今後、学校再開に伴ってリアルがごたつく一歩手前なので、投稿できるときに投稿しておこうかと。
“赤”の弓兵と“黒”の領主、“赤”の騎兵と“黒”の弓兵、そして“黒”の剣士と“赤”の槍士とは、草原のあちらこちらで激突していた。
“赤”のアーチャーの矢は“黒”のランサーの杭によって防がれるが、ランサーは杭から杭へ飛び移るアーチャーを仕留めることもできないでいた。
“黒”のアーチャーの思惑に乗って、草原から森へ戦いを移した“赤”のライダーは、弓兵の正体が己の師であることに驚愕を隠せなかったが、それでも槍を振るって応戦していた。
そして、“黒”のセイバーと“赤”のランサー。
正面からぶつかり合った彼らは、当たり前のように辺りを吹き飛ばしながら激戦を繰り広げていた。
大槍が大剣の腹を撃ち、剣の切っ先が空へ向く。追撃しようとランサーが走るが、セイバーは剣から片手を離してランサーへ拳を振るうと、後ろへ跳び退って避ける。籠手でそれを打ち払ったランサーに、剣を持ち直したセイバーが突貫し、再び槍と剣がぶつかり合って、火花が飛び散った。
彼らがこうして戦うのは二度目で、そのときは時間切れという結末を迎えた。セイバーはマスターからの命令を破って、ランサーと再戦したいと告げ、ランサーはそれを受けた。
互いを尊重するほどに、彼らは相手を得難い好敵手と定めたのだ。
だからこうして戦うのは、彼らにとっては歓喜を伴うものだった。
セイバーもランサーも、戦い以外に背負うものはある。マスターとの約定、自分が聖杯にかけている願い、味方からの期待と、種々雑多なものが存在している。
だが、それを重荷とせずに闘志を燃え上がらせるのが、人を背負って立つ英雄だった。
まだ、どちらとも宝具を解放する機会はない。相手がそれを許してはくれないからだ。
剣と槍が熾烈にぶつかり合う戦場には、むろんホムンクルスやゴーレム、竜牙兵では近寄ることすらできない。
けれど何事も例外というのはいる。
アッシュという名の少年は、一人、彼ら二人の戦場に引き寄せられるように草原を走っていた。
ルーラーと別れてからここに至るまで、彼は出会ったホムンクルスたちに城へ撤退し、仲間の解放していくように告げて回っていた。彼の言葉を聞いてその通りにしたものも、そうしなかった者もいるが、それでもアッシュは仲間の何人かを戦いから逃れさせることには成功していた。
目につくホムンクルスの全員に呼びかけてからも、アッシュは戦場を走っていた。
彼の目的はまだ終わっていなかった。ライダーと、それにアサシンにもう一度会うという目的があるため、彼はまだ引きたくなかった。
駆ける方向を決めているのが、自分の意志なのか、分けられた宝具の影響なのか、彼自身にも分かってはいない。
ただ、アッシュはセイバーとランサーの戦いに程近い戦場を駆けて、その先にある森を目指していた。
遠目から見ても激しい戦いの側を通るときは、アッシュも足がもつれそうになった。殺気と闘気で肌が焼かれるかと錯覚した。それでも彼は歯を食いしばりながら、ただ足を前へ動かした。
白兎のような勢いで駆ける少年の胸元で光る宝具の欠片に、ランサーの目が一瞬向けられたが、彼はそれに気づくこともなく駆け抜けた。
森へ飛び込むと、戦場の音が少しだけ和らいだ。
アッシュは森を走り、木々が竜巻にでも遭ったように根こそぎにされている場所にたどり着いた。
根こそぎにされた中心にあるのは、二つの人影だった。
白い服を纏った少女は戦鎚を地に突き立てて地面に倒れており、もう一人、黒髪の少女はその横で大きく肩で息をしている。
アッシュの気配を感じたのか、黒髪の少女が顔を上げる。青空のような濃い色の碧眼が、大きく見開かれて驚愕の色に染まっていくのを、アッシュは不思議と落ち着いた気持ちで見ていた。
