明久「僕が女の子に!?」   作:白アリ1号

77 / 89
これを合わせて2~3話くらい日常書いてから強化合宿編にするつもりです。


74話 月曜日の騒動

sideアキ

 

 

「おはようございます! アキちゃん」

 

「おはよう、佐藤さん」

 

いつもと変わらない週末明けの月曜日。

いつもと変わらず佐藤さんも横にいる。

 

何も起きないごく普通の朝を迎えていた時のこと。

 

「アキちゃん! おはようございます!」

 

横から姫路さんの登場。

 

今日も明るい表情。

週末明けで元気そうなのはいいことだ。

 

「おはよう、姫路さん」

 

「お、おはようございます……姫路さん……」

 

僕は普通に返事を返すが、佐藤さんは少し怯えた様子で他人行儀だ。

 

人見知りな性格がある佐藤さんではあるが、この2人、2学期の一騎打ちで対立した者同士だ。

 

その勝負にあっけなく敗北してしまったのが佐藤さんなので、少し気まずい関係なのだろう。

 

「こんな時間から姫路さんと会えるなんて珍しいね……あ、そういえばこの前はありがとう」

 

ふと思い出したので、すかさずデートの時に衣装を用意してくれたお礼を言っておく。

メールで既に済んではいるけど、直接会ってお礼するのも礼儀だ。

 

「いえいえ、お力になれたなら幸いです。それで……どうでしたか?」

 

「うん、おかげさまで……上手くいったと思うよ?」

 

「それはよかったですね! 選んでおいた甲斐がありました!」

 

姫路さんと僕の2人で繰り広げていく会話は途切れることがない。

 

「んぅぅ……(話に入り辛いです……)」

 

一方、佐藤さんはそれに置いてけぼり。

 

それを見た僕は、しまったとばかりに、

 

「そ、それでね、佐藤さん。姫路さんから猫耳パーカーを着せられちゃったんだ……」

 

唐突に、けれど自然に話題を振る。

 

これで少しは話に参加できるといいんだけど……。

 

すると、ピクッと反応した佐藤さんは

 

「ね、猫耳パーカー!? 姫路さんが着せたんですか!?」

 

クワッと目を見開いて、食い付いてきた。

 

「そうですよ。なんといっても、私はアキちゃんの衣装選び担当ですから」

 

胸を張って、自信満々な姫路さん。

 

変な担当ができている上に、なぜそこまでそれに誇りを持っているのだろう……。

 

「そ、そうだったんですか……私と同じような存在がいたなんて……」

 

「同じ存在……? まさか……あなたもアキちゃんの衣装選び担当なんですか!?」

 

「も、もちろんですよ! ふつつかな者ですが、以前にアキちゃんがAクラスからFクラスに戻る時に衣装を選んで差し上げましたよ」

 

「あの衣装はあなたが選んだんですか!? いいセンスでしたよ!」

 

「ありがとうございます! 姫路さんとは同士になれそうです!」

 

「こちらこそ! 佐藤さん……でしたっけ? よろしくお願いします!」

 

お互いにガシッと手を取り合う。

 

佐藤さんが話題に食い付いてからというもの、姫路さんと佐藤さんの2人は僕の衣装についての話で会話がヒートアップ。

 

あれれ……? 次は僕が話についていけなくなっている……?

 

2人の話の内容は次元が違いすぎて、どうしても僕が入れる内容ではないので、佐藤さんに話題を振ってあげた側だったのに、次は僕が置いてけぼりにされた。

 

まぁでも、佐藤さんと姫路さんが仲良くしてるならいいかな……。

 

内容はどんなものであれ、気の合う友達ができるのは内気で友達があまりいない佐藤さんにとってはいいことだと思う。

 

それに、佐藤さん……いつもよりイキイキしてて、笑ってる。

 

新しい仲間を見つけ、惹かれ合っていく2人の姿はとても微笑ましい光景だった。

 

それを見つめていながら、思わず笑みを漏らす僕だったけど、

この日を境に2人が僕に着せてくる衣装やコスプレの内容が悪化していったのはまた別の話。

 

 

 

 

「それでは、これで失礼します。アキちゃん、瑞樹ちゃん」

 

「うん、またね」

 

「またお話ししましょうね、美穂ちゃん」

 

学校に着いてから、佐藤さんとはここでお別れ。

 

「ふぅ……いい友達ができました!」

 

「よかったね、佐藤さんとは仲良くしてあげてね」

 

にしても、さっきの間でもう下の名前で呼び合っている……。

僕と佐藤さんが出会った時よりもすぐに打ち解け合っているような……。

 

