スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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ここからは『泣き虫の亡霊 夏影編』となります。
ぜひ読んでください!


~泣き虫の亡霊 夏影編~
第一話 新たなパートナー


「最近調子が良いなライカ」

「……ありがとうございます」

 

 他でもないカイに褒められ、内心物凄く動揺していたが、それを億尾にも出さず冷静に対応するライカ。対面のシミュレーターから出てきたアラドががっくりと項垂れたまま出てきた。

 すぐさまカイによる指導(かみなり)が落ちた。

 

「バカモン! ライカの戦闘思考やマニュアルを鑑みても、明らかにあの場面は後退しながら牽制する場面だっただろう!」

「い、イチかバチかであの弾幕を突破出来たらと――」

 

 “あの場面”とは遮蔽物の陰からライカの駆る量産型ヒュッケバインMk-ⅡがアラドのヒュッケバインへM950マシンガンによる弾幕を形成していたシーンである。

 実際、テスラ・ドライブによる空中戦が可能なので機体や戦艦の陰に隠れるくらいしか似たような場面を作れないが、強力な対空装備により地上戦を余儀なくされた時を想定したらこれも重要なシチュエーション演習。

 ちなみに少し後退すれば似たような遮蔽物があったので、もう少し戦闘を継続することが可能であったがアラドの癖なのか後退しての安全策を取るより、突撃しての燻りだしを選択したようだ。

 ……その結果がカイによるお説教である。

 

「出来てもあの位置では回避運動次第ではそのままコクピットに直撃か、脚周りに被弾して行動不能、そのまま嬲り殺しだ。……ラトゥーニ、ゼオラ。データは取れているか?」

「……アラドはもう少し考えて行動したほうが良いと思う」

「もう! どうしてアラドはいつも突っ込みたがるのよ!」

 

 二人とも相当にご立腹のようだ。ライカは胸ポケットに入れていた手帳を取り出し、ペンを走らせる。……彼にはもう少し後退することの勇気を教えなければならないようだ。

 

「……アラド」

「ら、ライカ中尉も……っすか?」

「いえ……。あれがヒュッケバインではなくビルガーであったら突撃は成功していましたし、決して悪い判断ではないでしょう」

 

 しょんぼりしていたアラドの顔が一気に明るくなった。

 

「ライカ中尉! 俺の味方は中尉だけです!」

 

 そのやり取りを見ていたゼオラが唇を尖らせる。

 

「もう中尉! 甘やかしたら駄目ですよ!」

「す、すいません……。ですがアラド。決して悪い判断“では”ないということで、実戦でそれをやったら死亡率が最大値を振り切ることを私が保証しましょう」

「まさかライカ。お前もそういうことをしたんじゃないだろうな……?」

 

 カイ少佐のジトーっとした目を見ることは滅多にないためぜひ脳裏に焼きつけたかったが、その目に含まれている感情を考えると、とてもじゃないが長時間目を合わせたくなかった。逡巡したあと、ライカは白状する。

 

「……リオンの推進用ブースターの出力値をマニュアルで弄って、テロリストの部隊を正面から突っ切り、リーダー機を無力化したことがあります」

「お前という奴は……。アラドより無謀なことをしているな」

「う……」

 

 そんな呆れた顔を見たくなかったからこそ言いたくなかったのに。実はライカはカイの前で一切、過去にやった無謀なことを言ったことがない。

 自分でも割に合わないと分かっているのだ。それを超ベテランであるカイが聞けば、どういう顔になるかなど、容易に想像が出来ている。

 

「……まあ実際こうして生き延びている。その判断は間違ってはいなかったんだろう」

「じゃあ俺もライカ中尉みたいに良い結果に……」

「お前はそもそも基礎がなっとらん。お前たちはもう上がっても良い。俺はアラドを少し鍛え直す」

「げっ!!」

 

 この世の終わりといったばかりの表情を浮かべているアラドを、ライカは少しばかり羨んだ。カイとのマンツーマンなど、いくらお金を払っても実現しないというのに。

 しかしアラドにはもっと指導が必要なことも理解しているライカは無言で背を向けた。

 

