―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン4第9話『ラキュースVSブラック・バトラー』

 

 

 イビルアイとヤルダバオトの戦いと同時刻。

 

 “蒼の薔薇”の神官戦士ラキュースは、白銀の鎧“無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)”に身を包み、暗黒の剣“魔剣キリネライム”を構えて、全身を黒で統一した謎の仮面の男ブラック・バトラーと対峙していた。

 2人の間に吹いた風にラキュースの金色の髪が靡き、夜の闇に美しく浮かび上がる。

 

「貴女に恨みはありませんが、我々の邪魔立てするのであれば容赦いたしません。全力で排除させていただきます……ただし、退くのであれば、手出しはいたしません。私としては退くことをお勧めいたしますが……」

 先程までイビルアイを蹂躙していた人物とは思えない柔和な声で、ラキュースに語りかける。そこに敵意はない。

「……仲間を解放してください」

 ピンク色の唇を動かし、堅い声を出す。

「残念ですが、それは難しいですね。彼女が我々の仲間を痛めつけてくださったので、そのお礼をしないといけませんので」

「仲間を持つ者として、そのお気持ちはわかります。ですが、彼女は私の大事な仲間です。仲間を見捨てて逃げるわけにはいきません。それにこちらも、同じく仲間を痛めつけていただいていますし、どうやら戦うしかないようですね」

「ふう。無駄なことだと思いますよ。私は“とても強い”ですからね」

 人類最高峰のアダマンタイト級冒険者を前に“とても強い”とまで言い切れる存在。普通の状況であれば大言壮語ととるところだが、仲間の中で最強のイビルアイが何もさせてもらえない相手だ。それは言葉通りなのだろう。

 鍛え上げられた肉体から迸る闘気から、今までに感じたことのないプレッシャーをラキュースは感じていた。

「それでもです。私は”蒼の薔薇”のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。人に仇なす存在を見逃すわけにはいかない。天にかわって成敗いたします」

 緑の瞳で、ブラック・バトラーの冷たい光を放つ仮面を睨みつける。

「わかりました。どうしてもというのであれば、仕方ありませんね……お相手を務めさせていただきます」

 ブラック・バトラーはやれやれという風に肩を竦めてから、腰を落としファイティングポーズをとった。

 

(生半可な攻撃が通じる相手とは思えないわね。最初から全開でいくしかない!)

 ラキュースは意を決し、ふぅーっと息を吐き出した。

「発動! 浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)! 全力でいっけえええっ!」

 ラキュースの背中から6本の黄金の剣が宙に飛びあがり、ブラック・バトラーを襲う。

「……その攻撃は、一度見せていただきましたよ……ぬんっ!」

 ブラック・バトラーを中心に気が盛り上がり、空気が震える。そして、ラキュースの6本の剣が、残らず弾き飛ばされた。

 

「そ、そんなっ……」

 ラキュースは弾き飛ばされた剣を自分の頭上へと集結させる。

(避けもせずに、気合だけで弾き飛ばすなんて……初めてだわ)

 滅多に出さない全力での攻撃だっただけに、ショックは隠せない。 

「その程度の玩具(オモチャ)など通用しませんよ。さあ、本気でどうぞ」

 ブラック・バトラーは右の掌を上にして突き出すと、指を4本クイッ、クイッと動かし、「かかってこい」と促す。

(い、一応、全力だったのだけど……やはり、これでいくしかないのかな)

 ラキュースは、本当の全力攻撃を出すことを決めた。

「魔剣キリネライムよ、我が呼びかけに応え、その本来の力を解放せよ……」

 ラキュースは両手持った漆黒の剣をギュッと握りしめる。

「超技! <暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレイドメガインパクト)>ォオ!!」

 ラキュースが剣を横に薙ぐと、無属性の強烈な衝撃波が、ブラック・バトラーの周囲を吹き飛ばす!!

 

 ドガアアアアアッ!!

 

 地面が抉れ、砂埃が周囲を包む。

「や、やったかしら?」

 ラキュースは油断することなく剣を構えたまま、ブラック・バトラーがいた場所を注視する。砂埃のせいで、ブラック・バトラーの姿は見えない。

 風が少しずつ砂埃を運んでいく。そして砂埃が消えていくとそこには、まったくの無傷のブラック・バトラーが悠然と構えていた。

 

「……実にくだらない技ですね……ただ、砂埃を巻き上げるだけとは、がっかりしましたよ……これはいわゆる名前負けというやつでしょうかね。どうやら貴女は技の名前には、かなり凝っていらっしゃったようですが、こだわるのは威力の方にした方がよかったのではないでしょうか?」

