スーパーロボット大戦OG~泣き虫の亡霊~   作:鍵のすけ

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第九話 Burning Red

 カイとの会話から一時間半後、ライカを始めとする教導隊は伊豆基地から輸送機で飛んだところにある水鳥島に来ていた。ここは連邦が所有している島の一つであり、もっぱら模擬戦や機体の動作テストに使われている。

 

「今回の模擬戦の目的はライカのシュルフツェンのデータ取りとなる。ラミア、ゼオラ、アラド、ラトゥーニは俺と周辺の警戒だ」

 

 カイの指示で四人はそれぞれの機体へ歩いて行った。ここでライカはふと、疑問が浮かんだ。

 

「質問が」

「どうした?」

「私の相手は誰になるのですか? 外部の人間ですか?」

「いいや教導隊メンバーだ。別行動を取っていてな。あいつらの乗っている機体特性と顔合わせがてら今回の組み合わせにした」

 

 まだ教導隊メンバーがいたのか、とライカは驚きを隠せない。それと同時に、そんなに特殊な機体に乗っているのか、とも思った。

 これならメイシールが満足する戦闘データを提出してやれそうだ。

 と、ここでカイの携帯端末が鳴った。

 

「俺だ。ああ、着いたのか。分かった。打ち合わせ通りだ。そのまま待機していろ。こちらもすぐに出る」

 

 端末を切り、カイはライカの方へ向き直った。

 

「ライカ、相手が到着したようだ。直ぐに機体を出撃させろ」

「了解」

 

 一言言い、ライカはシュルフツェンの元へ走る。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 格納庫から外に出ると、戦闘エリアを囲むようにカイ達の機体が待機していた。周囲へセンサーを走らせると、ライカの前方にカイ達の機体ではない反応が出た。

 

「これは……『MODEL‐X』……? いや、違いますね」

 

 一瞬だけ『ガイアセイバーズ』時代に見たことがある機体に酷似していたが、良く見れば微妙に外見が違っていた。

 白を基調としたボディに所々青が入っている。両腕には何やら突起物がついており、背には長大な砲身が二門。該当するデータがすぐに出た。

 

 ――型式番号『YTA‐08BW』、機体名称『サーベラス・イグナイト』。

 

 連邦が数十年先を見据えて新機軸の機動兵器開発を目的とした『ツェントル・プロジェクト』の試作八号機だ。

 

「聞こえますか、ゲシュペンストのパイロット」

 

 サーベラスから聞こえてきたのは男性の声だった。この彼がカイ少佐が言っていた教導隊メンバー。

 

「はい。ライカ・ミヤシロ中尉です。期間限定ですが、教導隊に配属されました。よろしくお願いします」

「自分はヒューゴ・メディオ少尉であります。そして――」

「アクア・ケントルム少尉であります! よろしくお願いいたします!」

 

 何と女性の声が聞こえてきた。これが意味する所は一つ。

 

「二人乗りですか……」

 

 『特機』である《グルンガスト参式》も二人乗りということを考えればそれほど珍しい話ではなかった。

 

「自分が近接・格闘戦メインのフォームGの担当で、アクアが砲撃戦メインのフォームSの担当であります」

(フォーム? 何の話だ?)

「ヒューゴ、機体の調子はどうだ?」

「良好ですカイ少佐。TEエンジンはブルーゾーンをキープ。やれます」

 

 『TEエンジン』。

 確か永久機関としての可能性を秘めているとか、そんな話を『ガイアセイバーズ』時代、少しだけやり取りのあった老科学者から聞いたことがある。『トロニウムエンジン』や『ブラックホールエンジン』並みに調整が難しいらしく、調整専門のパイロットが必要不可欠とも聞く。

 本当に厄介な代物を積んでいる、というのがライカの総括である。

 少々話し過ぎたのか、早速模擬戦が始まろうとしていた。

 

「それでは模擬戦を始める。ペイント弾が大破と思われるポイントに当たった時点で終了だ。互いに非実体兵器を使用する際はセーフラインまで出力を下げるのを忘れるなよ」

 

 互いの了解の後、カイが模擬戦開始までのカウントダウンを始める。

 

「お二方、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。……アクア、抜かるなよ」

「わ、分かってるわよ! ライカ中尉よろしくお願いします!」

「状況開始!」

 

 ライカはすぐに操縦桿を引き、シュルフツェンを後退させる。特徴が掴めない機体に突っ込む趣味は無いのだ。

 まずは手持ちのM90アサルトマシンガンで牽制をする算段だった。

 

(動きが良い。どこかの部隊上がりでしょうか……?)

