―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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 本作のフィナーレとなるエピソードとなります。


 


エピローグ
最終話『黒と緑の物語』


 

 

 リ・エスティーゼ王国城塞都市エ・ランテル……このように記すのも今回が最後になるだろう。

 

 この都市は、先日行われたバハルス帝国との戦争――王国の人間は一方的な虐殺だったと記憶している――の結果、新たに建国される“アインズ・ウール・ゴウン魔導国”へと割譲されることが決まっているのだ。

 その都市の一角にあるナイトクラブVERDANT(ヴァーダント)。アダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”の拠点があることで有名な店であり、いつも来客が絶えない店だ。 

 今日は、VERDANT(ヴァーダント)も、隣接する“漆黒”公認ショップSCHWARZ(シュヴァルツ)も休業日となっているが、従業員は全員VERDANT(ヴァーダント)に集まっていた。

 

「みんな集まっているな」

 VERDANT(ヴァーダント)そして、“漆黒”公認ショップSCHWARZ(シュヴァルツ)両店舗のオーナー、オリバー・クイーン――もちろん例によってアインズが変身した姿である――が、従業員全員の顔を順番に見る。全員が真剣な顔つきであり、それぞれに想いがあることが伝わってくる。

「今日は大切な話をしなければならない」

 アインズは言葉を切って一度大きく息を吸い込んだ。

「みんなも知っての通り、このエ・ランテルは、リ・エスティーゼ王国の所属ではなくなる」

 全員無言で首肯する。この話題を知らない者はこの中にはいない。いや、この都市にはいないというべきだろうか。

「この都市は、新たに建国されるアインズ・ウール・ゴウン魔導国に組み込まれるそうだ。……新たなる支配者はアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下という凄腕……いやその程度では失礼だな。神のごとき智謀を誇る大魔法使いであり、そしてアンデッドの頂点に立つ御方であると私は聞いている。そこで、皆がこれからどうするのかを確認しておきたい」

 自分でいうのも痛いが、実際一般人から見ればそのようなレベルだ。仕方がない。

 

「オーナーは、このままお店を続けるおつもりなのでしょうか?」

 VERDANT(ヴァーダント)店長ルーイの質問に、オリバーは無言で頷いた。せっかく立ち上げた店だし、閉店して得られるメリットは特にない。

「……それでしたら、私はこのまま留まらせていただきます。アンデッドの支配する国などは想像もつきませんが、私はこの店が好きですし、その魔導王陛下にもおおいに興味があります。……それに人間が支配していても腐っていて救いようのない王国のような国もありますし、知性溢れるアンデッドの方がまともな政治をすることも考えられますからね……」

 ルーイは言いにくいことをはっきりと言い切る。もっともこれは出来レースのようなものだ。彼はアインズによって蘇生され、現在3度目の人生を歩んでいる。そんなルーイにとっては、アインズ・ウール・ゴウン魔導王こそが仕え信仰する神なのだから。

 

「ありがとう、ルーイ。これからもよろしく頼むよ」

「はい」

 ルーイ――旧名ニグン・グリッド・ルーイン――は頭を下げた。

「ほんじゃ、俺も残りますわ―。店長だけだとカクテル作れないし」

 バーテンダーのルクルット・ボルブがいつものように軽い調子で答え、シェイカーを振るう真似をする。彼はオープン当初に比べると腕もはるかに上がり、今では客の心をつかむバーテンダーとして高く評価されている。もっとも、客の心はつかめても、恋人となる相手の心を掴むことはできていないようだが。

 

「……では、私も残ります。別に行くあてもないですし、この仕事もずいぶん馴染みましたからね。それにエ・ランテルがどうなるのか行く末を見たいと思います」

 SCHWARZ(シュヴァルツ)店長のペテル・モークも残ることを宣言する。彼は店長として、立派に店を盛り立てており、すでにアインズにとっても欠かせない存在であった。

「てんちょーが残るなら、私も残るよ。この店には開店前から関わっているんだ。この先も見ていくさ」

 同じくSCHWARZ(シュヴァルツ)で働く元女冒険者赤毛のブリタも手を挙げる。

 ペテルの補佐役として彼女もまた店に欠かせない存在である。

「……ありがとう。用心棒のレイとクレアはすでにここに残ると聞いているし、あとは……そちらの姉妹だけだな」

 オリバーはニニャと、その姉ツアレニーニャ・ベイロンの方を見る。姉と再会した後、ニニャは女性であることを表明(カミングアウト)しているため、女性の服装に変わっており、少し髪も伸びて肩にかかるくらいまでになっている。

