―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
王都にオリバーとして滞在中のアインズは、パンドラズ・アクターから無事にゴブリン連合の討伐が終わったという連絡を受けた後に行動を開始した。
オリバーとしては、“王都で支店を出すかもしれない”という一応は視察を名目に来ているので、出店候補地を見て回っている風を装っている。
「この辺りは賑やかだな、クレア」
「そうだね、オリー」
ここのところデート気分で視察について歩いているのは、用心棒のクレアこと、クレマンティーヌである。彼女はオリバーの護衛役となっているが、実際には
「本当に出店するつもりなのー?」
「いや、する気はないよ。王都ではまだまだ“漆黒”の名前は売れていないからな。ま、出店はしないけど、建前というのは大事なのさ」
実際アインズが見て回っている場所の近くには、八本指と呼ばれる裏組織の拠点がある。どちらかといえばそちらの位置を確認しておくのが本命だった。
「そうなんだー。面倒なんだねー」
「それと現地で手に入れる情報も大事だからな」
部下から上がってくる情報を分析することも大事だが、自分で見ておくのも大事だと思っている。
「……オリー気づいている?」
「ああ。つけてくるものがいるな」
アインズ達の後方に先程から一定距離を保ってついてくる気配がある。
「何者だ?」
「んー、足運びは戦士かな? そんなに強さは感じないし、敵意も感じないかな」
「そうか。……もう少しで目的地だ。もしかすると同じ場所を目指しているだけかもしれん」
「この辺りでは目立つところにいくしねー」
アインズ達は、一軒の冒険者宿の前で足を止める。宿の大きさ、作り込みなどどれをとっても一級品と見える。それもそのはず。この店は王都で最高級の冒険者宿である。ここを使うものは高ランクの冒険者に限られており、あの有名なアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”もここを拠点にしている。
「では、行くか」
「はーい!」
アインズ達は中へと入る。
「例の追跡者もこっちへ来るね」
「なるほど。では追跡者ではなかったのか」
アインズ達は小声でそんな話をしながら、目的の人物を探す。
「おう、オリバーじゃねえか」
ガッチリとした筋肉の塊。男と見間違うばかりの発達した大胸筋が自慢の女戦士がオリバーの姿のアインズを見つけて声をかけてくる。
「どうも、ガガーランさん」
オリバーはニッコリと笑いながら近づいていく。
「久しぶりだなオリバー。なんだ、女連れで観光か? せっかく夜のお相手を頼もうと思ったのにしらけるなー」
「あれ、ガガーランさんはチェリー好きじゃありませんでしたか?」
「ああ。お前はチェリーじゃないのは知っているが、いい男だからよ。特別に抱いてやろうと思ってな」
ガガーランはガッハッハと笑う。
(いやー、オリバーはそういう設定だけど、ロールしている俺はリアルでも魔法使いだったからな……。だが、初めてはもっと女らしい相手がいいよな。柔らかくていい匂いで、アルベドのような……って何を考えているのだ、私は!!)
アインズの思考がおかしな方向にいったので、自分でツッコミを入れて修正する。
「ガガーラン、誰だコイツは?」
漆黒のローブで身を包んだ小柄な女……仮面をかぶっているせいか声が聞き取りにくいので性別がわかりにくい。
「ああ、イビルアイは初めてだったな。こいつはオリバー・クイーンっていって、あの第3のアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”の公認ショップ
「ああ。思い出した。先日お前が“漆黒の英雄”モモンと手合せをした際に会ったといっていた男か」
イビルアイはポンと手を叩く。
「あの時は参りましたよ。まさかアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”のガガーランさんが、参加券を持ってやってくるなんて」
先日エ・ランテルで行われた“漆黒の触れ合いイベント”にまさかの同格の冒険者である戦士ガガーランが参戦。おかげで会場は騒然となったものだ。
「ガガーランは強い者には興味があるからな」
「ああ。いい男だったし、戦闘力も噂以上だったな。特別ルールの中だから引き分けになったが、まともにやっていたら負けていただろうな。どうも手心を加えられたようだったしな」
モモンとガガーランの戦いは模擬戦として、全てのイベントが終わった後に無観客で秘密裏におこなわれ、アダマンタイト級に相応しい熱戦を繰り広げた上で両者の武器が同時に折れ、引き分けとなっている。その後、モモンの紹介でオーナーであるオリバーを紹介され、手料理をご馳走になっていた。
