ネタを決めておいてよかった……。
sideアキ
「これでよし……かな?」
メイド服に着替え終わり、更衣室に設置されてある鏡で自分の姿を確認した。
白と黒のミニスカートタイプで若干、白が目立っているデザインだ。
白がメインの色って結構マニアックな感じがするけど、これはAクラスのこだわりかな?
メイド服についてはまったく知らないけど。
僕はそう考えながら自分の身体全体を念入りに確かめる。
大勢の人の前に立つから、いつもより細かいところまでチェックしなければ。
あの常夏コンビに怪しまれないようにもしないと。
僕は着替えることより、確認する方に時間をかけた。
はぁ……やってて思うんだけど、女の子の身体って本当に不便……。
「よし、行くぞー……」
僕は更衣室の扉の前に立った。
そして、更衣室の扉を開けてAクラスの教室に入る僕。
入った途端、店内がザワッとしたけど……大丈夫かな?
不安になりつつ、常夏コンビの座る席へ向かう。
中央の席だからかなり目立って、周囲の視線が突き刺さる。
うぅ……恥ずかしいなぁ……Fクラスの時はお客さんの数が少なくてあまり気にはならなかったけど、今回は訳が違う。
「とにかく酷かったよな、本当に」
「店内も酷けりゃ、店の対応も悪いってことだな」
まだそんな会話を続けているのか。
あれでも一応、クラスのみんなが考えた出し物なのに、聞いてて腹が立ってくるよ。
絶対に許さない。
「お客様」
距離を縮めながら、怒りを隠すように、精一杯の作り笑顔で、このクラスのウェイトレスであるかのように声をかける。
「なんだ? おお……こんな子もいたんだな……」
「めちゃくちゃ可愛いじゃねーか……」
舐めるような視線が僕にまとわり付く。
物凄く気持ち悪い!
うわぁ、鳥肌が立ってきた……いや、なんだか鳥肌以上のものが立ちそうだよ。
「お客様、足元を掃除しますので、少々よろしいでしょうか?」
「掃除? さっさと済ませてくれよ?」
2人は席から立ち上がる。
今がチャンスだ!
僕はポケットからアロ●アルファ(瞬間接着剤)を取り出して、用意したブラジャーも取り出し、ア●ンアルファをブラジャーに塗りたくる。
「ありがとうございます、それでは――」
僕は坊主先輩の頭にブラジャーを取り付けた。
「? 何だこれ?」
「キャァァァ!! この人痴漢です!」
応援を呼ぶために、悲鳴を上げる。
被害者の女性から叫ばれ、頭にはブラジャーがついた状態。
いい訳できないね。
「は!? お前何言ってんd「絶対に許さん!!」……グホァッ!?」
坊主先輩の後ろから執事姿の久保くんが、背骨を折るくらいの勢いで、ドロップキックを坊主先輩の背中に入れる。
あ、そういえばAクラスだから、久保くんもいるんだったね。
「何やってんだよ!? 被害者はこっちd(ドスッ)……グアッ!?」
倒れている坊主先輩の代わりに、説明しようとしていたモヒカン先輩に聞く耳を持たずか、即座に膝蹴りをモヒカン先輩の腹に入れる。
「お前、ちゃんと見てたのか!? 明らかにこれは冤罪だろ!!」
坊主先輩が背中を押さえて、倒れながら反論する。
「黙れ!
すると、横から、遅れて雄二が登場。
もう久保くんがほぼほぼ、雄二の役割を果たしてくれたようだけど……。
「お前は確かにウェイトレスの胸を揉みしだいていただろうが! 俺の目は節穴ではないぞ!」
いや、節穴としか思えない。
「なん……だと!? 今の聞いたか!?」
「ああ、俺達のアキちゃんにそんなことするなんて、死んでも許さん!」
「私のアキちゃんが汚された……ぶっ殺してやる!」
騒ぎを聞いたお客さんでもある文月学園の生徒が席から立ち上がり、常夏コンビに殴りかかる。
「ちょ、ちょっと待てぇ! 俺たちはそんなことしてな――」
「「「死んで詫びろ!!! この変態!!!」」」
生徒全員で一斉に常夏コンビに殴る蹴るなど行為を行った。
言うなれば集団暴行……リンチ的なやつだ。
「おい、明久……流石にこれはやり過ぎたか……?」
事の重大さに気づいた雄二が焦った声で尋ねてくる。
「さ、さぁ? これくらいが妥当なんじゃない……?」
意外な展開に呆気にとられていたが、考えてみるとかなりまずい状況?
