スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第二話 亡霊が泣く~後編~

(……これは)

 

 ライカはすぐに異常が無いか大ざっぱな確認を開始した。

 異常は無かったが、自分が知る《ゲシュペンスト》とは微妙に細部が違うことに気づく。

 原型機より僅かに細身で、両肩のスラスターが小型になっており、スラスターノズルのすぐ下には何故かハッチが。バックパックのウィングは折り畳まれ、メインスラスターとサブスラスターが大きくなっている。脇下にまたハッチがあり、両肘裏には小型のスラスターが横に二つ配置されている。

 細身になった上半身とは裏腹に両足は僅かだが肥大化しており、それぞれ脛とふくらはぎ、外側にスラスターノズルが増設されていた。

 

(両腕には着脱可能なプラズマバックラー。タイプGの武装が取り入れられているのか……)

 

 昇降機でコクピットまで昇り、ハッチを開け、潜り込んだ。すぐさまボタンを押し、システムを立ち上げる。

 左操縦桿下のコンソールを叩き、メンテナンス用にあらかじめインストールされているプリセットデータを開いた。これで動かせる。だが、このままだと戦闘機動は無理。

 ライカは無線で操縦士に呼び掛ける。

 

「こちらバレット1、ライカ・ミヤシロ。私が合図を出したら、ミサイルを撃って高度を上げてください。あとは私が叩き落とします」

「こちらシエラ3。バレット1、あと一分四十秒だ……間に合うのか!? そんな調整もされてない機体を動かすなんて無茶だ! ガーリオンは使えないのか!?」

「あんな機体よりこちらの方が、私は信用できます。そして、この状況を切り開ける確率も跳ね上がる」

 

 喋りながらも、ライカの指は忙しく左右にあるコンソールの上で踊っていた。今しがたプリセットの四肢制御系統の数値を自分用に直し終わり、次は機体のFCS(射撃管制装置)

 ちらちらと眼を動かし、無数のウィンドウの全てを把握。この身はある意味、一つの機械と化していた。

 

「やれるのか? こっちは一機しかいないんだぞ? それにあと……」

「五十秒切りましたね。……上等」

 

 左右の操縦桿を少し引いて傾けると、それに合わせるように機体の両腕が動いた。次は姿勢制御系統、これは大気圏内を想定していたようでプリセットの調整は楽だった。

 次に推進系統。

 

(……量産型の二倍近い推進力だ。それに、反応も申し分ない)

 

 ライカは機体の顔を動かし、視界をコンテナの中身に捉えた。

 

(M90アサルトマシンガンが一丁、しかもご丁寧に実弾が装填済みか。アンダーバレルは……APTGM(対PT誘導ミサイル)じゃなくて、小型のキャノン砲? カスタムタイプですね。贅沢な)

 

 両腕のプラズマバックラーとアサルトマシンガン。武装を確認したライカは、BMパターンの構築作業に取り掛かった。PTのOSである『TC‐OS(戦術的動作思考型OS)』は、そのままでもある程度は戦えるが、やはり自分用に調整しなければ思うようには動けない。

 

「三十秒切ったぞ!」

「話しかけないで。死にたくないなら黙っていてください」

 

 本来ならば時間を掛けなければならないのだが、ライカの操作に焦りはなかった。

 

(少し、高揚しているのかもしれない……)

 

 クロスレンジは終わった、次はミドルレンジ。

 

(またこの亡霊に乗れるなんて夢にも思わなかった)

 

 最後はロングレンジ。ここで、敵の通信が入った。

 

「時間だ。返答は?」

 

 深呼吸をし、操縦桿を握りしめ、ペダルを踏み込む。

 

「今です。ミサイル射出後、ハッチを開いてください」

 

 希望通りのタイミングでミサイルが放たれていった。同時にグンと高度が上がるのを肌で感じる。

 

「お気に召したかバレット1!? あとは自由に踊ってくれ!!」

「……了解」

 