「あ、居た居た。ライカー探したわよ」

 

 するとそこにはメイシールが立っていた。今の発言から察するに、どうやら自分を探していたようだ。

 

「……何でしょうかメイト?」

 

 “あの事件”から三週間近くが経ち、ようやくメイシールの事を“メイト”と呼ぶのに慣れてきたライカであった。何となく気を良くしたのか、メイシールの声色はどことなく明るい。

 

「シュルフツェンにオプションを組み込んだから、ちょっと乗ってみてくれない?」

「……オプション? また用途不明の武装でも付けたのですか?」

 

 ライカがあからさまに顔をしかめるのにも理由があった。

 この三週間、事あるごとに彼女の試作兵装(おもちゃ)を使い続けさせられたのだ。多少の不平不満、漏らしてもお釣りが来る。だが何やら違うようで、メイシールは軽く目を細めた。

 

「何か文句有りそうね?」

「……紙媒体で提出しましょうか? 四百字詰めの原稿が何十枚になるか分かりませんが」

「その際はちゃんと今までの武装の性能評価もお願いね? じゃないと全く読む気起きないから」

 

 暗に“つべこべ言うな”である。

 受け取り方によっては、事細かく性能評価もやれば読んでくれると思う人もいるかもしれないが、実際は性能評価の箇所だけ読み、あとはゴミ箱行きがオチだろう。

 ――そんな無償のボランティア、やってやる道理が無い。

 

「……まあ、良いです。いつもの格納庫ですよね? 早く行って早く終わらせましょう」

「やる気満々ね」

「これほどモチベーションの上がらないやる気満々もないでしょうね」

 

 ゼオラ達が既に上がったから良い物の、こんなやり取り、ライカとしては絶対に見せられなかった。

 第一の理由として教育に悪い。

 第二の理由として教育に悪い。

 第三の理由としてメイシールのターゲットにされないように。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 伊豆基地機体格納庫の一角。そこにライカの愛機であるシュルフツェンが待機していた。

 来て早々、ライカは機体の外装を目視で確認し始める。……一応、目立った武装は付けられていないようだ。

 そのことに安堵していると、メイシールが昇降機の側でこちらを手招きしていた。

 

「こっちよ、こっち」

「武装はこれからつけるのですか?」

「いいえ。……っていうか、今回は武装じゃないわよ?」

「……は?」

「貴方、私が試作兵装の作成だけが取り柄だとでも思っていたの?」

「……奇天烈な、が試作兵装の前に足りませんね。なら、今回はどういったものなのでしょうか?」

 

 無言でメイシールがコクピットへ座るよう促してきたので、それに従いライカは操縦席へ腰を落とした。相変わらず、乗り心地は最高であった。

 

 

《こんにちは、ご主人様》

 

 

 唐突に聞こえてきた無機質な男性の声。……音の発生源を確認した瞬間、しばらく考える力が完璧に失われてしまった。というより、考えたくなかった。

 増設されていた一台のサブディスプレイに視線を向けると、そこにはドイツ語で『シュルフ』と表示されていた。絶句していると、コクピットの外にいたメイシールがひょこっと顔を出してきた。

 

「どうライカ? ちゃんとその子、喋ってる?」

「……いや、喋っている……というか、何でシュルフツェンにこんなものが……?」

《こんなものではありません。私は中尉の戦闘行動をサポートするAIです。より柔軟な機体運用を実現すべく、メイシール少佐に作られました》

「……メイト、説明をお願いします」

「これ? 今説明があったでしょ? 火器管制や操縦、ダメージコントロールに索敵その他諸々をこのシュルフにも負担させるわ」

 

 更に説明してくれた内容を総合させると、こういうことである。

 TC-OSにより機体操作が簡略化し、しかも日夜改良を重ねられ、PT同士での戦闘がより高度になっていくということはそれだけパイロットによる、機体コンディションの管理が重要になってくるということだ。

 このシュルフはその管理の負担を減らし、尚且つパイロットと音声でやりとりすることにより、更にリアルタイムな機体管理を可能とするという優れものらしい。

 一通り聞き、そして自分の中でじっくりと噛み砕いたうえで、言う。

 

