―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

50 / 70
 新シーズン突入前の読み切り短編です。



『ハムスケの修行』

 

「行くでござるよ。殿たちも見ていてくだされ! これが(それがし)の新技〈閃光式賢王弾(シャイニング・ハムザード)〉でござる!」

 右膝をついて待っていてくれる死の騎士(デスナイト)へと向かってトトトトトと走り、左腿を踏み台にして、ハムスケは右膝をその顔面へと叩き付けようとした。

「あいやっ!」

 ツルリンと滑って自分の後頭部から落下してしまう。

「ふぎゅっっ!」

 ドッゴーン!! と一人で〈垂直落下バックドロップ〉を決めたハムスケは、自分の全体重が後頭部というか、“ほぼ脳天”にかかり、大ダメージを受けて、のたうちまわっている。

 

(あっちゃー)

 それを見ていたアインズは思わず右手で額を抑えてしまう。ちなみに今は、本来の死の支配者(オーバーロード)の姿である。

 

「まだまだですな、ハムスケ殿」

 これも軍服に三穴のピンクの卵頭姿のパンドラズ・アクターがダメ出しをする。

「も、申し訳ないでござるよ。あいたたたたっ」

 痛む後頭部に、右手――いや右前足か?――を伸ばすが、体の大きさのわりに短くまったく届いていない。

「……真似をするのはよいが、体型が違うからな」

 骸骨姿のアインズはダメ出しをしながら、ハムスケの姿に癒しを感じていた。

「なるほどでござる。さすがは殿達でござるな。このハムスケ、日々勉強の日々でござるよ」

 ハムスケは一人納得してコクコクと頷いているが、やはりハムスターがハムハムしているような絵に見える。  

 

 ここはナザリック第六階層にある闘技場。「日頃の成果を見せるでござる!」と張り切るハムスケのために場所を借り受けている。

 ハムスケは“漆黒”として出番がない時は、基本的にナザリック内で、リザードマンの戦士ザリュース・シャシャとゼンベル・ググーの二人の指導を受けながら“武技”の習得を目指して頑張っている。

 そして、それと並行して〈賢王の爪(ハムスケ・クロー)〉、〈賢王の尾(ハムスケ・テール)〉に続く新たな技を取得するため、アインズが、“アロー”として使っている技を覚えようと頑張っていたのだ。なお(クロー)(テール)も本人(獣?)が、技と言い張っているだけなのだが……。

 ただ、人間の姿であるアロー(アインズ)モモン(パンドラズ・アクター)と違って、ハムスケはとても大きなジャンガリアンハムスターである。人の使う技を真似するのは難しいだろう。

 

「やはり、体をぶつける系統の技か、爪を使った方がよいのではないか?」

 アインズが笑いをこらえながらアドバイスを送る。

「そ、そうするでござるよ。では、これならどうでござるか! 防げるものなら防いでみよ! 〈賢王式桃尻爆弾(ハムスケ式ヒップアタック)〉!」

 ハムスケは助走をつけて、死の騎士(デスナイト)へと飛び、空中で体を捻ると体毛に覆われた尻から突っ込んで行く。

(お前……全然桃尻ではないぞ。どっちかと言えば白桃――いや、大福だよ)

 アインズは心の中で突っ込みを入れる。

 

「グオオオオオ!」

 それを死の騎士(デスナイト)はがっちりと抱きしめるようにキャッチして、そのままハムスケをうつ伏せの状態で肩に担ぎあげる。

「グオオオオオオオッ!!」

 死の騎士(デスナイト)はジャンプして横に倒れ込みながら、ハムスケの頭部から地面へと叩き付ける。

「うぎゃあああああっ……」

 ハムスケは、またもや後頭部をしたたかに打ち付け、悶絶する。

 

「おおっ! この文献によると、今の技は〈死の谷落とし(デスバレーボム)〉。偶然出したとはいえ、凄い威力だな」

「まことに。死の騎士(デスナイト)が〈死の谷落とし(デスバレーボム)〉というのも洒落ておりますな」

 のんきな二人の目の前では、ハムスケがピクピクと痙攣していた。

 

 二人が覗き込んでいた文献とは“虎の穴(タイガー・ピッド)”という組織が出した格闘技図鑑である。これはアインズがナザリック図書館から引っ張り出してきたもので、連続写真と解説文によって技のかけ方が記載されている秘伝の書となっている。

 なお人間の体力では再現不可能な技も混ざっているが、アインズやアローの肉体能力があれば大抵は再現できる。

 

「おっと、いかんいかん。ハムスケを回復してやらないとな」

 アインズはペットの介抱を始めるのであった。

(そうだ! 技に負の接触(ネガティブ・タッチ)を乗せるのはどうだろうか? あ、アローの姿ではこのスキルは使えないから無理か。この姿で格闘戦を行う機会はほぼ皆無だと思うが、念のため練習はしてみるとするか)

 アインズは心のメモに書き加えた。

 

 ハムスケが、武技を身に着けるには、まだ時間がかかりそうだ。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。