 ペダルを更に踏み込む。機体の動力に火が入り、エネルギーが上昇していく。メイン・サブスラスター共に正常な稼働を確認。

 アサルトマシンガンを右手に保持、姿勢を前屈みに。――全ての準備は整った。

 

「テイクオフ」

 

 身体全体でGを感じる。次の瞬間、鉛色の景色から、青い空へと景色が切り替わった。すぐに戦闘空域全体へセンサーを走らせる。

 撃ったミサイルでちょうど半分に分散できていた。

 

(『テスラ・ドライブ』は標準装備ってところが素晴らしいですね)

 

 まずは確実に一機を。

 ライカはコンソールをタッチし、BMパターンを選択。四機の中で一番動きが悪い《レリオン》に狙いを付け、一気に操縦桿を倒す。

 すると機体はライカが調整した通りの戦闘機動(マニューバ)に移る。まずは一気に加速。

 

「なんだこのゲシュペンスト!? こんな加速……あり得ん!」

「……そう思っていた時点で貴方の撃墜は確定していましたよ、新兵(ルーキー)

 

 どうせ聞こえていないだろう。

 そんなことを考えながら、ライカは横殴りのGを感じる。両脛のスラスターで急停止を掛けた後、すぐに左肩のスラスターを最大推力まで引き上げ、《レリオン》の左側面を取った。アサルトマシンガンを右手で持ち、左手はアンダーバレル辺りに添え、しっかりと狙い――。

 

(一人目の亡霊(なかま)ですね)

 

 ――右人指し指のトリガーを引き絞る。

 銃口から吐き出された弾丸は、レリオンの装甲を食い破り、至るところから黒煙を立ち上らせた。徐々に高度が下がっていく《レリオン》のバックパック、正確には『テスラ・ドライブ』へ弾丸三発を叩き込み、ライカは次の標的へ意識を向ける。

 アラート。右足のペダルを踏み込み、左操縦桿を倒して機体を左方向に動かすことで間一髪、敵の《ガーリオン・カスタム》から放たれた射撃を避けるが、避け切れなかったようで、右脇腹から嫌な音がした。

 ライカはすぐにダメージチェックを掛けた。幸いにも掠っただけ。機体に慣れていない証拠である。

 すぐにアサルトマシンガンをばら蒔き、威嚇。高度を上げながら一旦退いた《ガーリオン・カスタム》はとりあえず意識から外し、先ほどから携行武装であるボックス・レールガンを出鱈目に放つ二機の《レリオン》へ狙いを定める。

 バースト・レールガンの課題であった連射性を改善しつつ、小型化することによって取り回しを向上させた最新の武装は、ライカにとって非常にやりにくいものだった。

 まずは当たらないように距離を保ちながら、ライカは牽制を掛けることに。

 

(今の一発を除けば先ほどから掠りもしていない。気を引くためなのか、下手なだけなのか……分かりませんね)

 

 狙いをつけた《レリオン》を中心に、大きな円を描くように回り込む。

 その際、アサルトマシンガンは単発モードに切り替え、一発一発を丁寧に撃った。予備の弾倉は二つ。

 それが尽きるか、マシンガンを破壊されたら、あとは格闘戦になってしまう。

 

(え――――)

 

 ライカは一瞬、頭の中が白く瞬いたような感覚を覚えた。

 

 ――今度は“当たる”。

 

 敵機の銃口を見た瞬間、何故か確信に近い直感がライカの脳裏を(よぎ)る。

 その直感に従い、ライカは倒していたスロットルレバーを引き戻し、メインスラスターの推力を落とし、すぐに両方の操縦桿を引き、ペダルは踵の方に踏み込む力を入れた。直後にやってきた車の急停止のような慣性に歯を食い縛り、ライカの視界から《レリオン》が遠ざかっていく。

 激しく切り替わる視界と共に、《レリオン》から放たれた弾丸がライカの真横を通過していった。もしあのまま牽制を続けていたら、今の弾丸はこの機体の排熱ダクトを貫き、近い内にオーバーヒートを引き起こしていたのは間違いない。

 

(何? さっきのは……?)

