今回も短いですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
sideアキ
週明けの学校にて。
「おはよう、雄二」
「おう……明久……か」
「……どうしたの? 何かあったの?」
教室に入って目にしたのはぐったりと卓袱台に突っ伏している雄二だった。
週明けだというのに、いったい何があったのやら……。
「いや、特に何もない…………」
うん、絶対何かあったよ、これは。
「顔色でバレバレだよ……朝から何があったの?」
「……週末、翔子に振り回されたんだよ……おかげで身も心もズタズタだ……」
「あ~……それは、なんと言うか……ご愁傷様です」
多分、この前の朝の会話のことだろう。
雄二もさぞかし彼女をエスコートするのに苦労しているのであろう。
「で、でも、僕の方も大変だったよ、佐藤さんのためにコスプレしたりで……」
こんなことをしても意味はないと思うが、軽いフォローを入れておく。
「そんなことかよ…………それはたいしたことじゃねーだろ」
「むぅ……なんだよその言い方……僕は僕で苦労してるんだからね」
人の苦労を貶すとは……普段僕がどれだけ恥を忍んでやっているのか、わかっているのか?
「コスプレなんて、お前の日課だろ? そんなことに苦労もクソもないだろ」
「し、失礼な! 僕も好き好んでやってる訳じゃないのに……!」
僕は雄二の放った一言に顔を真っ赤にさせて、反論する。
日課って、雄二は僕が意図的にコスプレをやっているとでも言いたいのか?
「とにかく、俺はお前より毎日が多忙であることは頭に入れておけ」
「お互い様で苦労してるってことじゃない?」
「俺が翔子に振り回されることと、お前の仮装事情を一緒にするなよ……ところで、お前に渡しておきたい物があるんだが……」
「ん? 渡したい物?」
ポケットを漁りだしたけど、いきなり僕に何を渡すつもりだろう?
「今話題の恋愛映画のペアチケットだ。気になる相手がいれば一緒に行くといい」
雄二は僕にペアチケットを強引に押し付ける。
「ペアチケット? そんなものを貰っても、一緒に行く相手なんて……」
「ま、少しでも気になっている相手がいるなら一緒に行くことをおすすめするぜ。
いらなかったのなら換金するなり、好きにしろ」
「う、うん……」
僕は強引に押し付けられたので拒否できず、結局イヤイヤながら受け取って、自分の席に着いた。
雄二め……こういうのは霧島さんを誘うために自分が使うべきではないか?
「アキちゃん、おはようございます」
「おはよう、姫路さん」
席に着くと、横から姫路さんが声を掛けて来た。
「そういえば、どうするんですか? そのペアチケット?」
唐突に聞いてくる姫路さん。
僕と雄二の話を聞いていたのかな?
「え~と……行く相手はいないし……このまま換金しようかと」
「でも、そのチケット、換金できませんよ?」
「え? なんで?」
「チケットの詳細に換金できないって書いてあるじゃないですか」
チケットの詳細を読むと、『換金及び返品はできません』と記載されていた。
「本当だ……困ったな~……これ使わないと貰った意味ないじゃないか」
いらなかったとはいえ、使わなければ、もったいない気がする。
ただ、問題は相手がいないことだ。
相手がいない限り、このペアチケットの消費方法がないので、困る結果に。
「アキちゃんは気になる相手とかいないんですか?」
「今のところは特に……」
気になる相手は……って、僕が女の子ってことは気になる相手は男ってことになるな。
そういったことに関しては、あんまり意識したことないからな……。
適当に相手を見つけようかと思うが、あんまり親しくない人と2人で恋愛映画を見に行くのもどうかと思うし……。
こうなったら……男子じゃない人を誘うしか……!
「それなら、姫路さん! よかったら一緒に……!」
「ごめんなさい。お誘いは嬉しいのですが、その映画、もう見ちゃったんです……」
ええ!? 姫路さんもう見ちゃってたの!?
なんてこった、これじゃ八方塞がりじゃないか……。
「ああ、どうしたらいいんだ……使おうにも使えない……」
「時間はまだありますし、少しの間考えてみてはどうでしょうか?」
チケットを持ちながら慌てている僕を姫路さんが落ち着かせるように宥める。
「うん……そうするよ……」
僕はため息をついて、しばらく一緒に行く相手を考えることにした。
「気になる相手ねぇ……」
ペアチケットを見つめながら、僕は独り言をつぶやいていた。
ちょっとデートネタでも考えてみました。
ちょっとといいつつ、結構でかいイベントなんですけど