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戦場から離れたミレニア城塞の中、カウレスはため息を吐いた。
彼の手からは令呪が一画消滅している。たった今、“赤”のキャスターの幻術に惑わされたバーサーカーを止めるために使ったのだ。
目を覚まさせると言っても、カウレスが令呪でバーサーカーに止まれと命じ、アサシンがその隙に当身を食らわせてバーサーカーを気絶させるという荒っぽい方法だったのだが、背に腹は代えられない。
ただ令呪で正気に戻れと言っても、キャスターの宝具に打ち消されていた可能性もあったからの手段だった。
当身で狂戦士の意識を刈り取るということをやったアサシン。そのマスターは、カウレスの前で光っている水晶玉の中で大きく目を見開いていた。
視線の先には、白髪赤眼の少年が一人。バーサーカーが気絶するのと入れ替わりで現れた少年に、アサシンのマスターは大層驚いているようだった。
「誰だ、このホムンクルス?アンタの知り合い?」
「……このお城から出ていった男の子がいたでしょう。その子よ」
「え……。じゃあコイツ、あの騒ぎのときのホムンクルスか!?」
カウレスは横目で“黒”のキャスターのマスターであるロシェの様子を伺うが、幸い彼は気付いていないようだった。
小声に切り替えて、カウレスは玲霞に囁いた。
「何でそんな奴がいるんだよ。アンタ、アサシンに念話で聞いてみてくれよ」
「聞いてるわ。……ああ、アサシンたら相当キレてるわね」
水晶玉の映像の中で、アサシンは少年にずかずか近寄るとべし、と頭を引っ叩いていた。見ていただけなのに、カウレスは思わず首を縮める。手加減したのだろうが、相当に痛そうな一撃だった。
「で、何だって?」
「あの子、何かアサシンとライダーに会いたくて戻ってきちゃったみたいね。……アサシン、めちゃくちゃに怒ってるけど」
「そりゃそうだろう。で、どうすんだソイツ」
ユグドミレニアの魔術師としてなら、ホムンクルスの少年のことをすぐロシェに報告すべきかもしれないが、カウレスは不思議とそうする気が起きなかった。
「草原から離れなさいって、アサシンが言ってるわ。でも、全然聞こうとしないみたい」
「おいおい……」
変な奴、とカウレスは真っ先に思った。カウレスはてっきり、ホムンクルスは生きるためにここから逃げたと思っていた。なのに、今の彼がやっていることはまるきり正反対だ。
「ねえ、ちょっと」
急に話しかけられ、カウレスと玲霞は顔を上げる。
鋭利な刃物のような目をした“黒”のライダーのマスター、セレニケが二人を見下ろしていた。
「あなたのアサシンだけれど、バーサーカーがしばらく動けないのなら、私のライダーの補助に行ってくれないかしら?あの空中庭園に挑んで、叩き落されたダメージがひどいみたいだから」
ライダーはヒポグリフを駆って空から空中庭園に向かったが、あえなく魔術砲撃に撃墜されて、今はアサシンたちからさほど遠くないところに墜落したという。
「……分かったわ。アサシンに言ってみる」
「頼むわよ。暗殺者風情でも多少は戦えるでしょう。キャスターのとはいえ、宝具を受けたバーサーカーはしばらく下がらざるを得ないでしょうしね」
冷然と微笑みながらいうセレニケと、笑っていない目で柔らかく微笑む玲霞から、カウレスは目を逸らして水晶玉を覗き込んだ。バーサーカーに関しては、宝具に嵌ってしまったのは事実なので何も言えなった。
それにしても、ホムンクルスは結局どうあってもアサシンに付いてくるつもりらしい。ライダーのいる方向へと走り出したアサシンに、必死に顔を歪めながらもついて来ていた。
あの赤のマスターが勿体ぶってアサシンに言った『願い』も、カウレスには気の狂ったものにしか聞こえなかった。
そこへ来て、今度はホムンクルスが出現したときた。
いよいよややこしい、とカウレスは頭痛をこらえながら、戦況を見守ることにした。