 金髪の姉のツアレと、茶髪の妹ニニャ。美人姉妹として、男性客の集客に一役買っている。なお、今二人はVERDANT(ヴァーダント)のフロアを担当しており、近くに小さな家を借りて姉妹仲良く失った時間を取り戻すように暮らしていた。

 

「私は……その、オ、オリバー様に恩がありますので」

「……ツアレ、様付けはやめてくれないか。俺は別に偉くないんだ。“オリバーでよい”と何度も言っているだろう?」

「ご、ごめんなさい……オ、オリバーさ――ん」

 ツアレは、オリバーさまと言いかけて無理やり言いなおす。

(なんだか懐かしいな。ナーベとそんなやりとりをしたのがずいぶん前に思えるぞ)

 オリバーいや、アインズは既視感(デジャブ)を覚える。

「まあいい。努力してくれればいいさ。……さて、ニニャはどうする? 冒険者に戻るのか?」

 ニニャという名前は本名ではなく、姉を慕ってつけていた名前だったのだが、彼女は姉が見つかった後もニニャと名乗っている。

「……私もここに残ろうと思います。正直、一度は冒険者への復帰も考えましたけど、目的はすでに達していますしね」

 元々彼女には、貴族に攫われた姉を探すという目的があったのだが、それはすでに達成されている。なお、その貴族は、カッツエ平野の戦い――世間一般では“大虐殺”と呼ばれているが、親魔導国の人間はそれを“大粛清”と呼んでいる――において一族郎党みな戦死しており、お家断絶となっていた。それを聞いた時のニニャの喜び方は、表現が難しいものであった。

 

「ありがとう。全員残ってくれるということだな」

「はい。今は僕たちの拠点はここです。たとえ魔導王アインズ・ウール・ゴウン陛下が、噂通りの人物であったとしても、僕はここで頑張ります」

「……そうか。魔導王はたぶん良い政治をすると私は思うけどね」

 オリバーは笑顔を浮かべる。

(我ながら白々しいがな)

 アインズは心の中で苦笑しつつ、オリバーとしてアインズを高く評価するふりをする。

「……たしかに。カルネ村に移住したダインの話を聞くと、カルネ村の住民はアインズ・ウール・ゴウン様に対しては、かなりの好意と敬意を持っていることがわかりますね」

 ペテル達“漆黒の剣”の元メンバー、ダイン・ウッドワンダーは、カルネ村へ移住し恋人ともに甘い平和な生活を送っている……はずだったのだが、トロールに襲撃されたり、カッツエ平野での戦いにおいて、第一王子バルブロ率いる王国軍に襲撃されたりと、ペテル達よりも波乱万丈な生活を送っている。

 

「……この世の中は、どこでも危険と紙一重なのである」

 先日久々にエ・ランテルにやってきた彼は悟ったような顔をしていたのだった。

 

「村の復興や防衛にかなりの助力をしていただいたとか。……王国よりも、陛下に恩があるって感じだったな」

「それはそうですよ。王国の第一王子に襲撃されるとかありえない」

「だよなー。だから、喜んで魔導国に入るって言っていたぜ」

「カルネ村には小鬼(ゴブリン)人食い大鬼(オーガ)も住んでいると聞いたな」

 これにルーイの眉が、一瞬ピクリと動いたが、それは昔の(さが)によるものだろう。

 

「どちらにせよ、これからも頼むよ。ただ、私も忙しくなるのであまり顔は出せなくなるかもしれないが」

「はい!」

 全員の声が揃う。 VERDANT(ヴァーダント)SCHWARZ(シュヴァルツ)の両店舗は、魔導国になってもメンバーが欠けることはなさそうだった。

 

 

「レイ、私達も当然ここに残るんだよねー」

「まあ、平和になるらしいから、俺達用心棒の出番なんてなくなると思うがな。クレア、お前もフロアで働いたらどうだ? 俺はSCHWARZ(シュヴァルツ)の武器指南でも担当するさ」

 レイこと、ブレイン・アングラウスの言葉に、クレアことクレマンティーヌは難しい顔をする。

「あのさー、私がまともにフロアなんかで働けると思う? エドよりもよっぽど向いてないと思うけどな」

 話に出てきたエドとは、元八本指の警備部門六腕エドストレームのことである。彼女はダンサーとして働くという話もあったが、不適合だったため今は現八本指の警備部門長を務めている。 

