スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第十一話 猟犬が通り過ぎて

 伊豆基地第一ブリーフィングルーム。

 教導隊メンバーは昨日の襲撃事件を振り返るべく集っていた。一番前に備えられている大型モニターには昨日の一部始終が映し出されている。

 まだ序盤しか流れていないところで部屋の扉が開かれた。

 

「……失礼します」

 

 入ってきたのは胸部にサポーターを巻いたライカだった。無茶な機動をし過ぎたせいで、帰還後の検査で肋骨にヒビが入っていたことが分かったのだ。程度としてはかなり軽いものだったので、半日しっかり休むことでこうして歩けるくらいには回復することに成功した。

 リハビリには

 

「ライカ中尉!」

 

 その姿を見受けたアラドやゼオラ、ラトゥーニは一目散に彼女の元へ走る。そんな三人に、ライカは薄い笑みを浮かべた。

 

「ライカか。調子はどうだ?」

 

 カイは腕を組んだままライカへ視線を送る。

 

「……最高です。奴に借りを返せました」

「見上げた奴だ。だが、身体は大事にしろ。戦いの勝ち負けより、命の方が重要だ」

「……はい。その映像は昨日のものですか?」

 

 今はカイ達がアルシェン達と交戦している場面だった。最初こそ普通に見ていたが、すぐにライカは違和感に気づく。それはライカが決して見る余裕のなかった光景で。

 

「……これは」

「気づいたか」

 

 アルシェンは前回と全く同じ動きだったので特段気になる点は無かった。……と言うのも割とおかしな話である。

 彼が時間を稼いでいた相手は教導隊だ。一対一ならまだしも、それを複数相手にしてなおかつ良くて中破レベルの傷に抑えたあの腕前は非常識と言っても過言ではないだろう。そして彼がああして生き延びられた理由はもう一つある。

 そう、問題は僚機なのだ。《ガーリオン》の動きが、あまりにもおかしかった。

 

「何ですか……あのガーリオンは。こんな動きをしていたら……」

 

 いくら『テスラ・ドライブ』やGキャンセラーの性能が向上し続けていると言っても、人体が耐えられるGには限界がある。

 一言で言うなら、この《ガーリオン》は明らかに人体が耐えられる機動をしていなかった。具体的にはあまりにもエグイ急旋回や急停止を行う回数が多すぎる。そして何より射撃精度が異常に高いのだ。故意に当てたり外したと言った芸当を教導隊相手に行えるというのがあり得ない。

 数も多く、かつアルシェンの援護射撃が合間に挟まれているせいで、映像を見る限り、百戦錬磨の教導隊メンバーが酷くやりづらそうに見えた。と言ってもそれはそれ。すぐに対応し、アルシェンを除いて全てを撃墜して見せたのは流石と言ったところ。

 

「俺も不審に思ってな。ラミアとヒューゴに協力してもらって、一機鹵獲してみた。その結果が……ラトゥーニ」

 

 頷いたラトゥーニが映像を切り替えた。その内容はガーリオンの解体結果だった。その映像をラトゥーニが解説する。

 

「……このガーリオンはそもそもコクピットとなる部分がありませんでした」

「となると無人機か?」

 

 壁際に寄り掛かっていた赤髪の男性がガーリオンのデータを睨みつける。声から察するに、彼がヒューゴ・メディオ少尉らしい。ギラギラとした目にあの風格。幾多の修羅場を潜ったというのが容易に見て取れる。

 ならば、とライカは隣にいた女性へ目を向ける。

 

(ならあの青髪の女性がアクア少尉ですか)

 

 ……教導隊に来て、初めてラミア以外の成人女性を見たような気がした。向こうも同じことを思っていたみたいで、チラチラとこちらを見ている。あとで一声掛けに行きたい気持ちがむくむくと鎌首をもたげる。

 

「はい……。コクピットがない分、そのスペースを埋めるように予備弾倉や燃料が詰め込まれていました」

「継戦能力を向上させ、更に人体を無視した機動を可能にした無人機ですか……」

 

