―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
“蒼の薔薇”のガガーランとイビルアイ。そして、“黄金”ラナーの兵士クライムと別れたアインズ――今はオリバー・クイーンの姿に変身中――は、用心棒のクレアことクレマンティーヌを伴って、その足で先日ツアレニーニャを助けた場所へと寄り道する。
「我々がツアレを拾ったことは知られていないようだが……」
「その前に潰すってことね、ワクワクするね、オリー」
「――戦闘前には多少なりとも高揚感はあるが、今回は感じないな。どちらかといえば作業に近い。汚れを一つ落とすだけさ」
「はーい、お掃除だねー。“この街を
クレマンティーヌはアローの口調を真似る。
「ま、そういうことだが、それは私の台詞だからな」
「はーい。ハンセイシテマース、キヲツケマース」
クレマンティーヌは完全に棒読みの台詞で返す。どうみても反省はしていない。
二人は、裏組織“八本指”が経営する娼館へ文字通りの奇襲をかけた。
入口からオリバーが門を蹴破って乱入。裏口からは、クレマンティーヌが得意のスティレットを片手に同時に殴り込む。
「なんだ、おまぐえっ!」
物音を聞いておっとり刀でかけつけた用心棒を、オリバーは右旋回してのスピンキックで吹き飛ばす!
「いっくよー!」
クレマンティーヌのスティレットが、いかつい男の額を貫く。
そして、乱入からわずか10分というごく短時間であっさりと娼館を制圧。王国を影で牛耳る影の組織“八本指”……その中でも奴隷部門に大きなダメージを与えた。
警護を担当していた六腕の一人“幻魔”サキュロントは、アインズの〈トラースキック〉一発で頭を粉砕され即死。奴隷部門長コッコドールはクレマンティーヌにより捕えられ、ナザリックへと送り込まれた。
「これで、ツアレの気も少しは晴れるといいのだが……」
「うーん、どっちかっていうと、オリーの気が晴れた感じだけどねー」
「ちょ、何でそう思った?」
ズバリ! と言いあてられたアインズは瞠目し、クレマンティーヌの顔をみつめる。
「そんなのすぐわかるよー。……オリーは優しいもん。だって、ツアレの状況を知った時すっごく怒っていたじゃない。――今回の襲撃の名目は“ツアレのため”だけど、裏には“オリーの憂さ晴らし”もあるんだよね……で、そんなに見つめられると照れるんだけどー」
クレマンティーヌは頬を染め、恥ずかしそうに呟く。
「……そうか。そう見えていたか」
最後の言葉は聞かなかったことにして、その前の部分へ言葉を返す。
(単なる殺戮好きの狂人かと思っていたが、意外と色々と気が付くし、多少偏りはあるが知識も持っている。いまさらだが、なかなか使えるじゃないか)
アインズはクレマンティーヌの評価を改める。当初に比べれば大幅に上がっているのは間違いないところだ。
「そうにしか見えなかったよー。ところで、六腕も半減して3腕になったけど、残りはどうするの?」
八本指警備部門最強メンバーである“六腕”は、一人一人がアダマンタイト級と言われ、恐れられているが、すでに“空間斬”ペシュリアンは捕縛され、“幻魔”サキュロントは死亡。“踊る
「もちろん殲滅するさ。我々に刃向ったことの愚かさを教えてやろう」
「やっぱりそうなるんだねー。ちなみに六腕の残り3人は、リーダーの“闘鬼”ゼロ、“千殺”マルムヴィスト、“不死王”ディバーノックだね」
このあたりの知識は、彼女が“漆黒聖典”であった頃に仕入れたものだ。なお、クレマンティーヌが“不死王”を口にしたところで、オリバーの眉根に皺がより目つきが鋭くなった。
「あれ、オリー“不死王”って二つ名、気に入らないのかな?」
「……ああ。気に入らないな。――というよりも不快だな。理由はわからないが、不快だ」
「わかった。私も口にしないようにするねー」
クレマンティーヌは、こう見えても意外と気遣いのできる娘である。
『アインズ様!』
ここでパンドラズ・アクターから〈
『どうした、パンドラズ・アクター』
『はい。王都の大貴族レエブン侯より使者が参りました。“漆黒”に依頼が入っております』
『レエブン侯だと?』
エリアス・ブラント・デイル・レエブン――通称は“レエブン侯”。リ・エスティーゼ王国の“六大貴族”の中で最大の勢力を誇っている貴族だ。