 

 平面の動きに囚われず、縦軸への動きも忘れていない回避機動だ。

 これは狙いが付け辛い。弾丸を惜しむように、一発一発丁寧に発砲し、ライカは距離を維持する方針を立てた。

 ふと、モニターに映っているサーベラスの脚部に視線が行った。脚部のパーツが外れたのだ。――直後、警告音。

 

「紐付きの射撃ポッド……!」

 

 両脚部からワイヤーが一本ずつ伸びた。それぞれのワイヤーの中間地点と先端に、小型の射撃兵装が付けられていた。合計四基、砲門数にして八門。

 各基が独立した動きを見せ、ビームを時間差で放ってきたのだ。横への推力を最大限にし、横っ飛びのような格好で初撃を避けることは出来た。

 

(一基一基が速い。このままじゃ取り囲まれてしまいますね)

 

 こちらを囲むように展開されるポッド。一発一発の精度が凄まじい、が何とか避けられる。スラスターを瞬間的に最大出力にし、前後左右へ移動することによって、ポッドに掴まらないようにするだけなのだが、いかんせんポッドの動きが良いので相当に難儀。

 右後方、左側面、真正面、右前方、真上――。シュルフツェンのスラスター推力と瞬発力があって初めて可能とする回避機動だった。

 ……悔しいが、原型機じゃこう上手くはいかないだろう。まるで踊らされている。厄介だと思った。このままじゃ削り殺される。既にいくつかビームが掠ってしまっているのだ。

 

「うおおおお!!」

 

 アラート。ただでさえポッドがあるというのに、前方からサーベラスが高速接近をしてきた。背後のメインスラスターから炎の翼を思わせる噴射炎を出しながら。

 推進しているサーベラスは腕部から伸縮式のブレードを取り出し、刃にエネルギー流を纏わせる。

 

(ですが……!)

 

 各所カメラをモニターに全て映し、四基のポッドから目を離さないようにする。

 

(左後方……いや、違う陽動だ。なら……!)

 

 次の瞬間、右側面と右後方のポッドに熱源反応。――読みが当たった。

 あえて、ポッドがある方向に機体を動かしてビームを避けることに成功。そのまま一気にメインスラスターを最大出力にし、ポッド群を振り切る。活動限界があるのか、ポッドは一旦サーベラスの脚部へ戻って行った。

 この兵装は中々に厄介だったが、プログラムに基づいた()()()()()()機動が逆に付け入る隙となる。以前『L5戦役』で戦い撃墜した『AGX‐06』、コードネーム『グリフォン』の誘導兵器と比べれば動きが無機質過ぎた。今思い出しても相当な難敵だった。初めて相対した時は本気で死を覚悟したが、その覚悟を逆手に取り、自爆覚悟で接近戦に持ち込み、撃破寸前の所で相手に深手を与え撤退させたのは今でも奇跡だと思っている。

 

「踏み込む……!」

 

 ライカはそのままサーベラスへ直進。武装はそのままアサルトマシンガン、距離を更に詰める。

 

「このまま……!!」

 

 サーベラスの間合いに入る一歩手前でライカは操縦桿を思い切り後ろに引き、ペダルの踵側を踏み込む力を強くする。シュルフツェンの全身のスラスターを駆使して、強引に速度減少。

 そのままサーベラスの側面を取るように円の動きに持っていく。

 

「ばら撒きます……!」

 

 暴れる照準を抑え込み、アサルトマシンガンをフルオートで放ちまくる。しかし弾丸は届かない。

 直進していたサーベラスが左腕部の突起物を地面に突き刺し、ほぼ直角に機動修正したせいで弾丸が逃げていくような弾道になってしまったのだ。

 サーベラスが一瞬、背後を向けた。

 

(……格闘戦は避けなければならない)

 

 あのソードはどう見ても、コールドメタルナイフを溶断するレベル。そして接近戦においての武器のリーチはそのまま死に直結する。だからこそ、中距離を維持しつつ叩く。

 そう思ったライカはペダルに足を掛けるが、踏み込む直前サーベラスの異変に気付いた。

 

(何だ……?)

 

 その疑問はすぐに答えられた。金属が擦れるような音と共に、サーベラスの外観が変わったのだ。さっきまで白がメインだったが、今度は青がメインで赤が所々に見受けられる。

 そこでライカは先ほどヒューゴが言っていた言葉を思い出した。

 

(フォーム――リバーシブル構造……? なるほど状況に合わせて二つの形態を使い分けるのですか……)

 

 サーベラスの両肩のバレルが展開された。

 

(そしてこれは恐らく砲撃形態……!)