「……不要です」

「……オーケー。どうやら説明が足りなかったようね?」

《中尉はもう少し合理的な判断をして頂けると思っていたのですが、私の中のデータを更新しなくてはならないようですね》

「……そもそも。その妙な人間味は何なのですか? 私は、娯楽用ソフトを積む気はありません」

 

 ライカがこのシュルフを気に入らない大きな理由としては、その“人間味”である。最低限のことだけを喋るのならまだしも、どうやらこのAIは必要以上のことまで喋れるようだ。

 極限の集中を求められる戦闘には不要の一言に尽きる。

 

「……良くもまあ、これだけの完成度を誇るAIをたった三週間足らずで組み上げましたね。前々から組んでいたものなんですか?」

「ああそれ? それはシー――」

 

 何かを言いかけたところで、目線を明後日の方へやり、黙考を始めた。数秒も経たないところで考えが纏まったのか、彼女はきっぱりと告げた。

 

「……いや、これは時間が経たないと言ってもしょうがないわね」

「勿体ぶるのですか?」

「まさか。そんなつもりはないわよ。ま、あれよ。それはゼロから作った訳じゃない、とだけ言っておくわ」

 

 その言葉の意味を考える前に、シュルフがまた喋り出した。

 

《中尉、忠告が一つあります》

「……何ですか?」

《中尉のパーソナルデータを閲覧しましたが、中尉はバストサイズが同年代女性の全国平均を下回っております。日々の生活に乱れがあるか、女性ホルモンが欠乏している恐れがありますので、一度精密検査を受けることを提案します》

 

 

 ――プチン、とライカの中で何かが切れた。

 

 

「メイト、ドライバーを。無かったらありったけの磁石を集めて来てください」

「壊させないわよ!? 落ち着きなさいライカ!」

「では拳銃で直接破壊するので良いです」

「待ちなさいってば!」

 

 いつの間に入って来たのか、コクピットの中では拳銃を取り出そうとしているライカをメイシールが必死に抑えていた。

 メイシールの奮闘の最中、シュルフが更に火に油を注いできた。

 

《ですが、Gによってバストの形が崩れる恐れもないので、PT乗りとしては理想的な体格であることは保証致します》

「うるさい! お前に私の何が分かるの!?」

「ちょっ!? 口調! 口調変わってるわよライカ!」

 

 つい昔の口調に戻るぐらいにはライカの怒りは最高潮に達していた。

 

《怒りとは合理的な判断を妨げる一番の要素です。カルシウムが摂れる食材や飲料物をリストアップしましたので今後の食事の際に取り入れることを推奨します》

「……ディスプレイを叩き割って黙らせてあげようか? 少し黙ってなさいシュルフ」

《了解。スリープモードに入ります》

 

 すぐさまディスプレイが真っ黒になり、ウンともスンとも言わなくなった。それをしっかり確認した後、一旦コクピットから降りたライカはメイシールを半目で睨みつける。

 

「……私への嫌がらせにしては随分と手が込んでいますね」

「ち、違う! 違うわよ! あれは本当に戦闘補助用のAIなの! だからその拳銃仕舞って!!」

 

 いつもならちゃらんぽらんに流すメイシールであったが、まだ拳銃を仕舞っていないライカを前にして、滝のように汗を流していた。少しだけ涙目になっている。

 

「あれはすぐに取り外してもらえるのですよね?」

「そ、それが……」

 

 何やら言い淀んでいるメイシール。無言で先を促すと、彼女はポツポツと衝撃の事態を話し始める。

 

「実は明日、ATXチームとの演習を入れちゃったのよね……」

 

 こんな時に聞きたくなかったチームだった。グランドクリスマスでの因縁の相手。

 そんなチームとの演習がよりにもよって、明日。

 

「…………は?」

「しかもハッキングされないように割と複雑にくっつけたから、明日までに取り外すのは不可能なの」

「……ということは?」

「明日はシュルフと一緒にやるしかないの……」

 

 目の前が真っ暗になる、小説やアニメのみに許される表現だと思っていたが、今まさにといったところ。

 ――胃に穴が開きそうだ。


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