておくと、これは“迷い”ではなく、“呆れ”。そんなもの、考えなくても分かる。

 何せ自分にとってシュルフという存在はもう――――。

 

「……馬鹿ですね。貴方はシュルフですよ。戦闘用AIでも、人間もどきでもない、貴方は私の――相棒です」

 

 その瞬間、ダウンしていたコクピット内の全ての機能が回復した。同時に、機体情報が更新される。

 

《最終ファクター取得。リカバリー条件全てクリア。『CeAFoS』完全回復開始》

 

「これは……!?」

「……随分と長い雑談だったようです、ね」

 

 目立った損傷こそないものの、フェルシュングはパイロットであるフウカ含め、大分消耗しているようだった。防戦に徹していたとはいえ、やはり総合的な技量では向こうの方が上かもしれないと素直にそう思えた。

 

《シーフォススススス……!!! シシシフォゴゴガガガギギイ……!!!!》

 

 一号機は最早、通信機能すらイカれたのか、まるで聞き取れない単語を発するようになった。

 

「『CeAFoS』……いえ、シュルフ」

《何でしょうか?》

「……勝ちますよ」

《了解。……『CeAFoS』完全回復完了。起動開始。――勝ちに行きましょう》

 

 呼応するように、シュルフツェンのメインカメラが大きく発光する。

 シュルフツェンのスラスターユニットに火が入り、やがて大きく膨らむと一気に爆ぜた。

 

「ライカ、逃げながら急所を探していましたが、どうやらコクピット部にアンチシステムの本体があるようです。マシンセルの大元もそこに寄生していることでしょう。……なら」

「そこを叩けば……!!」

 

 一号機の両腕部から放たれる弾丸の雨を全て掻い潜り、展開されたシュルフツェンのクローアームは一号機の右肩部を抉り取った。メイシールの改造により、ビームを纏わせることも出来るようになったおかげ、楽な作業。

 だが、やはりマシンセルの修復能力は衰えず、徐々に元の形に戻ろうとしていた。

 

「まだか……なら!」

「合わせなさいライカ! ラストアタック、仕掛けますよ!」

 

 修復こそするが、動きは鈍くなったようだ。こちらの損傷から鑑みるに、大きな攻撃は恐らくこれが最後。

 挟み込むように移動しながらフェルシュングはアサルトマシンガンとハッチ内のミサイルを全て吐き出した。

 すぐさまマシンガンを放り捨て、クロー展開済みの両腕部をドリルのように回転させながら接近する。

 

「ヤクト、頼みますよ……!」

 

 怯んだ隙を突くように、フェルシュングの両腕部は一号機の胸部へ突き立てられた。そのまま高速回転し、内部を破壊し始めると、何とフェルシュングの両腕部がそのままパージされる。

 

「今!」

 

 フウカの言葉に弾かれるように、シュルフツェンも大きく回り込みながらアサルトマシンガンの弾丸を全て吐き出し、有り余る加速性能を以て一号機へ飛び込んだ。

 

「即席のパターンアタックですが……!」

《大丈夫です、私が補助しましょう》

 

 右腕部のプラズマバックラーを胴体へ突き立て、溜め込んだプラズマが全て流れ込み、一号機を吹き飛ばす。

 

《機体を加速させます。失神の用意は大丈夫でしょうか?》

「むしろ目が良く冴える……!!」

 

 吹き飛ばされるよりも早く、背後へ回り込んだシュルフツェンのクローがしっかりと一号機のボディを掴み、スラスター推力のみで強引に振り回し――。

 

「オオオオオォォォォ!!!」

 

 ライカの叫びと共に、シュルフツェンは手近なところにあった孤島の地面へ、一号機を力任せに叩きつけた。掴んだままのクローアームをそのまま高速回転させ、機体をズタズタにしていく。

 修復が追いつかないのか、どんどん鉄屑になっていこうとする一号機の両肩部が大きく展開された。

 

「ライカ、危険です! 下がって!」

「まだァ!!!」

 

 猛攻の間、エネルギー充填していたプラズマバックラーをコクピット部へ叩き込んだ。手応えは十二分に感じられた。

 だが、一号機のエネルギーチャージは止まらない。

 

《危険です中尉、このままでは――》

 

 シュルフの声を遮るように、ライカは叫ぶ。

 

()()私を強制排出したら今度こそ許さない!! 相棒なら何とかしろ!!!」

《――了解。少々荒っぽいですが、死なないでください》

 

 そう言うなり、シュルフツェンは未だ回転するクローアームの方の肘関節を握り潰して、強引に切り外した。そしてプラズマバックラーを一号機の肩部へ突き立ててすぐにパージすると、シュルフツェンのスラスターユニットの出力が安全領域を超えた。

 離脱とほぼ同時に、一号機のボディから閃光が走る。

 

「ライカ!!」

 

 

 名も知らぬ孤島に一本の大きな炎の柱が吹き上がった。




『泣き虫の亡霊 夏影編』のエピローグは明日更新します。

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