シャルルマーニュ十二勇士の一人、アストルフォは空駆ける幻獣ヒポグリフを所有している。一回アサシンもそれにお世話になっていた。
ヒポグリフがライダーいうところの『本当の力』を解放した場合、さぞすごいのだろうとは思っていた。
とはいえまさか、それでライダーが速攻で空中庭園に一騎で突貫したとは意外だった。
意外と言えば、アッシュと名乗ったホムンクルスの少年もそうである。
ミレニア城塞にわざわざ戻ってくるとは、とアサシンは頭を抱えたかった。
しかも、ライダーと再び会いたいの一点張りで、彼は絶対にアサシンから離れようとしないのだ。
彼は苦し気な顔ながらも、ライダーから与えられた剣を構えてアサシンの後ろについて走っている。そしてそれを可能にしているのは、アサシンの与えた宝具の欠片だった。
アサシンの宝具は、生まれつき彼女の魂にまで刻まれているような異能である。サーヴァントという魔力体になったことで、アサシンはその一部を引きちぎることができるようになっていた。
そして千切られたそれを肌身離さず身に付けていた無垢なホムンクルスは、亡霊などと比べれば巨大な魂の欠片を、自分の中に取り込んでしまったのだろう。
と、大体アサシンはそういう仮説を頭の中で組み立てた。
この考えが間違っていなかったなら、少年がここに帰ってきてしまったのは、アサシンのせいとも言えた。
「アサシン、どうかしたのか?」
アサシンの視線を感じたのか、アッシュが首を傾けた。
そのすきに襲い掛かって来た竜牙兵の下あごの骨を、アサシンは剣の柄で叩き壊し、振り向きざまに腹を蹴り飛ばして竜牙兵を骨の山に変える。見ていたアッシュは目を丸くした。
「いえ、何でもありません。アッシュ君。いいですか、ライダーに会ったならすぐここから離れてください」
「……分かった」
返事を聞いて、この子絶対に分かってない、とアサシンは直感した。
もう気絶させてどこかへぶん投げてしまおうか、と考えるがそれはそれで問題大ありだ。また“黒”のキャスターに攫われでもしたら目も当てられない。
アサシンやライダーがこの戦場という持ち場から離れられない以上、彼には自分の意志でここから離脱してもらうしかなかった。
竜牙兵を斬り飛ばし蹴り飛ばし燃やしながら、アサシンは進む。後ろのアッシュはそれを追うのに精一杯だった。走る合間にもアサシンは竜牙兵を薙ぎ払っている。小柄な彼女の蹴りで、竜牙兵は吹き飛び崩れる様子は異様だった。
姿形が何であれ、やはりホムンクルスや人間はサーヴァントとは決定的に違っていた。
その事実を噛みしめながら走るアッシュは、先の草原にサーヴァントを一騎見つける。
見覚えのある桃色の髪をした華奢な騎士は、あちこちぼろぼろのままアサシンたちに気付いて振り返った。
「あれ、アサシン?もしかしてボクの応援に来てくれたのかい?って……待って待って、後ろのその子、もしかして」
「ええ。あなたの考え通りですよ、ライダー」
ライダーの澄んだ瞳が、アッシュを見てこぼれ落ちんばかりに開かれた。
「え…ええー!!何でキミここにいるんだい!?」
「ライダー、気持ちは分かるのですが、落ち着きましょう」
「これが落ち着いていられるかってんだ!何でまた戻ってきてるのさ、バカァ!」
「……同胞のホムンクルスを助け、私たちにもう一度会いたかったそうですよ。そしてこれで、目的達成ですよね?アッシュ君」
分かりやすく混乱して怒るライダーと、目の据わっているアサシンに見られアッシュはこくんと頷くしかなかった。
それを見て、アサシンの瞳が一瞬緩みかけ、だが彼女はいきなりアッシュに突進すると、彼を抱え上げたかと思うと諸共に跳んだ。
「うそぉ!」
ライダーも叫びながら跳び、次の瞬間、三人がいた空間に、唸りをあげて真っ赤なスポーツカーが一台突っ込んできた。車は甲高い急ブレーキ音を響かせて止まる。
