―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

8 / 70
シーズン1第8話『再会』

 小鬼(ゴブリン)達を圧倒したアインズ達は、途中で一泊した後、目的地であるカルネ村が遠くに見える地点まで到着していた。

 村は頑丈そうな木製の塀に囲まれている。塀の高さは5メートルほどはあるだろうか。上を乗り越えられないように尖らせており、村を守る防御柵というよりも、砦のような印象を受ける。

 

(ほう。だいぶ工事が進んだようだな。……そういえばあいつは上手くやっているのだろうか)

 アインズは村の守りに派遣した戦闘メイド(プレアデス)のルプスレギナ・ベータの顔を思い浮かべる。彼女は人あたりがよいので問題ないはずだが、間近でナーベラルの失敗を見ているので不安は残る。

 

 この村の復興にアインズは直接関わっていないが、力にはなっている。村へはルプスレギナ以外にもゴーレム数体とデス・ナイトを派遣している。

 

 ゴーレム達は人間ではとても出せないような力を持つ上に疲労することがない。そのため不眠不休――もともと眠りも休みも必要ないのだが――で働くことができるため、短期間でここまでのものを作ることができた。大勢の村人が殺され、人手の減っていたカルネ村の住人にとっては、これ以上ない支援と言える。

 

 塀の中央にあるカルネ村の門は閉ざされており、中を窺うことはできない。その門へと通じる道の両側には人の背丈ほどがある草が茂っている。歩みを進めるうち、アインズは複数の生体反応に気づく。

 

(……何かいるな。うん? この感覚は……”小鬼(ゴブリン)将軍の角笛”で召喚された小鬼(ゴブリン)じゃないのか)

 この”小鬼(ゴブリン)将軍の角笛”とは、マジックアイテムの一つで、複数の低レベル小鬼(ゴブリン)を召喚するという効果をもつ。正直ユグドラシルでは微妙なアイテムであった。 むしろ役に立たないゴミアイテムという評価が正しい。

 アインズはそれをカルネ村の住民で、最初に助けた少女、エンリ・エモットに身を守るようにと2つ与えていた。

 このアイテムで召喚された小鬼(ゴブリン)は、召喚者の命令を忠実に聞くこと、そして時間で消滅しないというメリットを持つ。

 そのうちの数体が道ぞいの草の中に隠れているのが、アローに変身中で感知力が強化されているアインズには手に取るようにわかる。まだ距離は十分あるので、先制することは容易だ。やる気になれば全員の武器を撃ち落とすこともできなくはない。

 

 

『アインズ様!』

『わかっている。パンドラズ・アクターよ、この先に伏せているのは小鬼(ゴブリン)だ』

『掃討いたしますか?』

『いや、アレは敵であるとは考えにくい。おそらく私が渡したアイテムで召喚したものだろう。敵意をみせたら別だが、そうでなければ傷つけることのないようにな……まあ敵に回ったところで私たちなら問題はないがな』

『畏まりました。アインズ様』

 〈伝言(メッセージ)〉を起動し、アインズ達は素早く行動指針を決定する。

 

 

「変だな。あんな頑丈そうな塀はなかったはずなのに」

 何度もここに来たことのあるンフィーレアは村の変化に気づく。アインズよりも遅いのは、レベルの違いというものだろう。

「そう? 開拓村に対モンスター用に備えがあるのは珍しくはないと思うけど」

 ブリタはこの村のことを知らない上に、感覚も特に優れているわけではないため能天気な反応をみせる。

「うーん、おかしいですね。元々カルネ村付近は、”森の賢王”という魔獣の縄張りになっていてモンスターはほとんど近づかないはずです。だからほとんどモンスターに襲われることがなかったんですよね。それで塀などは存在しなかったんですが……何かあったのかな?」

 まさかモンスターではなく、同じ人間に襲われたとは知る由もない。

「うーん、自衛に目覚めたんじゃない? 最近物騒だしさ」

「だと、いいんですが……」

 アインズは真実を知るが、アロー達3人もこの村に来るのは初めてという設定だ。当然それについては何も言わない。もっともアインズ以外のパンドラズ・アクターとナーベラルの二人は事実初めてなのだが。

 

 

 

「……ブリタさん。ンフィーレアさんを守ってください」

「えっ? ああ、わかった」

 ブリタはアインズの警告を受け、素早く警護対象者であるンフィーレアの前に出る。

「ナーベもいいな?」

 モモンの言葉にナーベは頭を下げて意を示し、ブリタと並んでンフィーレアの盾になる。

「……姿を現せ、小鬼(ゴブリン)! 我々は薬草採取の為に村を訪れたものだ! 敵意はない」

 アインズは弓を握っている左手をだらりと下げて、攻撃する意思がないことを示す。モモンも腕組みをして立つのみで、二本のグレートソードは鞘に収まったままだ。

「……この距離でオレ達に気が付くとは、タダモンじゃねえな、アンタ」

 精悍な体つきの小鬼(ゴブリン)達が姿を現し、その先頭に立つ、一回り体の大きな立派な筋肉に包まれた小鬼(ゴブリン)が返答してきた。彼は他の小鬼(ゴブリン)より装備も1ランク上の物を装備しており、おそらくリーダーと思われる。

 それに従うのは戦士風の者、弓矢を持っている者など総勢で10体を超える。数だけなら昨日の小鬼(ゴブリン)の方が多いが、戦闘力はおそらく今目の前にいる小鬼(ゴブリン)達の方が高い。

