―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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The day of battle
The day of battle 『アローVSプレアデスvol.1』


 

「……私はあまり、乗り気ではないのだがな」

 アインズは、いつもよりも低い声を発する。心情が声にも出てしまっていたが、正直なところデミウルゴスの提案は乗り気でない。それどころか、かなり不快であった。

「アインズ様のお気持ちお察しいたします。……私も、この栄光あるナザリック地下大墳墓に下等で下劣な、たかが人間ごときが立ち入るというのは、正直好むところではございません」

 デミウルゴスは一旦ここで言葉を切る。アインズは黙って続きを促した。

 

「……もちろん私ごときと、至高の御方であらせられるアインズ様とを比べるなど不敬ではございますが、アインズ様だけではなく、全ナザリックのシモベが同じ気持ちであることはお伝えいたしとうございます。それでも、これはナザリックの……いえ、アインズ様の世界征服のために必要不可欠なことにございます」

 デミウルゴスは、右手の人差し指と中指で眼鏡をクイッと上げた。

「デミウルゴスよ……」

「はい、アインズ様」

「……全ナザリックのシモベが私と同じ気持ちであっても、あえてこの計画を行うのだな?」

「はい。アインズ様。それでもあえて行います」

 デミルウルゴスの眼鏡の奥にある、宝石で出来た瞳からは力強い不動の意志が見えた。

 

「……ふむ。よかろう。デミウルゴスほどの者がそういうのであれば、私もこれ以上何も言うまい。では、作戦を進めよ。そうだな……私も歓迎の準備をしておこう」

「ありがとうございます。アインズ様」

 デミウルゴスは丁寧に頭を下げ、執務室から出ていく。

「……帝国のワーカーをこのナザリック地下大墳墓へと踏み込ませる……その先にあるのは、帝国への恫喝といったところだろうが……やはり、かなり不快だな」

 アインズはデミウルゴスが去った扉を見つめる。

「だが、私はすでに同意したのだ。では、気持ちを切り替えて、()()()()のために少し戦闘訓練でもしておくとするか。……もっとも、そんな強い者が来るとは思えないから、心配などする必要はないのだろうがな」

 アインズは冒険者アローとして活動している間に、この世界の人間のレベルというものを把握できている。人間の切り札と呼ばれるアダマンタイト級冒険者でもレベル30そこそこといったところであり、ハムスケと同格程度でしかない。

 ナザリックの配下に収まっているブレイン・アングラウス、エドストレームも人間の中では王国においてはトップクラスの戦力の持ち主であった。もっともブレインはすでに人ではなく、吸血鬼になっているのだが……。 

 もう1人の人間の配下であるクレマンティーヌは、その二人や、アダマンタイトをも上回る戦闘力の持ち主だ。その彼女から入手した情報によると、スレイン法国には彼女よりも、もっとレベルの高い人間がいるという。もっともそのうちの大半は、先日シャルティアとともに偶然遭遇し片付けてしまったのだが。ただし、G計画(ネットワーク)からの情報によると“漆黒聖典隊長”と“第5席次”は生き延びたという。

 

 だが、今回の相手は法国ではなく、バハルス帝国である。帝国の方が王国よりも冒険者や、ワーカーのレベルが上という話は聞かないので、危険があるとは考えにくいだろう。

 

(ふふ……“獅子は、ウサギを狩るのも全力(フルパワー)”というからな)

 アインズの瞳にあたる真紅の炎が力強く輝いていた。

 

 

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 

 

 

 ナザリック第六階層にある円形闘技場(コロッセウム)。アインズは久しぶりにこの場所を訪れていた。

 