 機体さえ確保できればあとは破壊されるか燃料切れまで戦果を約束される、理想的な戦闘兵器だ。故にライカは苛立ちを隠せなかった。

 善悪はともかく、攻撃に心が伴わない時点で、それはただ()()を撒き散らしているだけに過ぎない害悪。

 もし、そんなモノが当たり前のように使われるようになった時点で、地球圏は恐らく崩壊するだろう。……それは散って行った英霊を冒涜するに等しい行為で。

 

「あのガーリオンはどこから流出したか分かるか?」

「……いえ。機能停止した段階でシステムデータ……特に人工知能と思われるシステム類が全て消去されていました」

「使い捨て前提、だが秘密は守りたいということか」

 

 カイの推測を肯定したラトゥーニは更に映像を切り替えた。今度は二体の《ガーリオン》の頭部が並べて映し出される。

 

「右が有人機で左が例の無人機の物です。脳に当たる部分に小型のボックス装置が組み込まれていました。……これを見てください」

 

 頭部が映されているモニターが小さくなり、代わりに戦闘記録のウィンドウが大きくなった。ヒューゴ駆るサーベラスがガーリオンの胸部を破壊した瞬間と、カイのゲシュペンストがガーリオンの頭部を破壊した瞬間がそこには映されていた。

 その撃破までの過程は非常に勉強になるもので。鮮やか、と言う単語が良く似合うほどに彼らは無人機を撃墜していたのだ。

 

「う~ん……ゼオラ、分かるか?」

「分からないわ……」

「ふ~ん。胸に栄養が行っているから分かんないのか?」

「そ、そんな訳ないでしょ!! バカ! エッチ! バカ!」

「二回もバカ言うんじゃねえよ!」

 

 ジッと見ていたライカはすぐに違和感に気づいた。

 

「……機能停止の仕方、ですか?」

 

 頷き、ラトゥーニが補足する。

 

「ヒューゴ少尉が破壊したガーリオンは胸部を破壊されたにも関わらず戦闘行為を継続していて、カイ少佐が破壊したガーリオンは全身が硬直した後、そのまま墜落していきました。……恐らく、コクピットが無い代わりに頭部の装置が機体の処理を全て行っているのではないかと」

「……頭を潰さない限りは不測の事態に陥る可能性が十全に考えられるということですか……」

 

 頭部を潰せば無人機は完全に無力化できるらしい。と、たった一言でいうには簡単である。問題は()()()()

 対処できるのは少なくとも――。

 

「対処は簡単だが、これは……」

「ラミアの危惧しているとおりだな。……これはとてもじゃないが、並みのパイロットの手に負えるものじゃない」

 

 ライカも小さく頷いた。たまたまあの場にはカイやラミアを始めとする教導隊メンバーが勢揃いしていたからこそ難なく撃破し、尚且つこうして一機鹵獲するという結果も残せたのだ。

 もしこれが並みの兵士達に襲い掛かったら。そう考えるとひたすら悪い方向にしか考えられないのだ。

 

「アルシェン・フラッドリー、それに“ハウンド”と呼ばれる二名が主犯です。一刻も早く彼らを捕まえなくては……。それに、気になることも言っていましたし」

「気になることだと?」

「去り際に“一つ眼”のパイロット――“ハウンド”が言い残していったのです。確かそう……命無き兵士達(ミッシング・イェーガーズ)とか何とか」

 

 瞬間、部屋の出入り口辺りから書類が何枚も落ちる音がした。全員の視線の先には――メイシール少佐がいた。ライカに用があったようで脇に書類を挟んで入室したようだが、今の有様。

 

「う……そ。何で……その単語を…………!?」

 

 顔面蒼白。この言葉通りの表情を本当に見る機会があるとは思わなかった。それほど、メイシールの表情は尋常ではないモノが感じられた。今までのような不遜な態度も、仄暗い感情も感じさせない完全な()()の色であった。

 

「少佐?」

「メイシール少佐。何か心当たりでも?」

「……無いわ」

「無い……?」

 