やはり気が合う者同士はほぼ初対面の人と速攻で仲良くなれるのだろうか。

 

その後、昇降口まで向かっていると、何やらこの学園の生徒が集まって人だかりができていた。

 

「どうしたんですかね? 今日は行事でもあるのでしょうか?」

 

「朝から問題騒ぎでもあったのかな?」

 

何があったのかと、その様子を凝視する僕と姫路さん。

 

「こんな週明けの朝からなんの騒ぎなんだ……?」

 

「ん……? あ、久保くん。おはよう」

 

「おはよう、吉井くん。そして隣にいるのは……姫路さん」

 

「あぁ! おはようございます! アキちゃんとのデートはどうでしたか?」

 

「ちょ、ちょっと姫路さん!?」

 

こんなタイミングでいきなり何を言い出すんだ!?

 

「え……もしかして、姫路さんはそのことを知ってるの?」

 

「当たり前です。デートの衣装は私が選んだんですから」

 

またまた胸を張る姫路さん。

 

「そ、そうだったんだ……とても可愛いかったよ」

 

「あうぅぅ……久保くんまで何言ってるの……///」

 

「ご、ごめん……? つい本音が……」

 

朝から久保くんに恥ずかしいことを言われて、顔が熱くなった。

 

別に嫌じゃないけど……。

 

「それにしても、この騒ぎはいったいなんなんだ……?」

 

改めて、昇降口前でできる人だかりを目にして久保くんはつぶやく。

 

すると、

 

「おい、来たぞ! 本人のお出ましだ!」

 

「ついに現れたな……横にはアキちゃんまでいやがるぞ!」

 

「あの野郎……やっぱりアキちゃんと……!」

 

こちらを見た瞬間、そこに集まっていた生徒たちが口々にそのような言葉を発し始めた。

主に男子から。

 

「? どうしたんだい?」

 

久保くんは何がなんなのかサッパリわからず、首を傾げるばかり。

 

ちなみに僕も何がなんだかわかるはずない。

 

「久保くん……本当に何かあったのかな?」

 

「わからない……ただ僕たちが関連していることは確かだろうね」

 

2人でヒソヒソと話している時のことだった。

 

「「「久保を殺せえええええぇぇぇっ!!!」」」

 

集まっていた生徒たち(全員男子)がそう叫んだ。

手にはカッターナイフやバットなどの簡易的な凶器が握られている。

 

「「……はぁ?」」

 

僕と久保くんは目が点になる。

 

「ど、どどどうしたんですか!? 2人に何かあったんですか!?」

 

横にいる姫路さんも状況が理解できず、オロオロし始めた。

 

「どうしたんだい、みんな? こんな朝早くから鼻息荒くして……」

 

「とぼけんじゃねぇ! 久保!」

 

「お前らに何があったか、証拠はきっちり収めてあるからなぁ!?」

 

証拠……? 本当になんの話をしているんだろうか?

 

「これを見やがれえぇ!」

 

1人の男子生徒が昇降口の横に指をさす。

 

横には掲示板があり、そこにいくつかの写真やポスターが貼られている。

 

それがどうしたというのかな……?

 

僕は掲示板に貼られている内容を見た。

 

「えぇ!? え、なんで!? なんでこんなのが!?///」

 

それを見た瞬間、顔から火が出るほどの羞恥心を覚えた。

 

「ん……どれどれ…………え?」

 

続いて内容を見た久保くんは固まった。

 

こんな反応をするのは無理もないと思う。

いや、普通に考えて無理もない。

 

そこにはなんと…………デート時の僕と久保くんの写真が盗撮アングルで映っていた。

 

タイトルは『アキちゃんと久保に熱愛疑惑!?』と大きく書かれていた。

 

「な、ななな……なんでこんなのが……!?」

 

いつの間に撮られてたんだ、この写真!?

 

僕はいきなりのことに戸惑っていた。

 

そこに、須川くんが現れて、

 

「おととい、たまたま俺と横溝が出かけた時に見てしまったんだよ……バッチリ写真にも納めておいたぜ……」

 

笑っているが、どこか怒り狂った表情で説明する。

 

「アキちゃん……なんでこんな勉強にだけしか能がなさそうな男と付き合っているんだよ……」

 

横溝くんは本気で号泣しながら、憎たらしい目つきで睨む。

 

別に付き合っている訳じゃないのに……。

っていうか、勉強にだけしか能がないって、それは誉め言葉なのでは……?