「以前来たのはいつだったかな? 転移した直後だったか……いや、ハムスケの訓練を見に来たときだったかな……」

 観客席には物言わぬゴーレムたちが鎮座して、静かに侵入者を見つめているはずだったのだが……。

 アインズが円形闘技場(コロッセウム)内へ入ると、そこには熱気があふれていた。

「なんだっ?」

 アインズは予期せぬ光景に足をとめ、観客席を見た。そこにはゴーレムはおらず、ナザリックのシモベ達が大挙して詰めかけている。

「至高の御方であらせられるアインズ様のご入場です。全員起立の上、拍手でお迎えください」

 パンドラズ・アクターが左手に持った“マイク”を使ってしゃべると、それが何倍にも増幅せれて闘技場中に響き渡る。さらにパンドラズ・アクターが右手を振ると、オーケストラの演奏が始まった。演奏されているのは、ユグドラシルのボスとの戦闘中に流れる曲であった。

(懐かしいなぁ……みんなと一緒に色々な戦いをしたものだ)

 アインズは一瞬鈴木悟に戻ってしまったが、意識を今に戻す。

(それにしても、なんで、こういうことになるのかなぁ?) 

 アインズとしては気楽な感じで戦闘訓練を行うつもりでいたのだが……いざ闘技場に来てみたら、なぜかナザリックあげての一大イベントと化していた。

 

 これは、至高の御方であり、ナザリックの頂点に立つアインズが、戦闘訓練を行うということが守護者統括より全ナザリックに向けて発表されたことが原因だった。

 アルベドとしては、愛する御方の勇姿をせっかくだから全シモベに見せたかったのだ。いや、「私の旦那様……そして皆の主は、こんなに素敵なんですよ」ということを見せつけたかったというべきか。

 最後列には立ち見をしているシモベもおり、現実世界でいうところの“超満員札止め”という状態になっていた。

 なお、入りきれなかったシモベのために、〈水晶の鏡(クルスタル・モニター)〉による全ナザリックへの中継も行われ、動きの取れないシモベ達も含め観戦できるようになっていた。

 

「大変長らくお待たせいたしました! ただ今より、本日のメインイベントを行います!」

 パンドラズ・アクターは、いつものように大げさに節をつけたアナウンスをしているが、今回ばかりはハマっている。

「まずは、挑戦者チームの紹介をいたしましょう。戦闘メイド(プレアデス)サブリーダー、ユリ・アルファ、同じく戦闘メイド(プレアデス)ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ。以上の3人が、今回アインズ様に挑戦いたします」

 パンドラズ・アクターの紹介にもあったように、今回のアインズの対戦相手は、戦闘メイド(プレアデス)の3人である。

 

「う、腕が鳴るっすね!」

 背中に聖印をかたどったような大きな杖を背負った赤毛の三つ編みメイド、ルプスレギナ・ベータが、元気よくポンと両手を打ち鳴らすが、その声はちょっと震えていた。いつもの天真爛漫さが消え失せている。

「あ、アインズ様に挑戦するなど……な、なんと恐れ多いことか……」

 その左側に立つ漆黒のポニーテールのメイド……ナーベラル・ガンマも、戸惑いを隠せない。普段は冒険者アローとして活動するアインズに、冒険者ナーベとして同行している。

「ボ、いえ私たちの連携を確かめたいというアインズ様のご意向です。決して手加減をしてはならないと厳命を受けています」

 髪を夜会巻きにした眼鏡美人メイド、ユリ・アルファが妹達を鼓舞する。その両手には、棘つきのガントレットが装着されている。なお、この眼鏡にはレンズは入っていない。

 

 今回この3人が対戦相手に選ばれたのは、ナザリックへと侵入させるワーカーチームを想定したためだ。

 ユリは、モンクであり近接打撃戦闘が専門だ。ルプスレギナは回復役であり攻撃役を兼務した存在。そしてナーベラルは、優れた魔法詠唱者(マジックキャスター)である。

 

「そして、挑戦を受けるのは我らが支配者にして、最強の存在であらせられるアインズ様!」

 再びシモベ達の大きな拍手が巻き起こる。おざなりに拍手しているものなど誰もいない、心からの尊敬の意を込めた盛大な拍手であった。

 パンドラズ・アクターの合図とともに、ピタリと拍手がやみ、今度は円形闘技場(コロッセウム)を静寂と緊張感が支配し始めた。

 

 


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