『はい。レエブン侯からの依頼内容でございますが、“王都で何か異変が起きそうなので自宅を警護して欲しい”ということでございます』
『……なるほどな。それは“表向きの依頼”ではないか? ……実際は、“八本指”の拠点を攻撃する手伝いをして欲しい……といったところであろうよ』
アインズは
『おおっ! さすがはアインズ様!! おっしゃる通りの内容でございます。特に“六腕”を倒して欲しいという要望がございますな』
『六腕か。それなら、もう半分は終わったようなものだな。一人は捕え、一人は殺し、一人は配下になっている』
『おおおっ! さすがはアインズ様。見事なお手並みでございますな』
パンドラズ・アクターが大げさにポーズを決めている姿が、アインズにはくっきりと見える気がした。
『ふっ……たまたまだ。そうだな……“アローは所用で、ちょうど王都へ向かっている”と告げておけ』
『――すでに手配済でございます、アインズ様……このパンドラズ・アクター、こういうこともあろうかと、ゴブリン討伐を終えてエ・ランテルへと帰還した際に、“アローは王都へ向かった”という情報を流しておりました。日数的にはもう着いているころですな』
会っていなくても、パンドラズ・アクターがこれでもかというくらいにドヤ顔をしているのが、アインズには手に取るようにわかった。
(さすがにコイツにも慣れたなー。最初の頃は動揺しまくったものだが。――そういえば“美人は3日で飽き、不美人は3日で慣れる”という言葉があったな。パンドラズ・アクターに初めて会いにいく時にもそんなことを思ったが。……だが、あれは間違っているな。美人は3日では飽きないぞ! ……不美人には3日で慣れたかもしれんが。ガガーランとか……うん? まだ3日も会ってないか?? というかあいつは“男前”だから不美人ではないのか?)
さらりと失礼なことを考える。
『……さ、さすがだな。パンドラズ・アクター』
『ありがとうございます。アインズ様……アインズ様がそちらに居られる以上、アローの出番は王都にこそございます。当然の務めでございますよ』
『となると到着は明日の夜というところだろうな?』
『はい。あちらが用意した
『〈
『はい』
『やはりな。では、明日合流しようパンドラズ・アクターよ』
『かしこまりました、アインズ様』
(どうやら久しぶりに
アインズはわくわくする気持ちを抑えられない。
(今夜は寝られないかなー)
遠足を前にした子供のような状態である。もっともアインズは本来の姿はアンデッドであり、睡眠は必要ないのだが。
「何かあったのー?」
「明日大きく動くことになりそうだ」
「そっか。じゃあ、私も赤いフードの出番かなー。ところでツアレはどうするの?」
セバスとソリュシャンは今日にも撤退させるが、ツアレに関しては悩むところだ。
「うーん。本来なら
「全部終わってから、オリーとして連れていけばいいんじゃないかな」
「そうするか。だがツアレ一人を残すわけにもいかないな。……といってもこの後の作戦でかなりの人員を割くと聞いているからな。あまり自由になる者もいないしな。ひとまず、ハンゾウとフウマに護衛させるか」
「んーオリー。それはちょっとだめかも」
「どういうことだ?」
「オリー。あの子は男性に対してまだ恐怖心が残っているの。ハンゾウとフウマは確かに強いけど、しょせんは男性型でしょう? 周辺の警備って面では心強いと思うけど、彼女の傍に置くのは無理じゃないかなー」
クレマンティーヌのいうことはもっともだった。
「そうか。失念していたな。とすると、クレマンティーヌお前が面倒を見ることになるが……」
「まあ、それでもいいけどねー。大抵の奴なら倒せるしね。でも、私だけだと癒しとしては弱いかなー。他に女性で動かせるのはいないの?」
「そうだな……あとは……アレくらいしかいないかな」
「もしかして、あの娘? あの娘なら魔法も使えるし護衛も兼ねられるねー。んーグッドアイディアだと思う。さすが、オリー。いいんじゃないかなー。きっと癒しになると思うよ可愛い女の子だから、恐怖感もないだろうしねー」
「ふむ……そうするか」
アインズは方針を決定。すぐにシモベを通じて関係各所にそれが伝えられ、準備はすぐに整った。
不幸なサキュロント……わずか2行で死亡により退場。
なんと台詞なしです。原作で一番出番多いのに。