 ブラック・バトラーは胸元についた埃を軽く払いながら、肩をすくめた。

「な……っ……くっ……」

 自分の最大の技が破られた衝撃……いや破られたのではない。まったく通用しなかったのだ。この衝撃は大きい。そして、ブラック・バトラーの言葉のひとつひとつが、的確にラキュースの心を抉っていた。

「では、そろそろこちらから仕掛けさせていただきます」

「発動……浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)!」

 ブラック・バトラーが攻撃態勢をとるのを見て、ラキュースは6本の黄金の剣を防御に回す。

「無駄ですよ」

 ブラック・バトラーは、左のパンチを放つ。

「防御! うそでしょっ!」

 防御に入った6本の剣を吹き飛ばし、ラキュースの顔面を轟音とともに凶悪な拳が襲う。

「くうっ……」

 かろうじて顔を傾け、直撃は避けたものの、右肩に直撃弾を受けてしまった。ピキッと嫌な音がしてラキュースの白銀の肩当てにヒビが入る。

「な、ストレート一発で私の鎧が?」

「……今のはストレートではありませんよ。挨拶代わりのごくごく軽いジャブです」

「そ、そんなっ……」

 ラキュースの顔は血の気を失い、その両脚はガクガクと震えていた。今、彼女が感じているのは、”恐怖”そして”絶望”。仲間を救いにきたのに、むしろ結果は悪化してしまっている。

「ハッ!」

 ブラック・バトラーの左拳がラキュースの腹部を打ち抜く。

「ぐえっ……」

 ラキュースの体がくの字に折れ、衝撃が体を突き抜けていく。

(な、なにこの威力はっ……)

 内臓が全て持ち上げられ、場所を動かされたような感覚が体の自由を奪う。

(鎧越しだっていうのに、なんて威力なの……)

 ラキュースは立っていることができず、ガクンと両膝をついてしまった。

 

「勝てない……」

 もはやイビルアイを助けるどころの話ではなかった。

「貴女に恨みはありませんので、苦痛を与えることなく仕留めて差し上げましょう。せめてもの慈悲です」

 ブラック・バトラーが右拳を軽く握りこむ。

「チェストオオオッ!!」

 死を告げる一撃がラキュースを襲う。

(みんなっ、ゴメン)

 ラキュースは思わず目を閉じた。

 ゴオッ! という拳圧、そしてシュ、シュン! といういくつかの空気を切り裂く音がした後、ガキイッッ!という金属同士が激突する音がする。

 

「えっ?」

 ラキュースが目を開くと、ブラック・バトラーの右拳が数本の緑色の矢で射られ、技が中断されていた。

「ラキュースさん……諦めたら、そこで試合終了だぞ。この場合は戦闘終了だけどな」

 緑のフードを被った男が、近づいてくる。

「ア、アローさん!!」

 ラキュースの危機を救ったのは、エ・ランテルにいるはずのアダマンタイト級冒険者、“緑衣の弓矢神”アローであった。もちろん、アインズが変身しているのだが、ラキュースはそのことを知らない。

「ラキュースさん、無理をしすぎだ。貴女は王国で唯一の蘇生魔法の使い手なのだろう? 貴女がいなければ、仲間は助からない。勇気と無謀は違うのだから、気をつけないとな」

 アローの優しい声が、ラキュースの心に染みる。

「あ、アローさん……」

 ラキュースの緑色の瞳が濡れ、涙がこぼれ落ちる。

「あとは私が代わろう。下がっていてくれ」

「は、はひ」

 ラキュースは素直に退く。

「冒険者アローだ」

 アローは仮面をつけた執事と対峙する。

 

(まったく、お互い大変だな。だが、なかなか堂に入った悪役(ヒール)ぶりだったぞ、セバスよ……お前もなかなかの役者だな。本当はアローの仲間をやらせた方が合っているのだろうが)

 アインズは、本当はここで登場するつもりはなかったのだが、“蒼の薔薇”を全滅させるわけにはいかなかったし、ちょうどパンドラズ・アクター扮するモモンも登場したので、合わせて出てきたのだ。

 

「ブラック・バトラーと申します。アロー様」

「なぜ、様をつけるのだ?」

 アインズは疑問に思ったことを問いかける。

「敵ながら尊敬できる相手とお見受けしました。正々堂々と戦いましょう」

「正々堂々か。よかろう。いくぞ、せ……成敗だっ!!」

 アローとブラック・バトラー。二人の右拳がぶつかり合う。

「うおっ!」

「なんとっ!」

 お互いに同じ距離を弾き飛ばされたが、すかさず距離を詰める。最初の一撃は、互角の威力といえた。

 

 

 


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