「なるほどな。そういう知り合いだったのか……」
「ま、そういうこった。で、何しに王都へ来たんだ? やっぱり俺に抱かれにきたのか?」
(ふふ……冗談でも“そうだ”といったら確実に連れ込まれるな)
アインズは心の中で苦笑する。
「ご冗談を。今後のショップ展開を考えていましてね」
「この王都に出店するのかよ?」
「いや、その可能性を探りに来たんですよ。“漆黒”は、エ・ランテルでは知らない者はいないという状態なのですが、やはり王都では“蒼の薔薇”の皆さんには敵いませんね」
実際こちらにも評判は広まっているようだが、“漆黒”は表舞台に登場してからの日数が短い。
「そりゃ簡単には負けられねえさ。うちは全員美人ぞろいって評判の女だらけのアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”だぜ」
右手をサムズアップしてニカッと笑う。
「そ、そうですね。はははっ!」
オリバーは笑ってごまかす。この辺りはリアルの社会人生活で鍛えられたコミュニケーション能力の賜物であろう。
「そうだろう。ガハハハハハッ!」
「ふー。ところでオリバー殿。“漆黒”の実績はやはり伝わっている通りなのか?」
「イビルアイさんにどのように伝わっているかはわかりませんけど、墓地の大量アンデットの発生、ゴブリン部族連合の討伐、ギガントバジリスクの撃破、超貴重薬草の採取、アンデッド師団の殲滅、超強力な
オリバーは自慢するでもなく、さも当然というように淡々と答える。
「この間は、ギガントバジリスクの展示をしていたと聞いているな」
「ええ。
ラキュースは“漆黒”とあった後、オリバーの案内でギガントバジリスクの見学をしている。
「やはりそうか。ラキュースからも聞いていたから真実だとは思っていたが。やはりかなりの力を持っているのだな“漆黒”は」
「ギガントバジリスクを回復薬なしで倒せるのは、なかなかできることじゃねえぞ。まああれだけの力を持っているならできるかもしれないけどな」
ガガーランは先日対戦したモモンの戦闘力を思い出す。剣技という面では、自分より劣る部分があったが、身体能力の高さはガガーランをして“異常”というレベルである。
「“漆黒”のモモンから伝言を預かっていますよ。「そのうち共闘することもあると思うのでよろしく」と」
「まあ、本当はないのが一番だけどな。まあその言葉はラキュースにも伝えておくぜ」
「オリバー殿。貴方の護衛はだいぶ強いようだな。私は専門職ではないが、感じ取れる気配は難度100以上というところだろう」
「そりゃ俺も思っていたぜ。難度100超えるなら十分アダマンタイトでやっていけるはず」
「あー、私はオリーの用心棒だから。あんまりモンスター退治とかって好きじゃないんだよーだから冒険者にはならなかったんだ。そうだなー“人を守るのが好きなんだー”……っていうか、オリーだから守りたいんだけどねー」
“人を守るのが好きなんだー”このクレマンティーヌの台詞を、彼女の本性を知っているものが聞いたら、間違いなく全員が「嘘つくな!」とツッコミを入れたことは間違いない。
(嘘つくな! まったく逆じゃないか!)
アインズは心の中で、ハリセンで叩きながらのツッコミを決めていた。もちろん実行はしないが。
「ほーう。ずいぶんと熱っぽいこというじゃねえか。オリバー、コイツお前の女なのか?」
「そ」
「違います。ただの用心棒ですよ」
クレマンティーヌの言葉に速攻で被せ、アインズは全力で否定する。
「ま、どっちでもいいけどな。もし仕事変えたくなったら声かけてくれや」
「はーい」
素直に元気のよい返事をしたが、そこには気持ちがないクレマンティーヌであった。
「ところで、ガガーランさん」
オリバーの声に緊張感が漂う。護衛のクレマンティーヌもスッと護衛対象者の背後に回り、警棒を握りしめ、いつでも抜ける体勢を整えている。
「なんだ? 急に固い声をだして」
「先程から後方で盗み聞きをしている方はお知り合いですかね? もしそうなら、ご紹介いただきたいのですが?」
ガガーランはオリバーの言葉に反応して目線を動かす。そこには、まだ幼さを残す青年いや少年というべきか悩む男が立っていた。それを確認したガガーランの表情が緩む。
(やはり、知り合いのようだな)
アインズはそう判断し、警戒を解除する。それを敏感に感じ取ったクレマンティーヌも武器へ伸ばした手をだらりと下げた。
シーズン3第8話のラスト
”なお、モモンの方でも変わったことはあったらしいが、それはまた別の話である。”
”変わったこと”とは、「ガガーランがイベントに乱入したこと」でした。
これを書くと最低2話は伸びてしまうので、長すぎるかと判断しカットしています。
本当は書きたかったんですけどね。
ちなみに「ダインの恋の話」など書いてない話は他にもあったりします。