 

 まるで今のシチュエーションを知っていたかのような動き。……とりあえずこの感覚の考察を後にして、ライカは戦闘に集中することにした。

 レーダーを見ると、今の所は一対三。

 《レリオン》の一機がライカを真正面から相手取り、もう一機がライカの左側面をキープ。《ガーリオン・カスタム》が粘りのある支援射撃をするという布陣だ。危惧されるのは十字砲火に晒されること。

 何とか離れるべく、ライカは射撃用のBMパターンをセレクトしようと、コンソールのタッチ画面を開こうとした。

 その時、また不可解なことが起こる。

 

突撃(アサルト)!? 何ですか、これ……!?」

 

 これが示すことはつまり、こういうことだ。突撃が最適。

 確かにそれも選択肢として、ライカは考えていた。だが、機体の損傷は確実だったためにあえて除外していたのだ。

 

「…………上等」

 

 ライカは謎のBMパターンをタッチし、ペダルを限界まで踏み込んだ。

 

「っ……!?」

 

 瞬間、ライカは襲いかかってくる強烈なGに一瞬、気を失いそうになった。相対距離にして六百はあったというのに、もう手を伸ばせば届きそうな距離まで詰めていた。

 当然、レリオンが発砲してくる。しかし、この機体は更に加速し、左腕のプラズマバックラーを起動させた。

 更に機体は全身の各所に配置されているスラスターが点火し、それによって上下左右に細かく動き、被弾を最小限に抑えていく。

 

(無茶苦茶な機動……!)

 

 そんな状況でも、ライカは冷静に左操縦桿を一瞬だけ引き、すぐ前に倒した。思い描いたタイミングで機体は左腕を《レリオン》の胴体に叩き込んだ。一発、二発、三発。

 すぐにプラズマが引き起こした小爆発が《レリオン》の胴体を蹂躙していく。

 ライカはすぐに《レリオン》の後方にいる《ガーリオン・カスタム》へアサルトマシンガンを連射し、接近しづらくする。今の戦闘機動を見れば、迂闊に来ないだろうが、念には念を込めた。

 ライカは顔を動かし、左の《レリオン》をロックオンする。メインモニターに赤い枠が何個も映し出された。背部バックパックのミサイルということに気づいたライカは、一旦後方に下がることにした。

 下がりながらライカは向かってくるミサイルをレティクル内に収め、

 

「……今度はおかしなことは起きないようですね」

 

 トリガーを引き絞り、着実に一発ずつ落としていく。

 

「慌てるな! 相手は旧式に毛が生えたようなものだ! 確実に追い込むぞ!」

 

 良く言うと、ライカは思わず顔をしかめる。残弾を確認しながらも、敵パイロットの言葉を聞き逃さなかったライカは次の行動に移った。

 まだ残っているミサイルを引き付けてから、機体を一気に急上昇させると、目標を見失ったミサイルが見当違いの方向へ飛んでいく。それを見送りながらも、ライカはアサルトマシンガンのアンダーバレルを《レリオン》へ向ける。

 敵はジグザグに動いたり、上下させたり、中々照準に入らない。

 

(やはり速い……だけど)

 

 徐々にレティクルに収まっていく……。横から《ガーリオン・カスタム》のバースト・レールガンの弾丸が飛んでくるが、敵は自機より低い位置から撃っているので無視。

 もう少し――インサイト。

 迷うことなくライカは、人指し指のトリガーの一つ下にあるボタンを押した。

 アサルトマシンガンのアンダーバレルから、対PT用榴弾が放たれていった。反動で一瞬立ちくらみに似たような感覚を覚えるものの、すぐに意識を敵機へ向ける。

 鋭く空を裂き、弾は《レリオン》のパイロットから(メインモニター)を奪った。

 もう一撃。――だがその前にライカは自分の精神状態を冷静に振り返り、嫌な気配を掴みとる。

 