 

 ライカの読みと同時に、大出力のビームが解放される。バレル展開と同じタイミングで機体を上昇させていたお蔭で、余波熱で脚部が小破する程度だったのは僥倖だった。

 左肩、右脛と外側のスラスターで姿勢を整えたあと、上空からライカは一気にサーベラスへ接近する。向こうも迎撃と言わんばかりに、手持ちのライフルでこちらを狙ってきた。

 

(……さっきと比べると精度が悪い。そうか、パイロットか)

 

 教科書を徹底的に守った射撃。フェイクと本命を織り交ぜているが故に、下手に大胆な回避行動が取れなかった。

 この形態のパイロットはアクア・ケントルムだったはず。最初の時のフォームから察するに、どうやらこの機体のメインはヒューゴらしい。

 

(ですが……筋は良い)

 

 先ほどの射撃ポッドがまた脚部から切り離されて、向かってきた。そのまま後退しながら射撃戦に切り替えてくるサーベラス。

 逃げのサーベラスがこうまで辛いものとは。ポッドの行動パターンは大体把握出来たのでただ避けるだけなら問題ないのだが、アクアはヒューゴ以上にポッドの死角を丁寧にカバーする射撃を加えてくるので厄介。

 

(武装の豊富さなら向こうが断然上ですね。……無茶なことをするしかないです、か)

 

 武装のバリエーションでは負けている。もちろん威力もだ。エンジン性能でも負けている。

 というより機体性能はあちらの方が間違いなく上だろう。勝っているところと言えば、細かな瞬発力とプラズマバックラーによる瞬間火力。

 蝶のように舞い、蜂のごとく刺す。――ただの蜂じゃ駄目だ。やるのなら毒蜂。

 方針を固めたと同時に、ライカはペダルを踏み込んだ。ポッドの射撃周期に合わせて、一息に飛び出したシュルフツェン。

 

(高機動戦で一気に詰める……!)

 

 休む暇もなく左右前後から襲い掛かるG。その機動は原型機では絶対に不可能なもので。背後から追ってくるポッドを振り切るように、ほぼ直角に機体を動かし続けるライカ。

 その最中にもアサルトマシンガンの引き金を引くが、アクアはしっかりと見ているようで、冷静に避けている。

 

(……頭が揺さぶられる)

 

 まるで雷の軌跡だった。幸いにも前後左右の加速力はこちらの方が圧倒的に勝っているようだ。確実に、そして徐々に距離を詰められている。――まだ踏み込める。

 左右のプラズマバックラーを起動させ、近接戦(インファイト)へ。飛び込んだと同時に見た物は、砲撃戦形態から再び格闘戦形態へと変わったサーベラスだった。

 

「イグナイト!」

「ジェット……!」

 

 右腕を引き、迎え撃つように“溜める”サーベラス。

 もう後には引けない。このまま突っ込む。ここから先は()くが早いか貫かれるが早いかの抜き打ち勝負。

 こちらも右操縦桿を引き――そして前へ突き出した。

 

「パイクッ!!」

「マグナムッ!」

 

 ――ほぼ同時に、互いの右腕部が突き出された。

 途端鳴り響く破壊音。お互いがストレートに与えた一撃は大きく今――結果が現れた。

 

「……左腕部大破。ですが敵機へ深刻なダメージを与えることに成功……ですかね?」

 

 結果はほぼ相討ちに近かった。左腕部のバックラーを文字通り盾にし、サーベラスの右腕部突起――なんと杭だった――をやり過ごして、向こうの“左腕部”へステークを叩き込んだ。

 格闘戦の武装が似ていただけに、こちらの損傷も似たものだった。結果として、互いが互いの逆腕に武装を叩き込んでいるのだ。

 

「肉を切らせて骨を断つ。平然と相討ち覚悟の特攻に来るとは想像も付きませんでした」

「ぜ、全然当たらなかった……」

「落ち着いて撃てば当てられた距離だ。アクア、お前はもう少し冷静に動け」

「わ、分かってるわよそのくらい! 大体! ヒューゴこそ何で最後の最後でTEスフィアを使わなかったのよ!?」

「展開時間を考えろ。それにあの速度だ、完全展開前に貫かれていた。なら左腕を捨てて、パイクを叩き込んだ方が有効だと判断したまでだ」

「私がやると怒るくせに!」

「なるほどバリアまであるのですか、その機体は。……お見事です。そしてありがとうございました」

 

 データ収集が終わったのか、カイから通信が入る。

 

「良し、それぞれ良い動きだった。では機体を格納庫に戻した後、基地へ帰還する」

「了解。……ん?」

「接近警報。五時の方向からこの空域に侵入してくる機体があります」

 

 ラトゥーニから通信が入る。それを受けたカイは各機に通信を入れた。

 

「模擬戦は一時中止。ライカ、ヒューゴ達は一度基地に戻り、装備を実戦用に替えて来い。他は俺と一緒に待機だ。警戒を怠るな!」

 

 レーダーを見ると、謎の機体はぐんぐん速度を上げているようだ。……いや、違う。

 

(この反応、該当するデータが……。それに、この速度は見覚えがある。……まさか!)

 

 ――ソレは基地制圧作戦で見たモノと全く同じで。ライカは無意識に操縦桿を握る力が強くなっていた




次回は7/9 12:00に更新予定です!

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