 

「アキちゃんって久保くんと付き合ってたの?」

 

「えぇぇッ!? 意外! 彼氏いる予感はしてたけど、久保くんとなんて……」

 

「あの女っ気のない久保に彼女……しかも相手はアキちゃん……」

 

男子とは別に、集まっていた女子生徒にも誤解の火種が飛んでいた。

 

「朝っぱらからなんの騒ぎだ……また明久がやらかしたのか?」

 

「あ、雄二! ちょうどいいところに!」

 

「なんだ、どうした。俺はそんなに暇じゃn……なんだこれ? ふむふむ……『アキちゃんと久保に熱愛疑惑!?』か……お前ら俺らが知らない内にいつの間にそんな関係に……」

 

「ちがぁぁう! 誤解だよ! 雄二まで信じないで!」

 

必死に雄二を説得した。

 

その間に、

 

「とにかくだ……我らの聖母ともいえる存在、アキちゃんに手を出す反乱分子の代償は大きい……ここで消えてもらおうか」

 

須川くんの後ろには沢山のどこかで見たことがあるような、ないような黒い布を羽織った集団が……。

 

「ま、待ってくれ! それは誤解なんだ! 僕と吉井くんにそんな……」

 

「黙れぇい! この期に及んで言い訳とは見苦しいぞ! 潔く罪を認めるがよい!」

 

必死に弁解する久保くんだが、まったく信じてもらうどころか、逆に黒い布を羽織った集団の不機嫌さが増していくばかり。

 

「あぁ……! どうしよう……このままじゃ久保くんが……」

 

「お前が説得しに行けばいい話だろうが」

 

「そうだった! ありがと、雄二!」

 

雄二に言われて、久保くんにじりじりと踏み寄る集団の前に立った。

 

「アキちゃん、そこをどいてくれ……久保の返り血でアキちゃんが汚れてしまう」

 

「ま、まって! これは本当に誤解なの! 僕と久保くんはそんな関係じゃないから!」

 

「おいおい、アキちゃん……そんなに久保の肩を持つ必要はねぇんだぜ?

あぁ……そうか、彼氏だもんな……そりゃあ味方するはずだわな……」

 

「ほ、本当だから! た、確かに2人で、デートみたいなことはしたけど……でも、違うから!」

 

「おい、やっぱりデートだとよ! それなら、なおさら殺せぇ!」

 

ど、どうしよう……僕が説明していく内に事態は逆に悪化していく……。

 

「はぁ……吉井くん、ここは僕が説明するよ」

 

僕の肩にポンッと手を置いてから、やれやれといった様子で前に立つ久保くん。

 

「一方的に僕たちのことをまくし立てて言っているけど……僕と吉井くんは君たちが思うような関係ではないよ」

 

キッパリと久保くんは言った。

 

「嘘を言うな! その場しのぎの冗談は通用しねぇぞ」

 

「本当さ。確かに2人きりだったのは認めるけど、それは吉井くんの頼まれ事だ」

 

その言葉にうんうん、と横でうなずく僕。

 

「じゃあ、なんでお前なんだよ?」

 

ジロッと久保くんを睨んだ。

 

「いろんな事情があって相手が僕しかいなかったんだよ。だからあくまでも仕方なくという形でそうなった訳だよ」

 

…………うん、そうだね。

 

「なら……本当に何もないんだな?」

 

念を押すように男子生徒は険しい顔をする。

 

「そんなの根も葉もない話はしないでほしい。根拠にもなく君たちの想像と考えを押し付けるのはよくないよ」

 

………………。

 

久保くんのその言葉に悪意がなかったのはわかる。

しかし、それに僕は苛立ちを覚えた。

 

そこまで否定しなくていいのに…………。

久保くんは僕とそんな関係で見られるのがそんなに嫌なの?

 

「……くそ、まだ納得がいかんが……もうすぐで朝のホームルームだ。今日のとこは不問にしといてやるよ」

 

須川くんの声で、男子生徒全員は去っていく。

 

「ケガ一つ負わずに済んだだけありがたいと思えよ……覚えていがれってんだ」

 

去っていく者に憎まれ愚痴を叩かれながら、久保くんは呆れてため息をついた。

 

「まったく……いろいろ考えたら人騒がせな連中だったね」

 

「……そうだね」

 

「何はともあれ、すまない。こんなことに巻き込んでしまって……」

 

「……別にいいよ……こうなったのは僕が原因だし」

 

「吉井くん? なんで怒っているの?」

 

「……怒ってないよ」

 

「いや、でも……」

 

「早く行った方がいいよ? 遅れても知らないよ」

 

僕は素っ気ない言葉を言い残して、その場を離れた。

 

…………なんで僕はこんなにイライラしてるんだろう。




感想と誤字脱字報告お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。