「あいつはまあ、特殊な女だったからな。……そうだな、昔のお前さんなら絶対に無理だっただろうが、今ならできるんじゃないのか? オリバーさんに恋してずいぶん変わったみたいだしなー」

「なななななな、なにをいってるのー。そ、そんな、ことな、ないってー」 

 絵に描いたような動揺しすぎの図がそこにあった。

「お前……わかりやすすぎだな。早く抱いてもらえよ!」

「そ、そんな……だ、抱いてもらうなんてーえ、か、考えて、な・ないちー」

 頬を真っ赤にそめ、くねくねと体をよじるクレマンティーヌ。もはや照れすぎていて呂律が回っていなかった。

「……お前、いい年をして、本当に恋愛関係はだめだなぁ……」  

 ブレインはため息をついた。

 

 だが、その本人も、“人の事は言えない”とだけは言っておこう。

 

 

 

 

 ◆◇◆  ◆◇◆

 

 

 

 

「聞いたか!? モモンさんとナーベさんが魔導王の配下になったって!!」

「聞いた、聞いた。なんでも俺達のためにモモンさんは旅を諦めたって話じゃないか!」

 街は魔導王の入城と、その際に起きた出来事の話で持ちきりであった。

 

 その話題の主モモンは、盟友であるアローとともにVERDANT(ヴァーダント)にいた。

 

「もし魔導王を倒せるなら、モモンさんしかいないって思っていたのですが」

「……私一人で倒せるとすれば、取り巻きの一人が精いっぱいだろうな。それに、魔導王陛下はヤルダバオト以上の存在と感じた」

「……ヤルダバオトってモモンさんが王都で戦った、大悪魔ですよね……それ以上とは……信じがたい話ですね」

 モモンの言葉に、ペテルの顔が血の気を失い真っ青になる。

「それでも、モモンさんとアローさんなら勝てるのではないでしょうか?」

「……無理だな。それに魔導王陛下と色々と話してみたのだが、陛下はきちんとした政治を行うつもりのようだぞ?」

 モモンは魔導王との会談の内容をかいつまんで話した。 

「……なるほど。モモンさんが、そういうのであればそうなのでしょうね。カルネ村のことを知っているとはいえ、私はまだそこまで信じることはできません。でも、モモンさんとアローさんの言葉なら信じられます」

 ペテルは力強い目で二人を見る。

(これが大方の市民の評価といったところだろうな)

 アローの姿であるアインズはそう判断する。

「ところで、ナーベさんは魔導王の配下になったということですが、アローさんは?」

「……私か? 私はわりとフリーだな。モモンが執政官のような役目をするが、私は特に役目は与えられていない。まあ、治安維持などで協力することになるだろう。今後は、魔導王陛下の配下であるアンデッド、死の騎士(デス・ナイト)が街の警護を行うらしい。 

 我々冒険者からすれば、討伐する対象であったアンデッドに守られる街など想像もつかないがな」

 さらりと言ったが、死の騎士(デス・ナイト)は伝説クラスのアンデッドである。アローやモモンならともかく、一般の冒険者では歯が立たない相手だ。

死の騎士(デス・ナイト)……伝説級のアンデッドじゃないですか! ……そりゃ、逆らう者はいないでしょうね。アダマンタイト級冒険者ならともかく、普通の人間じゃ勝ち目なんてないですよ」

 それだけを聞いても魔導王陛下の凄さがわかるというものだ。

 

「まあ、私はアダマンタイト級冒険者“グリーン・アロー”だ。それは変わらない。この街を(けが)す者がいれば戦うだけだよ。……それが魔導王陛下でないことを希望するがね。それに私は、平和な世界を望んでいる。それは街の皆もそうじゃないか? 毎年のように戦争に駆り出されていたわけだしな」

 アローの言葉にペテルは頷いて同意を示した。

 

「まずは、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下のお手並み拝見といこうじゃないか。いい国になる予感が私はしているからな」

 

 “漆黒の英雄”モモン、“緑衣の弓矢神”グリーン・アロー。彼らの戦いはまだ終わっていない。

 魔導王アインズ・ウール・ゴウンとともに、平和な世界を築くという新たなステージが始まったばかりである。  

 

 ―(モモン)(アロー)の物語―は、これからも続いていく。

 

 

 

 






 今回にて最終話とさせていただきます。

 
 ここまでお読みいただいた方、どうもありがとうございました。


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 全て私が創作活動をする活力になっていました。
 
 本当にありがとうございました。

 
  
 
   

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