アッシュを抱えていたアサシンは、彼を地面に下ろした。その顔には焦りの色がはっきりと出ていた。
「アッシュ君、すぐにここから離れてください」
アッシュは思わずアサシンの横顔を見る。
「アサ――――――」
「早く!振り返らないで、走ってここから離れなさい!」
叱り飛ばされ、アッシュの足が後退した。
だが走り出す前に、車のドアが吹き飛んで中から少女が一人降りて来る。ライダーより小柄な金髪の少女だったが、彼女を見たとたんにアサシンとライダーは揃って顔を強張らせた。
つまりあの少女もまたサーヴァント。それも相当手強い敵なのだろう。
「どうすんのアサシン、あれ、“赤”のセイバーだろ?」
「そうですね、しかもものすごく戦意に溢れてますよ、彼女」
「ああ、ボクの直感が言ってるぞ。キミ、彼女に何かしたんじゃないのかい?」
「あなた、直感スキル持ってないでしょう……」
アッシュの前に立って、早口で言い合うアサシンとライダーに、金髪の少女は獰猛な笑みを向けた。
「テメエはアサシンと……ああ、ライダーか。いいぜ、雑魚二匹じゃオレの相手ができないってことを証明してやるよ。なあいいだろ、マスター?」
マスターとセイバーに呼ばれた巨漢は、仕方ないかと頷くと車でどこへか走り去る。
車が走り去ると同時、セイバーの瞳が、ライダーとアサシンの後ろに立つアッシュへ向けられた。ただ見られただけというのに、アッシュはそれだけで足が竦んだ。
「何だソイツ……?お前ら、そんな雑兵庇って何やってんだ?」
「いやまあ、ちょっとこっちにも事情があってさ。――――何してんだい、キミ、早く逃げなよ」
ぼそ、とライダーがアッシュを振り返って言った。
「しかし……」
「しかしも案山子もなしです。アッシュ君、早く行きなさい。あなたを庇っていると、私たちは確実に死にます」
「うへ、容赦ないなぁもう……。うんでもさ、アッシュ、ボクらはこのために呼ばれたんだから仕方ないけど、キミは関係ないんだから早く逃げなって」
キミが行く時間くらいは何とかできるからさ、とライダーは黄金の馬上槍を構え、アサシンも無言で剣の切っ先をセイバーへ向けた。
二人の視線の先には、すでに完全武装をして白銀の全身鎧に身を固めたセイバーがいる。そこから放たれる殺気に、アッシュの足は凍ったように動かなかった。
「いいから、行きなさい」
けれど、とん、とアサシンに肩をつかれ、それでアッシュの足は呪縛が解けたように後ろへ二、三歩下がった。
顔を上げれば、無表情のアサシンと仕方ないかという風に笑みを浮かべたライダーがいる。
多分、この二人ではあのセイバーには勝てない。それでも平気そうに立ち向かっていた。
自分にはそんなことどうしてもできない、とアッシュは思った。
一つ頭を下げ、歯を食いしばって少年は走り出した。
小さな背中が森の中へと消えていくのを見ながら、アサシンはほっと息をついた。
「アイツ、お前らの雑兵のホムンクルスだろ?逃がすとか馬鹿じゃねえの?大体ライダー、お前馬はどうしたんだよ」
「あはは、まあ、ボクらにも事情があってさ。あの子はそういうのじゃないんだ。でもキミの相手はボクらがするんだから、関係ないだろ。あと馬は……ちょっと今はお休み中なんだ」
それを聞いて、セイバーが兜の奥でにやりと笑った気がした。
「ああそうかよ。まあ確かに―――――ここで死ぬお前らには、関係ないよなァ!」
怒号と共に突っ込んでくるセイバーを、アサシンとライダーはそれぞれの武器を構えて迎え撃つことになった。
Apoアニメ化するようですね!
最っ高のお年玉でした。
あのハリウッドみたいな展開、どんな映像になるのか楽しみで仕方ないです。
で、これでApo編はFGO編の半分ほどの分を投稿。しかしまだ終わりはオケアノス(遥か先)状態。
今年も色々あるでしょうが、頑張ります。