「……分かっています」

 

 アラートにはとうの昔に気づいていた。既に敵ガーリオンは自分の懐。

 アサルトブレードを引き抜くモーションをメインモニターで確認しつつ、ライカは操縦桿を握る力を強める。

 《ガーリオン・カスタム》のツインアイが妖しく光ったように見えた。

 

「私に近接戦(インファイト)を挑みますか……!」

 

 ペダルを踏み込み、メインスラスターを最大出力まで持っていく。すると、また意識を刈り取らんと強烈なGがライカの体を襲った。

 だが、今度は耐えきる。

 

「ゲシュペンストの機体剛性を以てすれば……!」

 

 大質量同士がぶつかった結果、双方が大きく機体を仰け反らせることとなった。《ガーリオン・カスタム》の前部装甲がひしゃげていた。

 甘めに見積もって、中破。こちらは堅牢な機体構造のおかげで小破以下だった。ダメージコントロールもそこそこに、ライカはすぐさま《ガーリオン・カスタム》のコクピットへプラズマステークを叩き込む。

 

「…………」

 

 敵ガーリオンの撃破を以て、この空域での戦闘が終了した。

 あとは先ほど頭部を破壊した《レリオン》が一機離脱しようとしていただけだった。

 

「……さて、どこのどなたか」

 

 そう呟きながらライカは距離が離れている《レリオン》をターゲットに入れた。

 

 ――その瞬間、また異常が起きた。

 

「な……!? また!?」

 

 すぐに機体のコンディションチェックをし、ウィンドウを開いたライカはその内容に言葉を失う。

 

「『CeAFoS』起動……。シーフォス……なんの事?」

 

 答えはすぐに返ってきた。

 

「何ですかこれ……!? 機体の制御が!」

 

 両肩部スラスター下と脇下のハッチが開かれ、スラスターが現れていた。ペダルを踏んでもいないのに推力が上昇し、この機体は手負いの《レリオン》へ真っ直ぐ向かい始める。

 だがそれで終わりではない。それ以上にマズい事態が今、起ころうとしていたのだ。

 

「バックラーが起動した……まずい……!」

 

 顔に汗を浮かべながらライカは動力供給をカットしようとするが、反応はなし。ならば、と強制停止のコードを打ち込むも、まるで聞く耳を持たないようだ。

 

「う、わぁぁ……!!!」

 

 いくつものイメージが脳裏に浮かんでくる。ちらちらと、まるでスライドショーのように場面が変わっていく。そのどれもが、今この状況と酷似していた。

 

「これは……さっきと同じ……!!」

 

 堪らずヘルメットを脱ぎ捨ててしまった。脱いだ瞬間、氾濫しそうなイメージの海を抜け出せた。が、機体は《レリオン》を猛追するのを止めない。

 

「駄目だ――!!」

 

 色々試したが、それでも《レリオン》の背部がステークに貫かれるのを止められなかった。これで、完全に敵小隊の撃破が完了したことになる。

 だが、そんなことは今のライカにとってはどうでもよかった。

 

「もう戦いは終わっていたのにこれじゃ……ただの虐殺だ」

 

 機体の強制排熱(クールダウン)が始まった。蒸気で機体が包まれていく。

 戦闘空域から離れていた輸送機に連絡を入れていたので、あと数分もすればこちらを回収してくれるだろう。それまでの間、ライカは操縦桿から手を離そうとしなかった。

 

「あ……」

 

 ふと、()()が聞こえた気がして、ライカは耳を澄ます。

 未だに続いている排熱の音が、まるで泣いているようだった。もちろん聞き間違いかもしれない。

 だが、今のライカには不思議とそうとしか聞こえなかったのだ。

 




7/5 23:00に次話を更新します!


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