 その怯えている表情と僅かに震えている身体を見て、どうその言葉を聞き入れればいいのだろうか。

 『CeAFos』のことをいくら追及しても全く見せることのないその顔を見て、自分は一体どう聞き流せばいいのかおよそ見当もつかない。

 

「ええ……無い。そう、無いのよ」

「少佐……情報の有無は――」

「――生死に直結する。分かってるわ、けど……ごめんなさい、やることが出来たわ」

「少佐!」

 

 ライカの制止を振り切り、メイシールは逃げるように退室していった。その尋常ではない様子に、誰もが口を閉じらざるを得なかった。

 やがて落ち着いたのか、アラドが真っ先に口を開く。

 

「知ってますよね……明らかに」

「ああ。ライカ、お前は何か心当たりはないのか?」

「……はい。少佐がどうして動揺したのかも」

「……気に入らないな」

「ヒューゴ少尉……」

 

 メイシールが出て行った扉を見つめるヒューゴの眼にはどこか怒りに似たような感情が込められていて。

 

「あの女、ミタール・ザパトと同じような匂いがする」

「ヒューゴ、それって」

 

 『ミタール・ザパト』、その人名を聞いたアクアの目つきが変わる。因縁でもあったのか、そんなニュアンスが多分に含まれていた。

 

「ああ。何か裏がありそうだ」

 

 否定することが、出来なかった。思えば、彼女の事は何も知らない。『CeAFoS』のこと以前に、彼女の事は何も。

 ライカの様子に気づいたのか、ヒューゴは謝罪を口にした。

 

「すみません中尉。ああいう振る舞いをする人間にあまりいい思い出は無かったもので……」

「いえ、良いんです。その気持ちは分かりますから」

「ライカ中尉。あの“ハウンド”と名乗る人物とはどういう関係なんですか?」

「……分からないです。基地制圧作戦でもそうでした。奴は私の事を知っていたような口ぶりでした。しかし何故狙ってくるのか……」

「心当たりはないのか?」

「いえ、無いですねすいませんカイ少佐。生憎と、いつ寝首を描き切られるのか分からないような任務を沢山こなしていますので」

 

 復讐という線が薄いと来たら、本格的に分からない。

 ――自分が居るところに奴が来る。なら、逆に言えば。

 

「カイ少佐、私は――」

「今後の方針を伝える。ライカ、お前はこの件が片付くまで教導隊扱いだ。……本来は三日後に教導隊としての任務が終わるはずだったが……乗り掛かった船だ、もうしばらく俺達と行動を共にしてもらう」

「――え?」

 

 それは自分が想定していたこととは真逆の展開で。ライカの考えていることはお見通しとばかりに、カイは表情を柔らかくする。

 

「大方狙われているから一刻も早く俺達の元から去ろう、とでも考えていたんだろう? だが、残念だったな。どうやら俺達はお前が思っているよりかは薄情ではないらしい」

 

 室内を見回すと、皆思っていることは同じと言わんばかりに頷く。こんな三日も付き合っていないような……ヒューゴ達に至っては今日が初対面と言うにも関わらず……だ。

 それは『ガイアセイバーズ』時代では絶対に受けることが無かった純粋な“好意”であり。

 そんな綺麗なモノを素直に受け取ることが出来なかったライカが返答に困り、少し挙動不審気味になっていると、自然と皆から笑みが零れ始めた。

 

「ライカ中尉のそんなポカンとした顔、初めて見ました」

「ゼオラ……」

「いつも無表情か真剣な表情しか見ていなかったからすっげえ新鮮ッス」

「……アラド」

「誰も、ライカ中尉の事を放ったりはしません」

「ラトゥーニまで……」

「決まりだな」

「カイ少佐……私は、居ても良いんですか?」

「言う必要はあるまい」

「……はい」

 

 屈辱は昨日返した。なら次は、全ての兵士の尊厳の為に、そして何よりも自分の為に戦おう。その先に何があろうが、やることは一つだ。

 

(ただ戦うだけ。それが、私です)

 

 ――ひたすら戦い、自分の信じることを貫き通すだけだ。それが何者であろうと、己の道を遮る道理はない。




次回は7/10 12:00に更新予定です!

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