 その鍛えられた体つき、しっかりと磨かれた武器や防具、そしてなによりも知性が違うように感じられる。

 

「こ、こんな村の近くに、小鬼(ゴブリン)!?」

「よしたほうがいい」

 ブリタがあわてて剣を抜こうとしたが、ナーベがそれを冷静に押しとどめる。

「それはどうも。……私の名前はアロー。”ンフィーレア・バレアレ”さんの護衛の者だ。ンフィーレアさんは何度もこの村に来られているそうだから、村の人に聞いてもらえればわかるはずだ」

「アローさんだな。オレはジュゲムっていいます。オレには判断が出来ねえから、姐さんに確認させてもらう。その間動かないでいてもらえますかね。動かないでいてくれれば、こちらも危害を加える気はないもんで」

「……了解した」

 小鬼(ゴブリン)の1人が村へ駆け込んでいく。

 

「ありがてえ。そっちの赤毛の姉さんはオレらで対処できるだろうけど、正直アンタと、そっちの全身鎧(フル・プレート)の人からはヤバイ雰囲気がバリバリ伝わってくるんでね。あと黒髪の姉さんもだ」

 ジュゲムと名乗った小鬼(ゴブリン)はアインズとモモンを交互に目をやる。

 

(ほう……小鬼(ゴブリン)でもわかるものなのか。召喚された者はやはり昨日倒した輩とは違うのかな。召喚主に忠誠を尽くしているのは設定通りのようだが)

 

「まあ、確かにそうだけどさ。私じゃあんた達にはかなわないよ……ただの小鬼(ゴブリン)とは一味違いそうだし……」

 小鬼(ゴブリン)からすれば脅威ではないと言われたブリタ。ただ、彼女は納得もしていた。今、目の前にいる小鬼(ゴブリン)は、ブリタが今までに見たことがある小鬼(ゴブリン)とは明らかに違っていた。今のブリタでは、相手にすらならないほどの強い相手に思える。

 

「この村はいったいどうなっているんだ! 姐さんって何者だ? そいつがここを支配しているのか?! エンリは無事なのか!」

 ンフィーレアが掴みかからんばかりの勢いで声を張り上げる。ブリタとナーベが進路を塞いでいるため言葉だけですんでいるが、いなければ実際に掴みかかっていたであろう。

 

(おとなしい坊ちゃんだと思っていたが、意外とそうでもなかったのか……それにしてもエンリだと? ……なるほど。彼女が言っていた魔法が使える薬師の友人とは彼……ンフィーレアのことだったのか。てっきり女だと思っていたが)   

 

 エンリと聞いた小鬼(ゴブリン)が何か言おうとした瞬間、「どうしたの、小鬼(ゴブリン)さん?」と、金髪の少女がひょこっと姿を見せた。

 

「エンリッ!!」

「まあ、ンフィー! 久しぶりね」

 何事もなかったかのように笑顔で出迎えるエンリの姿に安堵の表情を浮かべるンフィーレア。

「よかった、無事だったんだね。エンリ。よかった~。小鬼(ゴブリン)はいるし、以前はなかった塀はあるしで、エンリが無事か、不安で、不安で」

「……色々とあったのよ。あ、ジュゲムさん、彼は私の友達だから大丈夫。冒険者の皆さまもどうぞ。ようこそカルネ村に」

 エンリの表情が一瞬陰ったが、すぐに笑顔に変わる。

「僕でよかったら話きくから!」

 ンフィーレアは精一杯の言葉を伝えた。

 

 

 この村に起きた悲惨な出来事と、それを救った謎の大魔法詠唱者(マジックキャスター)アインズ・ウール・ゴウンを知ることになるのはこのすぐ後であった。

 

 

 

(やれやれ。ンフィーレア・バレアレとエンリ・エモットが友人だったとは。世の中はこの世界でも狭いものだなあ)

 アインズは、情報の大切さをさらに痛感する。もっともさすがに人と人とのつながりまで把握するのは難しいだろうが。

 

(あの時、記憶を弄っておいて正解だったな)

 エンリ・エモットおよびその妹、ネム・エモットの記憶を、アインズは書き換えている。書き換えた内容はアインズとの出会いの部分である。アインズは死の支配者(オーバーロード)たるアンデッドの姿では登場したのではなく、“最初から嫉妬マスクを被った姿の魔法詠唱者(マジックキャスター)であった”こと。

 その後に使用した魔法については、“聞いたことのない魔法で助けてくれたが、どんな魔法かはわからない”こと。そして“傷を治してくれたが、それは赤いポーションではなく何らかの魔法を使った”ことの3か所である。

 

(この世界の基準は”第3位階魔法で一流”と聞いたからなあ。オレからすれば弱すぎる第5位階魔法の〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉ですら”桁はずれ”とは思わなかったよ。ましてや最初に使った第9位階魔法〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉なんて伝説の領域らしいからなあ……ついでにと思ってポーションの事を書き換えたのは、この世界のポーションとの違いを知った以上は正解だったはずだが)

 アインズはンフィーレアと、その祖母リイジーの反応を思い出す。

 

 

(まあ、彼らがそのことで探りを入れてきたのは明白だからな。上手く赤いポーションのことをチラつかせればこちらに引き込めるかもしれないな)

 貴重な生まれながらの異能(タレント)持ちであるンフィーレア、その祖母で高名なポーション職人であるリイジー。二人を味方に引き込むことはナザリックの強化につながるとアインズは考えていた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。