でも、今更止めに行っても時既に遅しだし、
どうせ酷い目に遭うのは常夏コンビだし、
これで万事解決(?)だし……う~ん、まぁ、いっか!
Aクラスの教室ではしばらくの間、ちょっとした暴動が起きることとなった。
★
「吉井くん、大丈夫だった!?」
「え、大丈夫……だけど?」
暴動により常夏コンビは去って行き、騒ぎが落ち着いた頃、いち早く久保くんは僕の元に駆けつけた。
「本当に大丈夫?」
「うん、本当に大丈夫……」
僕は久保くんの気にかけてくれている言葉に、ただただ頷く。
「久保くん……今のはただの演技だから、心配することはないわ」
木下さんが心配する久保君に誤解を解くように説明をした。
もちろん暴動を起こした生徒たちにもちゃんと、事情を兼ねて説明した。
「なんだ……そういうことだったのか……心配したぜ」
「いや~……本当に誤解でよかった」
「アキちゃんの身体に純潔があってよかったわ」
みんな安心して、また元の席に着いた。
みんな呑み込みが早くない?
なんだこの暴動前との激しい温度差は。
「ごめんね、久保くん。別に悪気があった訳じゃないんだ」
「いや、謝ることはないさ……嘘でよかったよ」
まるで自分のように、安心しているけど……久保くんはお人好しなんだね。
そういうところが久保くんのいいところなんだと思うけど。
「それにしても……似合っているねそのメイド服」
「え……? そ、そうかな?///」
「うん、とっても可愛いというか……Aクラスのホール役になってもらいたいくらいだ」
「あ、ありがとう……///」
久保くんに褒められると照れるなぁ……。
いつもは慣れているのに……。
なんでドキッとしているんだろう……。
「く、久保くんも似合ってるよ! その執事服……とってもかっこいいよ……」
「あはは、僕にはもったいない言葉だね……」
苦笑しながら照れたように頭をかく久保くん。
いや、本当に似合っているよ?
真面目でクールな久保くんの執事姿は新鮮で見栄えがいいし……。
本当にかっこいいよ……?
「よし、明久。クレーマーの処理は片付いたことだし、さっさと教室に戻るぞ」
僕と久保くんの間に入るように雄二が横から口を挟む。
「あ、うん……それじゃ……またね久保くん」
「ああ、そっちの仕事が上手く行くことを願うよ、頑張ってね」
「うん、ありがとう」
僕は久保くんや霧島さんたちにお礼を言って、雄二たちとまたFクラスに戻る。
★
「お姉ちゃん、なんでメイド服になってたんですか?」
Fクラスに戻っている途中、葉月ちゃんが袖を引っ張って聞いてくる。
「……なんと言うか……これが僕の仕事なんだ……」
「へぇ~」
だんだん僕のコスプレも風化されつつある。
そんな状況がどうしても解せなかった。
「1日に2回もアキちゃんのコスプレが見れるなんて、感激です」
姫路さんは満足した表情で、喜んでいた。。
学園祭を満喫できているようで何よりだった。
「にしても、クレーマーが片付いたのはいいが、あの調子じゃ店は不況が続く一方だろうな……何か対策を考えねば……」
雄二が愚痴を洩らす。
「そうだね……すぐに店の状況が変わるとは限らないし……」
「ま、今から考えても遅くはない。明日までには考えておく」
「頼んだよ、雄二」
あんまり期待はしていないが、応援の言葉くらいは送っておく。
「おう、絶対に成功させてやるよ」
自信満々だね。
でも、ネガティブになるよりは全然マシだ。
「よーし、僕も頑張るぞ」
意気込むように拳を握り締める僕。
「お前も俺と同じでかなりやる気だな、明久」
「はは、そうかもね、雄二」
この時の僕は1番やる気に満ちていたかもしれない。
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